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Date: Wed, 8 Nov 2000 06:48:31 +0900
From: gallows <gallows@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 20928] [HA06P] エピソード『故郷に根づいて』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20001107214832.18298@mail.trpg.net>
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gallowsです。
sfさんチェックよろしくお願いします。
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エピソード『故郷に根づいて』
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登場人物
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坂本麻依子(さかもと・まいこ)
:どぶ川を愛する死人。道端でよく歌っている。
マイア
:
本編
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幅は約2m、蓋もされてないし水も適度に濁っている。こんな街のまん中で
もあるところにはあるものだ。麻依子はひとしきり観察すると柵に腰かける。
柵の高さはちょうどいい具合。ただ、あまり後ろのめりになるとどぶ川に落ち
て酷い目に会うので気をつけないといけない。どぶ川を眺めるのは幼い頃から
の楽しみである麻依子も、落ちるのだけは勘弁だ。ろくなことがない。
麻依子は少し前のめりになってアコースティックギターを構える。姿勢が悪
いがこの方が安定するし、なによりこの寒さが和らぐような気がする。体温が
極端に低い麻依子にとって寒さは最大の敵の一つだ。
時刻にして午後5時。もう冬を間近に控えた今の時期ではすっかり暗い時間
だ。じりじりと時折点滅する街灯を頼りに、パラパラとコード進行を書いたメ
モをめくる。
麻依子 :「今日はどんな人と会えるかな……」
呟き、まずはゆっくりと、ややしっかりめにギターをかき鳴らし始める。
この街に来てまだ一週間ほどだが、歌い始めるといつも面白い人間に会えた。
柄が悪そうだがなにかと親切なお兄さん。怖い顔をしているがとても歌を気に
入ってくれたおじさん。学生をやっていた頃にはそうそう知り合う機会もなか
ったであろう人たちだ。
川面に縛りつけられて酷く落ち込む魚
腐れる腐れる水の中 ただれるただれる魚の目
私たちに先はあるのでしょうか
故郷たるこの川のなかで
それを見つけなさいな それを見つけなさいな
ふと気づくと自分と同年代の女が中腰になって聞いてくれている。
青い目。外国人だろうか。まあ、自分も今となっては赤い目だがれっきとし
た日本人だし当てにはならない。とはいえ、彼女の場合は顔だちもそれらしい
ものであった。
ひとしきり歌い終えると小さく拍手をしてくれた。ありがたいことだ。軽く
頭を下げる。本当はもっと気の効いた反応をしてみたいところなのだが、まあ
それはまた次の機会に考えるとでもしよう。
マイア :「えと。こういう時には、お金を出すんですよね?」
麻依子 :「頂けると嬉しいです。でも歌が気に入った分だけでいい
:んですよ」
世慣れていない子なのだな思いつつ愛想笑いを返してみる。
マイア :「えっと……これでいいですか?」
出てきたのは見たこともない紙幣。2000円とか書いてある。麻依子はこれを
古い紙幣と判断した。見たこともないが、自分の知識にないだけかもしれない。
なによりなにかしら貰えただけでもありがたかった。
実際のところそれは数ヶ月前に発行されたばかりの新紙幣なのであったが、
ほんのしばらく前まで死んでいた麻依子にはそんな知識はなかった。翌日、実
際にこの紙幣に2000円の価値があり知り、そうして初めて小躍りして喜ぶこと
になるのも無理はない。
マイア :「あ、そうだ。お名前、なんて言うんでしょう? ボクは
:マイアっていいます」
麻依子 :「坂本麻依子です(ジャジャーン)」
名乗ると同時に渋くギターをかき鳴らしてみた。反応はいまいち、滑った事
に内心傷ついてみる。女はマイアと名乗った。やはり外国人だったらしい。麻
依子は、自分の名前と似てるという事に気づいて少し親近感を持った。
マイア :「? ああ、留学生なんですよ」
麻依子 :「失敬、じろじろ見ちゃいましたか。留学ですか、大変で
:すね」
マイア :「日本好きですし、いいことも多いですよ。色々興味深い
:です。麻依子さんは吹利の人なんですか?」
麻依子 :「まあ、そういう事になるのだろーか」
歯切れの悪い返答になる。本当の故郷は京都なのだが、生き返った後は第二
の人生ということになっている。つまり今の故郷はここ、吹利なのかもしれな
い。
麻依子 :「どこか遠くにも行ってみたいんですけどね。まだ与えら
:れた環境で出来る事もあると思うから。もう少しここに居
:ていろいろやってみようかなとか思ったりするんです」
二人はこの後少し話し、麻依子はまた歌を歌い、マイアにそれを聞いてもら
って、そして別れた。
時系列
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冬も近いある夕暮れ。
解説
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麻依子とマイアが出会う。
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