[KATARIBE 20811] [IC04N] 『それはやっぱし普通じゃない』

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Date: Sat, 21 Oct 2000 00:35:07 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20811] [IC04N] 『それはやっぱし普通じゃない』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200010201535.AAA61344@www.mahoroba.ne.jp>
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2000年10月21日:00時35分06秒
Sub:[IC04N]『それはやっぱし普通じゃない』:
From:E.R


こんにちは、E.R@うーむ話を書く勘が戻ってねえ(ぐう) です。

コルチキンタワー文化祭前の、ほんの一瞬の話です。

**************************************
「それはやっぱし普通じゃない」
==============================

 何とも異常なことに……少なくとも初音には……思えるのだが。
 コルチキンタワーでも、文化祭があるという。

「まじですかー」
「まじもまじ」
「……本気で、文化祭なんかやるわけ?」
「本気らしいよ、とりあえず文化系クラブと先輩達は」
 クラブが同じである無しに関わらず、とにかく学年が上ならば先輩、ののり
でどんどん人脈を増やす……故に結構な情報通である……百合野は、そう言っ
て肩を竦めたものだ。
「てか、初音は……あれ、ブラバンから何か誘われたりしなかった?」
「そういえば……」
 数日前。相変わらず一人でごうごうとアコーディオンを弾いていた初音のと
ころに、数人やってきてそんなことを言っていたが。
「で、どうしたの、加わるの、断ったの?」
「断ったよ。だってブラバンにアコーディオンってなんか変だもの」
「ああよかったあ」
 大仰過ぎる仕草と表情に、初音は少し首を傾げた。
「……そんなにまずいの、加わると?」
「噂なんだけどね」
 眉をちょっと顰めた顔が、どこか、勿体だけではない色を含んで。
「何か毎年、死人が出てるって言うんだよねー」
「…………へ?」
「ブラスバンドで死人?どうやって?」
 尋ねたのは佐奈子である。
「どーやってかは知らないわよ。んでもそう言うの。ブラバンの死に至る演奏
会って、何か名物らしいよ」
「……名物ですかあ」
 佐奈子がげんなりとした顔になる。
「他にもね……ええと去年の二年だか三年では、魔女の手足のゲームに、本物
の人間使ったって大騒ぎになったらしいし」
「……え?」
 佐奈子が目をぱちくりさせた横で、初音がひゅっと息を呑んだ。
「何それ百合野」
「うん、正式に何て言うか知らないんだけど……ああ、思い出した、文芸部だ、
それやったのっ」
「ってもしかしてやっぱり、ブラッドベリの?」
「あにゃ、初音知ってるの?」
「……短編で読んだことある」
 すう、と、初音のほうは青ざめる。反対に佐奈子は、どうも面白くなさそう
な顔になった。
「ねえなにそれっ」
「元々はね、真っ暗な中で皆が円描いて座って、誰かが一人、鶏の肝とか手羽
先とかを『これは魔女の肝』とか『これは魔女の足』とか言いながら廻すんだ
けど」
「けど?」
「ブラッドベリの短編ではね」
「ブラッドベリ?」
「ほれ、SF書く人。火星年代記とか誰かが道をやってくるとか……」
「知らないわよSFなんてっ」
「えー……とにかくそういうの書く人なのっ」
 それこそ面倒になったらしく、百合野は説明をぶった切った。
「その短編ってのがさ、主人公が暗闇で、自分の娘の手足を使って……」
「げえっ」
「……じゃないかなあ、って含みを持たせて終わっているのは確かだけどね」
 直接『娘の足を使った』とは書いていない。ただ、闇の中で『娘の不在』と
『手に持った幾つものぐにゃぐにゃと暖かいもの』とが重なってゆく心的風景、
そして最後に、『何処かの莫迦が灯りをつけた』で話を締めてしまうのが、何
とも不気味だった記憶があるのだが。
「……ってちょっと待ってよそれって」
「うん、そういうことだったみたい」
 佐奈子の言葉を、上手く遮って百合野が頷く。
「……さいてーーっ」
「さんせー」
 ぼそ、と、初音が呟いた。


 あたしやだ、文化祭の間絶対自分の部屋に入ってるからね、準備の時もさぼ
るからねっと、顔色を変えて佐奈子が宣言するのは……まあ、これは確かに初
音と百合野の予測内のことだったのだけれども。
「んでなに、初音ってばお昼佐奈子に届けてんの?」
「だって、食堂にはナイフもフォークもあるって言うんだもの」
「人がいいねー」
 届けるといっても、適当にお握り二三個か、サンドイッチ程度。流石の佐奈
子も、その種類に難癖をつける気分にはならないらしい。
「そうでもないけど……」
 角を曲がると、特別教室が並んでいる。放送室、茶道室、視聴覚室。
 さぞや佐奈子が嫌がるだろう、と、考えてしまって初音は苦笑した。
「絶対人がいいよ、初音ってば」
 そうなのかな、と、初音が小首を傾げるのに、百合野はちょんと肩を竦めた。
「まあ、初音がそれでいいならいいけどさ」
「……うん」
 うーむ、と初音がそれでも首を傾げ、百合野が何となく憮然とした時に。
  丁度、通りすぎた廊下のほうから。

『ばんっ』

 何かを叩きつける音。そして、どさばさと、紙の束が落ちるらしい音。
「……へ?」
「何今の」
 言葉と一緒に振り返って、初音は目を丸くする。
 放送室のドアの前で、顔を押さえてしゃがみ込む、どうやら先輩らしい男子
生徒。手に持っていたらしい薄い冊子が落ちているが、先程の紙の音を立てる
には少々足りない。
 ……しかし。それでも。
 非常に……何があったか一目瞭然の風景では、あったりする。

「…………大丈夫ですか?」
 声をかけると、男子生徒は額を押さえていた手をはずして、笑った。
「あー……大丈夫」
 妙に人の良い笑い顔だった。
「いつものことだから」
「………はあ」
「ありがとう」
 妙に律儀な口調でそう言うと、男子生徒は落ちていた冊子を拾って、改めて
ドアを開けた。
 開いたドアが閉まる前に、お前またやったな、という声がした。
 ああ、本当にいつものことなのだろうな、と、初音は納得した。

 そして、ふと、不思議だなと思った。
 本当に、不思議だな、と……

「…………はーつーね?」
「へ?」
「どしたん、ぼーっとして」
 百合野が少し心配そうに覗き込む。
「うん」
「……どしたん?」
「うん、なんか不思議だなあ、と思ってた」
「……は?」
 不思議なことに。
 ここに来て、もうどれだけ経つかと思うのに。
「こんな世界でも、やっぱし、顔面扉に叩きつける人って普通じゃないんだね」
 それを、痛そうだな、と思って、思わず顔をしかめる自分がいること。
 大丈夫かな、と、とっさに思う自分がいること。

 ……級友の手を暗闇でぐるぐる回すことさえ起こりうる、この世界で。

「…………初音」
 と。
 ぽむ、と、両肩を叩かれて、初音は目をぱちくりさせた。
「あのね。一言言わせてね」
 これ以上は無理、と思われるほどに真面目な顔をして、百合野がこちらを見
ている。
「なに?」
「顔面叩きつけてドア開けるのがあんたの判断で普通になったら、是非あたし
に知らせてね。友人の縁切るから」
「…………そんなもん?」
「そーに決まってるでしょっ」
 ぶん、と、手を一振りして。
「いくらここだってねえ、顔面、棚からものが落ちるくらい勢い良くドアにぶ
つけて、それがいつものことってねえ……それはなんぼなんでも普通じゃない
わよっ」
「……ふーん」
「…………ふーんってねえ…………」

 がっくりと、脱力してみせる仕草が、可笑しくて。
 くすくすと笑いながら初音は頷く。

「……わかった」

 今までの日常と、今の日常と。
 今までの非日常と、今の非日常と。

 ぎりぎりの、細い糸の上で。
 どちらも釣り合いを取りながら。


「佐奈子のとこ、いこっ」
「そーしよー」

 おにぎりとパックのジュースを入れたビニール袋を勢い良く揺らしながら、
何となく嬉しくて、初音はたかたかと歩いてゆく。

 それでもそこに、釣り合いがあることだけは確かで。
 

 窓の外は、見事なまでの秋晴れ。
 奇妙なほどに、季節を規則正しく刻みながら。

 既に半年が過ぎている。
 この、コルチキンタワーの中で。


******************************************************

 と、ゆーわけです。
 あ、最後に、「半年が過ぎている」なんて書いてしまいましたが、
これは別に、現実の月日に故意に合わせているわけではありませんっ(断固)
#……何だか、来年になったら「うわー、ここに穴あるっ」と、あいかーらず
高一の初音を書きそうで(滝汗)>己
 まあ、文化祭ですから、そういう時期でしょう(んむんむ)

 魔女の手足、については、正式名称は覚えてません。
んでも、そういう短編があったのは事実です。
 確か、主人公と離婚しようとしている奥さん、その奥さんが連れていこうとする
娘……という関連じゃなかったかな。
#何か妙に覚えているなー(汗)<読んだのは確か高校の時分(汗)

 というわけです。
 訂正、修正、等々宜しくお願いします。

 であであ。




    

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