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Date: Wed, 4 Oct 2000 02:51:40 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20766] [MMN] 「定点観測」
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200010031751.CAA29828@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 20766
2000年10月04日:02時51分40秒
Sub:[MMN]「定点観測」:
From:E.R
こんにちは、E.R@げーねむいっ です。
眠気覚ましに15分。
まるで詩のような話です。
……とりあえず、長さだけは(爆)
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「定点観測」
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一週間に一度、男はやってくる。
トタンを寄せ掛けた、言わば屋根のある駐車場に毛の生えたような建物。
あるのは、机。そしてガイガーカウンター。ノートとグラフ用紙。
ぺらぺらの壁が、分厚い鉛の壁に置き換わっても、この位置では住むことは
不可能だろう。ノーマンズランドと居住可能区の境、それもノーマンズランド
側にかなり寄った地点。
故に、この建物には、おなざりな鍵が一つ付いているだけである。この鍵を
こじ開けている間に、かなり危険な量の放射能を浴びることになる。そこまで
して盗むほどの価値のあるものは、ここにはない。
茶色に霜の降ったような色合いの帽子は、毛糸で編んである。
男は、用意してあった鍵を指し込み、殆ど遅滞無く扉を開ける。
机の上の、ガイガーカウンターを取り上げ、電池を確かめ、そしてスイッチ
を入れる。暫らく作動させ、数値を読み取ると、ノートとグラフ用紙の上にそ
の結果を書き込む。
殆ど横ばいのままの値。
スイッチを入れた途端、があがあと耳障りな音を立てるガイガーカウンター。
書き込みが終わると、男は一瞬手を止め、グラフを眺める。
そして……すぐに建物から出てゆく。
鍵をかけながら、男はじっと通りの向こうを眺める。
あの日。
彼は、会社の連中と一緒に、ゴルフ場を歩いていた。
あの時刻。
彼の家族が、一瞬にして溶け、消えてしまった時刻に。
彼は、バンカーにはまり込んだゴルフボールを捜していた。
誰も、彼を責めることはない。
多分、彼の家族達も、彼が生き残ったことに安堵こそすれ、責めることは無
いだろう。
だからこそ。
彼だけが、彼を責める。
彼が生きている間に、このノーマンズランドがまた元に戻るかどうかは、わ
からない。そもそも、今、彼がやっていること自体、彼の寿命を縮めるような
ことなのである。
けれども。
……けれども。
帰る日を、いつか知ることが出来るだろうか。
通りの向こう。
遥か……無限遠の彼方にある筈の…………
毛糸で編んだ帽子を一つ引っ張ると、彼はノーマンズランドに背を向けた。
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いじょ。
現在、中近東某国で、神殿の丘を巡って、びりびりと緊張が高まっています。
そんなことを、某所で話したところ、某氏に投げかけられました。
「もし、あそこに核爆弾を落としたとしたら、信者達はどうするだろうなあ」と。
多分、あそこの国の人達は、待つだろう、と。
そう、答えました。
2000年を待った人達ですから。
で。
ふと、自分を省みて。
じゃあ、己はどうするだろうかな、と。
と、同時に。
ふっと、この場面を思い出しました。
(以前、考えてはいたんだよねー(苦笑))
というわけで、一瞬芸。
こういう人もいて良いじゃないか。
であであ。