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Date: Fri, 29 Sep 2000 15:34:37 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20717] [KMN] 「銀河通信」
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200009290634.PAA11821@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 20717
2000年09月29日:15時34分37秒
Sub:[KMN]「銀河通信」:
From:E.R
こんにちは、E.R@へろろへろへろ です。
……なんかこー、30分程度の作業に付き合うのって、一番疲れます(なぞ)
眠れないし、さっさと終わらせないし。
…というわけで、書いた話(おいっ)
ひさしゃん、蓮さんお借りしました〜
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銀河通信
========
静かに、静かに。
夜が更けてゆく。
星の一番綺麗な季節に向って。
化け猫にあるまじきことなのだが、お銀は夜がほんの少し苦手である。
勿論嫌いではない。好きな時間帯なのだが、何故か夜になると溜息が出る。
理由といえば一つしかない。
水華が亡くなったのが、夜だった。
「ありがとうございました」
アルトの声で、それだけ言う。その無愛想さに既にお客のほうが慣れている
のかもしれない。ぺこり、と、硝子戸のところで頭を下げて、最後のお客が出
ていったところで、お銀は一つ伸びをした。
(夕飯どうしようかね)
雪風の閉店時間が遅く、大概その時間には料理をする気力が失せているので、
結構、鬼のいるコンビニのお世話にはなっている。
しかし、昨日もコンビニ、今日もコンビニ、となると。
(どうするかねえ)
ちょっと考えたのは確かである。
……が。
(……めんどくさい)
この一言で、常識良識が、尻尾を巻いて逃げる辺りが、まあ、お銀の限界な
のだろうが。
(行くか)
と、思い立ってから、しかし暫らく時間が必要になる。シャッターをおろし、
外の台に並べてあった雑誌を片付ける。全部が終わったのは、最後の客が出て
いってから半時間は優に過ぎた時刻だった。
(……どうするかなあ)
食事をとらない、という方法も思いつくは思いつくのだが、流石にお銀はそ
の選択肢に関しては無視することにした。やはり、日がな一日嘘をつきとおす
のには体力が必要となる。
(しょうがないか)
てこてこと。
のんのんとしたスピードで、道を歩く。
長かった夏が終わり、段々と街路樹の葉の色も変じているのが、夜の闇の中
でお銀の目にははっきりと映る。
(ようやっと秋かね)
何となく上を見る。
ころころと、星が散らばる。
『どれ、星見でもしようよ、お銀』
脳裏にふっと浮かぶ言葉…………
「きゃっ」
「……っと」
きき、と、高い音を立てて、横道から飛び出してきた自転車が急停止する。
「ご、ごめんなさいごめんなさいっ」
「……いえ」
無灯火なわけでもない。ぼんやりしていたのはこちらなのだ。
「ごめんなさい、今、梨衣ちゃんが急にアイス食べたいって言い出して、ほん
とはこんな時間だから止めたほうがいいって私は思ったんですけど、照く……
あ、梨衣ちゃんのおとうさんがですね、じゃあ自分も食べたいって言い出して。
明日は学校休みだからって仰言るんですけど、でも、夜更かしはやっぱりよく
ないから、出来るだけ早く買って帰って梨衣ちゃんを早く寝せなけりゃって思っ
てたらつい前方不注意で、ごめんなさい本当に」
「…………いえ」
えらい肺活量だな、と、お銀は多少ずれたところで感心した。相当の早口と
はいえ、これを彼女は殆ど一息で言ってのけている。
「あの、お怪我は」
「いえ、全く……こちらもぼうっとしてましたので」
心配そうに覗き込んで来る顔に向ってそう答えながら、お銀は相手の顔を見
た。街灯も何も無い細い四辻だが、闇はお銀の視界に影響をさして与えない。
(子安人形……)
小学生くらいの女の子と一緒に何度か本屋にやって来た女性だ。小柄で可愛
らしい、如何にも世話好きそうな女性。
そして、妖怪。
(ここまでよく喋る人とも思わなかったがねえ)
微かに苦笑して、お銀は歩き出す。
何故か、相手も自転車を押しながら歩き出した。
「……あの」
「はい?」
「雪風の方ですよね?」
「ええ」
そう相手が問うたのは、ぽつんと所在なげに灯る街灯の下を二人が通過する
時だった。
「この前は、星座の辞典、ありがとうございました。あれで梨衣ちゃん夏休み
の宿題を仕上げられたって喜んでました」
「……そうですか」
お礼を言われるようなことでもない気がするのだが、かといって『そんなお
礼を言われるようなことでは』的な反応はお銀の手には余る。
「あれからすっかり夜空が好きになったみたいで、よく二人で空を見てるんで
す。本当はお父さんとも一緒に見たいな、って梨衣ちゃんよく言うんですけど、
まだお仕事お忙しいみたいで結局私と二人で」
そこでちょっと言葉を切って。
「だから今日みたいにお父さんが早く帰られると何か一緒にしたいんでしょう
ね、多分だから急にアイス食べたいなんて言い出して」
「……はあ」
そんなことを言われても、反応に困ると言うものである。
「……あのう」
と、女性がまたこちらを見上げた。女性としては中背より少し高めの身長で
あるお銀に対し、彼女は割に小柄だった。
「喋りすぎてます、私?」
「…………いえ」
本当に大切そうに、少女とその家族の話をする。その言葉が一つ一つ暖かい。
そういう喋り方は、お銀にとってもどこか心地よかった。
(子安人形……か)
店に来た時も、それを感じた。
一緒にいた少女。彼女はその子供を全身で護ろうとしていた。
何をおいても。何を捨てても。
自分にとっての雪風と、彼女にとっての少女と。
その重みは……どこか似通っているような気が、した。
ほぼ同時にコンビニに着き、ほぼ同時に籠を持って、それぞれにさっさと買
い物を済ませる。故意の要素は殆ど無かったのだが、結果として子安人形の彼
女の後ろにお銀は並んだ。
「……円です」
レジの向こうに立つ、えらく気弱そうな鬼の青年は、それでも手際良くアイ
スを袋に移している。
「ありがとうございました…次の方どう……ぞ」
目を上げた途端、言葉の端が擦り切れるように消えかかる。けれども最終的
にはマニュアルを思い出したらしく、きちんとした言葉遣いを復活させた。
(そこまで恐がるかね、普通)
……恐がるのが普通かもしれない、という考えは、お銀の頭には無い。
コンビニの外で、何故か先程の彼女が待っていた。
「途中までご一緒します」
多分、意外そうな顔をしてしまったのだろうとお銀は思う。相手はちょっと
笑ってそう言った。
「はあ」
「危ないですもん、この付近。梨衣ちゃんの学校のほうからも、この付近、暗
くなってからは一人で歩かないようにって連絡があるくらいですし、お一人で
歩きだと危険ですよ、本当に」
「……はあ」
そうか危険なのか、と、妙にお銀は納得した。
(その割に、水華はほいほい歩いてたけどね)
そして……内心で苦笑した。
(ああ……似てるわ)
「ありがとうございます」
口に出しては、それだけを言った。
(似ている。このひとと、あたしと)
(似ている。全ての判断に、一番大切な人が出てくるあたり)
(似ている……)
中毒にも似た、感覚。
「あ、オリオン」
何となくそれまで黙り込んでいた相手が、ふと口を開いた。
「ほんとに、段々早くなってる」
三つの星。そしてそれを囲む4つの星。
「毎日、星を見て……で、梨衣ちゃんが寝てからも、私よく一人で星を見るん
です。オリオンは目立つからよくわかるんです。毎日少しずつ出てくるのが早
くなっているのが」
「……そうですか」
『あれがオリオン。よく見えるでしょ』
耳朶を、そして感覚の全てを。
一瞬浸すほどに蘇る……記憶。
『オリオンの見える季節が、一番夜の綺麗な時だと思うんだよね』
「本当に」
え、と、小さく呟いて、彼女がお銀を見る。
「綺麗ですね」
「……そうですね」
オリオン、そして幾つもの星。水華は知っていた、けれどもお銀にはそれま
で大して馴染みの無かった星。
水華の、好きだった星。
先程の四辻で、互いに別れた。
気をつけてくださいね、と、彼女は幾度か繰り返した。そして弾むように自
転車に乗り、そのままぐんぐんと漕いでいった。
お銀はそのまま空を見上げた。
『うー寒い。お銀、ほらおいで』
『ああ、お銀と一緒だとぬくいわ』
水華の腕の中で、一緒に眺めた星……
想いが無くなってしまえば、多分自分達は消えてゆくのだろう。
想い一つで、自分達はこの世に留まり続ける。
異形のまま。
(そいえば、あの子安人形の彼女、一体名前なんて言うんだろ)
ふと、思いついてお銀は考える。
そして、苦笑した。
あれだけよく喋る彼女は、しかし自分の名前を言い置いていっていないので
ある。
(それはまあ、こちらも同じだけどね)
彼女はまた来るだろう。あの小さな少女と一緒に。
ゆるゆると、星を眺めながらお銀は歩く。
異形の者たちは、想い一つで地上に残る。
ちらほらと天空に散る光のように、その想いを抱えながら。
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というわけです。
……眠いと話が夜になる〜(なぞ)
しかし…………
これ、書いた後の記憶が無いんだよなあ、昨日(爆)
#そんでも4時前には起きました(えっへん)
というわけで、であであ。