[KATARIBE 20666] [HA06P]: エピソード『貴方にプレゼント』

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Date: Fri, 22 Sep 2000 20:32:43 +0900 (JST)
From: 灰枝真言  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20666] [HA06P]: エピソード『貴方にプレゼント』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200009221132.UAA04971@www.mahoroba.ne.jp>
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2000年09月22日:20時32分42秒
Sub:[HA06P]:エピソード『貴方にプレゼント』:
From:灰枝真言



 灰枝です。
 いつかのチャットをエピソードに起こしてみました。
 ソードさん。リューさん。チェックをお願い致しますです。

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『貴方にプレゼント』
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登場人物
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 末夜雅俊(まつや・まさとし) :お節介焼きな仙道士。
 布施美都(ふせ・みと)
 紫苑(しおん)

本編
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 一日街を歩いたあとで。
 ようやく思い出したのだった。

 首飾りがあった。
 色は蒼。空を叩き壊してもぎ取ったような蒼い色。
 玉でつくられた小さなそれは、気がつけば末夜の手の中にあった。

 ときおりこんな事があった。
 自分で何かを創り出したのに、それが何故なのか判らない事が。
 自分の知らない自分が内に居り、それが勝手なことをしているような。
 何にせよ。
 末夜は呟く。

  末夜:「もう一人僕が居るとして、悪い奴ではないらしい」

 末夜は歩き出す。先日の記憶を辿って、とある店へ。
 グリーングラスへと。

           ★

 占いとやらを末夜は信じなかった。
 少なくとも悪い結果の場合は信じなかった。
 だが「あなたはお節介焼きです」というのは良い結果か違うのか。
 確かに思い当たるところは確かにあると、末夜は歩きつつ考える。

  末夜  :「例えば困っている人間がいるとして――だな」

 見かえりを求めて助けるというのは、下司だ。
 見かえりも求めず助けるというのは、阿呆だ。
 下司と阿呆なら阿呆のほうが宜しい。
 まあそれはともかく見かえりを求めていないかというと、

  末夜  :「……確かに可愛い娘だったがな」

 ぼそりと呟き、それから眉を寄せる。
 どうやら阿呆で下司らしい。

 どうも訳ありのとある娘がいた。
 狙われているらしい深刻な空気。末夜にとっては只の他人で、相手にとっ
ても末夜は他人で、何かをしてやる謂れなどそこにはなく、また相手にとっ
てもかえって迷惑かもしれない。
 それでも。しかし。だからと言って。

  末夜  :「まあ、お節介焼きでも結構」

 まあ下心もないわけではない、と自分を分析しつつ末夜は思う。
 長い黒髪の、どこかしら張り詰めた顔のあの娘。
 毅然とした横顔を行きすぎた、一瞬の表情が忘れられなくて。

           ★

 商店街を歩き、ベーカリーを過ぎて、そこはもうグリーングラス。
 今日は店の前に怪しい人影はなく、確かに漢方薬屋には見えない扉の前に
末夜は立った。手のうちに収めた首飾りが、磁石に引かれるように大きく揺
れ出した。

 末夜  :「ここに持ち主がいるな。やはりそうか」

 首飾り、に見えるが別のもの。
 只の首飾りではない強力な護符を、気がつけば末夜は作っていた。
 常日頃に生活している分には、こんなものは全く必要は無い。だから相応
しい持ち主が誰か必要ではあった。
 そして首飾り自身が、正しい持ち主を望んでいるらしい。
 末夜はグリーングラスの扉を押した。
 カランカランと、ベルが鳴った。

           ★

 グリーングラスは小滝ユラという女性が店長をしている店で、その小滝ユ
ラは末夜の後輩、一十の友人だ。吹利大学の構内で見かける事もあったが、
最近は実験やら論文やらで、いつも忙しそうにしていた。
 つまり今日あたりも大学にいるのだろう、きっと。だから店番は一人だ。
 緑がかった内装を左右に見渡しながら、末夜は小さく笑った。

  末夜  :「(……意外に計算高いじゃあないか。おい末夜よ)」
  美都  :「いらっしゃいませー」

 奥から出てきた美都は末夜を目にすると、すぐに目を軽く見開いて、

  美都  :「あ。このあいだの……」
  末夜  :「こんにちは。その節はどうも」

 覚えていたらしい。一度、ほんの少し顔を合わせただけなのに。
 末夜の手の中で首飾りは身をよじり、美都に着けて欲しいと暴れる。

  末夜  :「あれから危ない事はありませんか?」
  美都  :「いえ。とくに何も。紫苑ちゃんもいてくれますし」
  紫苑  :「にゃ」

 美都の足元から、紫色の猫が小さく鳴いた。どうも紫苑という名前。
 美都の言葉が解せずに、末夜はふと紫苑を見やった。気の流れを読み
とる仙術眼の視界に見えたのは、複雑な流れと、固く強い意思と。

 ――「必ず守る」

  末夜  :「(ああ。こんな守り手がいたのか。安心だ)」

 腑に落ちたように末夜は安心する。それでもとりあえず目的は果たして行
こう、とおもむろに右手の首飾りを突き出した。
 末夜が自分で創ったから、洒落た包装もない剥き出しの首飾りに、美都は
戸惑った様子になる。それに何の説明もないのでは当然のことだ。

  美都  :「え……と……」
  末夜  :「あ、失礼。悪い癖だ。ちょっとこんなものを創ってみたん
        です。一応お守りになると思うけれども」
  美都  :「首飾りですか……。綺麗……」

 それに関しては末夜も同感だった。もう一人の末夜が彼の中に居るとして
センスは決して悪く無い。
 腕をのばして、美都は蒼い首飾りを受け取り、その足元では紫色の紫苑と
いう猫が、足元にすりよるようにして長い声をあげた。

  紫苑  :「にゃーん」(足元すりすり)
  美都  :「ん? (紫苑ちゃんは警戒してないね……)
      : 私がもらっちゃって良いんですか?」
  末夜  :「どうぞ。その為に出来てきたようなものだから」

 まったくだ。末夜は小さく笑う。首飾りは大人しく美都の手の中に収まっ
て、どうやら満足しているらしい。

  美都  :「ありがとうございますっ」(にこっ)

 眼を細めて笑う。黒髪を掻きあげて、銀鎖を後ろで止める。
 うなじの白さに何とはなく、末夜は横目になった。

  美都  :「どうですか?」(くるりん)
  末夜  :「自分で言うのもなんだが、似合っている」
  美都  :「紫苑ちゃん。どう?」
  紫苑  :「にゃにゃー」
  美都  :「いいよねっ。ありがとうございますっ」

 末夜は頷き、首飾りの力について説明しようと口を開きかけ、そして止め
た。今の雰囲気が壊れるようで嫌だったのだ。どちらにせよ必要な時には、
勝手に発動するよう創ってある。
 巻きあがる風が、彼女の味方になってくれるだろう。

  末夜  :「では、僕はこれで。それが何かの役に立つ事を」

 ふと眉をしかめた。言いなおす。

  末夜  :「……いや。出来るなら役に立たないことを」

 言いながら扉をくぐった。

           ★

 帰り道を歩きながら、末夜は小さく首を傾げる。一体自分はどう言うつも
りであったのかと。
 ささやかな仕事のささやかな報酬。
 今度は笑顔が頭を離れない。

  末夜  :「……まあ。お節介で構わないらしい」

$$

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参考までに護符の能力値を以下に記します。

『清風牌』(作成威力値14 区分:護符)
 外見は玉を削り出して作った、蒼色の首飾り。
 小さな薄い板状で、銀鎖が通してある。
 持ち主(限定:布施美都)に以下の能力を与える。
 また、他人が持っている場合、布施美都の居る方向に揺れる。

 ☆追加能力:
   風操り:13
 ★追加特徴
   移動能力強化:2(つまり身軽になる)
   防御障壁  :2
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 それでは。
 灰枝真言でした。







    

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