[KATARIBE 20572] [WPN] 『ライブ会場』

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Date: Thu, 7 Sep 2000 03:01:15 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20572] [WPN] 『ライブ会場』 
To: kataribe-ml@trpg.net
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2000年09月07日:03時01分15秒
Sub:[WPN]『ライブ会場』:
From:E.R


こんにちは、E.R@とーひりょく一瞬全開 です。
ひさしゃん、こんにちは。
……いあーまじに一瞬全開(^^;;;
さんじっぷんでかきまひた(めつ)
ちうわけで、多分穴はぼこぼこ(ぐう)
トシヤさんお借りしました。

************************************
ライブ会場
==========

 そのチケットが手に入ったのは、結局夏休みもかなりが終わった頃だった。


「……へえ、人気あるんだね」
 硬い画用紙に印刷された……恐らくは個人のプリンターを使って……チケッ
トを試すすがめつしながら、譲は言った。
 相手は憮然とした。
「おまいね。アマチュアとはいえ、あれだけカルト的な人気のあるグループの
チケット手に入れるってどれだけ大変か知ってるか?」
「……知らない」
「本来なら、ああ良き友人だ、君の為ならレポートの一つや二つ、捏造しても
構わない、と言っているところだぞ?」
「……そういうことを言わないって知ってて、でも俺の友人やってるよな?」
 にっこりと笑うと、相手はあああああ、とわざとらしくうめいた。
「……やな奴だなおまいは」
「よく言われるよ」
「……レポート。統計数学。後半調べようとしたら本が図書館から立ち消えて
おる」
「それはそうだよ。俺のとこにもあるし、三崎のところにもあるらしいから」
「だああっ」
「だから。そのレポートは見せるから……それでいいかな、手間のお礼には」
 良かろう、と、嘆息混じりに相手……同じ学科の友人は肩を竦めた。
「で、しかし。トシヤにおまいも興味があるのか?」
「……トシヤ?」
 あらら、とざーとらしく相手はこける真似をする。
「そこのボーカルだよ」
「ふうん?」
「ふうんがあるか。グループって言うけど、要するにそのボーカルあってのグ
ループだよ。ファンも結局トシヤ目当てだしな」
「…………ふうん」


 小さな、少女。
 中学生くらいの、偶然出会った。
 ひどく……虚ろなようで、けれども淀むような、あの感情。
 それが気になっていた。

 この手の話題に詳しい友人に尋ねると、彼女のことは少しだけ判った。
 あやこ、と呼ばれている少女。トシヤの親衛隊の一人。
 トシヤ、というのが、あの時の熱狂の対象である、とも。


 ライブの会場に、三度迷って行きついた。
 三度目は……けれども、人に訊く必要は無かった。

「…………」
 
 細い通りのあちこちに、跳ね上がる花火。
 期待を示す金の火花。陶酔するような紫のねっとりとした流れ。憧れるよう
な淡い紅。そしてぎりぎりと引き絞るような紅の色。

 嫌な、色だ。

 火花を散らす人々が、だんだんと集まってゆく一角。
 狭い扉のところには、白金に脱色した上から紫色をかぶせたような長い髪の
青年が立ち、チケットを無表情にむしりとっている。
「………ありがとう」
 つい、いつもの癖で口走ると、相手はえ、と、目を上げた。瞬時おどおどと
した色が走るが、そのまま無表情へと逆戻りしてしまう。
 人と関わることを、根本から無視したような。
 譲は小さく息を吐いた。


 音楽自体の良し悪し、というならば、確かにかなりの水準だろうな、と、譲
は判断した。
 びっしりと、通路まで立錐の余地無く詰まった会場。椅子席を確保した連中
もグループが出てきた……否、トシヤというボーカルが出てきた途端に立ちあ
がる。凄まじい喧騒の中、それでも座っている譲を、横の女が非難がましく見
やった。
 白い包帯に、ぐるぐると巻かれた体。

(トシヤ)
(トシヤ)

 波のように打ち寄せる、声と……それ以上に、感情。
 誰も彼もが、彼を自分のものとする。その強烈なまでの独占欲。
 
(トシヤ)
(トシヤ)

 彼の感情は……光のようにも見えた。
 マイクを握る指から、迸るような紅銀色の鋭い線。

(食らっちまえよ、貴様ら)

 陶酔が、独占欲に変わって打ち寄せるステージの際。
 その、毒々しい色合いに、譲は一瞬吐き気を覚えた。

(俺の全て、貴様らが食らえ)

 歌詞とは別に、そんな声が伝わる。
 金と黒の極端な鋭角三角形が、声に乗って飛ぶ。
 
 硝子のように、それが砕ける。総立ちに近い客席の上で。
 きゃああ、と、悲鳴のような歓声。

(……あれ?)

 その喧騒の中で、ボーカルを眺めていた譲は、ふと眉をしかめた。
 白い包帯が、赤黒く染まっている。感情波のせいでそう見えているのか、と
一瞬勘違いしたのだが。

(……本当に……血?)

 その割に、苦痛の色は彼から流れてこない。
 不快……ああ、ぐじゅぐじゅと、ひどく汗をかくのに似たうっとおしさは、
流石にあるらしい……

(……!)

 ふと。
 ボーカルが、譲のほうを見た。
 一瞬。
 少しだけ、驚いたように。

 ……そしてそのまま、視線はごく自然に譲から外れた。


 幾度もアンコールの声がかかった挙句、ようやくライブは終わった。
 どろどろとした満足。艶やかな紫。そしてターコイズブルー。互いにぶつか
り合う独占欲。
 ざわめきながら人が出てゆくのを待って、譲はしばらくその場に座っていた。
人込みの中をかき分けて進むほどの気力が、無かったといえばそれまでなのだ
が。
 人が戸口から流れ出すのを見計らって、舞台のほうでは楽器の片付けが始ま
る。先程まで演奏していたメンバーと、裏方専門らしいジーンズの青年達。
 頭が、痛い。
(流石に、人酔いしたな……)
 その風景を見るとも無しに見ながら、譲はこめかみを指で押さえた。一度強
く目をつぶり、残像のように残る感情波の残滓を視野からこそげとろうとする。

「大丈夫かよ、あんた」
 不意に至近距離から声をかけられて、譲は慌てて目を上げた。
「クスリ要るかい?」
 半ばからかうような、でも残りの半分は本当に心配している、声。
 トシヤ、と呼ばれる、それはボーカルの……

「……大丈夫です、ありがとう」
 こめかみから手を離し、一度息を吐いてから、譲はそう答えた。
 ゆっくりと、立ち上がる。
「ありがとう」
 ふふん、と、笑うような声が返ってきた。

 包帯に包まれ、血を流していた筈の二の腕には、傷一つ無い。
 けれども……微かに、すえたような血の匂い。

「ありがとう」
 もう一度呟くと、譲は一つ頭を下げた。
「気をつけて帰んな」
 からかうような口調とは裏腹に、ふわりと淡い碧色の波が漂う。
 ほんの少しの、けれども本物の気遣い。
「……」
 自然、譲の口元がほころびる。
「そうする、ありがとう」
 一度だけ、波を放つ。すこし緑の色を濃くした、けれどもやはり淡い色の波。
 感謝。
 相手……トシヤは、やはり少し笑ったようだった。


(……なんだか)
 不夜城と化した街の中を、ゆっくりと歩きながら。
(思ってたより、普通の人だったな)
 何となく、拍子抜けしたような気がした。
 けれども同時に、成程と納得するものもあった。

(ああいう人だから……あの子が、居付くのか)

 何となくの、安堵。

(ならば、大丈夫なのかな)

 何が大丈夫なのか、判然としないまま。
 それでも、微かに譲は笑った。

 街を渡る風が、腕を伝う。
 秋が、近づきつつある。

************************************************

 というわけです。
 熱波からの、気分的には続き、かな。

 しかし…思ってたより普通の人って(^^;;;;>譲
 とっしーが聞いたら怒るぞー

 というわけで、加筆、修正、訂正、没食らわせ、なんでもけっこーです。
 であであ(ううさすがにねむひ)



    

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