[KATARIBE 20546] [KMN] 『想音』

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Date: Mon, 28 Aug 2000 23:26:49 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20546] [KMN] 『想音』 
To: kataribe-ml@trpg.net
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2000年08月28日:23時26分48秒
Sub:[KMN]『想音』:
From:E.R


こんにちは、E.Rです。
ハリ=ハラさん、こんにちは。
昨日流れていましたルールを参考にしつつ。

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想音
====

 発表会に行かないかと誘われた。

「発表会、ですか?」
「そう。演奏会というより発表会」
 つまり、自分たちの成果を聴いてもらう、という会らしい。
「あの、諸橋さんはどうして……」
「ん?ああ、以前あたし教えてた連中が出るから」
「え?」
 諸橋さんが音楽をやっていたとは知らなかった。
「……そこで、そこまで露骨に驚かれると、ちょっと哀しいんだけど?」
「…………え、ええと……」
 まあ、真面目にやっていたのは高校に入る前のことだから、と、諸橋さんは
笑った。
「教えてたって言っても、子供会の延長みたいなところだったし。あたしはア
コーディオン教えてたけど、それもこっちが弾けるから、というより、楽譜が
読めて間違いを教えないから、ってことだったし」
「じゃ、小さい頃からアコーディオンを?」
 違う違う、と諸橋さんは笑った。
「習ってたのはピアノ。だから、楽譜は読めるしアコーディオンの右手も弾け
るけど、左手はこっちだってぼろぼろだったもの。……教えに行く前日は、毎
回こっちも必死でおさらいしてね」
「……今も、教えてるんですか?」
「ううん。この会社になってから、場所がちょっと離れたから、教えてないけ
ど、未だに連中、発表会っていうと連絡くれるの」
 正直上手くないし。だから暇ならばでいいんだけど、後でご飯おごるし、と、
ひどく申し訳なさそうに誘われると……
 何だか断れなくって。
「……あの、部外者でも聞きに行っていいんですか?」
「そら勿論。連中喜ぶわ」
 とか言いながら、諸橋さんが一番嬉しそうに笑うのだもの。
 ……それこそ断りようが無い。

 
 発表会は、楽しかった。
 非常に失礼なのだけれども、正直「演奏会ではない」と言った諸橋さんの言
葉には納得した。上手な演奏を聴かせる、というより、去年から一年間、どれ
くらい各自の腕が上達したかを知らせる場。
 中には今年、春から練習を始めたばかりの子供もいる。既に数年、同じ楽器
を練習し続けた上級生もいる。演奏の程度は、だから様々なのだけれども。
 オカリナを吹く者。手話と声で歌を歌う者。ギター、ピアノとエレクトーン
の連弾、アコーディオン。

 張り詰めるほどに、一所懸命な顔と想い。
 それが、快かった。

「元々ね、あるところでの発表会を聴きに行ったのがきっかけだったの」
 10分休みに、諸橋さんはそう言った。
「彼らの友人達、会うたびに遊んでいる面子が、一年間練習して、びしっと演
奏している、ってのがショックだったみたいで、どうしてもやりたい、って」
「……それで……」
「うん。だから、学校のクラブとは全く関係無い。クラブとの掛け合いが厳し
いこともあって、練習がそうそう出来るわけでもないし、指導者がいない場合
だってある」
 ふ、と、そこで、諸橋さんは言葉を止めた。
「……次のね、最初のグループ。それが、そうなんだわ」
「え?」
 説明しよう、と、諸橋さんが口を開けたところで、休憩の終わりを告げるブ
ザーが鳴った。


「私達は、この一年間、バンドの練習をしてきました」
 マイクを持った女の子が、そう切り出した。
 舞台の上には既に、楽器を抱えた子供達が並んでいる。緊張の為か、ギター
を持った男子が、右手を神経質に二三度開いては閉じた。
「ご存知だと思います。私達のバンドの指導をして下さった桜田さんは、一回
目の発表会の直後に、脳溢血で倒れられました」
 斜め前の女性が、小さく頷いた。
「あれから二年経ちますが、おじさんはまだ倒れたままです……でも」
 マイク越しの声が、滲む。一拍置いて、けれども彼女は、りんとした声で続
けた。
「いつか、もう一度、おじさんと一緒にここで演奏したい。そう願ってます」
 時折、本屋で流れる曲名を、彼女は告げた。
 すこしだけ、歌詞を変えました、と付け加えて。


 ドラム。ちょっと音の転ぶベース。それをカバーするように流れるキーボー
ドの音。

 想い。

『あのとき、お礼を言うことも出来ませんでした』
『あのとき、ありがとうを、存分に言えませんでした』

 突き上げてくる、その想い。

『仕事で大変だったのに』
『倒れるくらい、いつもいつも仕事が大変だったのに』

 音楽。
 想い。

『だから』
『だから、届け』
『だから、私達は弾き続けるから』
『だから…………』

 想いが。
 想いが、橋に押し寄せる。
 まるで背中を押しているように…………


 想いを渡す。
 私の体から、私は飛び出し、相手を探す。後ろに橋を引きずりながら。
 それでもちょっと不安で、後ろを見る。舞台の子供達を見つめる人達、私に
意識を向ける人はいない。
 うっすらと、光を帯びる目。それだけが『渡す』際の弊害。
 大丈夫だろう……

  
 押し寄せる想いが、背中を押した。
 押し寄せる波に追われるように、想いの先を探した。

 暗闇の中、ほの光る顔。
 ひどくやつれた、目を閉じたままの…………

『届け』
『届け』
『おじちゃん、ありがとうって』
『おじちゃんと、もう一度演奏したい、って』

 伸びる橋を渡って、想いが流れ込み……かけた時に。

(あ)

 男性の目から、ぽろ、と、涙がこぼれていた。
 
(……え?)

 未だ渡し切ってはいない。未だ届けてはいない。
 あの子達の想いを、私は届けていない筈なのに……

《聴こえているよ》

 ぶうん、と、その人の胸元から。
 低い、振動音に似た、小さな声。

《聴こえているよ、皆》
《聴こえているよ、ここまで》


 ……頭を強く、殴られたような驚愕。

(想いが、既に渡っている……)


 橋姫の背中をどやしつけ、渡すことを要求した想い。
 それは、けれども既に、自力でここまで渡ってきているのだ、と。

《聴こえているよ、皆》

 その人は、両目から涙をこぼしている…………



 すう、と体に戻った時には、曲は最後の繰り返しの部分に入っていた。
 音楽と感謝。
 あの時、告げられなかった言葉。

『届け……』

 ギターの少年が、最後の一節を、手をこわばらせるほど緊張して弾いた。


「……どーだった?」
「凄く良かったです」
 本気で言ったのだけれども、諸橋さんは、一瞬疑わしげにこちらを見た。
「……本気で言ってる?」
「勿論です」
「ってか……ほら、すんごく上手い、って訳でもないでしょ?」
「それは、そうかもしれませんが」
「だから、さ」

 音楽。
 弾く人達の想い。
 聴く人達の想い。
 それが繋がるのが、そういえば音楽なのではなかろうか。

「でも、音楽の最初の最初が、伝わりますから」
「へ?」

 あのひとを、泣かせることの出来る音楽は、他にはないだろう。
 
「弾いている人の思いが伝われば、音楽って成功なんじゃないでしょうか」
「……ふむ」
 諸橋さんは少し首を傾げた。
「……そーかもね」


 人って凄い。
 人って、とても凄い。

 ふっと、そう思った。

「まあ、斧淵さん喜んでくれたんなら良かった良かった」
「ありがとうございました、誘ってくださって」
 にっと笑うと、諸橋さんはこちらこそ、と言った。

「で……ついでだからさ、一緒にご飯食べない?」
「あ、はい」


 想いは渡る。
 伝わるべき想いは、必ず。
 ……必ず。

******************************************

 という話です。
 かーーなり、実話(苦笑)。

 音楽。
 美しいことも、耳に心地良いことも必須なんだろうけれども。
 そこに込められている想いが無いならば、それは何なんだろう。
 弾く側の満足もあるだろうし、達成感もあるだろう。
 けれども、聴く側にぶつかるような感動とはなんだろうか。

 あくまで、アマチュア、趣味でやっている範囲での話ですけど(苦笑)

 で、ここで雨海のやった「想いを渡す」というのについては、
 難易度7、としました。(てけとてけと)
 んで、昨日IRCでお聞きした通り、+3の修正がついて。
 んで、渡す能力は、16。
 16−(7+3)=6。
 余力は12。

 というわけで、振ってみましたところ、一度で3が出まして(爆)
 ………出目いいのう(汗)>雨海

 というわけで、めっからないことにしました。
 
 渡す、という異能を使用する時に、うっすらと目が輝く、とします。
 ので、恐らく、見えたのは正面の舞台にいる子供達だけで。
 ……必死の巻だったんで見てる暇も無かったのだろう、と(苦笑)。


 というわけで、久方ぶりですが。
 であであ。



    

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