[KATARIBE 20484] [KMN] 『夏休みの風景』

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Date: Thu, 17 Aug 2000 21:10:47 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20484] [KMN] 『夏休みの風景』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200008171210.VAA85865@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 20484

2000年08月17日:21時10分46秒
Sub:[KMN]『夏休みの風景』:
From:E.R


こんにちは、E.R@そらいくぞー です。
というわけで、予告していた一瞬芸です(笑)>久志しゃん

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夏休みの風景
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登場人物
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お銀(おぎん):猫又。現在書店雪風の店主。
寒風沢水華(さふざわ・みか):お銀の元の飼い主。既に死亡。


本文
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 ああそう言えば、と。
 ダンボール箱を開けた途端、お銀は思い出したものである。

『夏休みになるとね、近くの子が必ず買いに来るのよね』
 そう……半ば独り言のように言いながら、水華が頼んでいた本。
 星座の辞典と、早見盤。

 店の中は冷房が効いているから、左程季節を感じないのだが、それにしても
硝子戸の向こうの白茶けて見えるほど光を跳ね返すアスファルトの道は、これ
はもう充分に夏の風景である。
(夏休みってことは……餓鬼共が来るんだろうねえ)
 前の夏は、まだ水華がいた。だから自分は猫のままだった。
 何人かの子供の客に手を伸ばされて、えらい目に合ったのは記憶にきっちり
と残っている。
(冷房目当ての客も来るし)
 そういう客が本を読むならば、まだ良い。雑誌等をぐちゃぐちゃにされると
こちらも非常に迷惑である。
(……まあ、その時はその時だけどさ)
 改めて、辞典を手に取る。
 表紙を飾る、天の川の写真。

 夏の大三角形。

『夏の大三角形って……お銀にはわかんないか』
 閉店後、よく水華は外に出て星を見ていた。
『アルタイルが登る鷲。ヴェガが落ちる鷲。間に挟まるデネブが白鳥。つまり
は夏の三角関係……って思っちゃうんだけど』
 何が可笑しいのか、ころころと笑いながら。
『そんな風に見るのも、ひねくれてるのかもしれないけどね』
 ね、と、言葉と一緒に軽く頭を撫でた手……


 お銀は小さく溜息をつく。
 押し寄せこぼれるような記憶に呑み込まれぬよう。

(……誰か、来るかな)
 手の上には、星座の辞典と早見盤。
(誰か買いに来るかね、水華)
 そっと、喉の奥でそう呟いて、その二つを児童用の本棚の目立つところに置
いてみる。
 一瞬ぼやけた表紙の星の渦。
 一度目を閉じる。目をこする。


「……さて、さっさとしないとね」
 水華の声で呟いてみてから、お銀は次の本を手に取った。


 肌にひりつくように、夏が訪れている。

解説
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夏休み突入ぐらいの、書店雪風の風景です。

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 本当に、一瞬芸だこと(^^;;;;;
 というわけで、「星座早見盤」ございますので、お早いお買い求めをー(謎)

 であであ。



    

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