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Date: Mon, 7 Aug 2000 23:46:38 +0900 (JST)
From: いろは <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20386] [HA06] 染木先生のお墓参り
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200008071446.XAA68412@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 20386
2000年08月07日:23時46分32秒
Sub:[HA06]染木先生のお墓参り:
From:いろは
いろは です
染木さんが自分の墓のお墓参りをするという奇妙な話です(笑)
ちゃちゃ入れ歓迎です♪
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染木先生の墓参り
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ミーン、ミンミンミン……
蝉の声があちこちから聞こえてくる。
太陽は痛いくらいに照りつけてくる。
今は八月、お盆である。
こういう日は少年時代を思い出す。
ふらりと寺から外に出る。
もしかしたら、もう来ているかもしれない。
そんなことをぼぉっと考えながら、墓地に足を運ぶ。
彼女は強い日射しの中、お墓の前に立っていた。
墓石に水をやり、拭く。
線香を焚いているのだろう。
あたりにお香の香りが漂っている。
彼女に近づく。
近づくにつれ、彼女の顔がはっきりと分かる。
彼女は美しかった。
絶世の美女とまではいかないがどことなくホッとするような顔立ち。
見知った顔だ。
それこそ、幼い頃から知っている。
私が幼い頃から60年以上も見ているがその美貌はいっこうに衰えを
見せない。
彼女は幽霊だから……
「暑くなりましたなぁ」
彼女に声をかける。
「本当に……」
百万ドルの笑顔とはこのことだろう。
彼女が振り向いたときに見せた笑顔はそう呼ぶにふさわしいものだった。
「相変わらずお美しい」
ついつい陳腐な言葉が口に出る。
「去年も一昨年もその言葉を聞きましたよ」
そういって、くすくすと笑う。
「そうでしたかねぇ……このところ物忘れが激しくて」
「それも去年聞いたわ。もっと言葉をアレンジしてはいかがかしら、
岬守くん?」
「あはは、相変わらずですね、先生」
そう、彼女は私の先生だった。
50年以上も昔の話だが……
「そういえば、前々から聞こうと思っていたのですが、自分のお墓
に自分で参るというのはどんな気分なんですかねぇ」
「どうしたの突然?」
「私も60越えましたからね。死が身近に感じられるんですよ。そ
れでまあ参考に聞いておこうかと」
「ふむ、まあ奇妙な感じはするけどね。でも、一応自分だったもの
だから丁寧に扱いたいし……雑に扱うのもなんか気分が悪いからね」
「はあ、そんなもんですかねぇ」
「そんなものよ。要は気分の問題ね。どうでも良いと思うなら実際
どうでも良いんじゃないかしら」
「はあ……」
「あんまり参考にならなくてごめんなさいね」
「いえ、いいんですよ」
「そう?それじゃ、用も済んだし私は帰るわ」
「もうですか?寺に上がってお茶でもごちそうしようかと思ってたのに」
「残念ながら私は忙しいの。また機会があったらごちそうになるわ」
「楽しみに待ってますよ。それまで先生のお墓しっかり管理してお
きますから安心しててください」
「しっかりお願いね」
そう言い残して彼女は去っていった。
相変わらず、蝉がうるさく鳴いている。
太陽は痛いくらいに照りつけてくる。
いつもの夏、いつものお盆。
来年も私が生きている限り、いつもの夏がくるのだろう。
そしてまた、世間話をして……
空を見上げると夏の青空に入道雲が白く輝いていた。
「こりゃ、一雨くるかな?」
かつての少年はいそいそと寺に戻っていった。
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ま、こんな感じで
それではまた