[KATARIBE 20302] [WP01N] 『ガラクタ』

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Date: Thu, 27 Jul 2000 16:51:53 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20302] [WP01N] 『ガラクタ』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200007270751.QAA52752@www.mahoroba.ne.jp>
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2000年07月27日:16時51分53秒
Sub:[WP01N]『ガラクタ』:
From:久志


 久志です。
だーっと手が走るままEPってみる。

 ミヤイを殺して落ち込んで、立ち直って指団をつくるきっかけとなる
までのお話(よーするにとっしー立ち直り話)

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『ガラクタ』
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登場人物
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 呉敏也(くれ・としや): 
    :終末の住人、トラウマを具現化する力を持つ。親友であるミヤイが
    :対として目覚めて襲われた為誤って殺してしまう。
 楢原陣(ならはら・じん):
    :トシヤのシンパ

ビンの中の
-----------

 なんで空は青いんだ。
 関係ねえだろ、そんなこと。

 なんで俺の手は血まみれなんだ。
 いつもの夢だろ、めずらしくもねえ。

 なんで俺の部屋に泥だらけのツルハシがあるんだ。
 知らねえよ、土方のバイトでもはじめたんだろ。

 なんで俺の小指がねえんだ。
 さあな、どっかに引っかけて切れたんだろ。

 なんで奴がいねえんだ。


 ……俺が、殺したからだろ。


 透かして見る。
 細いビンに詰まってるのは俺の小指。

 あの日の悪夢はまだ覚めてくれない。


ガラクタ
--------

 奴が消えて。隠し通せるわけがねえのはわかってた。
 どこまで警察様が事情を知っているかは知らないが、奴の死体が見つかった
ことだけが俺達に告げられた。

 でも、あれから奴に関することで俺に深い追求はなかった。
 俺が知る前からずっと奴はいくつもヤバイ仕事を続けていて、俺が思ってい
たよりずっと奴の家の事情は複雑だったらしい。つまるところ、殺られるアテ
がありすぎて絞れずにいるのが現状らしい。
 一応、最後にあった人物として俺も事情を聞かれたが、適当にはぐらかした。
俺が世間で言う未成年であったこともあってか、割合簡単に解放された。
 それよりも警察様としては、奴が今まで関わってきたヤバイ連中共を一斉に
洗う絶好のチャンスだとでも思っていたのだろうか。バンドの仲間達も、奴な
ら何をやらかしてもおかしくはないといった面持ちだった。馬鹿馬鹿しくなっ
てくる、そんなことさえ俺は知らなかった。何も。

 外に出る気もしなかった、何もする気が起きなかった、どうすればいいかわ
からなかった。

 ガキの頃から、俺は周囲から浮いていた。
 なにかあれば、俺を中心にまとまって集まったヤツラを率いていた。
 けど、今まで対等な奴はいなかった。

 それがミヤイなんだと、俺は単純に信じていた。

 小さなビン。
 ガキの頃、小さなビンを集めるのが好きだった。俺にとってはそれが宝物で、
ボール箱一杯に集めた小さなビンに拾った硝子の欠片や砂粒を詰めて大切にし
まっていた。けど、今見返せばそれはただのガラクタでしかない。

 大切なモンだと思っていたものが、ただのガラクタだと気づいた時。
 たぶん、こんな気分になるのだろう。

 小さなノックの音が響いた。

「入るぞ、トシヤ」
「……陣、か」
「今日はどうした、シゲルが気にしていたぞ」
「ああ、悪い。ちっといい曲が浮かばなくってな」
「いや、せかしてるわけじゃない……それより」

 俺が間借りしてる地下二階建ての元スタジオ。ふらついてた俺を見つけたの
がミヤイで、俺をここに置いてくれたのは陣だった。

「何かあったのか、トシ?」

 陣がいくつだかは知らない、二十五歳は過ぎているだろうってことぐらいし
かわからない。年齢差もあってかミヤイのような間柄ではなかったけれど実際
頼りになる存在だった。表だって動く奴ではなかったけれど、それが陣なりの
考えと気遣いだった。こんな風に人に素で口を聞けるのも、陣だからできるこ
となのだろう。
 そのくせ、俺はあまり陣に気を許してはいなかった。今考えてみれば、少な
くともあの時のミヤイよりは信じられる奴だったんじゃねえかと思う。ただ俺
が何も話さなかっただけで、表向きの面で関わっていただけで、本当はもっと
奴にも陣にも話すべきことや知るべきことや聞いてやらなきゃいけないことが
あったのかもしれない。

 そうだよな、ああ、そうだよ、人は経験しなきゃわからねえんだよ。
 集めた宝がガラクタだって気づくことも、奴の本当のツラを知ることも、陣
の気遣いに気づくことも。
 ああそうだよ、気づかねえんだよ、そんなことにすら。

「トシ」
「すまねえ……気ぃつかわせちまって」
「ミヤイのことが、気になるか?」
「…………ああ」

 知りたいことはある、でも話したいことは言えない。そも、信じてさえもら
えないかもしれない。それでも何もせずにいたらなんにもはじまりゃしない。

「あの日、俺は奴と会っていた。」

 せきを切ったように。
 奴に誘われたこと。
 拳銃を買ったどす暗い顔をしていた男のこと。
 死の橋渡しをする奴の本音と。

 それより先は言葉が続かなかった。

「……ミヤイはな、正直俺達も詳しいことは知らないんだ」
「そう、か」
「あいつが俺らんとこに顔を出すようになったのは、お前がここに来た歳ぐら
いだった」

 中学に入って半年、俺がここへ来たはそれくらいの頃。

「あいつとは気が合わないわけじゃなかったし、悪い奴でもない。奴と組んだ
バンドも正直楽しかったと言える。奴がやってたハッパだって俺達だって一度
はやったモンだ、それほど気になるもんじゃなかった。ただ……」
「ただ?」
「奴は自分のことを何一つ話さなかった、家族のことも環境のこともなにも、
なにやらヤバめな家に育ったことだけはわかったけど、それ以上に得体の知れ
ない何かがあった」
「…………」
「俺は奴に気を許してるつもりだったし、奴のことをそれなりに理解してるつ
もりだった。けど、奴はそうじゃなかった」

 まるで、自分のことを言われている気分だった。
 対等なモンなんてのは、相手も自分もさらけ出さなきゃなれるモンじゃねえ
だろ、ミヤイとはだらだらと一緒にいただけで俺が勝手に錯覚してたんだろ。

「なんとなく思う、奴は最初から何もかもあきらめきっていたんじゃないかと。
他人は自分の知る所でなくて、この世は己のみ、と。それが奴であって、それ
以上のものを奴は求めようとしなかった」
「……俺は」

 俺が思ったことを、陣もまた思っていたのだろうか。

「俺は、勝手に奴を親友だと思っていた」
「…………」
「けど、結局どうだ。俺も奴のことは何も知らなかった、俺は奴を理解してい
るつもりだけで、俺を理解してもらおうともしてなかった。俺と対等なんだと
勝手に思ってた」

 奴を殺したことで落ち込んでるんじゃねえ、テメエ勝手に勘違いしてたこと
を裏切られたと思い込んでるだけだ。

「そして、これだよ。奴は……死んだ」

 殺したんだろ、俺がよ。

「トシ」
「俺も変らねえんだよ、奴と。俺はわかろうとしてるつもりだけだった」
「お前が……そう思うのもわからなくもない。けど、お前は少なくともわかろ
うって気があるんだろ?」
「…………」
「正直、最初にミヤイがお前を連れてきた時は『ああ、またゴミ溜めにガキが
一匹やってきた』と思ったさ」
「そのとおりだろ」
「けどな、お前と一緒にバンドやってつるんできて、なんとなくお前はミヤイ
とも他のヤツラともなんかが違う、なんの根拠もないけどな、お前はこれから
大した奴になりそうな気がする」
「買いかぶるなよ、なにもでないぜ」
「いや、そうじゃない。お前はこれから何かをやってくれそうな面をしてる、
ミヤイみたいに何もかも捨てちまった面でなく、俺みたいに目をそらすでもな
い、真っ向から突っ込んでいける奴だと思ってる。だから他のヤツラも俺でも
なくミヤイでもなくお前をリーダーに据えた」
「…………」
「お前なら、誰ともなくついていけそうに思っているし、実際お前は俺達をう
まくまとめていた、だから」

 ガキの頃から、俺を中心に集まったヤツラを率いていた。
 他人のことばかりわかったつもりで、俺は自分を明かそうとしなかった。

 対等な奴がいなかったのは、俺の所為だろう?

 だったら。

「買いかぶるなよ……陣」

 今からでも、取り返せるかもしれねえ。たとえ奴は帰ってこなくとも。

「俺は……」

 いや、取り返してみせるさ。
 化け物だろうが、指だろうが。

『殺意ってのははどうしようもねえんだよ。オレの中で何かがテメエを殺せっ
て叫んでんだよ。だったら……殺るしかねえだろ?』

 奴を狂わせた何かだろうが。
 見てやがれ。
 それが、俺だからな。

「サンキュ気が紛れた。すまねえな、陣」
「気にするな、トシ」

 見てやがれ。

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いじょ

 だから即書き見直し一秒をどうにかしろー



    

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