[KATARIBE 20288] [IC04N] 『首吊台から』

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Date: Wed, 26 Jul 2000 20:05:40 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20288] [IC04N] 『首吊台から』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200007261105.UAA09215@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 20288

2000年07月26日:20時05分39秒
Sub:[IC04N]『首吊台から』:
From:E.R


こんにちは、E.Rです。
一応、これで、EP終わりかな?
#つか、絵3枚を、EP三つに替えるという裏取引(おい

…というのは冗談ですが(ほんとにか?)
あと3つも…そのうち、書くとして。
とりあえず、打ちとめ話は、初音です。

***************************************
首吊台から
==========

 ずんぐりしたフォルムのラジカセに、CDを突っ込んで。

 
「ねー、知ってる?」
 この問いに「うん知ってる」と答えると、クラスの友達の半分を無くすだろ
うことくらいは初音も学習している。無言で小首を傾げると、案の定相手は続
きを話し出した。
「視聴覚教室から上手く行けば、CD屋さんに行けるんだよ」
「…ほんとにっ?!」
 席を蹴飛ばして立ちあがる。相手はころころと笑った。
「やーっぱそうだ」
「……え?」
「雪入さんなら、絶対そういう反応になると思ったもん、ねえ」
「そそ」
 笑って言う相手の隣にいるのは……沙奈子である。
「……読まれてる」
「読めるわよそれくらいっ」
 ぱん、と弾くような口調まで、今までと全く変わらないままで。

 沙奈子は、あの翌日むっつりとしたままやってきた。
 昨日飛び降りたんだよ、と初音が告げると、一瞬ひどく悔しそうな顔になっ
た。
 あたしが逃げて、その代わりにあたしが来たって言うのね、と……

 2番目の沙奈子は、それでもその日は飛び降りようとはしなかった。
 3番目のあたしに恨まれるじゃん、今のあたしが恨んでいるように。
 彼女は仏頂面のままそう言った。


「えーとですね、この教室を入りまして」
 出ている札は……視聴覚第5教室。どうやら滅多に使われないらしく、教室
の隅には綿埃が結構固まって陣取っている。
「で?」
「そーして、ここの扉をこう開けますっ」
 ことさら芝居めかして、言うと同時に、彼女は掃除道具入れの扉を大きく開
けた。
 わん、っと、音が塊で飛び出してきた。
「……っ」
「いらっしゃいませ」
 少しくたびれたような声が、それでも精一杯愛想良く掛けられた。

 店内は、充分に広かった。
 開け放った扉を、彼女は閉めなかった。ここを閉じたら戻れないかもしれな
いからね、との言葉に、沙奈子も初音も頷いた。
 店員も、その辺は心得ているようだった。

「どんなジャンルをお探しですか?」
「ええと……」
「今流行ってるのあります?」
「ああ、ありますよ、ここら辺です」
 無限都市に『今流行っている』ものがあるというのが……ある意味奇妙でも
あるし、そんなものかなと思わないでもない。
「試聴は、こちらでどうぞ」
 沙奈子がいそいそとついてゆく。ここまで連れて来てくれたクラスメイトの
百合野……ユリヤと読む……も、それにくっ付いてゆく。初音だけは取り残さ
れた格好で、きょろきょろと周りを見まわした。

 音の、貯蔵庫。
 封じられた音が、ここには積み重ねられている。

 音。
 新しい音。

 と…………
 不意に、新しい曲が店内に流れ出す。

「……?」
 単純なリズムに続いて、少しかすれたような、でもどすの利いたような声。
 生まれたときから道を知らない、帰り道も分らない、と、歌う……
(これを、ここで流すんだなあ……)
 普通の世界ならば、単純に……でもないが……抵抗や居直りに取られかねな
い歌詞が、しかしこの世界ではかなり皮肉なものに聞こえる。

 ふと。頭の中に浮かぶ数行。

『問八:
 この曲をあえて選んでかけている店員の心情について三十字以内で述べよ』

 思いついてしまってから、初音は苦笑する。
「どうしました」
「……あ、はい」
 気がつくと店員がこちらを見ている。と言うよりは、初音の担いだ黒いソフ
トケースを見ているのかもしれないが。
「あの、この曲、何て言うんですか?」
「……ああ、そうか」
 ちょっと驚いたように初音を見た店員は、けれどもすぐに笑った。
「ブルー・ハーツの『首吊台から』って曲です」
「ブルー・ハーツ……」
 CD屋で見たことは、ある。けれども聞きたいと思ったことは無かった。
 ……今までは。
「この曲、どのCDに入ってますか?」
「ええと……これと、これ……これにも入っているな」
 邦楽の棚の前まで行って、選び出す。慌てて初音もそちらに向かった。
「ブルー・ハーツをお聴きになったことは」
「ありません……ベスト盤みたいなのがあれば、良いんですけど」
「じゃあ、これでしょうか」
 とんとんと弾くように、店員がCDを選ぶ。
「じゃ、これ下さ……」

 はた、と初音は口をつぐむ。
 さて、この無限都市でのCDの値段は如何程であろうか?
 店員は面白そうにこちらを見ている。

「……あの、これ、お幾らですか?」
「一億五千万円」
「え!?」
「嘘です」
 笑いもせずに、そう言う。
「無いならば五十円で結構です」
「……」
 初音は財布の中を探り、五十円玉を引っ張り出した。
「……はい」
 差し出された硬貨を店員は苦笑して見たが、
「毎度ありがとうございます」
 その言葉と一緒に、CDを差し出した。

「ねー初音初音、こっち来てみー」
「え?」
「この曲綺麗……ええと何だろうな……ケルティックミュージックだってさ」
「へえ……」
 百合野が差し出したイヤホンを耳に被せる。ふわりとした女性の声が途端に
漂う。
「本当だ……」
「これ買いなよ、初音ー」
「え?」
「百合野知らないっけ、初音ねー、聞いた曲は弾けるんだよ」
「え、ほんと?」
「……って、そんな、難しいのは駄目だけど……」
 言い訳のようにもごもご言う初音の言葉は……届かなかったようである。
「えー、いーないーな、じゃ、今度聞かせてよ、これ弾いてみてよ」
「……うん」
「じゃ、これ、買おう?」
「……うん」
 いいのかな、そんなに何枚も……と、初音としては思ったのだが。
「はい、毎度」
 店員はあっさりとそう言った。

 沙奈子も百合野も一枚ずつCDを選んだ。

「このCD、どこから来るんですか?」
 ありがとうございました、と、声をかけてきた店員に、最後に初音は聞いてみた。
「……さあ」
 答は、とても簡単だった。
 やっぱり、と、内心納得しながら店員を見ると、むこうもやはり少し笑っていた。
 互いに、何となく……わかったのだろうな、と。
 初音は納得した。


 掃除道具入れから視聴覚室に戻ってみると、もう窓の外は暗かった。
「……何か、時間ずれたのかな」
「どーだろ」
 沙奈子は一つ伸びをすると、興味なさそうにそう言ったが、ふ、と口調を変えた。
「何でも良いけどさ、ご飯食べにいこ。学食」
「学食……」
「今日は日替わり定食食べるー」
「……そう言えばさあ」
 声を潜めたのは百合野だ。
「この前、怖いメニュー見ちゃったんだけど」
「何?」
「コルチキンタワー丼」
「…………なにそれ」
「怖いから、手を出せなかったんだけど……何だったんだろうなあ」
「鶏肉が入ってるだけじゃないの?」
「そんな単純な……こー、ほら、ねじねじのパスタがかかってるとか」
「……カタツムリが、入ってるとか」
 考え考え、初音がぼそ、言うと、後の二人がぎょっとして初音を見やった。
「しんじらんないー」
「え、でもだって、カタツムリって、エスカルゴって……」
「あれはー、そういう種類。そんな高級なもん出るわけ無いでしょ」
「……でも、もっと怖いのは……」
 ふと、思いついたように百合野が言う。
「…………なによ」
「それが全部入ってて、おまけに食べても食べても減らない、ってやつ」
「…………げーーーっ」

 もう既に。
 コルチキンタワーという言葉を、こんな風に使えるようになっている。
 もう既に。
 永遠無限の世界にいることを、こんな風に認めてしまっている。

 迷いはじめて、そのままに。
 帰る道など、ありもせぬ……

「はーつーねっ」
「え?」
「ほら、ご飯いこご飯っ」
 いつものように、首をとっ捕まえられてずるずると学食に向かう。
 その手の温かみは、やはり1番目の沙奈子と同じで。

 何となく。
 初音はほっと息を吐いた。


*******************************************

 というわけです。
 BGMは、そのまんまですね。

 あ、勝手にCD屋さん出しまして(滝汗)
 ちぇっくおねがいしますー>ぎゃろさん

 であであ。


    

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