[KATARIBE 20126] [WP01N] 『目覚めの日』後編

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Date: Wed, 12 Jul 2000 18:30:39 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20126] [WP01N] 『目覚めの日』後編 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200007120930.SAA56861@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 20126

2000年07月12日:18時30分39秒
Sub:[WP01N]『目覚めの日』後編:
From:久志


 久志です。
あーーーどす暗いトシヤ覚醒編ラストです(^^;)
うーむ、トシヤかなり壊れてます。

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『目覚めの日』後編
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隠滅
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 耳鳴りがする。
 あたりが本来あるはずの空気を取り戻していた。さっきまでの空間は奴が
作っていたとしたら、奴が死んで元に戻ったと考えたほうがいいだろう。

 目の前にあるのは、死体。
 虚ろに空を見上げたまま仰向けに倒れ、動かない。

 なんとかしないといけない、こんなところでは人目につく。誰かに見られ
たりしたら、まずいことになる。おまけに奴の胸から生えた異形な指を説明
のしようも無い。

 どうすればいい?
 このまま人目につかず奴を運ぶのは不可能だ。

 さっきまで俺を取り巻いていた空間。あれを作り出したのはおそらく奴だ。
俺もあの空間に立ち入っていた、ということは俺にもそれが可能な事かもし
れない。少なくとも、あの空間では人がすべて排斥され、誰も侵入してくる
ことはなかった。
 奴がこの空間を張った時のことをゆっくりと反芻する。突然周囲の感覚が
変わっていった瞬間のことを考えた。

 さっきと同じ耳鳴りのような音を響かせて、空間が俺をとりまいていた。

 ひとまず人目は避けられたのだろう、そう考えることにした。だんだん考
えることがおっくうになってきた。

 おいおい、本当はもっと考えきゃいけないことがあるはずだろ?

 なんで奴が狂ったんだ?
 奴も異常だったのか?
 あの薄気味悪い指はなんだ?

 わかっていても頭が考えてくれない。どっかが麻痺してる。
 自己防衛行為みたいなものなのかもしれないな。考えたらきっと俺はトチ
狂っちまうだろう、今でもかなり自信がない。考えたら自分がどうにかなっ
ちまうことをわざわざ考えさせるわきゃねえよな。だったら今はもっと現実
的なことを考えるべきだろ?そうだろ?なぁ、トシヤ?

 そうだよな、まずは奴の死体を始末しないな。
 まるで推理小説の犯人だ。幸い名探偵殿はいない、見られてもいない。
 さて、どうするか。

 どこかへ埋める、か?
 それが妥当かもしれない。今は誰にも見られてはいない、どこか人目につ
く場所にわざと埋めてアリバイを作っとくのもいい。だって考えても見ろよ、
こんな胸に悪魔の指みてえなのが生えた男の死体を見つけて、警察様が世間
に公表するか?どこかの墜落した宇宙船のエイリアンの死骸と変りゃしねえ、
せいぜいゲテモノ雑誌にだけ仰々しく書かれて、他は無視を決め込むさ。

 さて、どこに埋めてやろう。
 どうせなら桜の下にでも埋めてやるか。

 桜の下には死体が埋まってる。

 ホンモノだせ?梶井基次郎さんよ。

 笑うなよ、笑ったら終いだぜ。笑ったらホントに一握り残ったまともな神
経が飛んでっちまうよ。


墓掘人
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 新宿中央公園
 そうだな、あそこがいい。夜でもホームレスであふれたとこだが、今は誰も
俺を見ちゃいない。
 近くにあったビニールのシートで奴をくるんで、引きずっていく。
 なめくじがはった跡みたいに、赤い筋がアスファルトに残っていく。いっそ、
塩かけてとけちまえば苦労はないのにな。

 狭い狭い言っていて新宿だって以外と広いよな、もっともこいつを引きずっ
てるからだろうけどよ。ちきしょう腕が痺れてくる。

 考えるなよ。
 昔から言うだろ?怖いことを考えるから怖いってな。

 そうだ、埋めるからにはスコップの一つでも要るよな。途中で道路工事をし
てた道があったはずだ、なんでもいいから地面掘れそうなもん失敬していくか。

 考えるなよ。
 今はこいつ運んで埋めることだけ考えろ。

 額から伝ってくる血の混じった汗。
 ちきしょう、着いたはいいが穴も掘る前からこのザマかよ。とっとと埋めて
帰りてえのに。それにこのツルハシ。使ったこともなかったけど、こんなに重
てえのか。
 二三地面に叩き付けるがうまいように地面にささらない。汗があとから吹き
出して握った手がぬめった。
 叩き付けるたびに、目の前に奴がよぎる。

 中学フケてゲーセンにたむろってた時、偶然出くわした奴。
 奴にすすめられて、一本ふかしてみた煙草。
 客のはけたライブハウスでギターをつま弾いてた。
 誘われて俺が思いつくまま書いた詩に、適当に曲をつけていた。
 新結成したバンドで声の限りに叫んだ。
 気に入りのハッパ。

 拳銃。

 指。

 もういいだろ。
 力の限りにツルハシと手で掘り下げた穴は結構深くなっていた。
 ビニールシートをはがして奴の体をゆっくりと穴に押し込んだ。狭い分は無
理矢理手足を曲げてなんとか収め、少しづつ土をかぶせて足で踏み固めながら
埋めていく。時折、ざわざわと目の前の桜の木が枝を鳴らし、そのたびに背筋
が凍るように寒くなる。

 終わった、ああ、終わったよ。
 奴を埋めて余った土は地面が見えている場所を見つけて撒いておいたし、埋
めた場所は念入りに踏み固めてならした。ツルハシはそのまま持って帰って後
で処分したほうがいいな。ともあれ、もうここに用はねえ。

 なあ、ミヤイ……結局、お前は何者だったんだよ。

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いじょ

…書いてて気分の悪くなる話だよなぁ(なら書くなよ)


    

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