[KATARIBE 20122] [ICN] :「陽光……無限都市」

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Wed, 12 Jul 2000 07:56:24 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20122] [ICN] :「陽光……無限都市」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200007112256.HAA34340@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 20122

2000年07月12日:07時56分23秒
Sub:[ICN]:「陽光……無限都市」:
From:E.R


こんにちは、E.Rです。
朝っぱらから不健全。
昨日の、無限都市、設定に問題がありましたので書き直しです。
#死んだ日の一日分の記憶は、無くなるらしい<調べてから書け(汗)

*************************************
陽光……無限都市
================

 繰り返し、走ってゆく。
 繰り返し、繰り返し。
 高く嗤いながら、走ってゆく。

 走ってゆく。
 夕日の色の火の車に乗って。

 走ってゆく。
 無限の合わせ鏡の中を。


 タワーの上で、あたしは夕方を迎える。
 そこが一番、空を見上げるのに似合っているからでもあるし、何よりも沈み
かける夕日とその及ばない領域との狭間から、走り来る火の車が良く見えるか
らでもある。

 夕闇がゆるりと落ちかける時刻に、汽笛が鳴る。
 鮮やかな朱金の色の火の車が、真っ直ぐにこちらに駆けてくる。

 引き裂かれるような、それは懐かしい音。

 タワーの上部を掠めるとき、火の車はほんのちょっとだけスピードを落とす。
 その隙に、あたしは車の戸口に手をかけて、乗りこむ。
 があ、と悲鳴を上げたいほどの熱さに、手を離せばその日は負け。どうせそ
のまま屋上に落ち、コンクリートの上で多分西瓜のように……あたしに見える
わけではないけれども……はじけるだけのこと。

 でも、それが上手く行った時には。
 掴んだ瞬間、両の腕からはじまって。
 あたしは……分裂する。
 火の車の中に、転がり込むあたしと。
 ぶざまに、タワーの上へと転がるあたしと。


 あたしはあたし。
 あたしはあなた。
 あなたはあたし。
 あなたはあなた。


 ぽっぽー。
 乗りこんだあたしに、火の車は挨拶する。
 ひどくのどかな声で。

 焼け焦げてゆく指で、あたしは火の車の中を探り、細い糸……いや、針金を
引っ張る。
 きいん、と、ちぎれるような……冷たさに似た熱。
 膝は、すぐに砕けてしまう。

 ぽっぽー。
 挨拶のための汽笛が鳴る。

 細い、金の糸で結ばれる。
 あたしと、あたしと。
 
 ぽっぽー。
 あたしはだから、あたしの為にもう一度汽笛を鳴らす。

 窓の外に顔を出してみる。
 あたしの髪は、赤金色に色を変えながら、ざらりと外の風に揺れる。
 火花のように見えていたなと思うと、あたしは何となく満足する。

 ぽっぽー。

 あたしは多分、やはり間の抜けた顔でタワーの上から、こちらを見ているの
だろう。
 引き千切られるほどに懐かしい、この音を耳に刻みながら。
 ……あたしの目に、あたしはどう映るのだろう?
 あたしの記憶に残るように、映っているのだろうか?
 一つの狂いも無く?

 ぽっぽー。

 髪をかきあげようとした、その指が、焼け焦げ崩れて動かない。

 ぽっぽー。

 陽光はどんどんと滅し、そのまま闇へと堕ちてゆく。

 ぽっぽー。

 空のこちらには、赤錆色の月。

 タワーはもう、見えない。
 向こうのあたしは、今ごろ立ちあがって、走っているのだろう。
 明日の、12時。
 戻ってくるあたしを、殺すために。


 あたしはあたし。
 あたしはあなた。
 あなたはあたし。
 あなたはあなた。

 
 ぽっぽー。
 
 あたしは頭から燃えてゆく。
 明日の、12時。
 戻ってくるあたしを殺すために。


 繰り返し分裂するあたしたちは、その全てが12時にリセットされ生き返る。
 この繰り返しを止めることが既に不可能なくらい、あたしたちは分裂を繰
り返してしてしまった。
 順繰りに殺して殺されて。最後の一人が、血の臭いに反吐を吐くまでに。

 設問:
 どっちが正気に近いでしょう?
 a:無限のあたしが共存する世界
 b:一人のあたしが生き残る世界


 おかしくって、あたしは笑う。
 もう、腹の底から身を震わせて笑う。
 笑える唇が残る間に。

 ぽっぽー。

 多分それは、火の車の笑い声。のどかで、太くて、少しかすれるようで。
 太陽の、その光の名残のように。
 ただ懐かしいのは。
 ただ引き裂かれるほどに懐かしいのは。
 この、汽笛の音。

 
 ぽっぽー。

 笑いながら、落ちてゆく。
 落ちてゆく。暗闇の中へ。
 落ちてゆく。繰り返し繰り返し。
 
 …………尽きることの無い、無間の闇の中へ。


 ここは無限都市。
 繰り返し、あたしたちは生き返る。

 ここは無限都市。
 嗤いながら、あたしは今日も火の車に乗る。


 ぽっぽー。


*******************************************

 というわけで。
 書いてみました。
 ……順調に陰惨極まりないですな(滅)

 ええと、ここで何が起こっているかといいますと。

 1日目:火の車に乗る前の日(まとめて)……あたしA
 2日目:火の車に乗る時に、分裂……あたしA、あたしB
 この時点では、両方とも一日目の記憶を保持しています。
 あたしAは、焼け死にます。
 3日目:あたしAは、前日の記憶を無くして、復活します。
 直後、あたしBに、殺されます。
 あたしBは、1、2日目の記憶を保持したまま、火の車を待ちます。
 火の車に乗った時点で、あたしB、あたしCへと分裂。
 あたしBは焼け死にます。
 4日目:あたしAは1日目の、あたしBは、1、2日目の記憶を持ち、
 戻ります。そしてあたしAはあたしBに、あたしBはあたしCに殺されます。
 あたしCは、1、2、3日目の記憶を保持したまま……(以下略)

 但し、条件として、
「死んでも復活する」
「しかし死んだ日の記憶は抜け落ちる」の二つについては、知らされているもの、と
しておきます。
 #最初の条件が無いと、あたしBが、殺しに走りませんから(苦笑)

 イメージは、「恋は桃色」という歌の中の、一節です。

 であであ。



    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage