[KATARIBE 20060] [HA06P] 『れっつ ふぁらんど〜るっ☆』2

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Date: Sun, 9 Jul 2000 02:48:16 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20060] [HA06P] 『れっつ ふぁらんど〜るっ☆』2 
To: kataribe-ml@trpg.net
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2000年07月09日:02時48分15秒
Sub:[HA06P]『れっつ ふぁらんど〜るっ☆』2:
From:久志


 久志です。
続けてその2行きます。

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エピソード『れっつ ふぁらんど〜るっ☆』編集版その2
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出かける前は忘れずに
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 演奏会当日、午後。

 風見アパート玄関前にはもう本宮が来ている。

 佐古田    :「……(じゃん)」
 本宮     :「あれ? フラナと八神さんは?」
 佐古田    :「……(八神の部屋を親指で指す)」
 本宮     :「了解」

 早めに来て良かった、としみじみ思う本宮である。
 土曜で大学が休みの為、起こさないといつまでも起きてこない。

 本宮     :「あと、佐古田」
 佐古田    :「……?」
 本宮     :「そいつは置いて行け(汗)」

 無論、手にしたギターのことである。

 佐古田    :「…………(ちょっと訴える目)」
 本宮     :「絶対鳴らさないってのはわかるけど、かさばるしうっか
        :り音が出たりしたら困るだろ」
 佐古田    :「………………(小さく頷く)」

 不承不承、ではあるが。

 そのころ、カオスの館こと八神の部屋では。

 フラナ    :「八神さん、起きてよぉ」
 八神     :「んー」
 フラナ    :「公演行くんだよーおーきーてーよー」

 フラナが睡眠魔人と化した食欲魔人と格闘中であった。

 フラナ    :「八神さーーーんってば」
 八神     :「ふわぁ……」
 フラナ    :「演奏会見たら帰りなんか食べようよー」
 八神     :「なに?(がばっ)」

 一瞬である。

 本宮     :「……起きたかな?」
 佐古田    :「(時計確認)………(指二本)」

 二十分続いているらしい。
 ようやっとドアがあいてフラナと八神が顔をだした。

 フラナ    :「あ、もとみーおまたせ(^^)」
 八神     :「ふわぁぁ、悪い、待たせたか?」
 本宮     :「大丈夫ですよ、行きますか」
 八神     :「おう」

 無事、アパートメンツ出発。


ボロ布とチーズで作れます
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 当日。
 二時半、会場裏楽屋。

 璃慧     :「ふうっ」

 璃慧は、軽く練習をしたあと、しばし小休止を取っていた。
 直前と言うこともあり、皆思い思いの行動をとっている。

 楽譜を見て頭を抱えたり、璃慧のように直前に練習をしたり、
 周りの者と雑談をしたり、楽器を磨いていたり、
 椅子に座って休んでいたり、こちらに向かって手を振ったり……あれ?

 璃慧     :「……え?」

 璃慧は目を凝らした。
 オケラ部員の中に混じって、こちらに手を振っている人影が居るのだ。
 壁によりかかり、休んでいるようだ。
 トレーナーとジーンズ、肩からかけたスポーツバッグ。
 真ん中で軽く分けた黒髪、何となくこちらを小馬鹿にしたような目つき……。

 璃慧     :「………………」

 璃慧は黙って立ち上がると、その人影の所につかつかと歩み寄った。
 全く、何でこんな所に……

 璃慧     :「兼沢くんっ!」
 圭人     :「おお、気づいた気づいた」
 璃慧     :「何が、気づいた気づいた、だよっ。
        :なんでこんなところにいるのっ!」
 圭人     :「いや、何となく近くまで来たから、
        :冷やかしに来てやっただけだが」
 璃慧     :「……(じとーっ)」
 圭人     :「どした?」
 璃慧     :「……お前って、ボロ布とチーズを瓶に詰めたら、
        :生まれてくるのか?」
 圭人     :「………俺はネズミか?
        :だいたい、自然発生説はずいぶん前につぶれたろうが」

 悪態に馬鹿正直に受け答えするない(笑)

 璃慧     :「ったく……。
        :ほら、さっさと出た出た」(入り口の方に追い立てる)
 圭人     :「つれねえなあ。ま、後でまた来てやるけど」
 璃慧     :「……チケット持ってない人は
        :入れないんだけどなあ(邪笑)」
 圭人     :(黙って半券を見せる)
 璃慧     :「……」
 圭人     :「他にも何人か来てっから、後で紹介してやるよ」
 璃慧     :「……誰をよ」
 圭人     :「俺ら以外の能力者」
 璃慧     :「……!!」
 圭人     :「ま、うちのがっこの奴と、弟だけどな。それじゃ」
 璃慧     :「…………」
 圭人     :「(振り返る)あ、そうそう」
 璃慧     :「……何?」
 圭人     :「気持ちよく寝れるような曲にしてくれよ」
 璃慧     :「うるさいっ!(げしっ)」

 黒のロングスカートがひらひらと揺れて。
 正装だろうがお構いなしに反射的に動く足。
 何もこんなところでまで漫才をおっぱじめなくてもいいと思うのだが(苦笑)

 璃慧     :「(あははっ)」

 でも。ちょっとだけ、緊張がほぐれた……かもしれない。

 璃慧     :「いいからさっさと出てくっ!」

 圭人は、脱兎のごとく逃げ出した。


葉月の面々、揃いも揃う
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 楽屋の方から、圭人と、もう一人の少年が歩いてくる。
 圭人の相棒、滝川健一である。

 圭人     :「(ぶつぶつ)ったく……、蹴らなくてもいいじゃねえか」
 健一     :「修羅場に入るおまえが悪いと思うがなあ。
        :しかし、あの子たちが……」
 圭人     :「…………」
 健一     :「おまえの命の恩人ってわけか」
 圭人     :「……うるさい(汗)」
 健一     :「後できちんと紹介してくれよ」
 圭人     :「(ぼそっ)下心が見え見えだぞ……」

 ………………

 健一     :「さあ、さっさと席に戻るぞ。
        :岩崎さんに席をキープして貰っているんだから」
 圭人     :「……ごまかしやがったな(苦笑)
        :しっかし意外だよなあ、あいつにクラシック聞く趣味があ
        :るなんてなあ」
 健一     :「……その言葉、後で伝えといてあげるよ……」
 圭人     :「……まて。それは俺に死ねと言ってるのか(汗)」
 健一     :「貸し一な(にやり)……とまあ、冗談はそれくらいに
        :しておいてと」

 ……とてもそう聞こえなかったのは……きっと気のせいだろう(苦笑)

 健一     :「ほらほらもうすぐ始まるぞ。
        :聞き逃したくないから早く行くぞ」
 圭人     :「……気の早いやつ(苦笑)」

 と、軽口を叩きつつも、彼らは席まで戻ってきた。
 そこには、すでに圭人の弟、京が鎮座している。

 京      :「………お帰り(にやにや)」
 圭人     :「………見てたな、お前(汗)」
 京      :「当然(邪笑)」

 ……兄が兄なら弟も弟である。

 圭人     :「……ところで、岩崎の奴は?」
 京      :「トイレだって。そろそろ来るんじゃないの?」
 圭人     :「まあ、居ない方がくつろげるってもんか……」
 岩崎     :「……聞こえてるわよ」
 圭人     :「…………(滝汗)」

 圭人君、口は災いの元って知ってるかい?(笑)


開演前の一幕
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 公演がはじまる少し前。人でそこそこ込み合っている中で、見覚えの
ある顔を見つけた。

 本宮     :「あ、刹那くん」
 刹那     :「あ、こんにちわぁ」

 ゲーム仲間……というかなんというか、よくゲームセンターで二人で
遊んでいる。

 本宮     :「刹那くんもきてたのか」
 刹那     :「知り合いがでてるんでひやかしに(笑)」
 本宮     :「あはは(^^;)」

 笑ってるといきなり背後から小さい何かがぶつかってくる。

 由摩     :「わーい♪(だきっ)」
 本宮     :「おっと、由摩ちゃんもきてたのか(なでなで)」

 公演のチケットが瑞鶴においてあったせいか、結構常連の知り合いの
顔がちらほら見える。

 本宮     :「そういえば、刹那くんも吹利学校っていってたね」
 刹那     :「うん。そうだよ」
 由摩     :「あたしもっ(^^)」
 鏡介     :「もう行かないとお兄さんが心配するよ……」
 由摩     :「はーいっ☆」
 フラナ    :「じゃねー由摩ちゃん(^^)」
 刹那     :「あ、まったね〜」
 由摩     :「まったね〜☆」
 鏡介     :「バイバイ(フフフフフフ)」

 ゆらゆらと去っていく

 フラナ    :「って(もとみーの袖くいくい)知り合い?」
 本宮     :「ああ、ゲーセンでよくセッションやってる刹那くん」
 フラナ    :「よろしくー僕フラナ(^^)」
 刹那     :「よろしくお願いしま〜す」
 フラナ    :「うん、せっちゃんだね(^^)」

 いきなしせっちゃん呼ばわりか(笑)

 刹那     :「あははは(^^;」

 ジリリリリリリリリリ

 刹那     :「あ、開演だ」
 本宮     :「ああ、それじゃまたね」
 刹那     :「はーい」
 フラナ    :「じゃねー(ぶんぶん)」
 佐古田    :「……(ぺこ)」

 足取りを早めて席へと戻っていった。


開演〜小曲(悠の視点)
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≪開演前の一幕≫
 開演の十分前。
 流石に、みんなお喋りをやめて気持ちを切り替えはじめる。
 さっきまで楽屋で何か騒いでいた璃慧も、緊張した面持ちで壁に寄りかかっ
て、楽譜をめくっている。
 何とはなしにそっちを見ていると、ふと目が合って。
 こくん、と首をかしげる璃慧。
 それから、にこっと、笑ってくれた。
 
 そろそろ……ということで。
 みんな、入場の順に楽器を持って、並びはじめた。
 金管、木管、低弦、高弦の順で。
 それぞれ自分のパートのOBさんをつかまえて、上手と下手に分かれて、整
列した。

「ねえ、誰か楽譜知らない?」
「あ、僕も楽譜、持ってきてないんだが(汗)」

 ふと聞こえた会話。
 幕の外……客席のざわめきにもかき消されずに。
 その緊迫した声は、聞こえた。
 どうやら、ヴァイオリンのOBさんの分の楽譜が足りないようで。
 慌てて誰かが外に駆け出していった。

 弦楽器は、管楽器より、人数が命! なところがあるから。
 特に、曲を支えるヴァイオリンともなれば、人数が多すぎて、必要な楽譜の
数を間違えるっってことも、あるんだろうな……

≪開演≫
 そして、開演時刻。
 どうやら騒ぎは収まったらしくて、静かになっていた。
 みんな、できる範囲の準備は完全に済ませている。
 あとは開演を待つばかり。
 コンミスがマイクを持って。放送室のひとがOKサインを送る。

「ただいまより、吹利学校高等部管弦学部の演奏をはじめます」

 コンミスの声が、マイクを通して、電波に乗って、幕の外に流れていく。
 幕の外が、急に静まりかえったのが楽屋からも分かった。

 並んだ順番に、上手と下手から一人ずつ、歩み出ていく。
 最初はトランペットとトロンボーン。
 その次がホルン。

 幕の裏から、一人、また一人とひとが減っていくに連れて。
 緊張がつのる。
 でも、横にたたずんでいるOBさんの落ち着いた横顔を見ていると、不思議
と落ち着けた。
 だいじょうぶ、一人で演奏するわけじゃないんだもの。

 幕の向こうでは、移動に伴うがたがたっという音が、断続的に響いている。
 木箱を組んだステージは若干不安定。
 それに、木箱自体も古いので、きしむところがあるみたい。
 ……こけたり、スカートを引っ掛けたりして、楽譜を落とすな……
 部長の言葉を、ふと思い出す。
 聞いている限りでは、今のところこけたひとは、いないみたい。

「ほら、行くよ」

 そんなことをとりとめもなく考えてたら、OBさんに言われちゃった(汗)
 見ると、チューナーを片手に持ったオーボエの子が歩み出すところだった。

「はいっ」

 一歩、幕の向こうに踏み出して。
 まず視界に入ったのは、予想を遥かに越える数の観客。
 自分の親や、先輩の親などが主だけど。
 そのほかにも、神酒さんや刹那。
 それに、兼澤くん……だっけ、このまえ知り合った人に。
 初めてベーカリーに行ったときに、見た顔の人もいる。

 ……なんで、高校の演奏会に、こんなに人がくるのっ(汗)
 それに、璃慧。
 神酒さんがいるって気付いたら……だいじょうぶかな……
 ……無関係、わたしの思い過ごしかも、しれないけど。

 なんて風に、かたまってる暇はなくて。
 急いで歩いて、自分の席に座った。
 左には、オーボエのファーストの子。
 右には、フルートのセカンドのOBさん。
 前には、続々とヴァイオリンの人たちが滑りこんでくる。
 ちょうど前は、望くん。
 がんばろうねっ、っていう視線、投げて。
 それで逆に、力づけられた。

 全員が座ったところで。
 寂しげなAの音が、ぴぃんと張り詰めた空気の中に、響く。
 442ヘルツの、若干低めの、A。
 それに合わせて、次々と重なる音、音、音。
 Aの。ただ一つの、大切な音の。
 ……洪水。

 芯にしっかりと通っている、オーボエのA。
 その音を洪水の中から拾い上げて、自分の音を、絡める。
 つかず、離れず、絡んで、解けて……
 この瞬間が……一つの音を一緒に創ろうとするこの瞬間が、大好き。
 綺麗に重なって、うねりが消えたところで、音を止めた。
 OBさんはとっくにチューニングが終わってて。
 流石だなぁ……って、思った。

 弦楽器が残りの三本の弦を合わせている間に、楽譜を再確認。
 璃慧と一緒のところ、望くんと一緒のところ。
 二本のフルートであわせなければいけないところ、強弱、など。
 もう、ほとんど頭に入っているけど。
 やっぱり、見ておかないと、心配……

≪美しく青きドナウ≫
 指揮者が入場してきて。
 会場は拍手に包まれた。
 合図に合わせて立って、指揮者がお辞儀したあとの合図で、座る。
 G.P.のとき、指揮者と一緒にお辞儀しちゃった人がいっぱいいたことも。
 そして、自分がその中の一人であったことも、今はなつかしい。

 指揮者の手がすっと持ちあがって、タクトが構えられる。
 『指揮者の楽器』が構えられたのに合わせて、みなそれぞれ楽器を構える。
 一拍置いてタクトが振り下ろされて。
 ヴァイオリンが、優しい、穏やかな刻みを始める。
 まだ、生まれたばかりのドナウ川の源流を、奏でる。
 ホルンが紡ぐメロディと、木管がいれる合いの手は。
 寄せては返す、ドナウ川のさざなみ。

 滔々と流れる、美しく青きドナウ。
 それを構成する中に、自分も含まれているんだという事実だけで、幸せ。

 イントロダクション、第一ワルツ、第二ワルツ……と、ドナウ川は流れて。
 とあるところでは広くなり、また狭くなって。
 いろいろな楽器の音色が重なり合い、響き合い、高らかに歌い上げていく。

 第三ワルツが終わって、第四ワルツに。
 最初の数小節を吹いたあと、楽譜には珍しく休符が踊ってて。
 その間、ふと客席を見ると……

「…………」

 見なれた、バンダナを巻いた頭が、俯いて船を漕いでた。
 璃慧に見つかったら、間違いなく蹴られるんじゃ……
 どうやら刹那は、璃慧に蹴られやすいみたいだし(苦笑)

 とかやっている間に、数小節はあっという間に過ぎて。
 あやうく、メロディとずれるところだった(汗)

 コーダの構成は、今までの回想。
 いくつかの主題が顔を覗かせ、絡み合い、そして……
 ドナウ川は、その源に還る。
 
 還ってきた喜びを。
 忘れないでいたいな……
 吹きながら、ふと、そう思った。

 曲が終わって、一瞬の間。
 そして、拍手。
 ……演奏に対して、みんなで創り上げたものが評価されて、嬉しかった。

≪ファランドール≫
 でも、すぐに。
 指揮者はタクトを振り上げた。
 緊張が途切れないうちに。
 みんなが、弛緩しないうちに。

 みんなが楽器を構えたと見るやいなや、タクトは振り下ろされた。
 二回、軽く振って。合図とばかりに高々と振り上げられる。
 ファランドールの第一主題……プロヴァンス地方の民謡『王の行列』を、
みんなで力強く、荘厳に奏する。
 そのあと、同じ主題が奏でられるところでは、わたしはお休み。
 来たる音階、この曲の題名にもなっているプロヴァンス舞曲のファランドー
ルの旋律。
 それに向けて、指をほぐす。
 璃慧にはここもあって、音階もあるけど……だいじょうぶかな。

『王の行列』の最後のDの音が響いて。それにかぶせるように、タンブーラン
が小さな音で、リズムを取りはじめる。
 四小節後、アウフタクト。
 ……璃慧、がんばろうねっ……
 声には出さないけれど、ちらりと視線を投げて。

 ファランドールの一回目。璃慧と一緒に、主題を紡ぐ。
 運指が難しいけれど、転ぶと、あとに響くから。
 お互い、必死に。
 下で頭打ちをしている望くんが、支えてくれたのかな。
 途中から、OBさんのピッコロも一オクターブ上に重なって。
 
 二回目。オーボエが加わる。
 こうなるとピッコロはともかく、わたしの音は聞こえないけど(苦笑)
 ヴァイオリンは、下で、刻み。
 途中からオーボエが二本に増えて。
 ヴァイオリンの伴奏も、音階を駆け上がるものになった。
 どんどん勢いづいて、激しくなってく、ファランドール。

 三回目。全ての木管と、コントラバスを覗く弦楽器によるファランドールが
奏でられて。激しさも頂点に達する。
 弦楽器があの音階を奏でている様子は、けっこう大変そう……とか思ったり。
弓を小刻みに返して、指を細かく動かして。

 そして。
 調の変わった『王の行列』が、再び奏でられる。
 この最初のニ音は、けっこう強めにしっかりと弾く必要があるらしくて。
 弦楽器奏者は、みんな一音目と二音目の間で、弓を思いっきり引いて戻す。
 望くんも、間に弓を戻して……
 がっ、と弓をわたしの楽譜立てに引っ掛けた。
 何事もなかったかのように続けてたけど……だいじょうぶだったのかな(汗)

 そのあとに交互に出てくる、ファランドールと『王の行列』。
 フルートとピッコロ、オーボエとクラリネットなど、楽器が次々と重なって
いくさまは、作曲者のオーケストレーションの巧みさを、窺わせる。

 最後に、ファランドールと『王の行列』が重なるところ。
 金管組は、ここぞとばかりに爆裂してる(苦笑)
 しかも、なんとなく、速度をあおってるような気がするけど……(汗)
 最後まで、崩壊せずに続きますようにっ(汗)

 全部の楽器の音が混ざり合い、渦巻いて。
 何とか、無事に終わった……
 拍手……今度は長かった。

 客席から待機していたOBさんたちが歩み出てきて。
 指揮者とコンミスに、花束を渡してる。
 二人とも……ううん、四人とも、とっても嬉しそうだった。

 そのまま指揮者は楽屋に引っ込んで。
 そのあとみんなで立ちあがって、入ってきたのとは逆の順番で楽屋に向かう。
 楽屋に早足で去って行ったコンミスの声が、スピーカーから。

「これで、第一部を終わります。休憩は10分です」

 声が響いて。
 しん、と静まりかえっていた客席に、一時的に日常が帰ってきた。
    

楽器と人と〜瑞鶴店長の視点より
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 舞台から数列離れた席に座ってから、あたりを見まわした。
 結構、人が入っている。そのうちのある程度は演奏者達の家族が占めている
のだろうが。
 すうっと、彼の斜め前を横切った人影があった。
 あれは……うちの常連の一人だ。
「あ、こんにちは」
 座ろうとして向こうも気がついたらしい。
「こんにちは」
 成程、と納得する。フラナがまとめて数枚持っていった後、数日経つといつ
のまにか券が消えていたのだが、多分その一枚はこの常連さんが持って行った
のだろう。
 案外……聞きに来る人がいるんだな、と。
 納得してから、苦笑する。
 案外などと言ったら、演奏する面々はさぞ怒ることだろう。

 入り口で手渡されたプログラムを開いて、眺める。
『1:美しく青きドナウ:J.シュトラウス』
『2:ファランドール(「アルルの女(第二組曲)」)ビゼー』
『3:交響曲第36番:リンツ:モーツァルト』

 ちょっと、考える。
 1と2は、これはもうかなり有名な曲なのだが……
3は……どんな曲だったろうか。

 プログラムを開く音。人を探しているらしい声。すみません、と、小さな声。
 その全部が合わさってざわめきになる。世界一流のオーケストラの演奏会で
も、高校の演奏会でも、それはやはり同じようなざわめきだ、と思う。
 日常から、数時間の非日常に移り変わる為の、準備の数分かもしれない。

 ブザーが鳴る。
 幕の後ろから現れる……演奏者達。きゅっと、緊張し切った顔をして。
 タクトが揺れる。
 曲が始まる。
 なかなか……上手い。

 高校くらいの管弦楽の演奏では、時折、管楽器と弦楽器の間に差がある。
 管楽器というのは、大概の場合二桁の年齢になってから習い始める場合が多
いという。これは管楽器を演奏するのには、それくらいの体格が必要だから、
ということらしい。
 それに対して、弦楽器のうちでもヴァイオリンなどは、幼稚園に入る前から
練習を始める人々もいるわけで。
 そういう人が一人いるとこれはかなり目立つ。
 とすると、ヴァイオリンを弾いている彼女も、その類なのだろう。
 背の高い、女生徒。瑞鶴にポスターをはりに来た顔なので覚えがあるのだが、
それ以上に、演奏する姿が目立つ。
 ヴァイオリンが、軽い。
 軽い、というのは変かもしれない。が、弾いている姿が楽器を負担としてい
ない、という印象を受ける。楽器に振りまわされるのではなく、楽器を弾いて
いる、という……

 斜め前の席の頭が、ぴょこん、と起きあがった。
 起きあがるまでは気がつかなかったのだが、どうやら今まで眠っていたらし
い。
 ドナウ……眠くなる曲にも聞こえないのだが。
 中学生か、高校生か……つまりは夜更かし組なのだろう。多分友達が演奏し
ているのだろうが……
 見つかっていたら、あとで怒られるだろうに。
 曲のほうは終盤。フルートの少女がひどく真剣な目をして指揮者を見ていた。


 そして、ファランドール。
 乗りの良い曲だけに、演奏している面々もその勢いに乗っかっているのがわ
かる。金管楽器の面々が特に。
 しかし、やはり目の前に演奏者を見つつ聞くと、曲の難易度……というか、
難しい部分が良く分かる。金管が高らかに音を響かせる合間の、細かい刻みの
繰り返し部分は……これは、多分、演奏している木管楽器の面々にとっては厄
介な部分だろう。テンポが速い上に休みが無い。
 クラリネットを吹いていた小柄な女生徒が、パートの切れ目に、ちょっと顔
をしかめて右手に視線を流し、素早い動きで結んで開いた。
 よほど手が凝ったのかもしれない。

 そして、トリの部分の、全楽器の渦巻くような音。そして最後の三音。
 ぱん、と歯切れ良く最後の音が決まって。

 一瞬沈黙。そして拍手。
 必死だった顔が、ふうっとほころんで。

「これで、第一部を終わります。休憩は10分です」

 アナウンスが流れた。


休憩時間:店長の視点的に
------------------------

 休憩時間、というと、別に何にも無くても、立ちあがりたくなるもので。
 よいしょ、と立ち上がって伸びをしか……けた途端。

 フラナ    :「あー、店長さんだっ」
 店長     :「あ、こんにちは……三人とも(笑)」

 振り返る。
 予想通り……
 フラナ、本宮、佐古田、と、いつもの面々が顔を揃えている。

 店長     :「佐古田君……は、ギター持ってないのか(笑)」
 佐古田    :「…………(憮然)」
 フラナ    :「だって佐古田って、持ってると弾いちゃうから」
 本宮     :「部屋に置いてこさせました(汗)」

 確かに……休憩時間とはいえ、ギターを鳴らされては、舞台の上の演奏者も
戸惑うことだろう。
 と、あと一人、三人の後ろに所在なげに立っているのに店長は気がついた。

 店長     :「っと、こちらは……」
 フラナ    :「あ、八神さん。おんなじアパートに住んでるんだよ」
 店長     :「って……ああ、もしかしたら永久カレーの」
 八神     :「…………何で知ってるんですか(汗)」

 フラナ〜花澄〜店長、の、情報漏洩の図が成り立っているわけである(笑)

 店長     :「いや、失礼。はじめまして。平塚と申します」
 八神     :「はじめまして」

 と……

 ??     :「どーしてっ?!」

 はっきりとした声が背後……この場合、舞台に近い側で聞こえた。
 答える内容は、ざわざわに消されてよくわからないものの、声自体は聞こえ
る。どうやら常連さんの声。
 振り返ると先刻まで舞台にいた小柄な少女がいる。
 何だか勢い良く問い詰められている……そんな印象。

 店長     :「……(ああ、だから来てたんだ)」

 納得する。

 本宮     :「っと…じゃ、これで。あ、券ありがとうございました」
 店長     :「いえ(苦笑)」

 どうやら義理堅いことに、この一言を言いに来たらしい。
 四人がばらばらっと目礼して、後ろのほうの席に戻ってゆく。それを何とな
く目で追って……

 店長     :「………………」

 ふ、と、目につく。
 灰色の人民服に、黒い丸眼鏡……何となくサングラス、という表現よりも時
代がかって見えるのだ……にハンチング。
 派手ではない。が、ちょっと普通でもない服装……のような気がする。

 店長     :「………(まあ……いろんな人が聞きに来るんだな)」

 ざわめきが、ゆっくりと下火になってゆく。
 そして、ブザー。

 アナウンス  :「只今より二部の演奏を始めます」

**********************************************************************
ここまでですね。



    

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