[KATARIBE 20008] [HA06P] エピソード『笹に願いを』

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Date: Wed, 5 Jul 2000 23:19:20 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 20008] [HA06P] エピソード『笹に願いを』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200007051419.XAA50254@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 20008

2000年07月05日:23時19分20秒
Sub:[HA06P]エピソード『笹に願いを』:
From:E.R


 こんにちは、E.R@文明の利器は身に合わない(ぐう)です。
 …七夕めがけてEPです。

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エピソード『笹に願いを』
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登場人物
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 富良名裕也(ふらな・ゆうや):いつも元気な少年……に見える大学生。
               :瑞鶴の猫の餌係。
 瑞鶴の猫(ずいかくのねこ):書店瑞鶴に陣取る猫。不必要に態度がでかい。

本文
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 某日、某夜。
 …というか……七夕の夜。

 瑞鶴の猫   :「…………(ごろごろ)」

 雨が上がって、日が照って。
 夜は多少、それでも過ごしやすい。
 寝るには丁度良い……とばかりに、前足に顎を乗っけたときに。

 SE     :とててててっ
 瑞鶴の猫   :「…………(おや)」

 くい、と頭をもたげて見やる。
 元気良く駆け寄ってくるのは、すっかり餌係、のフラナである。
 さわさわと、音を立てながら。

 フラナ    :「えへへ、もらってきちゃったー(^^)」
 瑞鶴の猫   :「………(ふすん)」

 瑞鶴の軒下に置いても、不便でない程度の長さの笹。

 瑞鶴の猫   :「…………(そう言えばそういう時期だったかねえ)」

 確か去年は、瑞鶴の店長が笹を用意したものだ。
 その前の年も、そのもっと前の年も。
 フラナの持ってきた笹には、既に短冊が数枚ゆれている。

 フラナ    :「ちゃんと、いつか帰ってきますようにって書いておいた
        :よー」
 瑞鶴の猫   :「…………」

 誰が、の部分は見事に抜けている。
 抜けていても通じる……のは、確かにこの一人と一匹だからでは、ある。
 見ているうちにフラナは、瑞鶴のシャッターの横の排水のパイプに、くりく
りと笹をくくりつけた。
 笹は、さわさわと揺れている。
 一緒に短冊も、頼りなく揺れている。

 フラナ    :「(^^)♪」
 瑞鶴の猫   :「…………(へちゃん)」

 例えばそれは、幾つかの記憶。

『息災でねー、この駄猫』
 こちらの気分を呑みこんでか、手を触れることも無かった相手が、最初で最
後、ぽん、と頭を叩いた古い記憶。
 彼女は帰ってこなかった。
『……まー、お前ならちゃんと鼠も取れる、猫も取れる、餌も取れるな』
『…………猫取ってどうするの、お兄ちゃん』
 他愛の無い掛け合いの最後に、じゃあ、と、やはりこちらの頭を軽く叩いて
いった兄妹。

 傍若無人に生きている。
 ちょっと寂しさが身に染みることもあるけれど。

 瑞鶴の猫   :「…………(あーゆーのだからねえ、帰るかねえ……)」

 それもまた、傍若無人であることの証拠であるから。
 傍らでフラナが、口ずさんでいる。
 七夕の歌。

 フラナ    :「……どーしたの?」
 瑞鶴の猫   :「……なう(どーもせんよ)」
 フラナ    :「んーと……あ、今日はちくわだよっ(^^)」
 瑞鶴の猫   :「…………なう(ああ、ありがとね)」

 星は静かにほろほろとこぼれる。
 笹の葉が風に沿って微かな音をこぼす。
 七夕の宵の風景である。


時系列
------
 2000年7月7日

解説
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 瑞鶴が閉店して3ヶ月頃の風景です。
 
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20000705作成

 ……ええのんか、まだ七夕晴れるとは決まってないのに(爆)
 己的には、こういう場合歌いたいのは、
 宮沢賢治さんの「星めぐりのうた」なんですが(^^;;

 瑞鶴の猫は、撫でられる猫ではないですね。
 確固として単独で。
 さみしいのは気楽の逆だから仕方が無いな、と放り出す性質。

 ちなみに一応、ぽこんと頭を叩いたのは、先代店長の鬼海沙都子さんです。
 多分、非常時(=お客さんへの進路妨害)以外、猫に手も触れなかったろうな、と。
 そんでも猫はいついていたし、沙都子も適当に餌やってたろうし。
 そういう人であり、そういう猫なのだなと。

 であであ。



    

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