[KATARIBE 19960] [WP01N] 『目覚めの日』中編

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Date: Sun, 2 Jul 2000 01:30:43 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19960] [WP01N] 『目覚めの日』中編 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200007011630.BAA48240@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 19960

2000年07月02日:01時30分43秒
Sub:[WP01N]『目覚めの日』中編 :
From:久志


 久志です。
トシヤ覚醒編、中編です。

あー戦闘なんてかけねへよぅ!(がぁ)

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『目覚めの日』中編
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変心
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 あたりには俺以外誰もいない、それどころか気配も何処かに人がいるという
ことも感じさせない世界。なぜそんな世界が存在するかわからないが、俺には
はっきりとわかった。

 そして、奴が俺に殺意を抱いていることも。

「……わからねえんだよ、トシ」
「何がだよ、わからねえのはこっちの方だ!」
「ああ、そうだろな」

 ゆっくりと奴が懐に手を入れる、思わず俺は後ずさった。
 その手には……

「ミヤイ……正気かよ?!」
「自信はねえな」

 奴の手に握られていたのは一本の飛び出しナイフだった。今まで奴がケンカ
をしている所は何度となく見たことがあるが、奴がエモノを持った所はいまま
で見たことがなかった。
 一瞬、言葉を失ったオレめがけて、奴は一気に距離を詰めてきた。ナイフは
真っ直ぐにオレを狙っていた。

「トシヤ!」
 奴の顔に歪んだ笑みが浮かんでいる、俺を殺そうという混じりけのない意志
と歓喜、紛れもなく本気だった。
 瞼の奥に血の海のイメージが浮かび、はじけた。

「ちっ」

 舌打ち、奴が一旦離れていく。バケツでぶちまけたようにあたり構わず飛び
散った血が、俺の体奴の体を問わずべったりと染みついている。反射的に心の
底で渦巻いてる血のイメージをそのまま叩き付けていたみたいだ。

 俺の具現した返り血で既に血まみれになったナイフを構えなおし、舐めるよ
うに俺をじっと見た。

「へっ、これがガキどもが騒いでいるトシヤ様の血か、おい?」
「くっ……」
「笑っちまうな……こんな子供だましで、テメエのことを世紀末の救世主だな
どと信じこんじまうんだもんな。いい御身分だよな」
「うるせえ!」

「……化け物はテメエだけじゃねえんだぜ」
「なんの事だ?!」

 口元を歪めて、奴が奇妙な笑みを浮かべ、ナイフを投げ捨て両手を広げた。
胸部が、波打つように不気味に動きはじめた。

「知らなかったよな?オレも同類なんだぜ」

 冷水を浴びせられたような根拠のない恐怖感。

 みしり、と、おもわず耳を塞ぎたくなるような音が響いた。
 ゆっくりと、奴の胸がコブのように盛りあがり膨らんでいく、押しあげられ
たシャツの胸からボタンがはじけとんだ。

 まるで、趣味の悪いB級映画の光景のようだった

 奴の胸から、無数の節くれだった指が生えていた。

 それは夜の街灯に照らされ、関節のこすれるような耳障りな音をたてて俺の
目の前で不気味のうごめいている。三十センチはある指それぞれに鋭い鉤爪が
伸びて、俺の方へと向けられていた。

「う……」
「そんなに薄気味悪いか、俺が?」

 ゆらりと、長い鉤爪を動かす。広げられた無数の指が波打つように揺れた。

「……死ね」

 ゆっくりとしなった指が、一瞬後、真っ直ぐに俺の方へと一斉に伸びた。
 奴は笑っていた。


 ああ、同じ顔だ。
 昔、こいつと同じ顔で俺をいたぶった奴がいた。
 左手の小指が無かった父。どんな顔をしていたかも忘れてしまったが、それ
だけは覚えている。
 腕を振り上げる……父、殴り飛ばされうずくまった俺。


 それは正確に具現した。

「なっ!」

 俺の目の前で、鉤爪で滅多刺しになった、父。そのまま、血を吐いて崩れ落
ち、闇に溶けるように消えた。

「テメエもただの水芸野郎じゃねえってことか……」
「……」

 答えられなかった、こんな具現を行ったのは始めてだった。血のイメージく
らいならば自分の意志で具現できる。だが、なんでも具現できるわけではない。
さっきのは賭けだった。

「……本当に、狂っちまったのかよ。ミヤイ?」
「さてね、狂ったか狂ってねえかなんざ、オレが決められることでも、テメエ
が決められることでもねえだろ」
「けどっ、今のお前は明らかに今までのお前と違うだろう!」
「ああ、そうだな。けど、今の俺には水が飲みたいとか、腹が減ったとか、そ
んなこと変らないことのように自然なことなんだよ」

「テメエを殺してえと思うことがな!」

「何故だ!」
「知らねえな。言ったろ、殺意ってのははどうしようもねえんだよ。オレの中
で何かがテメエを殺せって叫んでんだよ。だったら……殺るしかねえだろ?」

 俺はまだ迷っていた。
 逃げるか、応戦するか。
 その一瞬の躊躇を奴は逃しはしなかった。

 二度目。
 無数に広がった指が四方から切り付けてくる。虚をつかれ、逃げることもで
きず、両手で顔をかばうのが精一杯だった。何かが手に引っかかるような感触
を残し、地面に転がった。

 どこを切られたのかはわからない。
 ただ、火がついたような痛みが全身を襲った。

「うぐっ……」

 すぐ目の前、小さな血溜まりの中に芋虫のように転がった指があった。

 左手の小指が、根元から無くなっていた。

「うわあああああああああああああああっ!」


指
---

 それは、昔から俺の意識の底にあったものなのか、今奴に植えつけられたも
のなのか、わからなかった。
 あたり一面に、それは具現していた。

「……なっ、なんだ」

 奴のことを考えている余裕はなかった。
 俺の目の前に、白っぽいものが蠢いている。一本、一本、小さいものやら大
きいものやら色の濃いもの薄いものやら一貫性のないものばかりだった。

 無数の指が蠢いていた。
 ただの指でなくその指の一本一本に縦に裂けた口があり、関節をひくつかせ
ながら虫のようにじわじわと動いている。

「これは……」

 奴の声に反応したように、現れた指が一斉に奴へと飛びかかった。腕に足に
体へと蛆がたかるように手当たり次第に皮膚を食いちぎり、噴出した血で赤く
染まっていった。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ」

 吐き気。
 傷の痛みよりも、食まれる奴の姿に。

 悲鳴がだんだん弱まっていく。
 血溜まりがどんどん広がっていく。
 奴の動きがじょじょに遅くなっていく。

「あああああぁぁぁ…………あ……あ…………」

 奴は動かなくなった。


 自分でも、不思議なほど冷静だった。
 傷をなんとかしないといけない。左手が麻痺したように動かないので、右手
を口をつかってなんとか傷口を縛る。血は止まっていなかったが、止血をしよ
うにも指の付け根から切断されているので手首ごと縛ってなんとか抑える。

 なぜ、そんなに落ちついていられるのかはわからない。
 あまりにも想像を超えた事が起こりすぎて、自分の感覚すべてが麻痺してい
るような気がした。

 奴が人殺しの片棒を担いでいたこと。
 奴が俺を殺そうとしたこと。
 奴も俺と同じ普通でないものだったこと。

 俺の指を

 奴が

 無数の指が

 奴を

 あの指は俺の意思だったのか?

 俺が殺したのか?

 俺が奴を殺したのか?


「ぐ……」

 かすかにうめき声が聞こえた。
 まだ生きている?

「あ……」

 まだ、奴は助かるかもしれない。
 だが……

 左手の痛みよりも、奴との思い出よりも
 恐怖が勝った。

「がっ……」

 仰向けに倒れた奴にのしかかり、両手で奴の首を絞めた。
 左手に力が入らない分、親指に力を込める。

 奴は完全に動かなくなった。

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続く

 まだ続くのかよぉ……くらいよぅ



    

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