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Date: Fri, 30 Jun 2000 16:45:47 +0900 (JST)
From: 勇魚 <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19946] Re: [HA06P] エピソード『夏支度』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200006300745.QAA88864@www.mahoroba.ne.jp>
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X-Mail-Count: 19946
2000年06月30日:16時45分47秒
Sub:Re: [HA06P] エピソード『夏支度』 :
From:勇魚
こんにちは、勇魚です。
ソードさん、こんにちは。
口調修正、ありがとうございました。
いやなんだかもう、すっかり感覚が鈍っていて……
大変失礼をいたしました。
というわけで、修正版。
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『夏支度』
香草屋の扉には、本日休業の札が揺れている。
ドア・ベルを硝子のものに取り替える。ひと夏かぎりで欠けて、店先を通過してゆく
小さな細工物。
ドアが揺れるたびに、すきとおったベルは、ちりりと、小さく、鋭く、歌う。
ユラ :「美都さん、次の棚、雑巾かけといて。
乾いたら、新しい布、かけるから」
美都 :「この緑のですか?色、きつくありません?」
ユラ :「……そーうかなぁ……夏だし……」
美都 :「夏だから、ですってば。ユラさんにまかせといたら、店中
ジャングルになっちゃう」
ユラ :「いや、そういうテーマで内装準備したんだけど……」
美都 :「……だから……その趣味はまずいって、
直紀さん言ってましたよっ」
ユラ :「……ああ、直紀さんが……ねぇ」
首を竦めた。
二人で通っているダンススタジオの夏の舞台で一緒に踊ることになっている。
振り付けと、衣装までユラが作ることになった。
そうしたら。
ユラの服の趣味は、もとから衣装じみている。……らしい。
自分ひとりぶんなら責任の行き着く先は結局我が身なのだけれど。
ユラ :「衣装で懲りられちゃったかな。
直紀さんには……さんざん泣きつかれたからなぁ。
もうちょっと穏便にならないのかとかなんとか」
美都 :「何、やったんですか?」
ユラ :「布、7m分繋いで、身体に巻き付けながら衣装に作っていく、って
云っただけなんだけど」
美都 :「それって……動けなくなるんじゃ……」
ユラ :「だから、薄くて軽いのを、こう、ふわふわっと」
内装用に買って、たたんで重ねてあった麻のネットをひょいと取り上げ、くるくると
美都の肩に着せかける。編み込まれた貝殻が触れて、水音を真似る。
美都 :「……やっぱりうごけないです……」
ユラ :「ううん、やっぱりダメなのかぁ、なんとかならないかなぁ」
店先には白と生成りと青と貝殻で海風を呼ぶ。
カウンターとテーブルには白い砂とテーブル椰子。
硝子の石をいくつも沈めた硝子の花瓶には、明日朝一番に隣から届く花を差す。
貝殻を編み込んだカーテンの影が落ちる棚には、夏のお茶を詰め込んだガラスの壺。
窓の下で揺れる、繁り過ぎた苗。
ユラ :「…そろそろ梅雨も終わりが見えていい頃だから」
美都 :「……もう」
カーテンの残りを肩から外し、呆れたように美都は笑った。
店の奥、「漢方相談承ります」の札の立った小机の周りだけが、見事に東南アジアの
湿気と熱気を孕んだ色の中に埋もれているのだ。
美都 :「……いくらなんでも……」
ユラ :「だって、最近の漢方屋のほうに来るお客さん、今までの内装だと
入りにくいって文句ばっかり」
美都 :「入りにくい人は裏の階段から直接二階に来てもらうって……」
ユラ :「不用心だもの、あなたが」
あのひとたちに二階の出入り自由にさせておいたら、本当に怪しい奴が来た時に、
外から見てる人、誰も怪しいと思わないじゃない。
……ずいぶんな言い様では、あるけれど。ね。
美都 :「でも、そんな……」
ユラ :「あたしが、嫌なの。……恐いのよ、本当に」
一瞬だけ、笑顔が冷えた。
ユラ :「でもね、これ」
濃密な緑を指差す。
ユラ :「あたし、けっこう気に入ってるんだけど」
美都 :「あの……(ごめん……は、言っちゃだめなんだっけ……)」
ひと呼吸。
冗談でも、気休めでもないらしい。
美都 :「ユラさん……お茶にしましょうか」
溜息。
深呼吸。
午後の日射しがとりあえず夏姿の店内を鮮やかに縁取っている。
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というあたりで。
ではまた。
from 勇魚