[KATARIBE 19892] [HA06N] 小説『絆』

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Date: Wed, 28 Jun 2000 23:30:14 +0900
From: 瑠璃夢 <lurimu@geocities.co.jp>
Subject: [KATARIBE 19892] [HA06N] 小説『絆』
To: kataribe-ml@trpg.net
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 こんばんは、瑠璃夢です。

 ……8ヶ月越しの小説(爆死) 最初から書き直したんで原形とどめてませ
んが.


 しっかし、やっぱり暗いとゆーか重いとゆーか(^^;


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小説『絆』
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二つの『嘘』
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「あたしが……水瀬璃慧と言う人間が、存在するなんてっ! 『嘘』っ!!」

 気が付いた時には叫んでいた。
 あの時、何を思っていたか。実のところよく覚えてはいない。他人から見れ
ば至極些細なことだったのだろうと思う。
 ただ。疲れていた。動けないほどに。
 嫌になっていた。周りが。自分自身が。この世界が。


 アタシガミナセアキエトイウニンゲンガソンザイスルナンテ。ウソ。
 うそ。ウソ。嘘……

 頭が割れるように痛い。意識が逆流していくような感覚。今まで異能を使っ
ても、こんなことなかったのに。
 自分の中で、二つの相容れないものが反発しあっているように感じられる。

 ――相容れないもの?
 確かに。あたしは自らの存在を否定した。自らの、力で。
 ――何が、相容れない?
 あたしは死を望んでいる。……その、はず。
 ――では、なぜ……?

 ――死と相容れないもの?
 ――――……生?
 ――――――あたしは、生きることを望んでいるの?


              生きる、ことを?
               あたしが?
               のぞむ……??


「……っ!! ぁぁぁああああっ!!」

 遠くの方。遠く遠くの方で聞こえたような叫び声。
 後で聞いたところによると、あたしのものだったらしい。

   あたし、は……

 徐々に、意識が弱まっていく。存在が、希薄になっていく。
 それをはっきりと感じながらも、何かを考えつづけていた。
 馬鹿馬鹿しい。そう思う。
 考え続けることに疲れて、自らの存在を消そうとしたのに。
 もう、考えたくないはずなのに。考える必要もないはずなのに。

   あたしは…………

 どうしたいかなんて。
 今更考えてどうするというのだろう。
 あたしは、死を望み、選んだ。異能をつかってまで。
 どうして、こんな時に限って。思うように力を使えない?
 どうして。死なせてくれない?

   あたしは……
   ……生き、たい…………、の?

 たった数秒の時が、数刻のようにさえ感じられた。
 後になって思い返してみると、それは。結論にたどり着くのを、無意識のう
ちに恐れていたからかもしれない。


「……違う……。……『嘘』なんかじゃないっ!」

 飛び込んでくる。意識に。耳慣れない声。でも。暖かい。


       『嘘』なんかじゃない
             『嘘』なんかじゃない
                  『嘘』なんかじゃない


 こだまする。頭の中で。
 二つの『嘘』。絡みあって……

   …………
   ……生きたいっ!!

 その時、全身に走った感情を。あたしは今だ、表す術を持てずにいる。
 不思議な、ものだった。喜びでもあり悲しみでもある。希望でもあり絶望で
もある。そんな、不思議な。


               生きたいっ!!

               この想いは……
            『嘘』なんかじゃないっ!


 柔らかな光の中で。あたしは、再び生きている自分を感じた。


生まれた絆
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「大丈夫……ですか……?」
 ゆっくりと目を開けると。淡い栗毛の髪が印象的だった。どこかで見たよう
な……。
 ぼやけていた輪郭が、徐々にはっきりしていく。それと同時に、記憶もはっ
きりしていく。
「白月さん……だっけ?」
 その淡い栗毛と。どこか淋しそうな瞳は、印象に残っていた。クラスメート
のはず。
「ええ。水瀬さん、ですよね?」
 こくん、と肯定の頷き。それを見た彼女は、微笑を返してきた。よかった、
そう言っているように思う。
 正直、意外だった。いつも、どこか辛そうな表情だったから。笑えるんだな、
って。笑うと可愛いいのに、って。自殺をはかったばかりだというのに、こん
なのん気なこと考えている自分に、思わず苦笑する。
「あ、じゃ、これで……」
 理由や事情なんかを聞く気は、最初からないらしい。少し安堵。せっかく落
ち着いたのだから、いろいろいじりまわされたくはなかったし、ほとんど初対
面のような人に愚痴ばかり言うのも気が引けたし。
 そこらへんのことも、分かってくれているのかもしれない。……
「待ってっ!」
 足早に去ろうとする背を見て、思わず少し声を大きくする。その背は、一瞬
びくっとしたけれど、すぐに微笑みと共に振り返った。
「……何ですか?」
「……」
 色々言うべきことはあったけれど。上手く言葉にならない。
 あたしは、彼女の瞳を見据えた。綺麗な、色だった。彼女はちょっと首を傾
げて見せたものの、あたしが口を開くのを待っていてくれた。
「……ごめんなさい。それと、ありがとう。本当に……」
 ようやく紡げたのは、たったこれだけの。平凡な言葉。
 彼女は、小さく首を横に振った。
「でも、もう……」
 小さな消えゆく声の言わんとしたことは、十分理解できた。
「うん。分かってる……」
 もう二度と。死ぬ気などない。自分が生きたがっていることを、知ったから。
痛感したから。
「ごめん……」
 弱く、つぶやいて。居られずにあたしは俯いた。と、彼女は静かにベンチの
隣に腰掛けてきた。
 そうして、しばらくの沈黙が流れて。ふっと、隣にいた悠が、立ち上がって
空を見上げているのが感じられた。どことなくつられて、あたしも顔を上げる。
 星が、綺麗だった。月の光が、優しかった。
「……きれい、だね」
 ちょっと無理やりだけれど。笑って見せた。そうしなきゃいけないような、
そんな気がしたから。
「……うん……」
 小さな声。その後、隣から伸びてきた手がゆっくりと肩に触れるのを感じた。
すこし小さな。でも、暖かな手。
 あたしの肩にその掌が触れた途端、それはぼんやりと輝いた。そのはず。そ
れと同時に、彼女の意識がぼんやりと流れ込んできたような気がした。
 その時は至極当然のこととして受け止めていたけれど、今考えてみると。あ
れは、暴走したあたしの異能の、後遺症だったのかもしれない。それとも、発
現した悠の異能が、暴走だったのか……。もっともこのことは、悠には内緒の
ままだけれど。


  この人、私と同じ?
  生真面目すぎる……人? 生きることに。

  力に、なれたら……
  自分の、為に。
  生きる意味、見つかるかもしれない……


 気が付くと。心なしか辛さや疲労が、軽くなっている気がした。はっと、後
ろを振り返ると。少し痛々しい様子で。それでも穏やかに笑ってみせる悠がい
た。わずかに首を傾げたあたしに、彼女は小さく頷いて見せた。
 その時、あたしは直感した。彼女があたしを癒してくれたこと……いや、痛
みを受け取ってくれたことを。
 それまでは、隠れていたのに。そのときになってようやく。一筋の涙が、あ
たしの頬を伝っていった。そして、あたしはようやく自然に笑うことが出来た。


 その後、しばらくして。あたしたちは、昔から友人だったのかのように、一
緒に帰っていった。「友達になろう」、そんな淋しい言葉なんかなくても、お
互い。大切な人となっていた。


 絆は、消えない。傷跡と共に、いつまでも……


登場人物
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水瀬璃慧(みなせ・あきえ):
    :嘘という言葉を操る言霊使いの少女。
    :小説家志望の優等生。生真面目すぎる部分あり。

白月悠(しらつき・はるか)
    :人間嫌いになってしまうほど、優しくて繊細。


解説
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 時がどれだけ流れ去ろうとも。
 忘れることの出来ない、心の傷跡……

 水瀬璃慧と白月悠が親友になるきっかけのお話です。
 また、悠の異能覚醒の話でもあります。
 この件により、璃慧はその異能に大きな制限を持つようになりました。

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 いじょ。

 それでは〜(ひるりら)



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瑠璃夢(Lurimu):
lurimu@geocities.co.jp

翼ひろげて 〜夢幻界への誘い:
http://www.geocities.co.jp/Bookend/1229/

  "If you can dream, you can do it!"
    

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