[KATARIBE 19874] [WP01N] 『目覚めの日』前編

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Date: Tue, 27 Jun 2000 14:45:36 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19874] [WP01N] 『目覚めの日』前編 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200006270545.OAA49054@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 19874

2000年06月27日:14時45分36秒
Sub:[WP01N]『目覚めの日』前編:
From:久志


 久志です。
話につまったので流してしまおうそうしよう
覚醒したトシヤと友人の話、一応前編です。

覚醒についての描写云々及び解釈にはツッコミどころ満載だと思うんで。
修正お願いします(^^;)

やはり覚醒がわからん(^^;)

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『目覚めの日』前編
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非合法
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 そいつを俺にすすめたのは奴だった。奴はいたく気に入ってたらしく、常に
胸ポケットの中にはいつも数本入っていた。すっと胸のすくような匂いのする
ハッパだった。仲間うちでもそれをやっているのは奴だけで、あの匂いを嗅ぐ
たびに奴のどこかラリった横っ面を思い出した。

「お前もリフレッシュにどうだ?結構いいぜ」
「ほどほどにしとけよミヤイ。あいにくオレはそっち系には興味ねえ」
「そういうなよ、こんなんヨソじゃみんな合法だぜ?堅すぎんだよ日本はよ」
「だったらとっととどこへでも永住しちまえ」
「冷てえな」

 少し汚れたマルボロの箱の中に明らかに本来のものと違う雑に巻かれたハッ
パが詰まっている。もちろんフィルターもなにもないそのままでだ。一本火が
つくと奴はぼんやりと天井を見上げた。ぼんやりと煙が立ち上りかすかにつん
とした香りが鼻をかすめた。

 奴の家庭のことは知らない。ただ、奴の家はそういう関連に関わっていて、
ヨソの知り合い連中からハッパやらなにやらいろんなモンを安く買い上げてる
ことまでは知っている。もともとオレ達は互いのことをあまり話題にしなかっ
たし、別にわざわざ聞くほどのこともなかった。
 オレらが知り合ったのは、オレが中学に入ってろくに学校にも行かずふらふ
らしていた頃だった。奴は奴で高校フケでほっつき歩いて、オレよく顔を合わ
せるうちになんとなく一緒に行動するようになり、それから二人でつるむよう
になった。

 奴のどこと気があったのかはよくわからない、双方とくに何かしゃべるでも
なく、一緒にいても奴はハッパをふかして、オレは黙っているだけだった。
ただ、そうしていて悪い気はしない、それだけだった。

「なあ、トシ」
「なんだよ」
「めんどくせえな」
「何が?」
「今の生活」
「じゃ死ねよ」
「そりゃねえだろ」
「めんどくさいもんなら続けたくねえだろ」
「ちぇ…」

 はじまってはすぐに途切れる会話。いつも奴の脈絡のない言葉からはじまっ
てオレのそっけない言葉で終わる。

「なあ、トシ」
「今度はなんだよ」
「あの話、考えてくれたか?」
「ああ、バンドの……」

 オレはハッパだのなんだのには興味はなかったが、奴の口添えで参加したバ
ンドはわりと気にいっていた。

「曲、お前もっかい作ってみねえか?……前回の曲は結構評判よかったぜ?」
「買いかぶんなよ」
「世辞じゃねえよ。なんつーか、俺が気に入ってんだよ。こー行き場のねえ奴
に似合いでな、聞いてて結構いい感じだった」
「へっ……ま、考えとくさ」

 淡々とぶつぎりで続く会話。黙ってる時間の方がよほど長い。でも、そんな
会話でも奴もオレも気にならなかった。この時はオレも奴も自分の素のままで
いただけなのかもしれない。

 だから、俺は誤解していたのかもしれない。
 俺と奴とは親友だと。


別人の顔
--------

 あの日の出来事は、オレが考え無しだったのか、奴が道を踏み外したのか、
あるいは両方だったんだろう。

「トシ。今日暇か?」
「あ?」
「……ちっと頼みあんだけど」
「なんだよ、ハッパ売りならシゲルか遊佐に言えよ。オレは遠慮しとくぜ」
「そうじゃねえよ、ちっと人に渡すもんがあってよ。受け取りに立ち会って欲
しいんだよ、一人だとなめられるからな」
「……ヤバイもんじゃねえだろな」
「適度な刺激がある生活のほうが心にも体にもいいんだぜ」
「けっ、ヘリクツ並べやがって」

 どうせ奴が扱うものだと、オレはタカをくくってた。せいぜい非合法のハッ
パくらいだと思っていた。その時は……

 待ち合わせの場所は、駅からだいぶ歩いた所にある古びたビルだった。今で
は借り手もおらず、ほとんど使われてない所だという。奴に連れられるまま、
非常口から入り、二階へと登っていった。

「よお、待たせたな」

 ドアの開け放たれた一室に一人の男が黙って立っていた。枯れかけたような
憔悴しきった顔にどす黒い何かを奥に潜ませた不気味な目をした男だった。

「品物は?」
「ご覧のとおり」

 奴は右手に下げた紙袋を高く上げてみせた。俺も何かは知らない、ただ奴の
様子から中にはそこそこ重量のあるシロモノらしかった。

「あらためさせてもらうぞ」
「先に金よこしな」
「わかった」

 ロングコートの内ポケットに手を入れ、茶封筒を渡す。

 紙袋を受取って袋の中身を引っ張り出した、がさがさと包まれた新聞紙をは
がしていく。

 それは

 本物の

 拳銃だった。

「……!」

 声が出なかった。奴は当たり前のように金を確認し懐にしまい、男の方は拳
銃をそっとカバンにしまいこんだ。

「確かに」
「ま、丁重に使ってくれや」
「わかった、じゃあな」
「二度と会わないことを祈るぜ」

 男は静かに階段の向こうに消えていった。


 ハッパとか睡眠薬とか、奴がそういうものを売っている事を知ってはいた。

 だが。
 いくらなんでもこれはやりすぎだ。

「帰るぜ、トシ」
「おい、今の!」
「なんだよ」
「やりすぎじゃねえか?あんなモン……」
「やっこさん、どうしても殺してえ奴がいるんだとよ」
「それは……」

 純粋に殺すための道具。

「ふざけんな、俺は殺しの片棒を担ぐ気なんざねえ!」
「おいおい、ナニ言ってやがんだ、俺は売っただけだぜ?アレで人を殺したっ
てそれは奴個人の罪だろ?」
「そ……」

 誰が何をしようと人の勝手だ。だが、人を殺そうとすると知ってて殺しの道
具を売る、となると話がまるで違う。

「まあ、付合わせちまった礼にいいモン食おうぜ?いいだろ」
「………」

 封筒を仕舞い込んだ懐を軽くたたいて奴は薄ら笑いを浮かべた。売りの現場
に付き合ったことイコール共犯者、それを見越しているかのような顔だった。
今までこいつと関わってきてはじめて見た顔だった。

 こいつは、俺の……親友ではなかったのか?

 腹の底がどんどん冷えていく、目の前に立っている男がまるで別人のような
笑みを浮かべて俺を見ている。

 こんなに危険な男だったのか?
 いや。こいつと知り合って数年、俺はずっと奴の違う顔を見ようとしなかっ
たし、奴も俺に必要以上干渉しなかった。逆に、俺も逆に俺も奴に自分の事を
何も言わなかったし、俺も奴に深入りしなかった。

 つまるところ、俺と奴は親友でもなんでもなかったのだ。

「行こうぜ」

 とん、と奴が俺の背中を叩いた。
 俺は気の抜けたように奴の後について歩くだけだった。


闇夜に響く
----------

 ビルの合間から月が見える。
 もう深夜二時を過ぎて、街の明かりもほとんど消えている。飲み屋を出てか
ら、酔い覚ましに奴とアジトへの近道を歩いていた。
 奴はいつになく上機嫌でいつものハッパをふかしながら軽い足取りで歩いて
いた。

「なかなか悪くねえ稼ぎだよな」
「……」
「ま、アレはちっと扱いが厄介だがな、ハッパなんかよりよっぽど実入りがい
いぜ」

 こいつは誰だろうな?
 見慣れた奴の面を見ながら、ぼんやりと考えていた。
 こんな奴じゃなかった、とどこかで思っている反面、どれほどこいつの顔を
知ってたのか、と言われたら多分何も言えなかっただろう。

「……気にならねえのか?」
「何がよ」
「あの男、アレで人殺してるかもしんねえぜ?」
「ああ、だから売った」

 こともなげに、奴は言った。
 ずきり、となぜか左手の小指が痛んだ。いつもの癖でつい手を口元に寄せよ
うとして、思わず握り締めた。

「殺してえ奴がいる、とあの男は言った。俺はそれがマジだとわかった、俺は
アレが手に入る立場だったからな、売って欲しいといわれてすぐに用意した」
「何故だ!」
「殺してえって言ったんだぜ?」
「なら、尚更」
「神さんに懺悔して、汝隣人を愛せとでも言う気か?」
「……」

 言えるわけはないのだろう。殺す理由は殺す奴にしか分からない。

「まあ、俺のポリシーだな。殺したい奴がいねえ奴には売らねえ、殺す気があ
る奴なら小学生にでも売ってやるぜ」
「お前……」

 しかし、そういった奴の目は真剣だった。何かを言ってやりたい気がしたが
言葉が何も出てこない。

「トシ、殺意ってのははどうしようもねーんだよ。それがマジならマジな程。
殺してえと本気で思ったら、それはオレらにはどうしようもねえんだよ」
「……じゃあ、どうしてお前はアレを売るんだ?」

「わかんねえな……なんていうか、最近変なんだよな、オレが」

 立ち止まった奴の顔がじっと俺を捕えた。ずきり、とさっきの左小指の痛み
がまた襲ってくる。

「何が変なんだよ」

 痛む小指を押さえ、急に様子がおかしくなった奴の顔を見た。
 一瞬、奴の顔が奇妙に歪んだ。

「……オレも殺してえからかもしれねえな」

 と、同時に左小指が燃えるように熱くなった。耳の奥で何かがはじけるよう
な音がする。まるで薄幕をかぶせるように、あたりの風景が外見を変えず異質
なものに変っていく、直感的にそれが俺達だけの領域だということを理解した。

「テメエを、殺してえ」

 悪夢だと、言ってくれ。

**********************************************************************
前編終わり

……続くのか?ホントに(^^;)
しかも、コイツラ親友じゃない(ぐぅ)


    

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