[KATARIBE 19868] [WP01P] 『古びた柱時計』完成版

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Date: Sun, 25 Jun 2000 22:38:24 +0900
From: Takuji HOTTA <gombe@osk3.3web.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19868] [WP01P] 『古びた柱時計』完成版
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 ごんべです。


 一応これで完成版としてアップします。

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エピソード061『古びた柱時計』
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登場人物
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 岡崎 鞍馬 (おかざき・くらま)
    :人間離れした身体を持つ小学生。終末の住人。


本編
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 SE      :かっち こっち かっち こっち かっち こっち

 人気のない古い木造の駅舎。
 改札前に据えられた古びた柱時計の時を刻む音だけが、小さく、しかし確か
な音を立てて響きわたる。開け放した入口から、数歩でプラットフォームに出
られる改札口へと、涼やかな風が流れていく。

 SE      :かっち こっち かっち こっち かっち こっち

 今年の夏は暑く、駅舎の外は歩むことすら億劫になるような熱気と湿気に覆
われているというのに。光と影が強烈なコントラストをなす広い待合室の中は、
まるで時が止まった森の中のようにひっそりと、涼気と静けさの中に守られて
いた。

 SE      :かっち こっち かっち こっち かっち こっち

 壁際に並べられた木のベンチに腰掛け、鞍馬はただぼんやりとそれらの風景
を眺めていた。

 SE      :かっち こっち かっち こっち かっち こっち

 鞍馬     :「…………くー」

 次第に身体が眠気に融けていく。
 柱時計の音を聞き続けながら、鞍馬の意識はいつの間にか眠りの中に入って
いった。

 SE      :かっち こっち かっち こっち かっち こっち

 ??     :「おやおや」
 ??     :「眠ってしまったね」
 ??     :「一人旅だろうに、不用心だね」
 ??     :「この子なら大丈夫だよ」
 ??     :「そうだね」

 話し声の気配に、目を開ける。

 SE      :かっち こっち かっち こっち かっち こっち

 鞍馬     :「………………?」

 そこには、誰もいない。

 SE      :かっち こっち かっち こっち かっち こっち

 再び瞼を閉じて眠りに落ちていることを、鞍馬自身も気付いてはいない。

 ??     :「どこへ行くんだろうね」
 ??     :「こんなところで寝てしまって大丈夫なのかな?」
 ??     :「風邪はひかないだろうよ、この季節の昼間だもの」
 ??     :「そんなに急ぐ旅でもなかろうよ、なぜなら……」

 鞍馬     :「………………!」

 鞍馬は飛び起きた。
 信じられない言葉を聞いたような気がして。

 SE      :かっち こっち かっち こっち かっち こっち

 そこには、やっぱり誰もいない。

 鞍馬     :「……夢……?」

 SE      :かっち こっち かっち こっち かっち こっち

 柱時計の営む音だけが、木造の駅舎にこだまして。

 SE      :…… ぼーん ぼーん ぼーん ぼーん ……

 鞍馬     :「……こんな時間」

 いつの間にか、随分長い時間寝ていたようだ。赤みをわずかに帯びた陽光が
斜めに射し込み、駅舎の床の三和土を少しずつ暖めている。
 外へ走り出ようとして、ふと鞍馬は駅舎の中へ振り向いた。

 SE      :かっち こっち かっち こっち かっち こっち

 くすんだ色の染みついた、木造の駅舎。
 かすかに宙に舞う塵を、照らす陽光。
 古びた柱時計。

 SE      :かっち こっち かっち こっち かっち こっち

 言い様のない不安が鞍馬の胸を締め付けて。
 しかし、目の前の情景は限りなくやさしくて、暖かくて、懐かしくて。

 SE      :かっち こっち かっち こっち かっち こっち

 何に不安を覚えるのか、鞍馬は夢の言葉を思い出そうとしたが……
 既に鞍馬は、どんな夢を見ていたのかすら思い出すことはできなかった。

 鞍馬     :「…………(ため息)」

 SE      :かっち こっち かっち ……

 わずかな間の後、鞍馬は、振り切るように走り出した。
 視界が風とともに流れ始め。時が止まったような風情の古い木造の駅舎は、
遥か後方に去っていった。

 柱時計の音も、いつの間にか聞こえなくなっていた。


(終)


解説
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 二度目の1999年の夏休み、長い旅に出た鞍馬の旅先での一情景です。

 ごんべ自身がかつて行ったことのある、夏の午後の山寺駅(現・JR東日本、
山形県)の情景を思い出しながら書きました。
 もう最近では、こんな年月の暖かみを感じさせる駅舎は少なくなっているか
も知れません。鞍馬はそこで、何かに出会い、何かを告げられたのでしょう…
………たとえ彼自身は忘れてしまったとしても。


時系列
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 1999(2nd)年7月末。信州のとある小さな駅にて。


$$

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 ベルを鳴らしてみました。お話的には、それだけです。(^^;
 後は、採番通りに番号を付けておきました。

 以上です。

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堀田 拓司 (ごんべ)  gombe@osk3.3web.ne.jp
http://www2.osk.3web.ne.jp/~gombe/TRPG/BOUKEN/
    

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