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Date: Mon, 26 Jun 2000 23:49:19 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19863] [WP01P] エピソード『昔々の物語』暫定版
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200006261449.XAA24436@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 19863
2000年06月26日:23時49分19秒
Sub:[WP01P]エピソード『昔々の物語』暫定版:
From:E.R
こんにちは、E.R@幽霊 です。
関係者の皆様、ありがとうございます(礼)
一応、今のところまで纏めましたので、よろしくお願いします。
あ、人物紹介も、よろしくー
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エピソード『昔々の物語』
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登場人物
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月島直人(つきしま・なおと):
喫茶店「月影」の店長。終末の住人をあつめ、援助している「月影」の
マスターでもある。彼もまた、終末の住人。
桜居珠希(さくらい・たまき):
新木朱理(さらき・あかり):
六条鉱亮(ろくじょう・こうすけ):
青天目譲(なばため・ゆずる):感情を読む狩人。月影に協力している。
本文
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某日、喫茶月影。
初夏のじっとりとした暑さを避けるように、譲はその扉を開ける。
珠希 :「なにそれ?」
直人 :「ええと……あ」
譲 :「こんにちは」
直人 :「いらっしゃいませ」
朱理 :「………………(ぺこり)」
カウンターの前には、突っ伏して眠っている男性が一名。その隣、椅子を一
つ置いて座っている女子学生一人。
二人のウェイトレスの片方はカウンターの奥で皿を洗っているらしい。もう
一人のほうは、手に台拭きを持ってはいるものの……いまいち機能していない。
譲 :「何か、話し合いの最中だったんですか?」
直人 :「いえ……」(あいまいな笑みを浮かべる)
戸惑い。迷い。
…但し……何と言うか、その感情に暗さが無い。
直人 :「……譲さんには、お話しましたっけ。災厄は百年に一度
:起こるものであり……」
譲 :「当然、百年前にも、僕らのような狩人や住民がいた、と」
直人 :「そうなるんですが……」
珠希 :「生き残ってるって言うのよ」
譲 :「……へ?」
朱理 :「………………」
珠希 :「その頃の、住民だか狩人だか」
譲 :「…………………へ?」
直人 :「以前、聞いた話なんですがね。まあ、前世紀の住人が生き
:ていても、不可能というわけではないのですが……」
珠希 :「それを聞きかけてたの」
目をしばたたかせた譲の目の前に、ひょい、とアイスコーヒーが出てくる。
優 :「どうぞ」
譲 :「あ、すみません」
一礼してから、譲は直人に視線を戻す。
譲 :「……今でも、危険なんでしょうか、その人は?」
直人 :「いえ……ああ、今でも危険は危険でしょうが……災厄そ
:のものには、関わらないんです」
で、止まった筈の言葉が、可聴音域外の声として伝わってくる。
直人 :(の、筈だよなあ……)
譲 :(ふむ)
しばし、待つ。
聞こえるのは、カウンターで眠り込んでいる男の、それはそれは気持ち良さ
そうな寝息ばかりである。
不意に、珠希がどん、と、テーブルを叩いた。
珠希 :「ちゃんと話しなさいよ、最初っから、わかりやすく」
直人 :「まあ、少し時間もありますし、お話しましょう」
☆☆☆
直人 :「私も、聞いた話なんですが……先ほど言ったように、そ
:の当時の狩人が生きているらしいんです」
譲 :「……狩人が?」
直人 :「はい」
譲 :「狩人って、災厄が終わっても狩人なんですか?」
直人 :「さあ……どうなのでしょうねぇ……」
珠希 :「はっきりしないわねっ」
直人 :「はっきりしないんです」
すとん、と受けて返す。
珠希がきょとんとする。
珠希 :「何でよ」
直人 :「いま、生きている狩人にあったことはありませんし、今
:回の相手は眠り姫なので」
譲 :「…眠り姫?(汗)」
珠希 :「………そういうのって、伝統的にいるわけ?(汗)」
視線がまず、カウンターで安らかに寝ている男に向う。
直人 :「そう言うわけでは無いと思いますが、安眠のために使っ
:ているあたりは、似ているかもしれません」
珠希 :「…似たような発想するのが、百年前にもいた訳ね……」
珠希はげんなりとする。
朱理 :「…………………………(微苦笑)」
譲 :「(苦笑)」
鉱亮 :「……………(ぐーー)」
やり取りを見て笑っていた譲が、ふとその表情を改める。
譲 :「それにしても、規格外れの狩人ですね」
珠希 :「?」
譲 :「住人達を殺す、というのが役目じゃないんですか?」
直人 :「………」
月影のマスターの顔から、笑いが消える。
しっかり馴染んではいるものの……目の前の青年は、ある人間に対し、抜き
難い殺意を抱えているのだ。それを押さえつける力を鍛えることが出来たのは
あくまで幸運であったことも、聞いて知ってはいる。
すう、と一筋流れた感情を読んで、譲が笑う。
譲 :「……(笑)…お気使い無用と言うことで…でもどうして
:その姫、眠りっぱなしなんですか?」
直人 :「ひどい話ですが、ある意味では、譲君と似ているんです」
譲 :「?」
直人 :「彼女の場合、対の住人を殺すよりも、睡眠欲のほうが強
:かったらしい」
珠希 :「……ガーン」
譲 :「(笑)」
闊達な珠希にしたら、後ろから蹴っ飛ばしたくなるような相手かもしれない。
直人 :「元々、彼女の能力は、眠ることで蓄えられる力を放出す
:ることだったみたいです。眠る間、ほぼ仮死に近い状態に
:なり、その間消費される筈だったエネルギーを蓄える。そ
:してそれを、放出する」
一旦、言葉を切って。
直人 :「主に、寝起きの時に」
朱理 :「………………それは…………」
珠希 :「恐いわね(汗)」
直人 :「眠る時間の長さに比例して、蓄えられる力も増大する。
:だから本当は、度々起きたほうが良かったんでしょうが」
譲 :「眠ることが、大好きな人だったんですね(汗)」
直人 :「そのようです」
譲 :「…………」
鉱亮 :「………(ぐーー)」
なんかこー……どっと何か疲れる話である。
珠希 :「…でもまー、対の住人にしたら、楽よね。寝っぱなしの
:お姫様なら安全だし」
直人 :「……その、筈、だったんですが」
何とも…言いづらそうな、妙な顔になって。
朱理 :「…………が?」
直人 :「……まずいことに、眠り姫は、眠っていると本当に天女
:のようだったそうで……」
珠希 :「(先を聞きたく無くなっている)」
譲 :「(先を読みたく無くなっている)」
直人 :「……一目惚れしたらしいのです。住人のほうが」
珠希 :「……やな予感て、当たるわ」
直人 :「どうしても起こしたかった……らしいですね」
譲 :「………」
その言葉は、素直には聞くことができなかった。
狩人の持つ殺意が、望んでのものではないことは…譲にすればよくわかるこ
とである。近づけば何をするか自分でもわからないからこそ、対である風音の
居る所には近寄らないように気をつける。それが可能である能力を自分が持っ
ていることは、存外の幸運である、と、自覚もしている。
だのに。
譲 :「……むごいですね」
直人 :「え?」
譲 :「対の、住人の人……むごいことをされる」
直人 :「起こすことがですか?」
譲 :「殺してしまう口実を、相手に与えることが」
ほんの少し、沈黙。
かける言葉に直人が迷う間に、カウンター席の朱理が、身じろぎした。
朱理 :「……それでも会いたい人かもしれない」
ぽつんと。
凪いだ水面に石を投げ込むように。
譲 :「……そんなもんなんだろうか」
直人 :「そんなものかもしれません」
珠希 :「深いわね」
細波は、ゆっくりと笑いになって。
譲 :「すみません(苦笑)」
直人 :「いえ」
珠希 :「で、その眠り姫、起きたの?」
直人 :「当然ながら、起こすたびに……」
握った手を、指を上向けて、ぱっと開く。
直人 :「……と」
珠希 :「不毛だわね(きっぱり)」
朱理 :「…………かもしれない…………(でも)」
譲 :「…………(苦笑)」
それでも、起こしてみたかったのかも…しれない。
珠希 :「それで、その二人どーしたの、最終的に」
直人 :「結局、眠り姫は、眠りについたそうです。災厄の終わる
:前に、結界の中で」
譲 :「そして、今に至るまで、眠りつづけてる……?(汗)」
直人 :「はい」
う、と、他の三人が身を引く。
譲 :「…それはまた(汗)」
朱理 :「…………………爆弾(ぼそっ)」
珠希 :(汗)
☆☆☆
ふと、譲が顔を上げた。
譲 :「それで、月島さん」
直人 :「はい?」
譲 :「その姫君が、危険、なんですか?」
直人 :「……一応、今のままなら大丈夫なはずです。ですが……」
譲 :「が?」
珠希 :「が、何?」
直人 :「ついこの間、教えられましてね」
朱理 :「?」
直人 :「月影の地下深くに、その結界がある……と」
全員、一瞬硬直した。
朱理 :「………………危険な喫茶店……(月影を見まわしつつ)」
珠希 :「それって、爆弾の上にこの店が立ってるってこと?」
直人 :「爆弾って……そもそも結界内部に入れるのは、住人か狩
:人だけでしょう。それほど危険はないはずです」
珠希 :「……」
直人 :「それに、起こさなければ問題ありませんから……」
鉱亮 :「あ〜、誠に同感ですねぇ」
ごく唐突に、むくり、と今まで眠っていた男が起きあがる。
珠希 :「聞いてたの?(汗)」
鉱亮 :「折角ぐっすり眠てるんですよ〜。それを起こすだなんて許
:し難い話です(憤慨)」
……誰に向けての台詞やら。
珠希 :「おいといて…で、眠り姫、いるの?」
直人 :「居ます」
譲 :「月島さんは、見たんですか?」
直人 :「ええ、一応は」
大概。
ここまでくると。
珠希 :「それは見たいわね」
譲 :「…同感(苦笑)」
普通の好奇心の持ち主ならば、見たくなるのが道理である…かもしれない。
直人 :「結界の中にいるので、普通にしていれば起こすことはな
:いと思いますが…気をつけてくださいよ」
珠希 :「大丈夫っ」
月影の地下深く。細かに結界を使い、封じられた壁を一時的に消滅させて降
りる。やがて、何本ものパイプの通る部屋に降りた。そのパイプをかいくぐっ
て、部屋の中央まで行くと、足元に引き上げの戸がある。
妙に時代がかった鍵をポケットから取り出すと、直人は扉を開けた。
直人 :「この人ですよ」
譲 :「………」
扉を開けたところに、青銀の色の膜が見える。
目をこらす。と、すっと膜が透き通る。硝子の向こうに眠っている……
譲 :「あの人ですか」
極上の人形のようだ、というのが、第一印象だった。
御所人形を思わせる…血の気の無い、白い肌。綺麗に切りそろえられた前髪、
そして四方に流れる豊かな黒髪。
深紅の地に様々な絞りや刺繍を加えた振袖。重たげな絹の布の重なる中で、
しかし『姫』はひどく安らかに眠っている。
一面を覆う、淡い紅の色。
朱理 :「あ…………(綺麗…………)」
桜の色に似た、微かな、紅の色。
その中に……ほんの僅かに、掠めるように見える。
切なげな、僅かに黄味を帯びた朱の線。
譲 :「…………」
自分の感情の…考え方の敷衍であることは、重々承知した上で。
ふと、思ってしまう。
この人は。
百年眠ることを、選んだのではないか、と。
起きるたびに怒りに任せて全てを壊してゆく自分を知りつつ……
自分の無意識が、人を傷つけていることほど…辛いことは無い。
譲 :「仮に、起こしたら…どうなりますか?」
直人 :「……考えたくないですね」
それでも。
この中で、この眠り姫を目覚めさせられる存在がいることを、譲としては自
覚せざるを得ない。
次の年の瀬に、元に戻る可能性があるのは…狩人の譲のみ。元狩人である眠
り姫の攻撃で命を落とすにしても…もし、次の年がまた1999年であるなら
ば…そして風音が生きているならば、譲だけはもう一度、戻ってくるかもしれ
ない。
もしも。
もしも、住人達を、被害の無い場所まで、送ってから彼女を起こせば。
月影の運命に、住人達が関与できないほど遠くまで見送ってから……
譲 :「……ええと、六条さん」
鉱亮 :「ほぁ?」
『眠り姫を見ようツアー』に、何故か彼も加わっている。寝てなくていいの、
との珠希の言葉に、先達の偉大なる姿を見たいのです、と、分けの判らない
ことをえらく真剣に言ってのけた男性は、譲の方に視線を向けた。
譲 :「眠ることは、幸せですか?」
鉱亮 :「勿論じゃないですか〜」
譲 :「……眠るしか、出来なくても?」
鉱亮 :「他に何が必要だって言うんです?(不思議そうな顔)」
譲 :「それが、百年でも?」
鉱亮 :「あはは、長いほどいいに決まってますよぅ」
譲 :「…………………」
微かに。譲の表情が緩んだ。
眠り姫は、静かに眠っている。
眠り続けるだけ、己が内に、致死量の力を蓄えながら。
それを、無残と見るか。
それを、幸せと見るか。
多分、どちらも正しくて。
多分……どちらも、間違っているのだろう。
珠希 :「さっきから、気になってたんだけど」
直人 :「はい?」
珠希 :「この話、知ってた人って、誰?」
直人 :「…………」
珠希 :「まさか、この眠り姫の対?!」
直人 :「さて……どうなのでしょうね」
何ともおぼつかなげな声に…流石に珠希も、それ以上の追求を諦めざるを得
なかった。
直人 :「……閉じますけど、いいですか?」
譲 :「はい」
重い、鉄の扉をゆっくりと下ろす。
透き通っていた結界の壁が、また青銀色に濁る。
譲 :「この人は、いつまで眠るんでしょうか」
直人 :「……さあ(苦笑)」
それが、たとえ幸福であるにしても。
彼女の選んだ、最善の方法であるにしても。
それは、ひどく……
直人 :「……起こしてみますか?(苦笑)」
譲 :「…………遠慮しておきます(苦笑)」
そうですか、と小さく呟くと、直人は扉に鍵をかける。
ぴん、と、鋭い音が響いた。
時系列
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1999年(三回目)初夏の頃
解説
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繰り返される災厄と住人達の戦いの間で、取り残された人々も居たかと思わ
れます。
既に災厄に関わることこそないかもしれませんが……
彼らもまた、一つの話を紡ぐ人々であります。
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ちうわけで。
ごんべさんの言われる通り、譲が生き返るかどうかはどうも微妙でしたので、
『可能性』に書き換えました。
修正等、ありましたらよろしうに。
んであまたー