[KATARIBE 19863] [WP01P] エピソード『昔々の物語』暫定版

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Date: Mon, 26 Jun 2000 23:49:19 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19863] [WP01P] エピソード『昔々の物語』暫定版 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200006261449.XAA24436@www.mahoroba.ne.jp>
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2000年06月26日:23時49分19秒
Sub:[WP01P]エピソード『昔々の物語』暫定版:
From:E.R


こんにちは、E.R@幽霊 です。
関係者の皆様、ありがとうございます(礼)

 一応、今のところまで纏めましたので、よろしくお願いします。
 あ、人物紹介も、よろしくー

**************************************
エピソード『昔々の物語』
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登場人物
--------
 月島直人(つきしま・なおと):
    喫茶店「月影」の店長。終末の住人をあつめ、援助している「月影」の 
   マスターでもある。彼もまた、終末の住人。 
 桜居珠希(さくらい・たまき):
 新木朱理(さらき・あかり):
 六条鉱亮(ろくじょう・こうすけ):
 青天目譲(なばため・ゆずる):感情を読む狩人。月影に協力している。

本文
----

 某日、喫茶月影。
 初夏のじっとりとした暑さを避けるように、譲はその扉を開ける。

 珠希     :「なにそれ?」
 直人     :「ええと……あ」
 譲      :「こんにちは」
 直人     :「いらっしゃいませ」
 朱理     :「………………(ぺこり)」

 カウンターの前には、突っ伏して眠っている男性が一名。その隣、椅子を一
つ置いて座っている女子学生一人。
 二人のウェイトレスの片方はカウンターの奥で皿を洗っているらしい。もう
一人のほうは、手に台拭きを持ってはいるものの……いまいち機能していない。

 譲      :「何か、話し合いの最中だったんですか?」
 直人     :「いえ……」(あいまいな笑みを浮かべる) 

 戸惑い。迷い。
 …但し……何と言うか、その感情に暗さが無い。

 直人     :「……譲さんには、お話しましたっけ。災厄は百年に一度
        :起こるものであり……」
 譲      :「当然、百年前にも、僕らのような狩人や住民がいた、と」
 直人     :「そうなるんですが……」
 珠希     :「生き残ってるって言うのよ」
 譲      :「……へ?」
 朱理     :「………………」
 珠希     :「その頃の、住民だか狩人だか」
 譲      :「…………………へ?」
 直人     :「以前、聞いた話なんですがね。まあ、前世紀の住人が生き 
        :ていても、不可能というわけではないのですが……」 
 珠希     :「それを聞きかけてたの」

 目をしばたたかせた譲の目の前に、ひょい、とアイスコーヒーが出てくる。
 
 優      :「どうぞ」
 譲      :「あ、すみません」

 一礼してから、譲は直人に視線を戻す。

 譲      :「……今でも、危険なんでしょうか、その人は?」
 直人     :「いえ……ああ、今でも危険は危険でしょうが……災厄そ
        :のものには、関わらないんです」

 で、止まった筈の言葉が、可聴音域外の声として伝わってくる。

 直人     :(の、筈だよなあ……)
 譲      :(ふむ)

 しばし、待つ。
 聞こえるのは、カウンターで眠り込んでいる男の、それはそれは気持ち良さ
そうな寝息ばかりである。
 不意に、珠希がどん、と、テーブルを叩いた。

 珠希     :「ちゃんと話しなさいよ、最初っから、わかりやすく」
 直人     :「まあ、少し時間もありますし、お話しましょう」

 ☆☆☆

 直人     :「私も、聞いた話なんですが……先ほど言ったように、そ 
        :の当時の狩人が生きているらしいんです」 
 譲      :「……狩人が?」
 直人     :「はい」
 譲      :「狩人って、災厄が終わっても狩人なんですか?」
 直人     :「さあ……どうなのでしょうねぇ……」 
 珠希     :「はっきりしないわねっ」
 直人     :「はっきりしないんです」
 
 すとん、と受けて返す。
 珠希がきょとんとする。

 珠希     :「何でよ」
 直人     :「いま、生きている狩人にあったことはありませんし、今 
        :回の相手は眠り姫なので」 
 譲      :「…眠り姫?(汗)」
 珠希     :「………そういうのって、伝統的にいるわけ?(汗)」

 視線がまず、カウンターで安らかに寝ている男に向う。

 直人     :「そう言うわけでは無いと思いますが、安眠のために使っ 
        :ているあたりは、似ているかもしれません」 
 珠希     :「…似たような発想するのが、百年前にもいた訳ね……」 

 珠希はげんなりとする。 

 朱理     :「…………………………(微苦笑)」
 譲      :「(苦笑)」
 鉱亮     :「……………(ぐーー)」

 やり取りを見て笑っていた譲が、ふとその表情を改める。

 譲      :「それにしても、規格外れの狩人ですね」
 珠希     :「?」
 譲      :「住人達を殺す、というのが役目じゃないんですか?」
 直人     :「………」

 月影のマスターの顔から、笑いが消える。
 しっかり馴染んではいるものの……目の前の青年は、ある人間に対し、抜き
難い殺意を抱えているのだ。それを押さえつける力を鍛えることが出来たのは
あくまで幸運であったことも、聞いて知ってはいる。
 すう、と一筋流れた感情を読んで、譲が笑う。

 譲      :「……(笑)…お気使い無用と言うことで…でもどうして
        :その姫、眠りっぱなしなんですか?」
 直人     :「ひどい話ですが、ある意味では、譲君と似ているんです」
 譲      :「?」
 直人     :「彼女の場合、対の住人を殺すよりも、睡眠欲のほうが強
        :かったらしい」
 珠希     :「……ガーン」
 譲      :「(笑)」

 闊達な珠希にしたら、後ろから蹴っ飛ばしたくなるような相手かもしれない。

 直人     :「元々、彼女の能力は、眠ることで蓄えられる力を放出す
        :ることだったみたいです。眠る間、ほぼ仮死に近い状態に
        :なり、その間消費される筈だったエネルギーを蓄える。そ
        :してそれを、放出する」

 一旦、言葉を切って。

 直人     :「主に、寝起きの時に」
 朱理     :「………………それは…………」
 珠希     :「恐いわね(汗)」
 直人     :「眠る時間の長さに比例して、蓄えられる力も増大する。
        :だから本当は、度々起きたほうが良かったんでしょうが」
 譲      :「眠ることが、大好きな人だったんですね(汗)」
 直人     :「そのようです」
 譲      :「…………」
 鉱亮     :「………(ぐーー)」

 なんかこー……どっと何か疲れる話である。

 珠希     :「…でもまー、対の住人にしたら、楽よね。寝っぱなしの
        :お姫様なら安全だし」
 直人     :「……その、筈、だったんですが」

 何とも…言いづらそうな、妙な顔になって。

 朱理     :「…………が?」
 直人     :「……まずいことに、眠り姫は、眠っていると本当に天女 
        :のようだったそうで……」 
 珠希     :「(先を聞きたく無くなっている)」
 譲      :「(先を読みたく無くなっている)」
 直人     :「……一目惚れしたらしいのです。住人のほうが」 
 珠希     :「……やな予感て、当たるわ」
 直人     :「どうしても起こしたかった……らしいですね」
 譲      :「………」

 その言葉は、素直には聞くことができなかった。

 狩人の持つ殺意が、望んでのものではないことは…譲にすればよくわかるこ
とである。近づけば何をするか自分でもわからないからこそ、対である風音の
居る所には近寄らないように気をつける。それが可能である能力を自分が持っ
ていることは、存外の幸運である、と、自覚もしている。

 だのに。

 譲      :「……むごいですね」
 直人     :「え?」
 譲      :「対の、住人の人……むごいことをされる」
 直人     :「起こすことがですか?」 
 譲      :「殺してしまう口実を、相手に与えることが」

 ほんの少し、沈黙。
 かける言葉に直人が迷う間に、カウンター席の朱理が、身じろぎした。

 朱理     :「……それでも会いたい人かもしれない」

 ぽつんと。
 凪いだ水面に石を投げ込むように。
 
 譲      :「……そんなもんなんだろうか」
 直人     :「そんなものかもしれません」
 珠希     :「深いわね」

 細波は、ゆっくりと笑いになって。

 譲      :「すみません(苦笑)」
 直人     :「いえ」
 珠希     :「で、その眠り姫、起きたの?」
 直人     :「当然ながら、起こすたびに……」 

 握った手を、指を上向けて、ぱっと開く。

 直人     :「……と」
 珠希     :「不毛だわね(きっぱり)」
 朱理     :「…………かもしれない…………(でも)」
 譲      :「…………(苦笑)」

 それでも、起こしてみたかったのかも…しれない。

 珠希     :「それで、その二人どーしたの、最終的に」
 直人     :「結局、眠り姫は、眠りについたそうです。災厄の終わる
        :前に、結界の中で」
 譲      :「そして、今に至るまで、眠りつづけてる……?(汗)」
 直人     :「はい」

 う、と、他の三人が身を引く。

 譲      :「…それはまた(汗)」
 朱理     :「…………………爆弾(ぼそっ)」
 珠希     :(汗)

 ☆☆☆

 ふと、譲が顔を上げた。

 譲      :「それで、月島さん」
 直人     :「はい?」
 譲      :「その姫君が、危険、なんですか?」
 直人     :「……一応、今のままなら大丈夫なはずです。ですが……」 
 譲      :「が?」
 珠希     :「が、何?」
 直人     :「ついこの間、教えられましてね」 
 朱理     :「?」 
 直人     :「月影の地下深くに、その結界がある……と」 
 
 全員、一瞬硬直した。

 朱理     :「………………危険な喫茶店……(月影を見まわしつつ)」
 珠希     :「それって、爆弾の上にこの店が立ってるってこと?」
 直人     :「爆弾って……そもそも結界内部に入れるのは、住人か狩 
        :人だけでしょう。それほど危険はないはずです」 
 珠希     :「……」
 直人     :「それに、起こさなければ問題ありませんから……」
 鉱亮     :「あ〜、誠に同感ですねぇ」

 ごく唐突に、むくり、と今まで眠っていた男が起きあがる。

 珠希     :「聞いてたの?(汗)」
 鉱亮     :「折角ぐっすり眠てるんですよ〜。それを起こすだなんて許
        :し難い話です(憤慨)」

 ……誰に向けての台詞やら。

 珠希     :「おいといて…で、眠り姫、いるの?」
 直人     :「居ます」
 譲      :「月島さんは、見たんですか?」
 直人     :「ええ、一応は」
 
 大概。
 ここまでくると。

 珠希     :「それは見たいわね」
 譲      :「…同感(苦笑)」

 普通の好奇心の持ち主ならば、見たくなるのが道理である…かもしれない。

 
 直人     :「結界の中にいるので、普通にしていれば起こすことはな
        :いと思いますが…気をつけてくださいよ」
 珠希     :「大丈夫っ」
 
 月影の地下深く。細かに結界を使い、封じられた壁を一時的に消滅させて降 
りる。やがて、何本ものパイプの通る部屋に降りた。そのパイプをかいくぐっ 
て、部屋の中央まで行くと、足元に引き上げの戸がある。 
 妙に時代がかった鍵をポケットから取り出すと、直人は扉を開けた。 

 直人     :「この人ですよ」
 譲      :「………」

 扉を開けたところに、青銀の色の膜が見える。
 目をこらす。と、すっと膜が透き通る。硝子の向こうに眠っている……

 譲      :「あの人ですか」

 極上の人形のようだ、というのが、第一印象だった。
 御所人形を思わせる…血の気の無い、白い肌。綺麗に切りそろえられた前髪、
そして四方に流れる豊かな黒髪。
 深紅の地に様々な絞りや刺繍を加えた振袖。重たげな絹の布の重なる中で、
しかし『姫』はひどく安らかに眠っている。

 一面を覆う、淡い紅の色。

 朱理     :「あ…………(綺麗…………)」

 桜の色に似た、微かな、紅の色。
 その中に……ほんの僅かに、掠めるように見える。
 切なげな、僅かに黄味を帯びた朱の線。

 譲      :「…………」

 自分の感情の…考え方の敷衍であることは、重々承知した上で。
 ふと、思ってしまう。

 この人は。
 百年眠ることを、選んだのではないか、と。
 起きるたびに怒りに任せて全てを壊してゆく自分を知りつつ……

 自分の無意識が、人を傷つけていることほど…辛いことは無い。

 譲      :「仮に、起こしたら…どうなりますか?」
 直人     :「……考えたくないですね」

 それでも。
 この中で、この眠り姫を目覚めさせられる存在がいることを、譲としては自
覚せざるを得ない。
 次の年の瀬に、元に戻る可能性があるのは…狩人の譲のみ。元狩人である眠
り姫の攻撃で命を落とすにしても…もし、次の年がまた1999年であるなら
ば…そして風音が生きているならば、譲だけはもう一度、戻ってくるかもしれ
ない。
 
 もしも。
 もしも、住人達を、被害の無い場所まで、送ってから彼女を起こせば。
 月影の運命に、住人達が関与できないほど遠くまで見送ってから……


 譲      :「……ええと、六条さん」
 鉱亮     :「ほぁ?」

『眠り姫を見ようツアー』に、何故か彼も加わっている。寝てなくていいの、
との珠希の言葉に、先達の偉大なる姿を見たいのです、と、分けの判らない
ことをえらく真剣に言ってのけた男性は、譲の方に視線を向けた。

 譲      :「眠ることは、幸せですか?」
 鉱亮     :「勿論じゃないですか〜」
 譲      :「……眠るしか、出来なくても?」
 鉱亮     :「他に何が必要だって言うんです?(不思議そうな顔)」
 譲      :「それが、百年でも?」
 鉱亮     :「あはは、長いほどいいに決まってますよぅ」
 譲      :「…………………」

 微かに。譲の表情が緩んだ。

 眠り姫は、静かに眠っている。
 眠り続けるだけ、己が内に、致死量の力を蓄えながら。

 それを、無残と見るか。
 それを、幸せと見るか。

 多分、どちらも正しくて。
 多分……どちらも、間違っているのだろう。

 珠希     :「さっきから、気になってたんだけど」
 直人     :「はい?」
 珠希     :「この話、知ってた人って、誰?」
 直人     :「…………」
 珠希     :「まさか、この眠り姫の対?!」
 直人     :「さて……どうなのでしょうね」 

 何ともおぼつかなげな声に…流石に珠希も、それ以上の追求を諦めざるを得
なかった。
 
 直人     :「……閉じますけど、いいですか?」
 譲      :「はい」

 重い、鉄の扉をゆっくりと下ろす。
 透き通っていた結界の壁が、また青銀色に濁る。

 譲      :「この人は、いつまで眠るんでしょうか」
 直人     :「……さあ(苦笑)」

 それが、たとえ幸福であるにしても。 
 彼女の選んだ、最善の方法であるにしても。
 
 それは、ひどく……

 直人     :「……起こしてみますか?(苦笑)」
 譲      :「…………遠慮しておきます(苦笑)」

 そうですか、と小さく呟くと、直人は扉に鍵をかける。
 ぴん、と、鋭い音が響いた。

時系列
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 1999年(三回目)初夏の頃

解説
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 繰り返される災厄と住人達の戦いの間で、取り残された人々も居たかと思わ
れます。
 既に災厄に関わることこそないかもしれませんが……
 彼らもまた、一つの話を紡ぐ人々であります。
 
**********************************************

 ちうわけで。
 ごんべさんの言われる通り、譲が生き返るかどうかはどうも微妙でしたので、
『可能性』に書き換えました。

 修正等、ありましたらよろしうに。

 んであまたー


    

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