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Date: Mon, 26 Jun 2000 18:20:57 +0900 (JST)
From: 久志 <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19858] [WP01P] 『迷断』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200006260920.SAA13751@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 19858
2000年06月26日:18時20分57秒
Sub:[WP01P]『迷断』:
From:久志
久志です。
というわけで、WPなEP行きます。
ハリにゃチェックよろしゅー
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『迷断』
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彼女の所に立ち寄った頃には、八時を回っていた。
水稚 :「いらっしゃい、奏雅ちゃん」
奏雅 :「こんばんは、水稚さん。遅くにお邪魔してすいません」
水稚 :「いいのよ、奏ちゃんなら。さ、どうぞ」
普段はめったに人を通さない奥の部屋へと案内してくれる。
笑みを絶やさない二十前半の女性が、新宿で裏の情報屋をやっているなどと
普通ならば夢にも思わないだろう。彼女の経歴、素性などは一切不明で、一説
では彼女は外見よりもずっと長くこの新宿で生活を送っているという。
水稚 :「珈琲でいい?この間月影でおすすめのブレンドを買って
:きたから」
奏雅 :「ありがとう、いい匂いね」
一見、自分と同じか自分より若い彼女相手だが、不思議な貫禄と頼れる芯の
強さは確かに彼女を外見年齢よりはるかに高く見せていると思う。自分が時た
まここへ来て彼女と話をするのも、世話好きで頼り甲斐のある彼女を頼ってき
ているからだと思う。
だから、無意識にここへ足を向けてしまうということは、あたしは今何かに
迷っているからなのだと思う。
水稚 :「これ、この間おいしいお店見つけて買ってみたクッキー
:よかったら食べてみてね」
テーブルの上にはクッキーをのせた皿と、コーヒーカップが二つ。
奏雅 :「……ねぇ、水稚さん」
水稚 :「なぁに?奏ちゃん」
一口、カップに口をつけ、ことんとカップをテーブルに置いてつぶやく。
奏雅 :「あたしがやってる情報集めって……ホントに意味がある
:のかな?」
ループする世界。
何から手をつけていいのか、そも何を調べればいいかもわからない事。
水稚 :「……奏ちゃん、何かあったの?」
微笑んだ顔そのままで、言葉が返ってくる。あたし多分はその言葉を待って
いたんだと思う。
奏雅 :「昨夜ね、仕事の後輩と一緒に飲んでたんです……その時
:にね、あたし、こんな話をしたんです」
終わらない今日、繰り返す一日、パラレルワールドに取込まれた主人公。
奏雅 :「永遠に明日の来ない今日に閉じ込められて、逃げられな
:くなる…って映画でした」
水稚 :「……」
奏雅 :「でもそれは映画であって、現実ではなかったはず……」
水稚 :「………でもね、奏ちゃん…」
奏雅 :「はい?」
水稚 :「その主人公は、何もしなかった訳ではないでしょう?」
奏雅 :「あがいて、あがいて……それでもどうにも出来なくて、
:ただすべてに取り残されて、それでもまた次の日が訪れる」
取り残された主人公。
取り残された住人達。
水稚 :「それでも、あがかなきゃ…」
奏雅 :「……」
水稚 :「あがく事が無駄に思えても、それでも足掻かなければ、
:前には進めないのよ」
奏雅 :「……そうですね」
水稚 :「あがく事を諦めた時に、映画は幕を閉じてしまうの」
奏雅 :「……あたし達の世界は、映画ではないから」
水稚 :「あがき続けなきゃいけない」
答えは一つ。
それでも、心の奥を引っかくものが一つ。
奏雅 :「もし、もし永久に翌日のこない世界に閉じ込められたら
:どうする?って……その時、後輩に言われたんです」
奏雅 :「『奏雅さんとこうして飲めるならそれでも悪くない』って」
殿間くん、あたしはただ彼に背を向けた。
奏雅 :「そんな風に言ってくれる人まで利用して、あがくことに
:意味があるのか、ちょっと不安になってたんです」
水稚 :「そっか……」
ふぅ、と一つ息をついて、じっと目を見る。
水稚 :「でもね…そんな人達の為にも、あがかなきゃいけないん
:じゃない?あがけるのは、私たちだけなんだから」
奏雅 :「………」
水稚 :「全てを裏切る事になっても、全てを失う事になっても、
:私はあがくと思う」
奏雅 :「あたしは……どうしても失いたく無い者のためにあがき
:たい、と思います」
水稚 :「ん……あがけるだけあがかなきゃ、勿体無いでしょ?」
奏雅 :「…そうですね」
そう言い切って、急にくすくすと笑った。
水稚 :「それにぃ…『先輩と一緒なら〜』って言われた時に、
:『一緒の未来の方が良いなぁ』って出来れば、悪女度アッ
:プなのにね(くすくす)」
奏雅 :「まだ先輩には追いつけません…ってとこですか」
水稚 :「ふふふ……そういうこと」
ふわり、と彼女の手が頭に触れた。そのままぽんぽんと弾むように撫ぜる。
なんだか、とても心地良かった。
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いじょ
ちょっと水稚さんに可愛がられてみました。