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Date: Mon, 19 Jun 2000 15:42:51 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19688] [HA06P] エピソード『探人探書』完成版
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200006190642.PAA13677@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 19688
2000年06月19日:15時42分50秒
Sub:[HA06P]エピソード『探人探書』完成版:
From:E.R
こんにちは、E.Rです。
これの、完成版投げるの忘れていましたので<おい
いちおー、これで締め、かな?
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エピソード『探人探書』
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登場人物
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金元吉武(かなもと・よしたけ):
:貧乏な武術修行者。瑞鶴に本を取りに行かなかったのは、金の工面
:がつかなかったのか、はたまた忘れていたのか……。
本文
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某日。
昨日の雨は一応上がってはいるものの、天はまだ重い灰色を残している。
朝練から部屋に戻ろう…として。
吉武 :(?)
郵便受けに、斜めに突き刺さる紙袋。
茶色の……
吉武 :(?)
郵便の小包、ではない。時間が早すぎるし、第一この包みには住所も宛名も
書いてはいない。きちんと包まれてはいるものの、包みの紙自身もさほど厚手
のものではない。言わばこれは……
吉武 :(本屋の紙袋)
薄手の茶色の袋。口はセロハンテープで半分ほど止められている。後の半分
から覗いているのは。
吉武 :「……!」
その正体に思い至って、吉武は郵便受けから包みを引っ張り出す。
その大きさ。覗いているカバーの色。そして薄手の紙から透けて見えるのは。
吉武 :(あの本だ)
半年ほど前に、偶然入った本屋で見つけた本。所持金の問題でさんざ迷って
いたところを予約扱いにしてもらったまま……。
……数ヶ月前に、あの本屋は、閉店したのではなかったか。
丁寧にセロハンテープを剥がし、中の本を引き出す。
吉武 :(間違い無い)
と、半拍後れて、するりと本から落ちかけたものがある。
すう、と空を滑りかけたのを、吉武の手が捕まえる。
吉武 :「………」
レポート用紙を半分に折ったもの、一枚。
開いてみる。
『拝啓
以前、ご予約頂きました本を、お送りいたします。
当方、今暫く閉店することとなると思われます。
ここにこうして置いておくよりは、お手元にありますほうが、
この本も、本望であるかと思います。
不躾ですが、お送りさせていただきました。
宜しくお願いします。
書店 瑞鶴』
吉武 :「……………」
右上がりの、規則正しい文字。
誰の手になるものかは…わからない。
本を抱えたまま、吉武は踵を返した。
記憶している書店まで、さほどの距離ではない。
朝早い商店街は、人気もまださほどなく、店の殆どはシャッターを下ろした
ままである。しかしそれとは別に、書店瑞鶴のシャッターは、どこか埃を被っ
たまま、かなり長いことそのままであるのが見て取れた。
シャッターに貼りつけた、手書きの張り紙もそのままに。
吉武 :「………」
手もとの書きつけと、張り紙の文字を見比べる。
似ているようでもあった。また、似ていないようでもあった。
と……
どう、と、どこか鈍く風が吹いた。
細かい霧のような雨が降りかかる。
吉武 :「………」
上着で、本を庇う。
そして……そのまま、また方向を変えた。
灰色の曇天は、なおなお重くのしかかる。
今日もまた、晴れそうに無い。
本格的な梅雨に、入ろうとしている。
時系列
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2000年6月。梅雨宣言のあった頃の早朝。
解説
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吹利の街ならではの、奇譚…でしょうか。
本の湧く書店、瑞鶴。そこから誰がどうやって、吉武の手元に本を届けたの
かは……恐らく永久に謎のままです。
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んではでは。