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Date: Mon, 19 Jun 2000 15:41:00 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19687] [WP01P] エピソード「年末の形〜狩人による変奏曲」暫定版
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200006190641.PAA13622@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 19687
2000年06月19日:15時40分59秒
Sub:[WP01P]エピソード「年末の形〜狩人による変奏曲」暫定版:
From:E.R
こんにちは、E.Rです。
えーと、一応、流します。
今のところ、本文に対しては修正が来ていないのですが……
もしあれば、どかどか宜しく。
あ、人物紹介お願いします。
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エピソード『年末の形〜狩人による変奏曲』
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登場人物
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月島直人(つきしま・なおと):
: 喫茶店・月影の店長にして、住人組織『月影』のマスター。
: 年末もいつもの通り店を開けている。今のところ、解決の有効な
:情報を得ている様子はない。
更雲 翔:
更雲 優:
桜居珠希:
青天目譲(なばため・ゆずる):白鷺州風音の対である狩人。2度目の1999年初頭に、風音の、時間
:に対する違和感を与えられている。
本文
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1:住人達と狩人
----------------
1999年12月31日。いわゆるところの大晦日である。
普通は、大掃除だのおせちの用意だのに明け暮れるべき日であるのだが、こ
こ、不夜城と化した新宿は、やはりざらざらと人込みの中にある。
その、一角。
あまり人の通らない通りに面した。
あまり流行ってはいない……だろう喫茶店。
控えめな看板には、月影、とある。
それでも、この大晦日、終夜営業の札がドアのノブにひっかかっている。
時刻は、10時を既に半分廻っている。
一時間半だけ残った、『今年』。
否……………
譲 :(……いつまで『今年』が残るやら)
ふいと、そう考えてから苦笑して、ノブに手をかける。
譲 :「こんばんは」
声と同時に扉が開く。
マスターが、顔を上げて……
……その表情が、愛想笑いから苦笑へと変わる。
直人 :「……こんばんは」
譲 :「こんばんは」
今年……特に後半。
既に顔見知りになった青年が笑う。
譲 :「……確か、風音さんから連絡が行っていると思ったんで
:すが」
直人 :「聞いてますよ」
渋い顔のまま、言葉を紡ぐ。
直人 :「あまり、お勧め出来ないな、と思ったんですが」
譲 :「……今年一回やって、懲りたら来年は別の方法を考えま
:す(苦笑)」
カウンター席に座り込んで、苦笑した譲の前に。
珠希 :「はい、お冷やっ」
えらく威勢の良い声と一緒に、水を湛えたグラスが置かれる。
譲 :「あ、ありがとう(笑)」
この喫茶店に入り浸る……と言っても、主に軍資金の問題からさほどの回数
ではなかったのだが……ようになってから、すっかり顔馴染になったウェイト
レスの高校生が、えらい勢いでグラスをテーブルに置く。
譲 :「桜居さんも、今年はここで年越し?」
珠希 :「そーなるのかしらね」
譲 :(何だか意外だな)
珠希 :「……何よ」
譲 :「いや、別に(笑)」
何とは、なく。
珠希と、年末のバイトが結びつかなかった譲である。
直人 :「譲君、御注文は?」
譲 :「……えーと、珈琲お願いします。月島さんが美味しいと
:思うブレンドで(笑)」
直人 :「はい(笑)」
手慣れた様子で、マスターがコーヒーミルをまわす。傍らでもう一人、ウェ
イトレスらしき女性が、心得た様子で珈琲カップを用意する。
譲 :「……(ふむ)」
周囲を、見やる。
翔 :「直人、こっちも同じく」
直人 :「待て」
マスターと同じ年頃の男性。
そして、二人のウェイトレス。
譲 :(……ああ)
その、全てが。
譲 :(住人、か)
苦笑。自分の立場を思うと、それしか出来ない。
視線が……月影のマスターのそれとかちあった。
直人 :「……ああ、わかりますか」
譲 :「……はい(苦笑)」
優 :「どうぞ」
す、と、タイミング良く置かれた珈琲を一口飲んで。
譲 :「皆さん、住人なんですね」
視線が、譲に向かう。
静かに。
翔 :「と、言うそちらは?」
譲 :「僕は、狩人です」
好奇心。明るい黄色と緑のくねるリボンのような。
そこには疑問符はあっても、負の感情は無い。
譲 :「対の住人は、白鷺州風音さん……なので、彼女は今日は
:家にいるそうです(苦笑)」
翔 :「ってのが、わかるのか」
譲 :「はい、一応」
短く応えて、譲はまた珈琲を含む。
舌に、苦味が残った。
直人 :「…………あまり、歓迎したくはないんですが」
長身を少し屈めるようにして、言う。どこか透き通るような青い波が、彼の
両側から流れてくる。
打算抜きの、心配。
譲の口元が、ふと、ほころぶ。
譲 :「住人は、記憶が消えないまま……変化もそのまま、なん
:ですよね?」
直人 :「……はい」
譲 :「そして狩人は……元に戻る、と」
珠希 :「元に?」
譲 :「僕ら……いや、狩人は、記憶については普通の人と変わ
:らない筈だから」
穏やかな声に、珠希が細い眉を顰める。
珠希 :「その割に、なんで知ってるの」
主語も目的語もすっ飛ばした言葉だが、意味としては明白である。
譲 :「僕は……今年の初めに、風音さんから違和感を貰ったか
:ら」
珠希 :「違和感……」
譲 :「住人の持つ、違和感を」
ふうん、と、興味深そうに相づちを打ったのは、どうやらマスターと友人ら
しい男性である。
直人 :「…矛盾は、感じませんか?」
譲 :「あちこち矛盾出まくりですよ(苦笑)」
直人 :「……やっぱり(嘆息)」
住人が、ある程度積極的に関わった記憶は、普通人にも残る。当然ながら、
狩人達にも残る。
しかし、繰り返される1999年についての疑問は、彼等には、無い。
譲 :「風音さんと話している時の記憶は残っている。多分他の
:住人の人達との会話も、記憶としては残るんだと思います」
珠希 :「でも……今年は」
譲 :「1999年」
一瞬の遅滞も無く、応えが返る。
珠希 :「……変」
譲 :「うん」
苦笑は、変わらない。
譲 :「それに、今年についてだけは……住人のお陰で、違和感
:まで残ってる。これで年を越せるんだから、運が良い」
直人 :「………(疑わしげな目)」
譲 :「大丈夫ですって(苦笑)。まだおかしくなるには不足で
:すから」
珠希 :「なってからじゃ遅いわよ」
ぱん、と弾くように言ってから、しかし彼女はそこで、考え込むような表情
になる。
珠希 :「そっか。知識のある住人以外がどうなるか……それは譲
:君だけに起こるわけよね」
譲 :「うん、だから、今日ここに来たんだ」
翔 :「ふーん?」
譲 :「大晦日を月影で過ごして、来年…というか新年戻った時
:に、どのくらい記憶が混乱するかやってみたいと思って」
にこにこと笑って言ってのける。
マスターが静かに額を抑えた。
珠希 :「なんかそれ、言葉尻だけ取るとマゾっぽい(笑)」
譲 :「知りたいだけだよ。分からないことだから(笑)」
直人 :「……くどいようですが、お勧めしません」
譲 :「そうでしょうね(苦笑)」
直人 :「特に……譲君、受験でしょう、また」
譲 :「…………………(汗)」
直人 :「余計なこと覚えている分、必要なこと忘れたら、困らな
:いですか?」
譲 :「切実に困ります」
えらく真面目に、譲は受けた。
譲 :「というか……受験に限って言うならば、正確に去年……
:ええと、1999年に戻ってもらわないと困ります。受験英語
:なんて、綺麗に忘れたし」
珠希 :「問題、おぼえといてめもっとけば良かったのに」
譲 :「それは、考えた(大真面目)」
おいおい、ってな答えである。
譲 :「と、いうか………そうだ、月島さん」
直人 :「はい?」
譲 :「これ……」
鞄から、厚手のノートを引っ張り出して、直人に差し出す。
直人 :「これは?」
譲 :「僕の、今年の日記なんですが」
直人 :「……………」
譲 :「年を越してから、実家に送ってもらえませんか。住所は
:最後のページにありますから」
言われるまま、直人は最後のページをめくる。
かしんとした印象の文字で、確かに住所が書いてある。
直人 :「……って、これを?」
譲 :「月島さん、以前教えて下さいましたね。住人が関わった
:ことに対する記憶は残る、って」
直人 :「まあ、そうですが……」
譲 :「それで、試してもらえませんか。月島さんが持っただけ
:で、そのノートの中身が残るのか。それとも見る必要があ
:るのか、もっとはっきりと関わる必要があるのか……」
直人 :「………」
難しい顔のまま、直人が黙り込んだ。
譲 :「……すみません、変なことをお願いして」
口調こそ礼儀正しいのだが、依頼を撤回する気がないのもまた確かである。
譲 :「でも、それくらいは知りたいんです。今年は結局、僕は
:何一つ手伝うことが出来なかった」
苦笑。苦味の強い。
譲 :「来年……いや、僕にとっては今年なのかな?……どちら
:にしろ、僕が残せるのは、そういうことだけのような気が
:するから」
直人 :「………(嘆息)……わかりました」
譲 :「有難うございます(笑)」
2:カウントダウン
------------------
かちり、と、小さな音がした。
どうやら、壁にかけてある時計の針が、11時を回った際の音のようだった。
優 :「じゃ……(時計を見て)……もうそろそろ、準備を始め
:ましょうか」
珠希 :「りょーかいっ。譲君もそれでいいわよね?」
譲 :「それでって?」
優 :「年越しそば、なんですけど」
譲 :「(汗)……あ、はい、いいです」
何故喫茶店で年越しそばなのだろう、と、咄嗟に思って…ああそんなもんか、
と、次の瞬間納得する。
大きな鍋に水を張って、優が火にかける。
直人 :「それにしても……譲君は、実家に帰らなくて大丈夫なん
:ですか?」
譲 :「あまり大丈夫じゃありません(苦笑)。妹にえらい怒ら
:れました」
直人 :「……妹さんは……」
譲 :「今は、元気です」
明るい、けれどもそれ以上の追求を拒む、声。
直人は口をつぐむ。
1999年。
譲の妹は、入退院を繰り返すのだという。
一年かけて元気になり、そして家に戻り……
………そしてまた、1999年の始めの状態に戻るのだ、と。
一切の記憶はない、らしい。
そしてまた、譲からもその記憶は消えるらしい。
それでも尚。知ってしまったことは、残る………
優 :「何か、苦手なものはありますか?」
譲 :「いえ、ありません……すみません」
優 :「はい?」
譲 :「お手数おかけします」
優 :「いえ」
ふうわりと笑う。
それに笑みを返して。
ふ、と。
譲の表情がこわばる。
直人 :「何かありましたか?」
譲 :「いえ」
意識野の端を、かすめるように流れる……鋭い蒼の色。
鋭い悲しみの色。
譲 :(ああ……やっぱり)
対の相手の悲しみ。結界を張っていない今でも、やはりこれだけ強い感情だ
と感知できるようである。
直人が、不審そうに譲を見やる。譲の能力については、既に知らせてあるだ
けに……
譲 :「そういえば……他の住人の人達は」
直人 :「それぞれ自宅でしょうね。新木さんは高校生だし、鞍馬
:君は小学生だ」
譲 :「成程……ってあれ?」
直人 :「はい?」
譲 :「住人の人達は、ちゃんと年を取るんですよね?」
直人 :「……そうなりますね」
譲 :「とすると……新木さんには、追い越されるのかな?」
直人 :「え?」
譲 :「年齢……実際の年齢が」
げ、と、野菜を切っていた珠希が小さな悲鳴を上げる。
譲 :「……桜居さんは、まだ、追いつかないよね(苦笑)」
珠希 :「まだ、ね(汗)」
そういえば……と、直人と翔が指を折る。
翔 :「来年の四月で、本当なら高三か、珠希ちゃんは」
珠希 :「……言わないでっ(切実)」
譲 :(苦笑)
翔 :「直人。お前んとこの竜也も……幾つだ?」
直人 :「……………6歳(汗)」
二十歳を過ぎた面々だと、「年より少々老けて見えるかな?」で誤魔化せる
わけだが。
直人 :「もうそろそろ、問題だ……(滝汗)」
自分達だけが、時の流れに対し、きちんと反応している。
その……奇妙なずれ。
譲 :「でも正直、桜居さんが高校生に見えなくなる以前に、周
:りの皆がノイローゼになると思うけどな(苦笑)」
珠希 :「何でよ」
譲 :「住人に関わる記憶って、残ってしまう……そのうち、矛
:盾が高じてくるだろうね」
実際にそれを体験している人間だけが示し得る、説得力である。
譲 :「飛び飛びとはいえ、数年分の記憶なんだし」
珠希 :「……厭な言い方するわねー」
直人 :「だから、早急に何とかしなくては」
譲 :「住人の皆さんが、この時空の綻びの元になる……んです
:ね(にっこり)」
直人 :「……笑って言わないで下さい(嘆息)」
何度も何度も繰り返し、巻き戻しては再生されるテープのような一年。その
テープに傷を残し、歪みを生じさせる者達が……住人。
そして、住人を消滅させるために、対として生じる存在が……狩人。
譲 :「……笑っている場合では、無くなるかもしれませんね」
いつまで、この繰り返しが続くのか……………
優 :「お蕎麦、出来ました」
明るい声が、淀みかけた空気を破った。
翔 :「お、頂きますっ」
直人 :「譲君もどうぞ……優さんと珠希ちゃんも、もう多分お客
:は来ないから」
譲 :「頂きます」
時折、それでも譲の目は壁の掛け時計に向かう。
時計の秒針は、ひどく綺麗に弧を描いている。
『今年』は、あと半時間を切っている。
譲 :「あ、美味しい」
翔 :「優の作ったそばは旨いなぁ」
誉め言葉に、優が少し照れたような笑みを浮かべる。
ぼんやりと、淡い紅の光。
あまりに、普通の…………
譲 :「……っと」
直人 :「?」
優 :「あ、七味、使われます?」
譲 :「……いえ(苦笑)」
自分から跳ね飛ぶ、どす黒い恐怖の稲光。
気がつくのは、そういえば自分のみ……と。
気が付いて、譲は苦笑する。
時計はやはり、滑らかに動いている。
時もやはり、滑らかに流れている。
彼らは、残る。
自分は、戻る。
……その、奇妙さ。
直人 :「……譲君?」
譲 :「はい?」
直人 :「大丈夫ですか?」
大丈夫です、と、言いかけて、譲は苦笑した。
譲 :「……正直、恐いですね」
自分が行ったこと。
自分が頑張ったこと。
自分が残してきたこと。
それら全てが消えること。
譲 :「皆さんの今年は、確実に残る。僕の中にも多分残る」
直人 :「……ええ」
譲 :「僕の一年は、どこに残るんだろう」
時計の針は、やはり滑らかに動く。
途絶えると、思う自体嘘であるように、滑らかに。
滑らかに。
そして『今年』はどこかへと消える。
譲 :「……すみません(苦笑)」
一礼して、譲は箸を持ち直す。
『今年』は既に、あと15分しか残らない………
翔 :「そのそば残して戻ると、もっと悔いが残るぞ」
譲 :「本当ですね(笑)」
実際、蕎麦は美味しかった。
譲 :「ご馳走様(礼)」
箸を揃えて。
あと数分の、時計に目をやり。
視線を戻して……月影のマスターが、やはり時計を見ていたらしいことに気
付く。
譲 :「受験が終わったら、また来ます」
直人 :「待ってますよ」
結構、切実ではある。
志望校に受からない限り、譲は東京に来ることはないのだから。
珠希 :「頑張ってね」
譲 :「有難う(笑)」
意識のどこかに、やはり対の相手の心を見ながら。
未来が、途切れている。
未来が………見えない。
恐怖もある、不安もある。
けれどもそれ以上に、鈍痛に似た哀しみ。
残るものも、かなしいのだ……と………
秒針が、回る。
譲 :「じゃ、また(笑)」
言い終わって、笑った顔のまま。
譲は、ふつり、と消えた。
3:そして新年
--------------
そして。
不夜城のざわめきが、今までに増して高まる。
月影に残ったのは、四人。
珠希 :「……戻った」
箸が揃えられた、丼はそのまま残っている。
座っていた椅子に、けれども温みは残っていない。
直人 :「……戻りましたね」
ぽつり、と。
3度目の、1999年を迎える声。
同時にそれは、消えてしまう2度目の1999年を弔う声…………
珠希は、ぐっと右手を握り締めた。
珠希 :「……こんちくしょー」
3度目の1999年が始まる。
時系列
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2回目の1999年の年末から、3回目の1999年のはじめ
解説
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去る者と、残る者達と。
厳然として、その事実は存在しつづけます。
その事実があまりにもはっきりと見えてしまう日の風景です。
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であであ。