[KATARIBE 19664] [HA06N] 小説『理解』

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Date: Sun, 18 Jun 2000 23:05:40 +0900
From: k-sasaki@tg7.so-net.ne.jp (k-sasaki)
Subject: [KATARIBE 19664] [HA06N] 小説『理解』
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こんばんわ〜。
ぼ〜みんですうぅ〜。

火撫の異能が覚醒したシーンを書いてみたのはいいのですが……。
むぅ。重い……。

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小説『理解』
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 そのとき、母親が言ったことを火撫は決して忘れない。

 誰にでも虫の居所の悪い日はある。職場で何か気に喰わないことでもあった
のかもしれない、その日の母親もそうだった。
 夜、塾から帰ってきた火撫のちょっとした言葉に反応して機嫌が更に悪くな
り、説教になった。勉強に関することだったと思う。それがどんな流れだった
のかはよく覚えていない。ただ、一字一句間違えはない、確かにこう言ったの
だ。

「左手と一緒に脳みそまでなくなっちまったのかい?!」

 まず、耳を疑った。意味を解するのに、暫しの時間を必要とした。その言葉
を頭の中で反復した。

(左手と一緒に……)

 目の前が真っ暗になったような気がした。暗闇の中から、心をえぐった言葉
の数々が次から次へと流れ出てくる。悪意のある言葉、ない言葉。どちらにし
ろ、それが火撫にとって鋭利な刃物であったことには違いない。

 「赤ちゃんの手ぇみたいっ! ほらほら、あの人の手、おもしろいんだよぅ
わぁっ、お化けだっ、気持ち悪ぃ〜ねぇ、見せてよ、あの変な手っ! うるせ
えっ、指無し人間!……」

 意識が混濁する。

(俺は……、俺は好き好んでこんな手に生まれてきたんじゃない……。みんな
と同じ手を、普通に機能する指を、何故……どうして、俺には与えられなかっ
たんだ!?)

『パリン』

 頭痛とともに、何かが壊れるような音が耳の内側から聞こえてきて……。

 母親が横に跳ね飛んだ。

(……?!)

 同時に部屋の電球が割れた。

(なっ……!)

 台所から食器の割れる音が聞こえてきた。

(何だ、この感じは……)

 襖に大きな穴があいた。

(俺が、俺がやっているのか?)

 本棚から書物が………。

(俺が?!)

 壁が音を……。

(や、めろ……!)

 窓ガラ…。

(もうやめろっ! やめてくれーーーーーーーーっ!!!)

……………………………………………。
…………………………………。


「そらまーさ、今考えてみりゃ、あの言葉が左手の事じゃぁなくて、俺のすっ
かすかの脳みその事を言ったんだってこたぁ分かるさ」

 手にはついさっき自動販売機で買った「あったか〜い」烏龍茶。夜道を歩き
ながらブツブツ呟く。

「そーだとしても、自分の子供の一番気にしてること言うか? フツー」

 どう見ても「ヤバい奴」としか言い様がない。真夜中だったから、すれ違う
人もいなかったが。

「それなりにショック受けたぞっ。なんだか頭も痛いし! もしこれで俺の頭
が悪くなったらどうしてくれるつもりだ、まったく! これ以上悪くなりそう
もないところが悔しいけどさっ」

 まだ熱い烏龍茶をむりやり喉に流し込む。普段だったらとても飲めたもんで
はなかっただろうが、かなりヤケクソになっていたようだ。

 あの後ふと我に帰った火撫は暫し呆然としていたが、倒れている母親の手当
てをした。気を失ってはいたがこんなことでへたばるようなヤツじゃないと、
かなりいい加減に決めつけて布団の上に寝かせておいた。散らかったものを適
当に片付けていたが、気分が良くなかったので散歩に出てきたのである。

「…………」

 自分を最も理解していると信じていた母親があんな言い方をするとは思って
もいなかったのだ。寄りかかっていた壁が突然消え去ってしまったような、そ
んな気分だった。

(……他人にはわからないってことか。いくら親だって学校でのことなんか知
らないもんな。それがどんなに辛いかってことも。他人を、理解することなん
かできないんだな……)

 独りで考えているうちに悲しい結論に行き着いてしまう。
 家から歩いて七、八分のところにある小さな公園。烏龍茶の最後の一口を飲
みながら、ふらりとその中に入る。

「それにしても……、どうしてこんな事になっちゃったんだろうねぇ」

 飲み終えた烏龍茶の缶を軽く放り投げる。それを目で追いながら軽く意識を
傾けた。空き缶は放物線の軌道の途中で手に叩かれたかのように逸れ、本来落
ちるべきであろう所から5mほど離れた地面にカランッと転がった。家中が壊
れた時のあの感触、気のせいではなかったのだ。

「………はぁ」

 ひとつ溜息をついてから、再びその空っぽの缶を見る。普通に、ごく普通に
拾うのと全く同じように、手だけを伸ばす。火撫は地面に転がっている缶を拾
い上げると「缶専用」と書かれたカゴに放り込んだ。存在しないはずの左手の
感覚が確かにある。自分の意志のままに動き、伸び縮みする『見えない手』の
感覚が。

「これじゃぁ、ますます……」

 ぽつん、と呟きながら近くのベンチに腰掛ける。頭の痛みがいっそう強くなっ
たような気がした。

「………………………………」

 ひゅう、と風が吹いた。夜の風は突き刺さるかのように肌寒かった。

時系列
------
 1993年(火撫、中学ニ年生)のある日

解説
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 火撫の異能覚醒小説です。

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 どんよりと重くなってしまいました〜。
 ごめんなさい〜。
 彼にこんなことがあったんだよ、というお話でした。
 内容について、なにかありましたら遠慮なく言って下さい。

 そんでわ〜っ☆
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 ぼ〜みん
 E-mail : k-sasaki@tg7.so-net.ne.jp
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