[KATARIBE 19612] [MM] 『決意』

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Date: Fri, 16 Jun 2000 17:40:06 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19612] [MM] 『決意』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200006160840.RAA98117@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 19612

2000年06月16日:17時40分06秒
Sub:[MM]『決意』:
From:久志


 久志です。
あーいいタイトルがおもいつかないよー

 というわけで霙の街です。
設定的におかしいとこあったらどんどんつっこんでー(^^;)>ふかにゃ

 時期としては、1996年の一月後半を予定してます。
京都政府と名古屋政府の停戦が三回目に破られたあたりの頃という風に
考えてます。新潟共和国とも様子見ってあたりでしょうか。

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小説:『決意』
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 あれから、随分と考えた。
 空爆の日から一年。
 関東地方一帯は近寄ることもできない死の世界になり、あの人の生存
はもう絶望的だった。母さんは混乱の時に起こった銃撃戦に巻き込まれ
て死に、融は兵役を嫌い恋人と逃亡した。そして、父さんは一人母さん
の後を追って逝った。

 人は適応する。

 あたし一人、叔母さんと一緒に細細と家の手伝いをし、足を悪くした
お祖父さんに代わって配給の食べ物をもらいにいき、空いた時間で急造
の作業所で軍用の防寒服を繕っている。そんな生活にも今は随分慣れて
きた。

 一針。
 分厚い防寒服の生地を縫いあわせる。

 まだ、ここのあたりは比較的平穏だが、ここの所また情勢があやしく
なっているらしい。この間の予備警察隊の追加徴用もつい先日の停戦決
裂の関係で、国境の監視を強化する為のものだという。

 新潟政府とはまだにらみ合いが続いているらしいね。

 ふと、交わされる言葉のおかしさに苦笑が浮かぶ。
 新潟人民共和国、そんな莫迦げた呼び名にももう違和感を感じなくな
ってきていた。

 京都政府、新潟人民共和国、名古屋政府。
 そういえば高校の修学旅行は京都だったっけ。新幹線じゃなくて夜行
列車、なかなか寝つけなくて一日目の行動はみな寝ぼけ顔だった。
 新潟は母さんの実家があって、はじめて帰省した時に融とかまくらを
作って遊んでいたのをよく憶えている。新潟のお祖父さん達はどうして
いるだろう。

 うちの子は金沢にいくことになるらしいね。

 ぼんやり聞いていた会話の途中。

「金沢?」
「ああ、今度の徴用で春頃には金沢に配属されるらしいよ」

 金沢にはあいつがいる。
 あいつは無事でいるのだろうか。

「また、ごたごたが起こるのかねぇ」
「春になって新潟が動くのを牽制するんじゃないかね」
「停戦がやぶられたばかりだっていうのに……」

 繰り返される会話、いずれも明るいものにはなり得ない。

 金沢。

 今度の徴用で金沢に配属されるかもしれない。しかしいくら予備警察
隊が人手不足といえ、採用してもらうのは無理かもしれないが、金沢に
向かうからには予備警察隊以外で雑多なことをこなす者が必要になるは
ずだ。

 止まっていた手を動かし、一針、一針縫い付けていく。

 あたしの心は決まっていた。


 仕事を終え、一人、部屋の鏡台の前に膝をついた。

 髪をくくっていたゴムを外し、頭を振った。背中まで伸びた髪がばさ
りと両肩を覆った。適当に左手で一掴みした束に挟みをあてる。

 じゃきっ

 握った髪は自分の予想以上に多かった。そのまま、一束、もう一束、
と切った髪を鏡台の上においていく。手元が狂って二・三左手の指から
血が滲んでいた。

 金沢にいったところであいつに会える保証はどこにもない。
 あいつのいる所がどこかもわからない。

 けれど。

 会いたい。
 誰でもいい、あたしを知っている人に会いたい。生まれて二十数年、
あたしが出会った人達に会いたい。お祖父さんもお祖母さんもとてもい
い人だけれど、叔母さんもあたしに優しいけれど、今あたしに必要な人
とは違う。


 お祖父さんも叔母さんもあたしが予備警察に志願するという申し出に
何も言わなかった。お祖父さんは黙って、自分が以前持っていた分厚い
コートを手渡してくれた。叔母さんは小さく微笑んで「元気で」と言っ
てくれた。お祖母さんはやせ細った手で何度もあたしの手をさすりなが
らかすかに泣いていた。

 


「それじゃあ、叔母さん」

 家を出る日、叔母さんが玄関で見送ってくれた。

 結婚してすぐに夫を亡くし、再婚することもなくずっと一人だった叔
母さん。実家に遊びにきたあたしや融をとても可愛がってくれていた。
 子供好きだったけど、ついに自分の子供に恵まれなかった叔母さん。
今となっては、その方が幸せだったのだろうか?

「気ぃつけてね、陽ちゃん」
「ありがとう、叔母さん」

 手にした荷物は小さいくせに随分と重たかった。

 あたしが行く先はあたしが決める。
 そう、決めた。
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いじょ

 年表片手に書いてみました。
しかし、フルネームが未だに出てこない人だった(笑)



    

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