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Date: Thu, 15 Jun 2000 01:40:20 +0900
From: gallows <gallows@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 19562] Re: [HA06P] 防衛本能と羊の群れる花
To: kataribe-ml@trpg.net
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gallowsです。
さくさくっと完成版流します。
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エピソード『防衛本能と羊の群れる花』
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登場人物
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比企玉緒(ひき・たまお) :自らを苗床に花を育てる怪奇の女子高生。
末夜雅俊(まつや・まさとし):仙人見習いな吹利大学研究員。春は朦朧ぎ
:み。
本編
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早朝。細い路地にゴミが積み重ねられている。表の繁華街もこの時間となる
といるのはカラスばかり。ましてこのような路地にいるものなど。
末夜はふらふらと酔いさましに歩く。昨晩は飲みすぎた。研究部の新歓とや
らで、飲みつけない酒を飲んだのはまずかった。ましてその後、実験室にもど
っ
たのは。目覚めてみれば遠い頭痛。夜明けまえの涼しさをもとめて、ふと街に
出た。表通りでカラスの鳴く声が聞こえるが、すぐに静寂に包まれる。そして
軽い耳鳴り。
末夜 :「静かだな」
積み上げられたゴミの上で少女が眠っていた。黒いカーディガンにスカート。
そして……
末夜 :「……ふむ」
花が生い茂っていた。少女のまだ若いはずの肌が水気を失い、微かにかさつ
く。そしてその花々は服の隙間から顔を出し咲き乱れる。おそらくは少女を苗
床にして咲いていることに気づき、末夜は動揺する。
末夜 :「眠れる森の……というところだが。
:なにかこの花粉は…………纏うな」
甘い匂いのする花粉。酔いはさめてきたはずなのだがその一方で意識が微か
に朦朧とする。末夜は頭を振り、花を一輪採る。見覚えのある花。昔図解で見
た記憶がある。その主体は二つに分かれた根であったが。
末夜 :「古い、受刑者の死体から生えるという……?」
魔女達の植物マンドレイク……
末夜 :「まさか、な」
彼女は死んでいるのではない。眠っているだけだ。だがなぜこんな処で眠っ
ているのだろう。そして花はどこから咲いたのか。
末夜 :(共生しているようにも見える。あるいは、極端な話、彼
:女の一部ということもある)
考えたところでわかる訳もない。
様々な仮説を立てている内に末夜は緩やかにまどろみに堕ちていく。足から
力が抜け、崩れ落ちる。あるいは既に、思考の段階で。
少女、玉緒の左目だけが見開かれた。左目は本人の意識と無関係であるかの
ようにぐるぐると周囲を見回し、そして玉緒に寄り添うように眠る男を見つけ
る。見つける。
そして再び目蓋は閉じられた。
夢と現実の狭間の場所で、末夜は思考しつづけている。体は静かに、花の中
に横たわっている。やすらかに寄り添って眠っているようにもみえる、その眺
めだった。
末夜 :「……これは。君は……?」
唇が小さく言葉を紡ぐ。
少女は寝息を立てたままだ。
末夜の手に握られた一輪の花が、静かに、這うように根を伸ばす。末夜は全
身から力が抜けていくような気がした。まるで冬虫夏草に寄生された虫のよう
に。わずかに血の玉が、肌に浮かび、そして消える。
細いほそい毛根が、血管の中をすすむ。末夜は奇妙にここちよい、夢をみる。
死者のように色白の、けして笑わない少女の夢。
少女に顔はない。ただ花のイメージばかりが鮮烈で。
少女に足はない。末夜の視線がそこに向かうことは決して無いが。
末夜はただ微笑をうかべながら、少女の細い肩に手をよせた。絹のように白
い肌は、夜気と同じく、滑らかで冷たい。
『誰?』
『僕は……』
そうだ、自分の名は。
静かに、意識が浮かび上がる。
目を覚ますと少女が上半身を起こし、無表情にこちらを眺めていた。
玉緒 :「誰?」
末夜 :「ここは……?」
手足の先から、夢の残滓が抜けていく。
あの甘くしびれた感覚を、名残惜しく思う。
花も全て消えている。アレも夢だったのだろうか。
ふと、手を見る。
花びらが一枚、手の中に握られていた。
時系列
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2000年5月
解説
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末夜は、早朝のゴミ捨て場で、幸か不幸か散歩中に二度寝してしまった比企
玉緒と遭遇する。しかし全ては朦朧とした意識の中、玉緒が何事もなかったよ
うに去ってしまい、出会いは夢うつつの中に終わる。
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