[KATARIBE 19544] [HA06P] エピソード『運不運』

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Date: Wed, 14 Jun 2000 21:06:19 +0900
From: kazuki <aaq45040@hkg.odn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19544] [HA06P] エピソード『運不運』
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 軍光一@じつはじつわなんです です。
 日常の中に遭遇した非日常の片鱗です。

 麻樹さんお借りしました。ふかにゃよろしく。
 あと、道路の名前とか、細かいところは修正しないといけないかも。

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エピソード『運不運』
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登場人物
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 西夜一輝(にしよる・かずき):紅雀院大学総合歴史学科助手。
 来栖せら(くるす・−):西夜に撃墜された天使。
 狭淵麻樹(さぶち・まき):吹利県立吹利中央病院研修医。

本編
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 機械的な電子音で目が覚める。

 西夜     :「???」
 
 薄暗い部屋の中、手探りで携帯電話を探す。見慣れない風景。

 西夜     :「ああ。そういえば」

 いつものように麻樹さんの家を訪れた後、頭痛と発熱で気分が悪くなり、少し

寝かせられていたのだった。かけてもらっていた毛布を外し、携帯を取る。

 西夜     :「もしもし」
 来栖     :『もしもしっ。無事?』
 西夜     :「なにがだ?」
 来栖     :『えっと、今どこ?』
 西夜     :「麻樹さんちだが?」
 来栖     :『心配かけるんじゃない!お莫迦っ!』
 西夜     :「貴様に莫迦と言われる筋合いはない」
 来栖     :『じゃあねー。あ、それから一応ニュースを見ていた方が
         いいよ』

 一方的にかかってきた電話は一方的に切れた。頭痛が更に酷くなった気がす
る。
 一応テレビをつけてみる。

 アナウンサー :『さて、今日のデーゲームの結果ですが……』

 ドラマや小説のテレビのニュース番組は、なぜ電話で知らされたときにつける

と最初からそのニュースについて解説してくれるのだろう?
 ふらつく頭で周囲を見る。時計は6時20分ぐらいか。遅くなってしまった。

 テーブルの上に置き手紙。
『呼び出しがかかったので病院へ行く。安静にしていろ。 麻樹』
 視線をずらすと、白い包みと添えられた紙が目にはいる。
『具合が悪いなら飲め。但し、眠くなるから車の運転はするな』
 包みを開くと、独特の匂いのする粉末がある。漢方だろうか?
 熱は計ってみないと分からないが、相変わらず頭痛はする。ありがたく薬を頂

くことにする。
 コップに水をくんで、薬を飲み下す。粉が口の中に張り付く感覚。苦い。
 忠告通りの眠気が、すぐにやってきた。
 ぽて。

 人の気配で目が覚めた。時間は既に深夜のようだ。

 麻樹     :「目が覚めたか。具合はどうだ」
 西夜     :「ええ……だいぶ良くなりました。お世話をかけました」
 麻樹     :「気にするな」

 兄貴に較べれば云々、という呟きが聞こえたような気がした。

 西夜     :「そういえばなにかあったのですか?」
 麻樹     :「知らないのか?」

 日本酒の瓶と、コップを二つ取り出しながら麻樹さんが続ける。

 麻樹     :「17号線沿いの薬品工場で爆発事故があってな……死者
2名。行方不明者2名。50人ほどの重軽傷者が出て、周囲の家屋もだいぶ被害

を受けたらしい」

 麻樹さんがコップを差し出す。大人しくそれを受け取りながら、尋ねる。

 西夜     :「17号……帰り道だな。いつ頃ですか?」
 麻樹     :「ん?確か午後6時10分頃だったかな?」

 コップがするりと手から落ちる。テーブルにあたり、堅い音がする。

 西夜     :「……時間通りに帰っていたら……」

 巻き込まれていた。
 血の気が引く、というのを実感する。
 麻樹さんがコップを拾い、日本酒を注ぐ。

 麻樹     :「結構多いんだよな、そういうこと」
 西夜     :「え?」
 麻樹     :「運不運、としか言いようのないことさ」

 そう。
 事故の原因とか、安全管理とか、因果関係をあげればきりがない。
 しかしたまたま居合わせ、たまたま巻き込まれた人にとっては、それは運不運

としか言いようがなかった。
 そう。
 そういうことはたくさんあった。
 自分の手の届かぬ所で、自分のあずかり知らぬ所での因果関係で、運不運とし

か言いようのない、受け入れることしかできない出来事。

 麻樹     :「飲もう」

 日本酒のコップが差し出される。

 麻樹     :「君の幸運に」
 西夜     :「麻樹さんの休日出勤に」

 苦笑。
 受け入れよう。受け入れるしかないなら。
 感謝はしない。不幸を踏み台にした幸運に感謝はしない。
 ただ、受け入れるだけ。
 そして、日常が続くのだ。

時系列
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 2000年6月。

解説
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 マスコミを賑わす事件というのは、どこか現実離れしているものですが、自分
がそれに
遭遇する可能性というのはあるものです。
 運不運の狭間の中で。

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 この後飲めない酒を飲んでどーとか、帰り道がケミカルハザードでこーとか
色々あるのですが、まずはこの辺で。 

    

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