[KATARIBE 19478] [HA06P] エピソード『探人探書』

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Date: Sun, 11 Jun 2000 22:31:38 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19478] [HA06P] エピソード『探人探書』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200006111331.WAA96360@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 19478

2000年06月11日:22時31分38秒
Sub:[HA06P]エピソード『探人探書』:
From:E.R


 こんにちは、幽霊@E.R です。
 吉GUYさん、こんにちは。

 以前からかなり懸案(自分的に)だった、この始末。
 吉武さんお借りしました。

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エピソード『探人探書』
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登場人物
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 金元吉武(かなもと・よしたけ):

本文
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 某日。
 昨日の雨は一応上がってはいるものの、天はまだ重い灰色を残している。
 朝練から部屋に戻ろう…として。

 吉武     :(?)

 郵便受けに、斜めに突き刺さる紙袋。
 茶色の……

 吉武     :(?)

 郵便の小包、ではない。時間が早すぎるし、第一この包みには住所も宛名も
書いてはいない。きちんと包まれてはいるものの、包みの紙自身もさほど厚手
のものではない。言わばこれは……

 吉武     :(本屋の紙袋)

 薄手の茶色の袋。口はセロハンテープで半分ほど止められている。後の半分
から覗いているのは。

 吉武     :「……!」

 その正体に思い至って、吉武は郵便受けから包みを引っ張り出す。
 その大きさ。覗いているカバーの色。そして薄手の紙から透けて見えるのは。

 吉武     :(あの本だ)

 半年ほど前に、偶然入った本屋で見つけた本。所持金の問題でさんざ迷って
いたところを予約扱いにしてもらったまま……。
 ……数ヶ月前に、あの本屋は、閉店したのではなかったか。
 丁寧にセロハンテープを剥がし、中の本を引き出す。

 吉武     :(間違い無い)

 と、半拍後れて、するりと本から落ちかけたものがある。
 すう、と空を滑りかけたのを、吉武の手が捕まえる。

 吉武     :「………」

 レポート用紙を半分に折ったもの、一枚。
 開いてみる。

『拝啓
 以前、ご予約頂きました本を、お送りいたします。
 当方、今暫く閉店することとなると思われます。
 ここにこうして置いておくよりは、お手元にありますほうが、
この本も、本望であるかと思います。
 不躾ですが、お送りさせていただきました。
 宜しくお願いします。

            書店 瑞鶴』

 吉武     :「……………」

 右上がりの、規則正しい文字。
 誰の手になるものかは…わからない。
 本を抱えたまま、吉武は踵を返した。


 記憶している書店まで、さほどの距離ではない。
 朝早い商店街は、人気もまださほどなく、店の殆どはシャッターを下ろした
ままである。しかしそれとは別に、書店瑞鶴のシャッターは、どこか埃を被っ
たまま、かなり長いことそのままであるのが見て取れた。
 シャッターに貼りつけた、手書きの張り紙もそのままに。

 吉武     :「………」

 手もとの書きつけと、張り紙の文字を見比べる。
 似ているようでもあった。また、似ていないようでもあった。
  
 と……

 どう、と、どこか鈍く風が吹いた。
 細かい霧のような雨が降りかかる。

 吉武     :「………」

 上着で、本を庇う。
 そして……そのまま、また方向を変えた。

 灰色の曇天は、なおなお重くのしかかる。
 今日もまた、晴れそうに無い。

 本格的な梅雨に、入ろうとしている。


時系列
------
 2000年6月。梅雨宣言のあった頃の早朝。

解説
----
 吹利の街ならではの、奇譚…でしょうか。
 本の湧く書店、瑞鶴。そこから誰がどうやって、吉武の手元に本を届けたの
かは……恐らく永久に謎のままです。

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 いじょ。
 …受け取って頂けますか?(苦笑)>金元氏

 ではでは。



    

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