[KATARIBE 19443] [WP01P] エピソード『緩急自在』完成版

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Date: Fri, 9 Jun 2000 12:55:23 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19443] [WP01P] エピソード『緩急自在』完成版 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200006090355.MAA94183@www.mahoroba.ne.jp>
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2000年06月09日:12時55分22秒
Sub:[WP01P]エピソード『緩急自在』完成版:
From:E.R


 こんにちは、幽霊@E.Rです。
 一応、こういう風に手直ししてみました。
 一応(あくまで)完成版ですが…

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エピソード『緩急自在』
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登場人物
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 八島小次郎(やしま・こじろう): 
    :終末の狩人。侠児を父の仇として追う。異能は影とその実態を切断 
    :する"斬影" 
 青天目譲(なばため・ゆずる):
    :終末の狩人。白鷺州風音の対。強力なエンパシー能力者。

本文
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波動
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 たとえば、空気を大きく揺るがせる風のように。

 譲      :「……?」

 きいん、と、その始まりを彼は、可聴域外の音として捉える。
 結界、と。
 名を知ったのは、さほどの昔ではない。

 譲      :(だれだろう?)

 そこに伴う感情は、月影などで出会った人々のそれとは、かなり違う。
 若い。
 未熟さも無責任さもそれゆえの鋭さも含めて。

 譲      :(……っても、僕と大差ないのか(苦笑))

 鋭く光る、刃のような憎しみ。そしてうっすらと同期して流れる自信。
 そして…恐らくは他者の、軽蔑?

 譲      :「…………」

 帝都。昼。
 アスファルトに跳ね返る陽射しのせいか、初夏だというのに体感気温はやた
らと高い。
 歯に軋むような、薄黄色い…怒りの波動。 
 それに絡み付く、深群青色の、やはり怒りの波動。 
 二つの波動は、互いに組み合わさるでもなく、ただきしきしと流れてゆく。

 譲      :(行って見るか)

 偶然休講が重なっての半日休み。レポートを書くための資料として本を借り
たはいいが、用語が英語でわからない。さあでは用語辞典を買いに行こう…と
いう、一応万人向けの言い訳と共に本屋に向っていた譲は、あっさりと進路を
変更した。
 結界を張るもの。そして、二人分の感情。
 ということは。

 譲      :(住人と、狩人…か)

 つきん、と、頭の右の奥が痛む。細い針で縫うように。

 陸橋の下、と、方向を見定める前に。
 激痛。視界の斜め前方、頭蓋の内側に釘で大きく引き裂くような。

 譲      :「……っ」

 慌てて感情を遮断した、と同時に。
 ふっと、結界が消えるのがわかる。そして……

 ??     :「(畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生………)」

 火花のような痛み。譲を引きずり込むような…
 ………それでいて、どこかしら、負けを悟ってしまったような…
 己が望みの、今は叶わぬを知ってしまった者の、それは感情。
 譲は無言で足を速めた。


偶然
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 足音。
 確実にこちらに向ってくる足音に、小次郎ははっとした。
 敵意、害意、その他負の感情はそこには無い。が、それを感じ取るだけのゆ
とりは、現在の彼には無い。

 小次郎    :「……(畜生っ)」

 動く右手で上半身を支え、起こそうとした…時に。
 りいん、と音が響いた。

 小次郎    :「?!」

 円く広がる、薄い膜。青銀の色は一瞬だが彼を透過し、そして周囲から彼を
隔絶する。
 向こうから来る、もう一人を除いて。

 譲      :「大丈夫?」

 小次郎と大して背格好は変わらない。一見してわかる穏やかな顔立ち。視線
は自分の方に向っている。

 譲      :「無理しないほうが良いよ。とりあえずまわりからは見え
        :ないから」
 小次郎    :「……(こいつ…)」

 敵意と不審をはっきりと視線に込めて、小次郎が相手を睨みつける。
 視線の先で、彼よりも数歳上の青年は、笑った。

 譲      :「…大丈夫だよ。僕は敵じゃない。回復したら、ここから
        :出すから…大丈夫」


癒心
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 おやおや、と、正直譲としては思ったものだ。
 顔立ちのきちんと整った、恐らく高校生男子。痛みの波動を撒き散らしなが
ら、それでも上半身を起こした…のには、それなりに感服したものだが。

 譲      :(ここで、こんな格好してたらなあ)

 善人ばかりがいるわけではないのは、この帝都でも他でも、同じなのだろう
けれども。
 鋭いほどの、敵意と、誰何の念。

 譲      :(仕方ないか)

 嘆息交じりの声は、小次郎には勿論届かない。
 敵意の、薄緑色の波動。それをそっと『押す』。波動を打ち消す方向に、軽
く感情を打ちこむ。
 そして、放つ。安堵と、当座の信頼。
 すう、と、少年の表情が緩む。

 小次郎    :「……あんたは、誰だ?」
 譲      :「…青天目譲。君と、多分似たような立場にいる者だと思
        :うよ」
 小次郎    :「俺と……?」

 未だ狩人としては未熟である彼にとっては、この言葉はある誤解へと向かい
かねない言葉である。

 小次郎    :(まさか、こいつも…)

 侠児を仇と思う一人なのか、と、考えかけた一瞬。

 譲      :「あ、君が戦ってた人は、僕にとっては知らない人だから」
 小次郎    :「?!」

 タイミングは上々。
 
 小次郎    :(こいつ、心を…っ?)
 譲      :「危ない」

 無意識のうちに、身を引いたのが悪かった。がく、と、体重をかけていた右
の手が崩れる。同時に体中が悲鳴を上げる。
 軋むような痛みを実感する前に、手が伸びた。

 譲      :「……かなり、やられたんだなあ…(苦笑)」
 小次郎    :「……お前っ」
 譲      :「心身ともに(苦笑)」

 相手に向う筈の敵意と怒り、そして心を読まれる可能性への羞恥や苛立ち。
 それが、すう、と…
 溶ける。

 譲      :「説明に困るんだけれども…僕は君の敵じゃない。そして
        :君の敵の敵でもない…多分ね」
 小次郎    :「…何の、ことだ」
 譲      :「今年は、何年?」
 小次郎    :「………1999年」
 
 唐突な問いに、思わず答える。相手はまた笑った。

 譲      :「じゃあ、君は狩人だ」
 小次郎    :「…狩人?」
 譲      :「…うん…」

 さてどうしよう、と、譲は内心腕組みをする。彼自身が既に、現在を1999年
と見なしている。風音の言葉を信じてはいるものの、言わば感覚の上で、今を
1999年としか見ることが出来ないのだ。
 丁度、今日の次に明日が来ない可能性も世の中にはあると知っていても、寝
るときにはごく当たり前に目覚ましをかけるように。

 譲      :「僕だと、説明はうまく出来ない…新宿の喫茶店、月影と
        :いうところに行ったらいい。そこでなら何かを教えてくれ
        :る」

 穏やかな、笑み。

 小次郎    :「月影……」


無窮
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 踏みつけられた痛みは…少なくとも腕からは抜けたようだった。

 譲      :「じゃあ、結界を解くよ」
 小次郎    :(頷く)

 ポケットから五つの鈴を取りだし、一つ振る。りいん、と音は何故か青銀の
壁から鈴を目掛けて走り、すう、と中心へと収束した。

 喧騒。そして、日の光。

 譲      :「帰れるかい?」
 小次郎    :(頷く)

 帰る、と言って良いものかどうか。
 一瞬のためらい、そして深いところでくすぶるやり切れなさ。

 譲      :「そうだ、名前、訊いていいかな」
 小次郎    :「………八島小次郎」
 譲      :「小次郎君か……」

 君呼ばわりされる筋合いは無い…と、一瞬言いかけて、流石に止める。むっ
としないではないが、助けてもらったのは確かである。

 譲      :「一つ、これはまあ、お節介覚悟の忠告だけど」

 ほぼ同じ高さからの視線。穏やかな筈のそれに、小次郎は一瞬たじろいだ。

 譲      :「怒りのままに、走ったってどうしようもない。怒りは必
        :要だし、使い様によっては役に立つ。でも今の君だと」

 にこにことした表情から、一閃。

 譲      :「君がその怒りに引きずりまわされている」
 小次郎    :「………貴様…っ」
 譲      :「見間違えるな。君は、どこにいる?」

 つい、と指を伸ばす。相手の眉間へと。

 譲      :「怒りも、憎しみも。君が使うものだ。君が利用するもの
        :だ。利用されていては駄目だよ」
 小次郎    :「………っ」

 右手を握り締める。その様を譲は苦笑しながら眺めていたが。

 譲      :「…という、忠告を聞けないのが、若い証拠だからまあ仕
        :方が無いんだけどね」
 小次郎    :「…貴様あっ」
 譲      :「僕も、ついこの前までそうだったようだから(苦笑)」

 さらりと。
 その一言で、小次郎の怒気が行き場を失う。

 譲      :「じゃあ」

 その一瞬を突いて、いともあっけなくそう言うと、譲はそのまま踵を返した。

時系列
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 3rd.1999 エピソード『結界戦闘』の直後。

解説
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 互いに狩人ではあるが、能力も立場も異なる二人、八島小次郎と青天目譲の
出会いの光景です。
 
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以上。
吉GUYさんのご指摘の部分の訂正と。
ごんべさんの一言からの訂正とを加えています。
……てか(^^;;;;;
「喫茶月影」って読んで、うわあああああっと(汗)
…新宿で、「月影」だけでは多分、行き付けないだろうなあ(汗)>小次郎君
というわけで、「喫茶店」としておきました。
 解説部分等、問題ありましたら、どんどんどーぞ(おい)

では。



    

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