[KATARIBE 19078] [MM02N] 小説『いのち』

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Date: Sat, 20 May 2000 01:00:07 +0900
From: kazuki <aaq45040@hkg.odn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 19078] [MM02N] 小説『いのち』
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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 軍光一@丁 です。
 MMの小説です。栃木あたりを訪れた白夜の話です。
 本当はおばあちゃんを使いたかったのですが、時系列的に白夜が栃木を訪れる
ことが出来る頃には既に死んでいそうなので俊一さんを借りました。
 かりかりいーしゃん。

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MM小説『いのち』
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 手紙。結婚式の招待状。
 こんな時代だけど、に始まり、莫迦みたいな長いのろけが間に入り、二人で生
きていこうと思う、で締めくくられた手紙。
 大学に入ってから疎遠になって自然消滅した、高校時代の恋人。
 莫迦莫迦しい。
 行く気はない。そして、間に合う物理的手段もない。
 再発した、というより再開した内乱により足止めを食らっている現状では如何
ともしがたい。
 泊まるような場所もなく、開放されている学校の体育館に、難民達と一緒に転
がり込む。屋根を打つ雨の音が五月蠅い。
 読んで不愉快になり、手紙をしまう。
 ふと、隣からうめき声のようなものが聞こえる。見ると、お腹の大きな女性が
何かうめいている。妊婦。
「大丈夫ですか?」
 莫迦なことを。大丈夫じゃないからうめいているのだ。薄暗い中でも、汗びっ
しょりなのが分かる。
「すいません。生まれそうなので、お医者さんを……」
 かすれ声。
 頼まれたものはしょうがないので、立ち上がって周囲に呼びかけてみる。
「すいません。妊婦がおられるのですが、お医者さんはおられませんか?」
 そんなに都合良くいるもんか。
 返答は無視と無関心の静寂。その時、
「どうしましたか?」
 人混みの中に埋もれていた医師らしき男の人が、難民の波をかき分けながらこ
ちらに駆け寄ってくる。
 どうしたもこうしたもあるか。
 疲れた表情の医師に事情を話す。
「やってみましょう」
 できるのか?
 どう考えても産婦人科とは思えない医師が、妊婦の側に駆け寄る。
「手伝ってくれ」
 なぜ?
 ……
 うめき声。医師の妊婦を励ます声。無言のわたし。
「ほら、もう少しだ」
 ひょっとして……
「よし、もうほとんど出てきた」
 これは……
「あとちょっとです。頑張って!」
 未熟児、と呼ばれる子ども?
 ずるり、と小さな子どもが静かに生まれ落ちる。
 静かに。
「人工呼吸と心臓マッサージ!」
 臍の緒処置に手を取られている医師が当然の如くわたしに命令する。
 赤子の躰はもろい。うっかり心臓マッサージに力を入れすぎると、肋骨が折れ
て死ぬ。細心の注意を払いながら、胸を押し、口に息を吹き入れる。
 多くのほ乳類は生まれてすぐにたって歩くことが出来る。しかし、人間だけは
自分では何一つ出来ない未成熟な状態で生まれ落ちる。だから、手間暇がかか
る。
 それを。こんなところで。こんな何もないところで。
「大丈夫です。大丈夫ですよ」
 医師が母親になった女性を励ます。根拠は述べない。というか、ない。
……ぅぅ
 僅かに漏れる声。息をするために、生きるために。卵の殻を破れない雛は生き
られない。
……ぅぅぅ
 しかし、ここで生き残ったからといってどうなる?幼児死亡率は既に前近代並
の水準になっている。
……ぅぅぅぅ
 微かな声。医師がわたしから赤子を取り上げ、自分で人工呼吸と心臓マッサー
ジを行う。
……ぅぅぁぁ
 生まれて、生きて、何か良いことがあるのか?この時代に。
……ぁぁぁぁ
 今日生き残ったとして、明日はどうなる?明日生き残っても、明後日は?そう
やって、毎日を死に脅えながら……命が絶えるまで脅え続けるというのか?
……ぁぁぁぁあ!
 微かな、泣き声。生まれて、自力で息をしている証拠。
 医師は赤子を取り上げ、母親に抱かせる。
「ほら、元気な赤ちゃんですよ」
 嘘だ。
 お前は元気ではない。
 お前を守ってくれる環境はない。
 お前は長くは生きられない。
 お前は……不幸だ。
……
「どうしました?」
 医師の声。
「どうしました?」
 二度目で、ようやくその言葉が自分に投げかけられたのだと気づく。
「……いえ。疲れただけです」
 そう。疲れている。とても疲れている。
「これからが、大変ですからね」
 なぜわたしに言う?
「……他人です」
 医師は、ああ、と言う。そして、少し表情が沈む。
 つまり、この人はわたしが父親だと、この子がこれから両親に支えられていく
子だと、信じていたわけだ。
「あの」
 子どもを抱きかかえた女性が口を開く。ありがとうございました、と笑顔で礼
を言う。
「こんな時代だけど」
 もう聞き飽きた頭語。そして延々と続く愚痴。逃げ出してきたこと。夫を失っ
たこと。失った生活。日常となった、しかし決して慣れることのない日々。
「でも、二人で生きていこうと思います」
 ……どうやって?

 いつの間にか雨は上がり、夜空に微かに星がきらめく。夜風に当たりながら、
先ほど見知らぬ少女が手渡してくれたお茶を飲んでいる。
 生きていこうと思います。
 生きていこうと思います。
 みんなそう思う。そう願う。
 そして

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……鬱の時には、暗い話ばっかかきます。
 そのうち書き直すかも。

    

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