[KATARIBE 18911] [HA06P] エピソード『定価は 200 円』(完成版)

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Date: Mon, 08 May 2000 20:42:46 +0900
From: 瑠璃夢 <lurimu@geocities.co.jp>
Subject: [KATARIBE 18911] [HA06P] エピソード『定価は 200 円』(完成版)
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200005082042468Ii1QH@geocities.co.jp>
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 こんばんは〜、瑠璃夢でし。

 過去のEP整理中でして……、完成版作成中(笑)
 いちおー、これでおっけーのはずです。
 久志ねーしゃん、銀佳、チェックお願いっ。


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エピソード『定価は200円』
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登場人物
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 水瀬璃慧(みなせ・あきえ):
    :創作に勤しむ言霊使いの女の子。吹利学校高等部一年。

 白月悠(しらつき・はるか):
    :璃慧のクラスメートにして親友。現実逃避しがち。

 平塚花澄(ひらつか・かすみ):
    :書店瑞鶴店員。春の結界の持ち主。

 富良名裕也(ふらな・ゆうや):
    :お気楽な大学一年生。一見小中学生くらいにしか見えない。

本編
----
 某日、瑞鶴。
 夕方、学校帰りの学生が増える時刻。

 ??     :「ここかなあ?」

 硝子戸の向うから聞こえる、はっきりと良く響く声。
 入り口にいた猫が、のそのそと移動する。
 ぼそぼそと、先程より小さな声でのやり取りの後、からからと硝子の引戸が
開いた。

 花澄     :「いらっしゃいませ」

 あ、はい、と、小さく呟いて入ってきたのは、多分高校生くらいの女生徒二
名である。
 まだ、女子高生が板に付いてないような雰囲気がある。

 悠      :「(小声で)……ここ?」
 璃慧     :「(やっぱり小声で)うん。かむにゃが瑞鶴って……」
 花澄     :「……(かむにゃ?)」

 そんな愛称に近い名前の常連さんいたっけかな、と、内心小首を傾げながら
それでも花澄は一礼する。
 反射的に相手も一礼する。
 そしてそのまま……流れるように、二人は本棚に向かって進んでゆく。

 璃慧     :「……(きょろきょろと見回す)」
 悠      :「あの高いとこの本とかは?」

 指差した先に、かーなーり、古そうな本が数冊並んでいる。
 が……残念ながら、二人の身長では、うんと手を伸ばしても、本には届かな
い。
 無理かな、と、手を伸ばしている璃慧の後ろから、

 花澄     :「あの」
 璃慧     :「……っ!」
 花澄     :「あ、ごめんなさい」

 片手に、折り畳んだ脚立を持って。

 花澄     :「これ、お使い下さい。一つしかないんですけど……」
 璃慧     :「あ……どうも…………」

 脚立を広げてから、花澄はレジへと戻る。
 脚立に上って、璃慧は一番上の段の棚に手を伸ばす。
 もう一人……悠は、もう一つの隅の棚を眺めている。

 と。

 悠      :「あれ?」
 璃慧     :「何?」

 脚立の上から、首を伸ばして下を見る。
 友人は、ノート大の本を引っ張り出している。

 璃慧     :「何?」
 
 脚立を降りて、友人の手元を覗き込む。

 悠      :「うん……楽譜」
 璃慧     :「楽譜?」

 なんでまたそんなものが本屋にあるの……とは、流石に店員の前では言えな
い台詞である。

 悠      :「これ、かなり古いよ」
 璃慧     :「……ほんとだ」

 電話帳並みの厚さの本いっぱいに、アルファベット順に並んだ曲。
 アニーローリー、ロンドンデリーの歌、フニクリ・フニクラ、シューベルト
とモーツァルトの「野薔薇」、ステンカラージンの船……
 本の紙は、さほど質の良いものではない。紙の端も多少黄ばんでいる。
 けれども、これは確かに新品である。

 悠      :「……(後ろのページを開ける)……えっ?!」
 璃慧     :「何?」
 悠      :「……古い筈だよ(汗)」

 奥付けにある日付は、昭和27年某月某日初版、の文字。
 
 璃慧     :「…………って、47年前っ(汗)」
 悠      :「何で……うわあ(汗)」

 そしてその下にくっきりと印刷された値段。

 璃慧     :「……(見ている)……0が一個少ない(汗)」
 悠      :「……にひゃくえん……」

 古本屋でも珍しい……筈の本である。
 しかし、改めて見ても、これは確かに、新刊で。

 と。
 背後から、足音がして。

 花澄     :「……あの?」
 璃慧     :「はいっ」
 花澄     :「あの、何か不都合が?」
 悠      :「あのっ」
 花澄     :「……はい?(汗)」
 
 何だかえらく決死の表情で声をかけられて、花澄としても少々驚いたのだが。

 悠      :「あの……この楽譜、くださいっ」
 花澄     :「……はい(笑)」

 ずい、と突き出された楽譜を手に取る。

 花澄     :「(ひっくり返して見ている)……ああはい、200円だから、
        :消費税込みで、210円になります」
 悠      :「はい……」

 本当かな、と一瞬思う値段なわけだが、店員のほうは平然としたものである。

 花澄     :「っと……カバー掛けておきましょうか?(にこにこ)」
 悠      :「あ、はい………」
 花澄     :「じゃ……レジの方へどうぞ」


 一方璃慧は。

 璃慧     :(おいおい……(汗) いくら安いからって……)

 レジの方へ向かう悠を呆然と見る。まあ、衝動的に買いたくなるのは、分か
らなくもないが。

 璃慧     :(ま、いっか……)

 それよりも、目の前に並ぶ大量の本の方が気になっていた。

 璃慧     :(わーーっ♪)

 片っ端から背表紙に目を通す。気になるものがあると、手にとって読んでみ
て。その繰り返し。
 いつのまにか、やや緊張気味だった表情は完璧に崩れ、心ここにあらず。
 本来の目的なんて、頭から消し飛んでいた。

 数分後、楽譜を買い終えた悠が見に来た時、
 璃慧の手には5冊ほどの本が無造作に重ねられていた。
 それでもまだ収まる風はなく、悠が後ろに来ていることも気付かずに、本を
見続ける璃慧。
 
 悠      :「…………(汗) あきえぇ…………」

 悠の半ば呆れたような声に振り返る。

 璃慧     :「え?? どうかした?」

 平然とした顔でそう答えて数秒。
 言葉を失っている悠をよそに、璃慧はまた本棚に向き直ろうとする。

 悠      :「(疲れた声で)……あきえ…………ここに何しに来たの
        :かなあ(にっこり)?」

 再び振り返り、顔を見合わせる。
 ………………
 しばしの沈黙。

 璃慧     :「あ゛…………」
 悠      :「気付くの遅いよお(涙)」
 璃慧     :「だってえ……」
 悠      :「まぁ、璃慧らしいけどね……(ため息)」
 璃慧     :「何それ〜〜!!
        :…………まあ、否定できないけど(汗)」
 悠      :「ほらほら、いいから、探すっ!」
 璃慧     :「は〜い……」

 花澄     :(……なんかどこかで見た風景だなあ(苦笑))

 本屋に入った途端の脱線・追突・行先不明は、花澄にしてもいつものことで。

 花澄     :(でも、何探してるんだろ)

 しばらくして。

 悠      :「やっぱり見つからないね……」
 璃慧     :「やっぱ、無謀なのかなあ…………」

 考えこむ。

 璃慧     :(でもなあ……、書きたいよお)

 無言のまま、再び探し始める璃慧。無駄だろうということは分かっていても、
諦めたくなくて。
 悠はそれに、黙って従った。こういう時の璃慧を止めることは不可能だと、
よく知っているから。

 花澄     :「あの、何かお探しですか?」

 それまでぼんやりと様子を見ていた花澄が、歩み寄って話しかけた。

 璃慧     :「……(困ったように悠を見る)」
 悠      :「(小声で)……聞いちゃえば?」

 悠に突っつかれて、小声で話しだす璃慧。
 高校生にもなってまだ、人見知りは直らないらしい。

 璃慧     :「えっと…………、資料を探しているんですけど、日本や
        :環太平洋の古代の……、人々の生活とか……」
 花澄     :「古代の生活……ですか」

 首を傾げて、本棚を見やる。確かに学術文庫や新書の中に、それらしい
テーマのものもあるのだが。

 花澄     :「えーと、今あるのは……例えばこの本とか」
 悠      :「(小声で)あ、それはうちにある……」
 花澄     :「こういうのになりますが……」
 璃慧     :「あの……それは、あります……」
 花澄     :(困惑)

 どうやら、ある程度の品揃えはあるらしい。
 とすると。

 花澄     :「……どこかに無かったっけ……」
        :『そこの棚の下』
 花澄     :「……えーと、少しお待ち下さい」

 耳に直接響く声に応じて、棚の下を開ける。
 ずらずらと並んだ本の中に………

 花澄     :「っと……古道集……これ、かな……って(汗)」
 璃慧     :「?(ひょいと覗く)……(汗)」

 蹴鞠道、鍛冶道……まあ、いわゆる「生活」に関わることなのだろうが。
 ………………が。

 値段が、17510円(爆)

 花澄     :「それにこれだと、古代までは関わりがなさそうだし……
        :まあ面白いんでしょうけど、買うほどのものでもないです
        :ね」

 ……って、本屋の店員が言うなよ(汗)

 花澄     :「生活について……(思案)……急がれます?」
 璃慧     :「あ………はい………あの、出来れば……」
 花澄     :(……それだと誰かに借りるほうが良いのかなあ)

 と。
 からり、と、硝子戸が開いて。

 フラナ    :「花澄さん、こんにちはっ(にぱっ)」
 花澄     :「あ、こんにちは、フラナ君(笑)……今帰り?」
 フラナ    :「うんっ」
 悠      :(誰だろう?)

 小柄な少年……悠や璃慧とあまり年の変わらないような。
 と、ふと、花澄と呼ばれた店員が瞬きをして、少年を見やる。

 花澄     :「あ、そういえばフラナ君、堀川先生お元気?」
 フラナ    :「うん! いつもコーヒーとお菓子とご馳走になるよ(^^)」
 花澄     :「ってことは、良く会います?」
 フラナ    :「うんっ」
 花澄     :「先生……お忙しい?」
 フラナ    :「うーんと、そうでもないと思うけど」
 
 おいおい(汗)

 花澄     :「ね、フラナ君。もし、堀川先生に質問したい人がいると
        :して……先生答えてくださるかしら」
 フラナ    :「うん、それは大丈夫」

 ……本人度々、質問しに部屋におしかけていると見た(苦笑)。

 花澄     :「……なら、そのほうがいいかな?」

 そこで、きょとんとしてる女の子二人に視線を向ける。

 花澄     :「あの、こちらで探しておられる本を注文しても良いんで
        :すが、それだと多分日数がかかると思うんです」
 璃慧     :「はあ」
 花澄     :「それで……その本って、買う必要があります?」
 璃慧     :「?」
 花澄     :「授業でお使いになる、とかでしたら、買う必要がありま
        :すけど……」
 璃慧     :「いえ……あの、そういう、わけでも……」

 語尾が消えてたり(苦笑)

 花澄     :「あの、日本の古代史の先生で、こちらを時々御利用にな
        :る方がいらっしゃるんです。その方に直接お聞きになるほ
        :うが早いし、わかりやすいと思いますけど」
 璃慧     :「え?」
 花澄     :「丁度フラナ君……彼が、その先生の講義取ってますから
        :一緒に行ってもらって、取り次いで貰えば大丈夫だと思い
        :ます。こちらからも一筆お書きしますし」

 そのままフラナに向き直る。

 花澄     :「フラナ君、堀川先生にお願いしてもらえる?」
 フラナ    :「うん、いいよ(^^) 他でもうちの学校すっごく広い図書
        :室あるし」

 にぱっと笑ってあっさりと快諾する。

 フラナ    :「そういえば……堀川先生、確か僕が帰るとき、研究室で
        :ずっと調べものしてたから、まだ当分いると思うよ」
 花澄     :「え? でも、お忙しいのに急に行っても迷惑にならない
        :かな?」
 フラナ    :「大丈夫だよ。ホントのホントに忙しい時は顔違うもん」
 花澄     :「そう、それじゃあ…」

 立ったまま二人のやり取りを見ている女の子二人に振り向く。

 花澄     :「今から行ってみますか?」

 急な話の流れに、混乱している璃慧。
 しばらく考えたあと。ちらっと、後ろにいた悠のほうを見る。
 何も言わず、ただ微笑みかける悠。

 璃慧     :(そうだよね……)

 意を決して。

 璃慧     :「……ええ。お願いします」
 花澄     :「それじゃ、ちょっとまってくださいね(にこ)」

 そういって、レジの奥のほうへ向かう。
 必要以上に力強かった璃慧の言葉。
 その裏にある不安感じ取ったのか、花澄はにっこり笑っていた。
 なぜか分からないけど、少し安らいだ璃慧の心。
 そして、ふと、思い出す。

 璃慧     :「あの……」

 奥へと歩いていく花澄の後姿に呼びかける。

 花澄     :「なにか?」

 なんだろう。振り返る花澄。

 璃慧     :「この本も……おねがいします」
 花澄     :「ありがとうございます」

 相変わらず微笑んだまま。
 突き出された数冊の本を受け取って、レジの方へ行く。
 璃慧はその後をついていこうとして、ふと気づいて振り返る。
 にぱっと笑っている少年。

 璃慧     :「あの……」
 フラナ    :「なーに?」

 無邪気な笑顔。思わず笑い返して。

 璃慧     :「水瀬……水瀬璃慧っていいます。
        :こっちは、親友の白月悠です。
        :なんか……すいません……、頼んじゃって…………
        :よろしくお願いしますっ」
 フラナ    :「こちらこそ、よろしくね。僕は、富良名裕也だよ」

 自己紹介なんかしてると、花澄の方は終わったようで。

 璃慧     :「あ、受け取ってきますね」

 声をかけて奥へ向かう。

 花澄     :「えっと……2714円ですね」

 財布の中からしわくちゃに折りたたまれた千円札を数枚取り出して、本を受
け取る。文庫本ばかりとは言っても、さすがにちょっと重かった。

 花澄     :「あとこれ……堀川先生にお渡しください」

 差し出された白い封筒を丁重に受け取る。

 璃慧     :「あ……ありがとうございます(ぺこり)」
 花澄     :「また来てくださいね(にこにこ)」

 微笑を返して、店の外へと。

 フラナ    :「じゃ、いこっか。」


時系列
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 11月の上旬。『れっつ ふぁらんど〜る☆』直後の休日


解説
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 小説の資料を探していた璃慧は、Chat仲間の美樹さんに紹介されて瑞鶴を訪
れます。

 「資料は何処に?」に続く、璃慧の資料探しのお話です。

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 いじょ。訂正等あれば早めにお願いします。

 であ〜。


★☆★☆★☆★☆★☆★
瑠璃夢(Lurimu):
lurimu@geocities.co.jp

翼ひろげて 〜夢幻界への誘い:
http://www.geocities.co.jp/Bookend/1229/

  "If you can dream, you can do it!"
    

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