[KATARIBE 18885] [ HA06P ] :EP 『留学生参上』

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Date: Sun, 7 May 2000 20:31:59 +0900 (JST)
From: 灰枝真言  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 18885] [ HA06P ]  :EP 『留学生参上』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200005071131.UAA46155@www.mahoroba.ne.jp>
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2000年05月07日:20時31分58秒
Sub:[HA06P]:EP『留学生参上』:
From:灰枝真言


 灰枝参上。
 久方ぶりのエピソード書きです。
 まずは燕彩花の登場エピソードから。

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エピソード『留学生参上』
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登場人物
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 末夜正俊(まつや・まさとし):
     :サボリな仙人見習い。
     :サボっていたのでこんな事態に。
 燕彩花(ヤン・ツァイファ):
     :末夜の妹弟子。中国からきた武闘派留学生……のはず。
     :紅雀院大学にこの春入学。
 たぬ(たぬ):
     :狸メイド(でも雄)。
     :ちょっと不幸。だんだん慣れてきたよーだ。
 老師(らおしー):
     :ちょっと傍若無人なひと。

ある電話
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 三月も中ごろのとある夕刻、晩御飯の時刻。
 割烹着を着たたぬきがお皿を並べているいつもの光景。
 末夜がぼおっと夕日を眺めている、と、電話が鳴った。

 末夜     :「はいもしも――」
 ??     :「息災かこのボケ」
 末夜     :「そういう貴方は……老師?」
 老師     :「正解だ。不詳の弟子」
 末夜     :「や、それは誰のことです?」
 老師     :「もう長冬も終わろうというのに、わしの課題の一つも
         :こなさん奴のことさ」

 末夜、しばらく黙りこんで頭をひねり……

 末夜     :「ええと。なんでしたっけ、それ」

 言うや受話器をすばやく横に向ける。慣れたものである。
 受話器からほとばしった衝撃波は、偶然そこにいた狸をすっとばし
 3メートルほどころころころがした。

 たぬ     :「きゃーーっ」(ころころころころ……ガラガラガラ)
 末夜     :「無茶苦茶せんといて下さい」
 老師     :「む、避けたか。命冥加な奴」
 末夜     :「んで、課題って何ですっけ、いや本当に」
 老師     :「ひと季節にひとつ、簡単な道具をつくること」
 末夜     :「………………あ」
 老師     :「お前のサボリは重々承知しているが、放っておく訳にも
         :行かん。てことで監査役を送る」
 末夜     :「監査役――!?」
 老師     :「ふむ。もうじきつくな」
 末夜     :「もしもしっ。誰がくるんですっ!! 劉師兄とかだった
         :ら、いますぐ逃げますっ」
 老師     :「くくく。それは着いてのお楽しみさぁ(ガシャン)」
 末夜     :「あっ! もしもし、老師ぃっ?」

 電話は切れており、末夜はしばし呆然。
 それから背後のガタン、という音にビクッと振り返る。
 ようやく古本の山から這い出したたぬが、訝しげな顔で首をかしげた。

 たぬ     :「なんかあったんで?」
 末夜     :「……これからあるらしい」

 末夜がつぶやいたとき、玄関で呼び鈴がなった。

 (カランカラン)


たぬまっぷたつ
------------

 夕暮れの山道を女の子が、すたすた歩いている。
 小柄で可愛らしい体つき。こざっぱりした髪。
 だが夕日に浮かぶシルエットはずいぶんと妙である。
 背中に大きな棒のようなものを背負っている。
 左手にもなにか太い棒のようなものを持っている。右手にもだ。
 背中のリュックも、奇妙にでかい。

 彩花     :「ふぃ」

 家の門の前で立ち止まり、ちょっと一息。

 彩花     :「ちょと遠かったネ」

 遠いもなにも駅から車で30分だから、結構な距離であった。
 とりわけ背中にそんな荷物を背負っていては。
 ガシャン。と、荷物が鉄くさい音で鳴る。

 彩花     :「ええとゥ……コンバンワ」

 つぶやいて呼び鈴を引っ張ると、カランカランと涼しい音。
 つづいて家の中のほうから――ガタン!
 ――ガラガラガラッ!
 ――バタンッ!
 ――ドタドタドタ!
 …………
 そして静かになる。死んだように。

 彩花     :「?」

 しばらく待ってみる。
 どうも視線を感じる。
 振り向いてみるが、あるのはただの丸っこい盆栽。
 さっきからこんなものあったっけ?

 彩花     :「??」
 たぬ     :(どきどき)
 彩花     :「……」
 たぬ     :(じぃ)
 彩花     :「…………!」

 右手の長包みを、ぶんと一閃。手首の返しとともに袋が飛んだ。
 夕日の残光を跳ね返して、鋼の刃が紅くきらめいた。

 ――ざくっと一撃。


おせわになるネ
--------------
 彩花     :「おみやげ☆」
 末夜     :「違う」

 槍にくくられた狸をみて、末夜は苦い顔。
 怪我はないらしいが、泡をふいて気絶中。
 これが有名な「死んだふり」かと、ふと感心などしてみる。

 末夜     :「しかし……よりによってお前が来たのか」
 彩花     :「毛を毟って香草焼きにするとおいし〜と思う」
 末夜     :「そいつは今日の晩飯当番であって晩飯ではない」
 彩花     :「ほぇ?」
 末夜     :「で、何しに来た。ああ、いい判ってる皆まで言うな。
         :これから真面目にやります。心を入れ替えます。だから許して」
 彩花     :「これからおせわになるネ」
 末夜     :「ううむ……」
 彩花     :「花の女子大生ネ〜」
 末夜     :「おい。ちょっと待て」
 彩花     :「ちょと待ツ」
 末夜     :「……お前、おれの監査役なんかじゃないだろう」
 彩花     :「なんのことヨ?」

 末夜、しばらく黙りこくる。
 たぬ、ぴくぴくしている。
 彩花、鼻歌まじりに荷物を解いている。中身は何故か武器ばっかりだ。

 末夜     :「えぇと……しばし待て」
 彩花     :「しばし待ツ」

 電話機まで駆けていき、番号をプッシュ。

 末夜     :「老師っ」
 老師     :「――ひゃっほう。元気か末夜」
 末夜     :「こいつは監査ではなく、やっかい払いでは」
 老師     :「そーも言う」
 末夜     :「おれに「あれ」の面倒をみろというんですか」
 老師     :「うん。みろ」
 末夜     :「……うう。やだなぁ」
 老師     :「ヘンなことするなよ」
 末夜     :「まだ命が惜しいです」
 老師     :「やったらやったでどういう事になるか興味もないではないが」
 末夜     :「あんまり非人道的なことを言わないように」
 老師     :「まあ。時々気をつけてやってくれ」
 末夜     :「はあ(タメ息)」
 老師     :「もちろん。お前のサボリを監視するようにも言いつけてある。
         :命がおしけりゃ真面目にやれ」
 末夜     :「うぅ……。わかりました」

 ふと、振り向いてみる。
 彩花はたぬをつついている。ニコニコ笑っている。
 ただの女の子であるとしか、こうしてみると見えはしない。
 眉をしかめて唇を曲げて、末夜は思う。

 末夜     :(おれの生活に、平穏と無事がありますよーに)

 ついでに思う。

 末夜     :(それとついでに、あいつのにも)


時系列
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 2000年3月。

解説
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 燕彩花の登場EPです。
 ……なんだか少しばかりの謎を孕みつつ。
 どっかに続いて行きます。

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 それでは。

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 想起せよ
 妖精を 竜を、魔神を
 想起せよ
 空に浮かぶ町々、海に沈んだ町々を

 灰枝真言
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