[KATARIBE 18526] [HA06nv] :小説『神の剣』

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Date: Mon, 3 Apr 2000 15:41:36 +0900 (JST)
From: ソード  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 18526] [HA06nv] :小説『神の剣』 
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2000年04月03日:15時41分36秒
Sub:[HA06nv]:小説『神の剣』:
From:ソード


こんにちは、ソードです。

 美都の本編の4話は、別の場所で流した事があるのです。
 吹利史を読んで、鹿島に旅行に行く美都と紫苑の話です。

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小説『神の剣』
==============
 一人の女性が、電車に乗り込む、鹿島へ向う列車の中だ。
「くぅぅ〜」
 女性は、席につくとすぐに寝息を立て始めた。 
 物おじしていない。一人であるはずなのに、安心して眠っている。
 もっとも、今の日本、昼間に電車の中で寝ていたからと言って、それほど身
に危険が迫るわけではない。
 電車は、そのまま進んで行く。
「鹿島神宮〜。鹿島神宮でございます」
 車掌の声が、車内スピーカーから流れてくる。女性の目的地だ。しかし、女
性は起きようとしない。
 彼女の持っていたバスケットが、がたがたとゆれる。形状からして、ペット
を運ぶときのものだからして、中のペットが騒いでいるだけだ。
「にゃ〜にゃ〜(美都……美都……降りますよ)」
 猫語を解せば、このようになる。美都と言うのが、飼い主の名前らしい。膝
の上で動くバスケットに気づき、美都はようやく目を覚ました。
「ふにゃ?どしたの?紫苑ちゃん」
 まだ寝ぼけている。寝ぼけ眼で、あたりを見回す。窓の外を見れば、電車が
止まっているのがわかる。駅の名は、『鹿島神宮』。
「みにゃにゃっ(降りないと!)」
 紫苑と呼ばれた猫が、再び忠告する。果たして、飼い主は意味を理解してい
るのだろうか?
「あ゛……おりますっ」
 慌てて荷物をつかみ、電車を飛び出す。寝起きだからか、生来のものか、あ
まり機敏な方ではない。
 彼女たちが来たのは、鹿島神宮。国宝『直刀 黒漆平文太刀拵 (附刀唐櫃1
合)(ちょくとう くろうるしひょうもんたちこしらえ(つけたり かたなか
らひつ いちごう))』の鑑賞が、今回の旅の目的である。

 電車は、美都たちを吐き出してすぐに扉を閉じ、走り去っていった。
 しばらく膝に手を当てて息をついていた美都は、荷物を持って改札へと歩い
て行く。
 改札を出て、そのままトイレへ。トイレで周りを見渡してから、バスケット
を下に降ろす。
「いいよ、紫苑ちゃん」
 そのまま、バスケットから銀色の液体が染み出し、瞬時に20代半ばの青年
の姿をとる。形を取ってから、色が着いた。
 女性と見まごうほどの美青年。ただし、白いマントをつけているところが、
いかにも怪しい。
「……駄目だよ、女子トイレなんだから、女性の方が良いってば」
「そうですか?」
 声まで男性の声になる。
「それから、その後男性になっても良いけど、あんまり変な服装はだめだよ」
「……変ですかねぇ」
「……うん。変」
 きっぱりとそう言う。
「わかりました」
 一言言うと、また変形を始める。背丈をそれほど変えないので、170cm
を越えているが、格好はジーパンにTシャツ、上からジャケットを羽織ってい
る。色が若干違うが、美都と同じ格好だ。
「うん。かわいいかわいい。じゃっ、行こっか」
「はい」
 そのまま、美都は紫苑の腕を取って歩き出す。美都が165cmはあるから、
身長差はあまり感じない。
 しかし、トイレから腕を組んで出てくる美女二人と言うのは、やはり目立つ
存在ではあった。
「どこに行くんですか?」
「もちろん!鹿島神宮だよ、日帰りだし、お金も無いし、あんまりぐずぐずし
てられないでしょ?」
「了解しました。さあ、向いましょうか」
「うん!」

 二人は、腕を組みながら歩く。いつのまにか紫苑は男性になっており、声も
変わっている。背の高さも、180cmを超えていた。傍から見ると、美形の
カップルにしか見えない。
 すれ違う人々には、その二人を視線で追っていくものが多かった。

 石段を登りつつ、紫苑が静かに口を開く。
「美都」
「……ん?」
「振り向かずに聞いてください。つけられています。私の確認した限りでは、
数は3人。ただし、どこかに連絡していましたから、増える可能性があります
ね」
 紫苑は、意志を持った金属が変形しているに過ぎない。目の形をしている器
官だけが、彼の感覚器官ではないのだ。体表が目であり、鼻であり、口であっ
た。
 尾行している相手も素人ではなかったが、とびっきりのプロと言うほどでも
なかった。紫苑の能力でなければ、見つからなかっただろうが……。
「どうしますか?」
「『御魂』は見るよ、そのために来たんだもん」
 彼女の言う『御魂』とは、先ほどの鹿島神宮に収められている国宝の事であ
る。古事記では、『布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)』と記されている神
剣だ。
「このまま向えば、神社の境内で袋小路になりますが?」
「こんな町中では仕掛けてこないよ」
「そうだと良いですがね……」
「それから……」
「なにか?」
「『御魂』を見て、私、どうにかなるかもしれない。そのときは、私をおいて
逃げてね」
「……その時は、自分の判断で行動します」
「……もう……わかったよ。……ありがと」
「さあ、行きましょう」
 二人は、そのまま何事も無かったように石段を登り、石畳の境内に入っていっ
た。

 湿った空気。本堂の中である。直接太陽が当たることはなく、外界との温度
差もある。しかし、完全に外と切り離された空間でもない。ほとんどの人は、
「独特の雰囲気」で解決する。それは、力あるものが巧妙に施した防御結界な
のだ。
 2人の前には、刀身223.4cmの巨大な片刃の直刀がささげられている。
その長さに似合わず、幅は数cmしかない。どちらかと言えば細身の剣だ。
「……」
 美都は、視線をずらそうとはしない。魅入られたように固まっている。
「……」
 紫苑は、まったく別の意味で見入っていた。その形状、重量を記憶し、材質
から重心を割り出す。そのすべてのデータを記録して行く。
「これほど、真剣に見てゆかれる方も珍しいですね」
 案内の人の言葉も、耳に入っていないようだ。
 しばらく、そのままで時が流れる。自分の言葉に反応が無いのを悟った案内
は、その場を離れた。
「美都?」
「これ……あたし……知ってる」
 呼びかけた紫苑に、視線を神剣から離さずに答える美都。
「……」
「使い方、振り方も知ってる……」
「……何か、あなたの過去と関係あるのかも知れませんね」
 紫苑の言葉に、彼女が紫苑を見上げる。その瞳には、涙が溜まっていた。
 そのまま、紫苑の胸に顔を埋める。15cmの身長差は、紫苑の顎あたりが
ちょうど美都の頭になる。
「美都……」
「ごめん、紫苑ちゃん、もう少しこのままでいて……」
「それはかまいませんが……」
 彼女の肩が、小刻みに震えているのがわかる。紫苑は、美都の背中に手を回
して抱きしめてやった。
「あ……」
「痛いですか?」
「ううん……大丈夫……そのままでいて……あなたを感じたいの……」
 傍から聞くと、危険な台詞である。腕の中で震える美人にこのような台詞を
言われたら、男ならそれなりの反応を返してしまうだろう。
「ええ……わかりました」
 紫苑は、いたって冷静だった。数ヶ月前に生まれた彼には、まだそこまでの
感情が芽生えていないのだ。だからこそ、美都が安心して体を任せられるとも
言うが……。
「私……何者なんだろ」
「あなたは、美都です。私にとってそれが全てで、それ以上は如何でも良い」
「……」
「大丈夫。私は側にいますから」
「うん。ありがと」
 埋めていた顔を上げ、紫苑を見つめる美都。二人の視線が絡み合う。
「……美都」
 冷静な声。その声に感情は感じられない。
「うん……いいよ」
 ゆっくりと、目を閉じる美都。
「敵です」
 返って来たのは、やさしい唇ではなく、冷静な言葉だった。
 慌てて目を開け、あたりを見回す。吹き抜ける本堂の入り口と出口に、男の
姿が3人ずつ。外はいつのまにか日が暮れている。
「!……いつのまに……」
「足音は感知できませんでした。そこそこの使い手です」
「ここじゃまずいよ、場所を移そう」
「わかりました。出口方面を抜きます。同時に走りますから、タイミングはお
任せします」
「うん……いくよっ」
 その声と同時に、出口方面に向って走り出す。出口にいた男たちは、腰を沈
めて身構え、入り口の男たちはそれぞれ弓を構えた。
 ヒュッ
 美都たちが出口に着くより早く、三本の破魔矢が放たれる。矢尻はないが、
法力をのせてある。以前、似たような矢で美都の体を貫かれたことがあった。
その時は矢尻のついたものだったが、のせている破魔の力は比較にならない。
「あっ」
 そのうちの一本が、紫苑の腕をかいくぐって美都の肩に当たる。しかし、そ
のまま跳ね返って落ちただけだ。
「破魔矢が効かんのか?」
 目の前の男の一人が驚愕の声を上げる。彼らは、ここが天津神の結界の中だ
ということを失念していた。美都に有効な国津神の法力は、効果を失う。
 ひゅるっ
 紫苑の体から触手が伸びる。その一つ一つが的確に相手の顔面を狙って行く。
命中しても殺傷力はないが、目くらましになる。
「くっ!」
 慌ててよける男たち。紫苑が流体金属だという情報が無いからか、完全な奇 
襲となって動きを阻害する。
「今のうちに!」
「うん!」
 そのまま、男たちの横を駈け抜けて境内へと出た。そのまま石段を降りれば、
人目ができる。人目が出来れば、彼らはあきらめるはずだった。
「なっ!」
 美都が、境内を出たところで足を止める。
「美都!どうし……!」
 わずかに遅れていた紫苑も、美都の隣で足を止めた。彼らの見たものは、十
数人の男たち。本堂自体が、囲まれていたのだ。
「布施……美都だな?」
 男の一人が美都の名を呼ぶ。
「そうよっ!」
「そうか……なら、死んでもらわねばならん」
「いやっ」
「おまえの意見を聞くつもりはない……やれっ」
 3流の悪役のような台詞をはいて、男は周囲に指示を出す。そのアバウトな
指示に、他の男たちは全員それぞれの武器を構えた。杓上、独鈷杵、直刀、日
本刀。
「……美都、あの剣の使い方が分かると言いましたね?」
「……うん。普通の棒で訓練しても、なんか違和感あると思ったんだ。私が習っ
たことある剣術って、あの剣を使うためのものだと思う」
「ならば、決まりです。手を……」
 そういうと、紫苑はそのまま溶け、形を変える。美都の手が触れている部分
を柄とした、巨大な直刀。布都御魂剣と同じ形状に。
「御魂……」
『出来る限り再現しました。重量も同じはずです』
 変形する紫苑を見て、わずかにたじろぐ男たち。
「あの男も『依り代』かっ」
「……わかった。やってみるよ、紫苑ちゃん」
 身長の2倍ほどもある剣を肩に担ぎ、構えを取る美都。先ほどまでの不安は
なくなり、武術家の瞳に変わる。
 正面から、二人が同時に向ってくる。構えと剣のサイズ、彼女の筋力を計算
し、振り下ろしより自分たちの踏み込みの方が早いと判断したのだ。
 ブォンッ
 空気を切る音。二人が剣の届く間合いに入った瞬間に切っ先が動き、一瞬後
には地面に振り下ろされる。その衝撃だけで弾き飛ばされる二人。
 わずかにタイミングをずらし、右から襲い掛かる。振り下ろされた剣は、ま
だ動いていない。
「獲った!」
「甘いよっ」
 そのまま左手を刀身の後ろに添え、刃を返して半回転。半径2m以上の半円
がすべて攻撃範囲となる。
 どんっ
 当たれば、必殺。肉が歪み、その下の骨まで砕く。紫苑が刃をつけていたら、
胴体が泣き別れになっていたところだ。
 そのまま体だけを動かし、腕に負担が無いように肩に担ぎ直す。また、最初
の構えに戻った訳だ。
「紫苑ちゃん、重心もう少し後ろが良い……そう……その辺。あと、刃は引い
といてね。殺したくないから……」
『了解しました。相手の反応速度から考えて、5人以上同時に相手をするのは
危険です』
「うん……分かってる」
 男たちは、遠巻きに美都たちを取り囲んでいるだけだ。衝撃波で吹き飛ばし
た二人は、よろよろと立ち上がっている。
「こっちからいくよっ!」
 美都は、正面。石段のある方に向って走り出した。

 がたんごとん
「すうぅぅ」
 電車の中。外はすでに暗く、このまま吹利まで戻れるのか微妙なところだ。
 行きとは違い、今度は紫苑も隣に座っている。美都に肩を貸して、無表情に
たたずんでいる。
 格好から、美形の恋人同士にしか見えない。
 結局、人気のあるところまで逃げ、それと同時に男たちはどこへとも無く引
き上げていった。
 現在は監視や尾行がついているようには見えない。
 しかし、紫苑の機能もかなり低下している。考えてみれば、自らを武器とし
て震わせた場合、何度も体当たりをしているようなものなのだ。行動不能にな
るくらいの硬化を体表に施すわけだが、彼女の剣術の鋭さは、若干内部の機能
も低下していた。現在、自己修復装置が作動中である。
「……」
 彼女の寝顔を見ながら、紫苑はぽつりとつぶやいた。
「美都……あなたは誰なのでしょうか?」
 それに答えるものは誰もいない。本人でさえ、答えることができないのだ。
 記憶喪失で、時に強く、本当は脆い。最近、現在では伝えられていない剣術
を身につけていることが判明した。
 これしか分かっていないのである。だからこそ、紫苑は心に決めていた。
「今日は、あなたを護れた。明日からも、護ります」
「ありがと……」

 果たして、今のは寝言だったのか否か……今の紫苑には、どうでも良いこと
だった。

*******************************

 まあ、もう半年くらい前に書いたものなので、
ひたすら稚拙ですが……。
 日帰りらしいのですが、日帰りできる距離なのかな(笑)

 これで、美都の過去にまつわる話はおしまいです。



    

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