[KATARIBE 18337] [WP01]EP: 『迷犬探し』

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Date: Thu, 23 Mar 2000 14:06:08 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 18337] [WP01]EP: 『迷犬探し』 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200003230506.OAA90654@www.mahoroba.ne.jp>
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2000年03月23日:14時06分07秒
Sub:[WP01]EP:『迷犬探し』:
From:久志


 久志です。
迷いっぱなしのルーシーちゃんを何とかしようということで(^^;)
書いた当人が大分忘れてるんで完成してる部分を引っ張り出して繋げてみました。

EP『迷犬探し』 
********************************************************************** 
登場人物 
-------- 
 浅生睦美(あそう・むつみ):一般人、終末の住人碓氷奏雅の親友 
 藤田一弥(ふじた・かずや):終末の住人、藤田探偵事務所所長 
 碓氷奏雅(うすい・そうが):終末の住人、フリーライター 
 
仕事依頼
--------

 新宿歌舞伎町、ネオンのきらめく通りから少し離れ、住宅街の近くにあたる 
通りにその雑居ビルはあった。 

 睦美     :「……ここでいいのよね」 

 息を溜めて、睦美は藤田探偵事務所と書かれたドアを開けた。 
 部屋の中は狭かった、というよりあたり構わず書類やらファイルやらが雑多 
に積まれ、奥まったところに小さなデスクがあり、椅子に座り両足を机にのせ 
たという姿勢の男が見ている。 
 男と目が合う、お世辞にも優しいとはいえない鋭い目つき、オールバックに 
まとめた髪に黒いジャケット姿。探偵というよりヤクザと言った方が近いかも 
しれない。 
 一瞬、空気に飲まれていた睦美は気を取り直して、口を開いた。 

 睦美     :「……あの、すいません……依頼したいんですが」 
 一弥     :「依頼内容は?」 

 足を下ろして立ち上がり、手で脇にあるソファをすすめる。吸い寄せられる 
ようにソファに座り、すがるように顔をあげた。 

 睦美     :「はい……あの、うちで飼ってたワンちゃんが……もう五 
        :日も帰ってきてないんです…」 

 良いところのお嬢さん、それもぽっとでの成り上がりでない資産家の生まれ 
だろう。一弥のひととおりの観察から導き出した答えだ。 
 着ている服は少々地味ながら老舗の一点もの、立ち居振舞いのあいまあいま 
には幼い頃に学んだと思われる作法…時々崩れているところからすると自然と 
身についているものだろう。 

 一弥     :「ふむ、犬ですか。写真か何かお持ちですか?」 
 睦美     :「…はい、この子です」 

 そっとバックから一枚の写真を取り出す、レトリバーか何かの雑種と思われ 
る長毛犬、一緒に写っている睦美と比較するとまるで狼か熊のような大型犬だ。 
写真を受け取り子細に観察しながら声だけをだす。 

 一弥     :「……名前は?」 
 睦美     :「るーしーちゃんっていうんです、メスの三歳で…こない 
        :だお散歩に連れていったとき、うっかり紐を離しちゃって 
        :逃げちゃったんですっ」 

 黒表紙の手帳に日付を書き、話のメモを取る。 

 一弥     :「ルーシー、三歳、メス、と」 
 睦美     :「お願いです、るーしーちゃんを探して下さい」 

 無言でうなずき、ごっちゃになった本棚から地図を取り出す。 

 一弥     :「散歩のコースを教えていただけますが?」 
 睦美     :「はい、自宅から…ここの喫茶店月影の前を通って、公園 
        :までがいつもの散歩道なんです」 

 指差したルートに線を引く。 

 一弥     :「このルートですね?」 
 睦美     :「はい、月影にくるちょっと前あたりでうっかり…」 
 一弥     :「分かりました。この依頼受けましょう」 
 睦美     :「ほんとですか!ありがとうございますっ」 

 ぱっと笑顔を浮かべる睦美を見て、引き出しのなかからなんとか契約書の書 
類を引っ張り出す。 

 一弥     :「分かりました。それで報酬のことなのですが……」 
 睦美     :「お礼はちゃんとさせてもらいます」 
 一弥     :「基本捜査期間は三日、報酬は手付けで一万、成功報酬が 
        :2万、これが契約書になります」 

 睦美     :「はい、わかりましたここに判子をおせばいいんですね」 
 一弥     :「はい」 

 書類に判を押し、じっと顔を見る。 

 睦美     :「るーしーちゃん…お願いしますね」 
 一弥     :「わかりました、おまかせください」 

 ぺこり、と頭を下げて彼女は事務所を後にした。 
 指先で書類をつまみ、深呼吸する。 

 仕事だ。 


捜索中〜新宿にて 
---------------- 

 ぱらぱらと小雨が降っている。 
 新宿駅を出て、コウモリ傘片手にぶらぶらと繁華街を歩く。取材帰り、今日 
の仕事は午前中で終わったため、時間にだいぶ余裕がある。まだ昼過ぎという 
時間帯のせいか、外出らしいサラリーマンや買い物に出かける主婦達の姿を見 
かける。 
 せっかくの暇な時間だが、今日のところは少しやらなければいけないことが 
ある。 
 ルーシー……睦美が可愛がってる犬、それが睦美が散歩に連れていっている 
時、うっかり綱を離してどこかへ迷子になってしまい、もう五日以上も帰って 
きてないというのだ。確かに今の身重の睦美との散歩では遊び足りないかった 
のだろう、しかし、こんな新宿の街中で迷子になるのはそれなりに危ないだろ 
う。 
 そういえば、先日の睦美の電話で探偵に仕事を依頼した、という話を聞いた。 
今時犬探しの依頼をする客も客だが、その依頼を真面目に受けた…というのが 
驚いたことでもある。もっとも、お腹に子供のいる体で夜の新宿を探しまわら 
れるよりは探偵でも雇ってもらったほうがまだ精神衛生上いい。 
 繁華街を抜けた商店街、睦美がいつもルーシーを連れて散歩をするコース。 
それらしき姿は見えない。とりあえず、脇道にそれて犬が寄りつきそうなとこ 
ろをまわってみよう。 

 脇道にそれ裏通りへと入る。繁華街とは違っていかがわしい店が並んでいる 
わけではないが、やはり雰囲気の怪しさは拭えないし、大通りと対照的で道も 
大分汚い。五日間、何を食べていたにしろ食べれるとしたらこういう所だろう。 
ちょっと飲食店の裏口とおもわれるほうへ行ってみる、と。 
「…っと、ここにもいないな…」 
 ぬっと頭一つ分近く背の高い大柄な男とはちあった。 
 黒のジャケットに黒のスラックス…なんだか同じく黒づくめの自分と似たよ 
うないでたちの眼光鋭い男と目が合った。 


捜索中、引き続き〜交換条件
--------------------------

 黒づくめの男、オールバックにまとめた髪に、どっちかというとヤクザな雰
囲気の鋭い目。数秒の沈黙の後、男が先に口を開いた。
「すいません。ここらで…犬見かけませんでしたか?白い大型犬なんですが」
 間違いない、睦美に愛犬ルーシーの捜索を依頼した探偵だ。詳しい容貌は聞
いていなかったが、こういう手合いの職業は取り巻く雰囲気でなんとなくわかる。
「いえ、見ていませんけど……あの、ぶしつけですが…ちょっと、お伺いして
いいですか?」
 営業用スマイル、あくまで相手に読まれないように心に仮面をかぶる。見抜
いているのか、警戒しているのか相手は答えない。
「私、碓氷奏雅と申します……浅生睦美の友人なんですが、もしかして藤田一
弥さんですか?睦美から言付けを預かっているのですが」
 ぴくりと、眉を動かす。依頼人の名前を出されたので少しは緊張しているの
かもしれない。ちらりとなんどか見回し、向き直った。
「言づてのほうは?」
「ええ、定期報告についてなんですが、あの子は今妊娠中で、あまり出歩けな
いので、私があの子の代わりに報告を受けとる…という形にしたいと思ってい
るのですが…構いませんか?睦美からは電話連絡を入れたみたいなのですが、
あいにく助手の方が出かけていたらしくて」
「……わかりました、念の為本人の確認の後になりますが…構いませんか?」
「ええ、もちろんです」


 目論見あり。
 突然現れた黒づくめの女、とりあえず一弥は自分なりに相手を判断をしてみ
た。雰囲気、言動、立ち居振舞い、なんとなく自分と近いものを感じる…同業
者か…または記者か。口調と雰囲気から察して、依頼人との友人関係は本物だ
ろう、しかし、それ以上の何かを期待している感はある。依頼なら受けるがた
だ働きはしないつもりだ。相手の出方を見ておこう、それが仕事につながるな
ら探られるのも悪くはい、今は躍らされておこう。


 そこそこできる相手のようだ。
 営業顔で探偵、藤田一弥と二三言葉を交わして、奏雅の判断した答え。黒皮
のハンドバックから名刺入れをとりだし、一枚名刺を渡す。
「一応名刺をお渡ししますね、携帯番号が書いてあるので、連絡の際にはこち
らにお願いします」
 探偵、知り合いとしてつてを作っておくには悪くない。腕が立つなら尚更だ。
睦美の依頼を利用してしまったのはちょっと引っかかったが、正直、なりふり
かまっていられないのだ、ループする世界などというトンでもない事を調べよ
うとしてるのだから。
「それでは…捜査を続けたいのですが、その犬はあなたにも懐いていますか?」
「ええ、ルーシー…私の事も気に入ってくれて。ですから私も時間があるので
少しでもお手伝いできると思います」
「…では、お願いしましょうか。これまでの報告も兼ねて」
「ありがとうございます」
 一礼して歩き出した男の後を追った。


迷子の迷子の 
------------ 

 新宿南口の跨線橋の上。広い改札口の正面から少し外れると、道行く人並み 
や信号待ちの人混みに邪魔されることもなく、ぼんやりと街を眺めて座ってい 
られる。 
 何度かそんなことをしているうちに知り合ったギタリストの青年と、鞍馬は 
その日の午後も橋の上で欄干にもたれて話をしていた。 

 青年     :「お、うまいじゃん」 
 鞍馬     :「……んー……でも」 
 SE     :ポロン 
 青年     :「いい音いい音(笑)」 
 鞍馬     :「手首痛い……(汗)」 
 青年     :「いやいや、ちゃんと押さえられてるって。上手だよ」 

 ギター初心者がまず苦労する左手の指使い。なかなかフレットをうまく押さ 
えられないのが常であることを考えれば上手に見えるかも知れないが、鞍馬の 
場合は力任せに押さえつけているだけである。 

 鞍馬     :「もういいよ(汗)」 
 青年     :「指がちゃんと"入って"れば、後は覚えるだけだよ。コー 
        :ド教えてやろうか?」 
 SE     :ジャンッ 
 鞍馬     :「うん。見てる」 
 青年     :「これが開放弦。G……あれ、Dだっけか?(汗)」 
 鞍馬     :「(^^;」 
 SE     :ポロロロロロン…… 

 はっ、と鞍馬は目だけを橋のたもとに向けた。 
 中年の男が二人、こちらを窺うように言葉を交わしながら近づいてくる。 

 鞍馬     :「……ごめんっ」 
 青年     :「…あ?」 
 鞍馬     :「今日はちょっと、帰るよ」 
 青年     :「何だよ、急に?」 
 鞍馬     :「ごめんっ! じゃあねっ」 

 言い終わらないうちに、鞍馬は橋の反対側に走り出していた。 
 あっ、と声を上げた男たちが、やはり走り出す。青年に対し二言三言詰問し 
ていた彼らがまた鞍馬を追ってくるのを目の端に見て、鞍馬は確信した。 
 補導員である。 

 声      :「待ちなさい!……」 

 待てと言われて本来ならば素直に待ってしまうのが鞍馬だが、平日の昼間か 
ら小学生がこんな町中でぼんやりしていることについては、鞍馬にもさすがに 
後ろめたさがある。確実に補導されるのがわかっていて、待つことはない。 
 もっとも彼にとって逃げることは簡単なのだが、下手に逃げて人間離れした 
彼の力を怪しまれるのも嫌だし、荒事はなおさら好むところではない。 
 短距離走の速さで数分間逃げ回った鞍馬は、最終的に、ある界隈の路地の奥 
に駆け込んだ。 

 男A     :「……はぁ、はぁ、はあぁ、……なんて奴だ」 
 男B     :「はぁ、ふぅ、はぁ、子供は、ふぅ、元気ですねぇ、はぁ」 
 男A     :「何処へ行った」 
 男B     :「さぁ」 
 男A     :「くそ、見失ったか」 
 男B     :「ここには、来ましたから、この先でしょう」 
 男A     :「よし……行こう」 
 男B     :「ふうううぅ」 

 眼下を、ふらふらになりながら、それでも男たちが走っていく。 
 その様子を、鞍馬は傍らの雑居ビルの入り口の屋根の上に隠れて見下ろして 
いた。 
 いい加減走り続けて疲れたので、男たちの視界から消えたタイミングでここ 
へ跳び上がったのである。普通は、そんなところにいるとは思うまい。 

 鞍馬     :「よいしょ、っと」 

 とん、と地面に下りた鞍馬は、人目をはばかって周囲を見渡した。誰も見て 
はいない。…………が。 

 鞍馬     :「……ここ、どこだっけ(汗)」 

 逃げるのに夢中で、どうやら現在位置を見失ってしまったらしい。 
 思案の末、来た道をなるべく辿ってみることにして、鞍馬は歩き出した。… 
…その彼の視界に、白い影がぬっと入ってきた。 

 鞍馬     :「わっ☆」 
 ????   :「(くん)」 

 それは、大きな白い犬であった。 

 鞍馬     :「え……」 
 犬      :「…………(じっ)」 

 本当なら小学6年生になっている鞍馬だが、身長はあまり大きくない。とは 
言え、いきなりの出会いに興味深げな犬がふと伸ばした鼻先は、鞍馬の顔に迫っ 
てきた。かなりの大型犬である。 

 鞍馬     :「うわ、すっごい……」 

 犬がおとなしそうなのを見て、鞍馬はそうっと手を伸ばす。頭を撫でてやる 
と、ふかふかした毛並みが心地よい。 
 犬の方も、撫でられてまんざらでもない様子。尻尾がリズミカルに左右に振 
られ始める。 

 犬      :「(くんくん)……わんっ!」 

 ご機嫌になった犬が、不意に両足立ちになった。 
 そのまま、じゃれつくように鞍馬の両肩に前足を下ろす。 

 鞍馬     :「うわっ」 
 SE     :どて☆ 

 鞍馬は、思わずバランスを崩してしりもちをついた。間髪入れずに(笑)、犬 
は鞍馬を押し倒し、ぺろぺろと顔を舐め始めた。 

 犬      :「くぅんくぅん(嬉)」 
 鞍馬     :「こ、こら、やめろってばっ」 

 顔中舐められながら、体勢の不利もあって反撃できない(笑)。 

 犬      :「わんわん(^^)」 

 もはやすっかり鞍馬を気に入った様子の白い犬は、尻尾をぱたぱたさせて甘 
えるように鳴いていた。……彼の上にのしかかっているという構図を除いては、 
ほほえましい情景ではある。 

 鞍馬     :「あれ……?」 

 ふと鞍馬は、犬がしている首輪に気がついた。楕円形の金属板がついている。 
おそらくは、この犬の鑑札だろう。 
 鞍馬は、犬の好きにさせたり頭を撫で返してやったりしながら、首の下をの 
ぞき込んで、書かれている文字を読みとった。 
 大きめの文字については、アルファベットだったが、何が書かれているかは 
すぐわかった。アメリカの人気漫画の主人公の一人と、同じ名前。 

 鞍馬     :「ルーシー……?」 
 ルーシー   :「わんっ(^^)」 

 名前を呼んだ鞍馬に応え、大きな白い犬……ルーシーは、元気に一声吠えた。 

********************************************************************** 
続く

 大体の予定はできてるのだな(うみうみ)
後は書くことか(^^;)



    

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