[KATARIBE 18034] [MMN]: 「響」

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Date: Wed, 16 Feb 2000 21:35:09 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 18034] [MMN]: 「響」 
To: kataribe-ml@trpg.net
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2000年02月16日:21時35分09秒
Sub:[MMN]:「響」:
From:E.R


     こんにちは、E.Rです。
  霙の街の皆さま、こんにちは。

 荼毘、という話を流しましたが、あそこで、一名、こやって生き延びた人がいたりして(笑)
 1996年、新潟軍の盆攻勢直前。

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「響」
=====

 一面の寝息といびきと。
 かき集められた兵隊達だが、どこでも眠れるという特技だけは、この一年と
少しの間に皆身につけているようだ。
 硬い床の上に、薄い寝袋が一枚。
 窓を一面開けても、まだ暑気が残る。

 ポケットの中の小さなクマの人形を、男はそっと引っ張り出して、窓から漏
れてくる光にやはりそっとかざした。
 一年半の間に、クリーム色のタオル地はすっかり元の色がわからなくなった。
 
 最期まで、握り締めていた小さな手。
 吐くものがもう無い筈なのに、からだ全体でえずきをこらえていた……

 静かに。
 そして記憶は手繰り出される。
 はっきりと、自分を見据える眼差し。

  『じゃあ、仇を討とうとは思わないんですか貴方はっ』

 ………実際。
 ここまで生き長らえられるとは、思ってもみなかった。

 仇が。
 討てるとは、実は思わない。
 新潟からの軍は、物量において遥かに勝る。

 それでも、なお。

  『……あのこの。』

 かすれるような、声。
 
  『仇を、討ってくださるんですね………』

 そのことがどれほど大きなことであるのか、言われるまで気がつかなかった。
 吐く息一つ一つが苦しい中で、どれほど嬉しそうにそう言ったか…

  『……はい』

 受けて立った、少女。
 その重さを、理解していたかどうかはわからない。
 けれども……

 あの時の老婦人は、数ヶ月後に亡くなった、と、後で聞いた。
 死臭の中で働いて、数日。
 弱い体には無茶だったのだろう、と。

  『あたし、憶えます。憶えて……』

 今はだから。
 あの少女が、憶えているのだろう。
 憶えていて、くれるのだろう。

 大きな見開いた目だけが、印象に残っている。

 ふと、思う。
 彼女が仇を討ってくれるのならば、自分はここで護ることが出来る。
 無駄死にではないのだと、自分の死を思うことが出来る…………


 男は微かに笑って、クマをポケットにしまいこんだ。

*****************************************

 というわけで。

 思いが響きあうように。
 様々な思いが響きあうように。

 ふと、そう思ったので。

 ではでは。


    

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