[KATARIBE 17968] [HA06N] :「平日凡々〜2月7日の風景」

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Date: Wed, 9 Feb 2000 15:53:31 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17968] [HA06N] :「平日凡々〜2月7日の風景」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200002090653.PAA24858@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 17968

2000年02月09日:15時53分31秒
Sub:[HA06N]:「平日凡々〜2月7日の風景」:
From:E.R


    こんにちは、E.R@頭ががんがん です。

 30000ひっとお祝いEPか話か…………………とか考えたのですが。
 うちの連中使って、華々しいことをせいというのがまあ無茶であろうと(おい)

 というわけで。
 2月7日の、こんな風景。

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平日凡々〜2月7日の風景
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譲羽、走る
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 たんとん、と、小さな身体が風を切って走ってゆく。
 半ば風に乗って流されるような勢いで。

 早朝。
 空は灰色に濁って、日の射す隙間も無いように見える。
 歩道に敷き詰められたブロックの色も、どこかうすぐらい。

 ぢい、と、呟く声は、それでも高く楽しげで。

 お河童の髪が、後ろに跳ねあがる。
 黄金色の目は、真っ直ぐに前を見ている。
 
 走る、走る。
 真っ直ぐな道を走ってゆく。
 
 ぽうん、と、最後に一つ跳ねて。
 ちいさな体が、視界から消えた。


花澄、見る
----------

 路地裏を歩きつつ、その足をふと止める。

 裏口近くに横倒しに置かれた、黄色い硝子瓶のケース。
 そこに斜めに突っ込まれている……
 割れたサイダーの瓶。
 瓶の中で、まだビー玉が動いている。
 
 先程、ふと耳に引っかかった音は、多分この瓶を突っ込む音だったのだろう。
 
 見るうちに、その動きもゆっくりと静まってきた……時に。

 隣の生垣の間から猫の頭が突き出した。
 猫は、花澄を見て胡散臭そうに鼻の辺りに皺を寄せたが、そのままぼたり、
と、瓶のケースの上に乗っかった。

 がしゃん、と、音。

 割れたサイダーの瓶が大きく揺れて。
 ゆっくりと……割れた縁でちょっと躊躇うように止まってから転がり落ちる
 …………濃い青色のビー玉。

 かん、と、妙に高い音をたてて、アスファルトの上にビー玉が跳ねた。
 

店長、うずくまる
----------------

「………なにやってんの、お兄……店長?」
「ん?」

 レジからの声に、生返事で応じて。
 店長は店の隅で、なにやらごそごそやっている。

「何か、落ちたかなんか?」
「うん……何か本が隙間に…」

 言いながら、隙間に手を入れる。よいしょ、と引き出す手に、ぴったりと閉
じた単行本が1冊。

「変なところに落ちてるね」
「まあなぁ」

 汚れてもおらず、ページが折れたりもしていないことを確認。
 …とするならば、湧いた本か。

「何の本?」
「えーと……ああ、『ナンセンスの絵本』だ。エドワード・リアの」
「え?!」

 レジの前の定位置から、花澄がすっ飛んでくる。

「……なんだ?」
「店長っ!私それ買いますっ」
「……780円に消費税」
「了解っ」

 受け取ると、花澄は嬉々としてレジに跳ね戻る。
 うずくまった体勢からよいしょ、と身を起こして、店長は溜息を一つついた。

 
猫、転がる
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 ………………ぐてん。

「……こーの猫は」

 風の為に傾いた看板を直して、店内に入ろうとした店長が足を止める。

「猫が何?」
「どうしてこう、邪魔なところにいるかなあ」

 ふすん、と、猫は鼻を鳴らす。

(……あんたがあたしの邪魔になるところにいるんだよ、お若いの)

「で、頑として動かん」
 言いながら店長は寝そべっている猫を睨み付ける。
 猫はてんとして動かない。

(当たり前さね。そちらが避ければいいんだよ)

「あれじゃない?構ってもらいたいのよ、その猫」
「……あ”?」
「店長に懐いてるから、構ってもらいたいから邪魔なところにいる、と」
(何だって?!)

 半開きの目がぱっちりと開く。
(冗談じゃないよっ)

 身を起こしかけて、はた、と猫の動くのが止まる。

(……ううでも、むっとするのも大人気無いねえ)

「……どうだかなあ……」
 頭だけをもちゃげた格好のまま猫が煩悶する間に、店長は猫をひょいと避け
て店内に入った。
「構って欲しいなら、もう少しこう、愛嬌があるとかだな」
「それが無いから、その猫なんじゃない……ね?」
 念を押すような言葉と一緒に、猫を見やる。

(……分かっちゃないねえ……)

 懇々と説いてやりたいところだが、如何せん猫の声帯には無理である。

(………ふん)

 すっかりふてて、猫は1度ごろんと転がる。
 見ている花澄の目元に、うっすらと微笑が浮かんでいた。


 2000年の2月7日。
 つまりはいつもの瑞鶴である。

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 というわけで。

 ちょっとだけ、題名に言葉遊び入ってますが……

 ではでは。


    

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