[KATARIBE 17921] [HA06E] 天使の新年

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Mon, 07 Feb 2000 04:41:26 +0900
From: 軍光一 <kazuki@kurume.ktarn.or.jp>
Subject: [KATARIBE 17921] [HA06E] 天使の新年
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <389DCE64.D9048A9C@kurume.ktarn.or.jp>
X-Mail-Count: 17921

 軍光一@色々 です。
 来栖と西夜の年末年始のエピソードだにゅう。
 とりあえず文章書きの練習。


題名
----
天使の新年

登場人物
--------

来栖せら(くるす・せら) :地上に落ちた記憶喪失の天使。
西夜一輝(にしよる・かずき) :来栖を撃墜した張本人。

本編
----
1999/12/31 23:46

 西夜  :(ぼーっ)

 紅雀院大学総合歴史学科研究室で惚ける西夜。Y2K待機という奴だ。

 西夜  :(待機していても、問題が起こっても対応できないんだが)

 そんなことを考えつつパソコンの前を離れて書架へと向かう。途中の部屋には
学生達の忘年会の残骸がごろごろと転がっている。

 西夜  :(誰が片づけるんだろう?)
 
 気にしないことにする。
 辞書と歴史事典を引き出して机の脇に置く。そのまま机の上に放置したままに
なっている史料のコピーに向かうことにした。
 そんなとき、

 来栖  :「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん……げふっ」

 普通の人間が辞書を聞いて思い浮かべる国語辞書や英和辞書の3倍の体積を誇
る辞書が乱入者の顔に激突した。

 来栖  :「なにするのよっ」
 西夜  :「悪い。泥棒と間違えた」

 嘘つき。

 西夜  :「こんな時間にどうしたんだ?」
 来栖  :「ご挨拶ね。一人で寂しいだろうと思って、差し入れ持ってきたの
に」
 西夜  :「そいつは悪かったな」
 来栖  :「悪かったじゃなくて、ありがとうって言えないの?」
 西夜  :「そんなことはない。言葉尻をとらえるなよ」

 ため息をついて、手に持っていた買い物袋からお土産を広げる来栖。

 来栖  :「途中のコンビニで年越しそば買ってきたから、一緒に食べよう」

 西夜  :「年中行事にこだわる奴だ」
 来栖  :「慣行や儀礼は重視する質なのよね」

 二人分のカップの蓋を開け、ポットからお湯を注ぐ。

 来栖  :「いやあ、今年ももう終わりよねえ」
 西夜  :「クリスマスに現れた奴が感慨深そうに言うな」
 来栖  :「別に良いじゃない」
 西夜  :「ま、悪いとは言わないさ」

 3分たったので、二人で蓋を開けて食べ出す。

 来栖  :「こー年越しそばを食べると、一年が終わるって実感が湧くよね」

 西夜  :「……よく典礼問題に引っかからないな、お前」

 しばらく、静かに食事をする。

 来栖  :「ごちそうさま」
 西夜  :「……」
 来栖  :「ごちそうさま、は?」
 西夜  :「……ああ」
 来栖  :「きちんと言いなさい!」
 西夜  :「……ごちそうさま」

 そういえば挨拶なんてほとんどしない生活をしていたよな、とほんの一週間前
までの生活を思い出す西夜。
 いただきます。ごちそうさま。いってきます。ただいま。おはよう。おやすみ
なさい。まるで言った記憶がない。
 吹利に出てきてからか。いや、それ以前からずっとそうだったか。

 来栖  :「……」
 西夜  :「どうした?」
 来栖  :「別に、なんでもない」
 西夜  :「そうか。俺は言いたいことがなる」
 来栖  :「なに?」
 西夜  :「中華そばというのは、一般的に言ってラーメンの仲間であってそ
ばではない」
 来栖  :「がーん」

 まあ、些末事ではある。

2000/1/1 0:03

 来栖  :「あ”ー!」
 西夜  :「どうした?」
 来栖  :「カウントダウン逃した」
 西夜  :「放っておけそんなこと……こらこら、時計を戻すな!」
 来栖  :「カウントダウン……」
 西夜  :「時計を戻して出来るカウントダウンに意味があるか」
 来栖  :「せっかくの2000年だったのに……」
 西夜  :「というか、なんでお前そんなに俗物的なんだ?」
 来栖  :「なんでそんなに冷淡なのよ」
 西夜  :「別に冷淡な訳じゃない。俺は常に一分一秒を大切にしているから
な。いわば常に記念日だとも言えるし、記念日が続けばそれも日常となる」
 来栖  :「ううっ。深い言葉だ」

 いや、ただ単にごまかされているだけだ。

2000/1/1 0:34

 西夜  :「さてパソコンのチェックも終わったし、そろそろ帰るか」
 来栖  :「……お正月らしいこと、したい」
 西夜  :「お年玉はやらんぞ」
 来栖  :「おせちとか、お雑煮とか……」
 西夜  :「作り方しらん」
 来栖  :「たこあげとか、羽子板とか」
 西夜  :「もはや伝統文化財だな、それは」
 来栖  :「すごろくとか、ふくわらいとか」
 西夜  :「ひとりでやれ」
 来栖  :「ううっ……」
 西夜  :「泣くなよ」

 そのまま、机からなにか取り出す。

 西夜  :「そういえば、留学生からもらったフランスのワインがあったな。
帰ってから一応乾杯するか?」
 来栖  :「わーい。おとそおとそ〜♪」

 違うと思うぞ。

2000/1/1 8:00

 来栖  :「朝〜、朝だよ〜。朝御飯食べて初詣に行くよ〜」

 天使は常にテンションが高い。

 西夜  :「なんだそれは」
 来栖  :「かけるんに教わったの」
 西夜  :「いらんことを……」

2000/1/1 11:00

 来栖  :「年賀状が来ているよ」
 西夜  :「酔狂なことだ」
 来栖  :「そーゆーこと言わないの。はい」
 西夜  :「こーちらほらと、か。なんだこいつもう卒業した奴じゃないか。
今更ごますってどうするんだ」
 来栖  :「どうしてそういうものの考えしかできないの?お世話になった教
え子が感謝の気持ちを込めて送ってきたとか思わないの?」
 西夜  :「そこまで自分を過大評価していないさ」
 来栖  :「……そういえば年賀状は出さないの?」
 西夜  :「めんどくさい。それに今じゃもう売り切れているだろう」
 来栖  :「コンビニ行けばあるわよ」
 西夜  :「……聞かなかったことにしよう」
 来栖  :「駄目!もらった分はきちんと返事しなさいっ!」
 西夜  :「やれやれ」
 来栖  :「例え年に一度の葉書のやり取りでも、大切な人と人の縁じゃな
い。……大切なことよ……」
 西夜  :「……大学に行くついでにコンビニ寄ってくる。近所のおばちゃん
がうるさいからあまりうろつくなよ」

2000/1/4 18:00

 来栖  :「わ〜い♪。わたしにも年賀状が来た〜♪」
 西夜  :「……未だに正月気分を引きずっていたのか、お前は」
 来栖  :「いいじゃない。嬉しいんだから♪」
 西夜  :「大体それ、リターンアドレスもなにも書いてないじゃないか。気
持ち悪い。捨ててしまえ」
 来栖  :「そんなことないわよ。きっと照れ屋さんが「今年も宜しく」って
気持ちを込めて書いてくれたのよ♪」
 西夜  :「ありえんな」
 来栖  :「♪〜」

時系列
------
 1999年から2000年にかけて。

解説
----
 天使が地上に撃墜されて一週間。「ひとり」に耐えきれない天使と、「ふた
り」に戸惑うペシミストとの猿芝居。

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage