[KATARIBE 17907] [HA06P]: 『グリーングラス危機一髪!?』途中まで編集版

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sat, 5 Feb 2000 23:53:01 +0900 (JST)
From: 勇魚  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17907] [HA06P]: 『グリーングラス危機一髪!?』途中まで編集版 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200002051453.XAA98429@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 17907

2000年02月05日:23時53分00秒
Sub:[HA06P]:『グリーングラス危機一髪!?』途中まで編集版:
From:勇魚


こんにちは、勇魚です。
『グリーングラス危機一髪』関係者の皆様こんにちは。
えと…遅くなりましたが、ここまでの取りまとめ(仮編集版)です。
とりあえず、まだ仮なんで、今後の書き込みにより、
いくらでも変えます。

訂正したはずなのになおってない(流石にないだろう、と思いますが)、とか
ついでに編集に関して、「このほうがいい!!」ってのがありましたら、
指摘お願いします。

******************************************
EP 『グリーングラス危機一髪!?』

○ おでかけ…金元吉武の場合
--------------------------------------
 壷を開けて中を覗き込む。壷の中の破傷風予防の薬は尽きていた。 
  
 吉武     :「(…はやいとこ補充しないと鉄砂の練功が続けられん)」 
  
 空の壷から薬の残り香が鼻腔を突く。 
  
 吉武     :「(…調合するには、塩水と…あれと…あれと…………… 
        : あれを切らしていたか……)」 
  
手持ちの薬を揃える。品数が足りない。空の瓶をいくら睨んでも中身は増え
ない。お財布と相談。 
  
 吉武     :「(…神戸のいつもの店に行く…薬を買う…帰って来る… 
        : …………電車賃……)」 
  
 ただでさえ漢方薬って高いのに……。 
 電話機の横に立てかけてあるタウンページを、ぱらぱらとめくる。 
  
 吉武     :「(…近場に無いか……?)」 
  
吉武の求める薬がそこらの町の漢方屋にある可能性は低いのだが、歩いて行
ける範囲なら駄目で元々と考える。 
  
 吉武     :「(…ああ、あるじゃないか。)」 
  
 メモ用紙に住所を書き込み、いつもの灰色の人民服に袖を通そうとする。 
  
 吉武     :すん 
  
 襟首の匂いを嗅ぐ。前に洗濯したのはいつだったか…… 
タンスから黒い中国服を取り出す。体の前面の紐ボタンを留めながら、何か
しっくりこないものを感じる。 
  
 吉武     :「……」 
  
 しばし、考える。 
  
 吉武     :「(……ああ、そうだった。)」 
  
壁に掛けてある、奇妙な結わえ方をされた細い縄を掴む。縄の先には縹
(刃渡り10数センチの両刃のナイフのようなもの)が結ばれている。 
縄ヒョウを肩口、脇腹、とたすき状に身体に巻き付け、上から中国服を羽織
り 直す。 
  
 吉武     :「(…こいつを着るときは、いつもこれを身に着けていたっ 
        : け……)」 
 
今度はぴたりと身に添った服の感触を確かめて、吉武は部屋を出たのだった。

○ 不審人物 
--------- 

 ユラ     :「にじゅう、ごふん…」 

 ドライフラワーをあしらった壁掛け時計にちらりと目をやって、ユラは呟いた。 
 時計の長針が指しているのは文字盤の9のあたり。 

 ユラ     :「ベーカリーの、お客にしちゃ、変だし…」 

 そっと視線を窓の外に投げる。 

 ユラ     :「…やっぱり…」 

 黒い中国服、黒眼鏡、庇を目深に降ろした黒い帽子。 
 細身の男性。 
 無駄のない動き。 
 無駄のない視線。 
 それが、ときおりこちらに向けられている…ような。 

 ユラ     :「まさか、ね」 

 人待ちの人間は、あんなに歩き回るだろうか。 
 あんなふうに周囲を見回すだろうか。 
 あんなふうに用心深い足取りだろうか。 
 無駄がない、んじゃなくて… 
 あれは、隙がないのだ。 

 ユラ     :「まさか、ね」 

 ぞく、と背筋に怖いものが走ったような気がして、 
 それから頭を振った。 
 うん、香港映画の見過ぎだ。 
 一の莫迦野郎が貸してよこしたビデオなんか見たからいけないのだ。 
 ああいうのは、一本見たってじゅうぶんに見過ぎなのだ。 
 だから、道をただ歩いている人間が殺し屋に見えたりするのだ。 

 もう一度頭を振って、ふと、また時計に目をやった。 

 ユラ     :「さんじゅう、ろっぷん…」 

 おかしいと思い始めてからだから、それよりも随分前から、 
 件の黒服は店の前をうろついていた計算になる。 

 ユラ     :「…んじゃ、ベーカリーのお客さんの、知り合い…だよね」 

 …あそこはいろんな人が出入りするから。 
 ユラにしたって、ついうっかり白衣にナースサンダルで飛び込むことが多いのだ。 
 さぞかし異様に見えていることだろう。人のことはいえない。 

 …が。 
 どうかんがえても、その異様にひっそりと、異様に隙のない男は、 
 相当前からこちらを、グリーングラスのほうを、 
 ちらちらと窺っているように見えた。 
 それもずいぶん前から、ずいぶん執拗に、窺っているように見えた。 

 ユラ     :「関係、ない、からね、あたしはっ」 

 半分溜息とともに吐き出して、それからユラは店の中を見回した。 
 ついでに階段のほうにも目を泳がせた。 
 誰か、ほかに、気付いている人はいないんだろうか… 
 気のせいだ、と思おうとしても、やっぱり怖いものは怖いのだった。 

 ユラ     :「…どうしよう…」 

 レジの後ろ、階段のほうに、二、三歩あとずさりながら。 

 ユラ     :「美都さんにも、来てもらったほうがいいのかなぁ…」 

 背中の芯が、そくそくと寒い。 
 表通りを窺いながら、階段を一段、二段、上って。 

 ユラ     :「み…」 

 呼び掛けて、はっと息を飲んだ。 
 そういえば。 

 美都がはじめてこの街にやってきたとき。 
 彼女を追う何ものかがいたではないか。 
 あからさまに、殺意を持って追ってくる、正体不明の… 
 彼女を守るために、ユラは美都をひきとったのではなかったか。 
 穏やかな日常に紛れて、忘れかけていたけれど。 
 美都は… 

 ユラ     :「そ…うか…」 

 来たのか。 
 きり、と奥歯をかみしめる。 
 忘れていた。 
 忘れていた。 
 今のあたしに何ができるだろう。 

 まず、美都を庭に逃がして。 
 でもその前に…あいつの動向を確かめないと。 

 意を決して、そろそろと階段を降りる。 
 大丈夫。まだ、店の中なら大丈夫。 

 深呼吸ひとつ。 
 階段を降りきったユラの前に、唐突に黒い影が立ちふさがった。 
 剣呑な空気をまとっていた。 
 近付いてきた。 

 息を、飲んだと思った。 
悲鳴はとめようがなかった。 

○ おでかけ…末夜雅俊の場合
------------------------------------

 いい日和であった。  
 研究室をフケるには、実にいい日和であった。 
 書類整理を押しつける教授の目をさらりと盗んで、 
 末夜は街に出ていた。 

 学生    :「あれ、末夜さん。どこいくんです」 
 末夜    :「食事」 
 学生    :「大荷物持って?」 
 末夜    :「そうだとも」 

 呼び止められた背中には、ちょっとした風呂敷きづつみ。 
 中には漢方薬用の、小振りの炉。生薬を黒焼きにするための物だ。 
 末夜には縁が深いといえば言える。縁が無いとも言える。 
 一の知人だというあの娘の頼みを、何となく引き受けたのはどういう訳か。 
 身に漂っていた、香草の匂いを気に入ったのかもしれない。 

 末夜    :「薬膳屋だとか、言っていたな」 

 食事はグリーングラスとやらで採ろうと考えた末夜だったが、 
 地図に記された店のほど近く、足を留めた。 

 瀟洒な造りの店のガラスの前に、嗅ぎなれた雰囲気の男が佇んでいた。 
 格好云々ではない、中身から感じる雰囲気。 
 沈んだ重心。 
 力のほぐれた肩口。 
 そして、薄く張り巡らされた間合いの境目。 
 師匠が時折感じさせる重い綿のような気配を、男は持っていた。 
 ――遣い手だ。 
 腕は、自分よりも遥かに上だろう。 
 そのくらいの事は、末夜にも分かった。 
 間境をかすめてドアをひき開ける一瞬間、男の視線がするどく背中を貫いた。 
 ドアをくぐって閉じた時、体がじわりと汗ばんでいた。 
  
 店内を見回す。 
 喫茶店かバーのような構えの店先に、人の姿はない。 
 かるく眉をひそめ、奥への階段へ近づく。 
 立たない足音は八卦掌独特の歩法で、それは末夜がいささか緊張しているときの癖だったのだが、  

 ……ばたり、と正面から顔が合った。   

 飛び出しそうに目を真ん丸くして、ユラがその場に硬直していた。 

 末夜     :「ああ、近くまで寄ったので――」 
 ユラ     :「……き」 
 末夜     :「……き?」 
 ユラ     :「キャアアアアアアアッ!!」 

 末夜が止める暇もなく、頭を抱える暇さえなく 
 ユラはゆうに向う三軒まで響くような、悲鳴を上げたのだった。

○ 崩れる日常
-------------------
 
 グリーングラス二階。穏やかに陽が差している。
 
 美都     :「うーん……」 

 美都は、悩んでいた。仰向けに寝転がってページをめくる。 

 美都     :「紫苑ちゃん……どれが良い? って、聞いてもなぁ……」 

 傍らで寝そべる紫の猫に話し掛ける。 
 もちろん、返事は期待していない。 

 美都     :「なににしようかなぁ……」 

 一つ一つのページをみて行く。 

 美都     :「どれも、おいしそうだよねぇ……」 

 誰にとも無く話し掛けながら、料理雑誌のページを繰る。 
 なんの事はない、昼食の献立を考えていたのだ。 

 珍しく、ユラが昼間に店番をしているため、美都は特に何もせずにゴロゴロ 
していた。 
 いつもは特に考えることなく食べる昼食だが、今日はユラと共に食べるのである。出来れば、美味しいものを食べたい。 

美都     :「どうしよう……」 

そのとき。

 ユラ     :「キャアアアアアアアッ!!」 
 美都     :「えっ?」 

 下から聞こえてきたのは、紛れも無くユラの悲鳴。 
 ユラが悲鳴を上げるとは、ただ事ではない。美都は、飛び起きると傍らの猫 
に呼びかける。 

 美都     :「紫苑ちゃん!」 
 紫苑     :「いきましょう」 

 既に和服の美人女性の姿に変じていた紫苑は、冷静に答える。 

 足音を殺しながら、美都が先に立って階段をおりる。 

 美都     :「ユラさんっ」 

 階段を降り、そこに見たのは、ユラの目の前に立ちふさがるように立つ影。 

 美都     :「っっっ!」 

 思わず、足が竦む。美都の脇をするりと抜け、紫苑が美都を庇うように立っ 
た。

○ 預かり知らぬは…
---------------------------

その少し前、表の道では。

 吉武は自分の圏を掠めた末夜を警戒しつつ、末夜の背中越しに開いた扉の向こう側を覗く。 
 目に入ったグリーングラスの小綺麗な内装が、神戸の知り合いのアレな感じの漢方屋の胡散臭い雰囲気と、あまりに違うので 
  
 吉武     :「(…………どうもここは違いそうだ…)」 
  
 と一人合点し、きびすを返す。 
  
 吉武     :「(…もう少しこの辺を廻ってみるか…)」 
  
 すたすたと歩きはじめる。 
 少しばかり歩いたところで、 

 SE(ユラ)   :「キャアアァァァァ……」 
  
 と背後から悲鳴が聞こえる。 
  
 吉武     :「………………?」 
  
 立ち止まって、一度振り向いたが…… 
  
 吉武     :「……」 
  
また、すたすたと歩き始めた。 

○ 見ていた男
--------------------
 
 かのSS服愛好家が、吹利商店街をブラブラしている。 
毎日、仕事もしないでブラブラしているように見られがちな彼だが、今日は
本当に仕事もしないでブラブラしていた。 

 平田     :(まあ、あれだ。聖書にも『神はその日を安息日とされた。 
        なお、それ以外に有給休暇が年に20日。』と書いてあった
        ような気がするからな。) 

 という理由に基づいているらしい。 

平田     :「……とはいえ…何かする事があるわけでなし……
        ベーカリ ーにでも行くか。」 

ブラブラしていたらいつのまにかベーカリー近くまで来ていたようだ。と、
そ のとき… 

 ???    :「キャアアアアアアアッ!!」 

突然、女性の悲鳴が。ここで、すわ一大事と慌てて駆け出すのが素人。冷静
に状況を判断し、想定し得る事態とその対処法を二つ三つ考えつつ駆け出すの
が一流のヴァンパイアハンターというものである。 
 ただし、この男はいずれでもない。 

 平田     :(……どうせ、ゴキブリでも出たんだろう。) 

とはいえ、まかり間違って吸血鬼だった場合、責任問題にまで発展するに違
いない。少しの手間を惜しんだために、不幸な交通事故で死んだり、洗面台で
溺死したりするのは彼の好むところではない。 

 平田     :(仕方がない。様子だけ見に行こう。) 

おぼろげな職業意識で悲鳴のした建物に向かおうとしたが、ふとその建物あ
たりを歩いている男が目にとまった。黒い中国服に束ねた髪、そしてなにより
隙のない足運び。不審である。 

平田     :(む、不審人物………まあ、太陽の下を歩いているなら
        問題無いが。) 

しかし、そういった特徴はあまり重要ではないようだ。用心深いのか、まる
っきりザルなのか判断に苦しむところではある。 
黒い中国服の男は、悲鳴を気に留めた様子も無く、商店街の看板を一つ一つ
確認しながら、遠ざかっていった。 

 平田     :(この店だな。) 

平田は無造作にドアをくぐった。 

○ 追い詰められる人々
-----------------------------
 
 悲鳴が止まったのは、単純に息が続かなくなったからだったのだが。 

 末夜     :「ああちょっと」 
 ユラ     :「き…あ…」 
 末夜     :「いやだからその」 
ユラ     :「あ…末…夜、さん?」 
 
 目の前の人影が、急速にはっきりとした像を結ぶ。 
 へたり、とユラの膝が崩れ、壁にもたれそこねて、紫苑の胸にぶつかった。 

 美都     :「ユラさんっ」 
 紫苑     :「大丈夫ですか?」 
 ユラ     :「え、あ、はい…あ!?」 
 紫苑     :「私ですよ、紫苑」 
 ユラ     :「あ、そか…そか、マヤがいってたのって…」 
 
 末夜にはもちろん、なんのことやら、なのであるが。 

 ユラ     :「そかそか、ううん、あたしは大丈夫だから…っと!!」 

 下がりかけたユラの声が、一転、ひっくりかえった。 

ユラ     :「紫苑ちゃんっ、美都さんが危ない。
        庭の…庭のほうに逃げて、美都さん守ってあげて!!」 

 掠れた声で叫ぶ。 

 美都     :「えっ?」 

 ユラの声に、末夜の方に目をむける美都。 
 その視線の先はというに。 

 突然の悲鳴で、こっちもかなりびっくりしていたのだが、 

 末夜    :「……ううむ?」 
 
 末夜は軽く眉をしかめた。 
 
 末夜    :「.ああ。もしかしてとは思うんだが……」 
        (――借金でも踏み倒したかね?)  
  
 さすがに口に出す前に止めた。 
 口元をへの字に曲げて言葉を切る。 
 と、末夜の首筋に、ふとさっきの感覚が蘇った。 
 あの、足取り。あの、気配。こちらの背中を見通した…あの、視線。 
 そういう人間には見えなかったが、この脅えようからして。 
  
 やれやれ、妙なところに来てしまったようだ。 
 内心の思いや辺りの雰囲気とは関係なく、軽い調子で末夜は尋ねた。 
 
 末夜    :「何だか面倒そうだが」 
 
 ユラ    :「…」 
 
 無言のまま、ユラはことりとうなづいた。 

 末夜     :「表のあれは強いよ。 
         何なら裏から逃げたがいい」 
 
 ユラ     :「…あたしは」 
 
 かさかさに乾いた声で、ユラは言った。 
 殆ど囁くような声だった。 
 
 ユラ     :「守らなきゃ、なりませんから」 
 美都     :「(ユラさん……)」 
 
無理矢理のような、深呼吸。 
けれど、その後に、ほんの少し、ぎこちない笑みを作って。 

ユラ     :「美都さん、大丈夫だから…奥のテラスに、
        紫苑ちゃんと一緒に行ってて。あたしは…」 
美都     :「ユラさん、でも…」 

 美都の視線が、ユラから紫苑、それから末夜へと不安げに揺れる。 

 ユラ     :「あ、このひとは…大丈夫よ」 

 きっぱりと言い切り、それからユラは、末夜に向き直った。 

 ユラ     :「末夜さん、折角いらしていただいたのに…すみません。 
         奥の庭のほうならとりあえず安全ですし、
         裏木戸もありますから」 
 末夜     :「あー、ちょっと待ちなさい、その…」 
 ユラ     :「あたしは、大丈夫ですから。それに」 

 ことん、と息をつく。 

 ユラ     :「ほんとに、守らなきゃ、いけませんから」 
> 
 末夜    :(ああう) 
 
 末夜は内心頭をかかえた。 
 するてえと、ぼくはあんたを守らねばならんではないか。 
 まだ一回顔をあわせたきりだというのに。 
 こんな顔を見せられては、 
 じゃ、さよならでは済むまいよ。  
  
 末夜は小さくため息をついた。 
 それは丹田に溜まった雑気を払う仕種だ。 
 右手の二指が、刀印を自然に結んだ。 
 久しぶりに、眠気が晴れていた。 
 
 そのとき、不意にドアベルが鳴った。 
 無造作に入ってきたのは、やはり黒服に身を包み… 
 
 平田    :「さっきの悲鳴は、あんたか」 

 無言のユラの手から、黒いものが平田めがけて飛んだ。 
それはプラスチックの薬匙だったのだが。

○ 匙は投げられた
------------------------

 平田     :「!」 

  飛んでくる薬匙を見るなり、平田は右手を跳ね上げ、二本の指で匙を……… 
 
  SE      :こんっ 

  平田     :「いてっ」 
 
  匙はきれいに額をとらえた。 
  そのまま匙は床に落ちる。 
 
  平田:「………。」 
 
  末夜:「………。」 
 
  ユラ:「………。」 
 
  紫苑:「………。」 

       ★    ☆    ★ 

皆が呆気にとられているところで、紫苑はこの謎の人物を調べるためネットワ 
ークに接続する。 
 
 紫苑     :『Connect Multivac...OK』 
 Multivac   :『Welcome to SION !』 
 紫苑     :『データベースより人物紹介』 
 Multivac   :『Serching......MadHutterに該当1件……』 
 紫苑     :『表示してください』 
 Multivac   :『...OK』 
 紫苑     :『平田……翡翠さんと関係があるのか……ありがとうMult 
         :ivac』 
 
情報を確認し相手の正体が分かる。 
一瞬の行動である。 

       ★    ☆    ☆ 

 奇妙な緊張が、店内を圧していた。 
 ユラは匙を投げつけた形のまま、 
 末夜は二本の指を立てた右手を、奇妙な形に振り上げたまま、 
(――実際の話末夜はまさに、自分が知っているうちでも 
 上から四番目に強力な仙術陣を、その場に展開しようとしていたのだが) 
 そして黒服の男は、その場に無言で立ち尽くし…… 

 末夜      :(先に動いた方が負ける……とかいう時代劇、あったな) 

 末夜は緊張しながらも、ふとそんな事を考えている。 
 と、ユラの後ろに立っていた女性――紫苑ちゃんと言ったか――が、 
少々場違いなほど落ち着いた声でつぶやいた。 
  
 紫苑      :「あなたは、平田さんですね。 
           大丈夫です、敵ではありません」 

 それを聞いて不審げに眉を寄せたのが、平田と呼ばれた人物。 
(もっとも眉は匙が当たって以来、ずっと寄ったままだったが) 

 平田      :「どうして……そんな事が言える?」 

 ぴくり、と手首が動く。 
 一瞬の身ごなしは、やはりただ者ではないスキの無さを感じさせる。 
 しかし、それも次の紫苑の台詞まで。 

 紫苑      :「翡翠さんのお友達ですよね」 
 平田      :「(ぴくっ)――(小声)ひすいん?」 

 平田、俄かに落ち着かぬ様子になり、 

 平田      :「ああ……(ゲホン!) 
           もしや、あそこの関係者なのか?」 
 紫苑      :「ええ」 

 何やらウロンな物を見るような目つきに変わる平田であった。 
 もっとも、紫苑の傍らでは、末夜が平田のことを、まさにウロンなもののように 
観察しているのだから、これはお互い様である。 

 末夜      :(良く見ればあれは、SS服ではないか。 
          : それに、金属と火薬の匂いがする。 
          : そして慎重だか大胆だか知れないこの物腰。    
          : …………判らんな。全ッ然わからん) 

 次第に混乱をはじめた末夜の頭に、 
(この街にはもしかして、こういう連中しか居らんのではなかろうか……) 
という、些か確信めいた問が生まれかけたとき、 
 傍らで固まっていたユラが、ようやく声を発した。 
 ……何やらとても、あたふたした声で。 

 ユラ       :「え、ええと。 
            そのっ。 
            い、いらっしゃいませッ!」 

 末夜      :「………………」 

平田      :「………………」 

○ 一廻りしたものの。
---------------------------

吉武、首をかしげかしげ、歩いている。
再びグリーングラスの前へやって来て立ち止まる。 

 吉武     :「(…………住所からすると…やっぱりここなのか……?)」 
  
 メモには、うっかり店の名前を書き忘れていた。 
 電柱に記された所番地から判断するにここのようなのだが…… 
 辺りを廻ってみたが、他にそれらしい店もなかったし…… 
  
 吉武     :「…………」 
  
 ふと、さっきの悲鳴を思い出す。 
  
 吉武     :「……」

○ 立ち寄る人
-------------------

 グリーンハイツ吹利 
 直紀自室 

 直紀     :「ええと、今日はレッスンあるからーレオタとタオルとー 
        :うにゅーーシューズどこー(;-;」 
 紘一郎    :「洗いかごの横。チェストの2段目の奥。パソコンとクッ 
        :ションの間で見かけたが?」 
 直紀     :「んと…あ、チェストだ☆ さんきう、こういちろー」 
 紘一郎    :「寝る前に準備しろって。小学生かい(^^;」 
 すー     :「直ちゃん、レッスンに行くならCD持ってったら?  
        :あたし聞き終わったし」 
 直紀     :「そだね。ユラさんに借りっぱなしだったし。あ、でも 
        :ユラさんなかなかレッスンに来られないからなぁ…むう」 
 すー     :「ついでにグリーングラスに寄ってけばいーんじゃないの? 
        :あ、そうそう!直ちゃん知ってる?最近この辺で、いかに 
        :もーーーって感じのヒトがよく出るらしいよ」 
 直紀     :「いかにもーーーーって感じのヒトねえ(なんかいっぱい 
        :居すぎて誰のことやらなぁ)ま、いいや。いってきまーす」 

 ばたばたとマンションを出て商店街の方に向かう。 
 見慣れた建物が見えてきて、そこで足が止まった。 

 直紀     :「にゅ?」 

 全身黒ずくめな人がなにやら店の前をうろうろしている。 
 出掛けに聞いた言葉を思い出す。 
 …確かに。 

 直紀     :「(確かに……あからさまに怪しげなヒトだな〜)」 

 しかし、なぜ中国服なんだろう?? 
 ひょっとして中華好き? 

 時折その人は店の看板をちらりちらり見ては、立ち止まり、何かを考えては 
 また店の中を見て考え込んでいるように見える、…ように思うのだが黒眼鏡 
 で表情が分からないため不安になってしまう。 

 直紀     :「(うーーーん。やっぱり声かけた方がいいかなぁ)」 

 ドアの真ん前に陣取っているので店に入ろうにも入れない。 
 意を決して、すーはーと深呼吸する。 
  
直紀     :「あのーーーー、この店に用があるんですか?」

○ そして、買い物客
-----------------------------
料亭金仙・環の部屋

 楓     :「環、お茶切れた。漫画描いてるから買ってきて」 

 今日も相変わらず無目的に一日を生きている環の許に、姉がやって来た。逆 
らいがたい威厳を放ちながら用件を簡潔に命令する。 

 環     :「今忙し」 
 楓     :「3」 
 環     :「行ってきます」 

 姉の重圧感に耐えながら、なんとか抵抗を試みる環だったが、カウントダウ 
ンの開始により、その試みはあえなく失敗する。カウント終了時に繰り出され 
る無言の鉄拳制裁を、もう二度と喰らいたくないから。 
 千年を生きた妖狐は、苦手な物も千年分らしい。 
 しぶしぶゲームを中断し、街へと下りて行く。 

 漢方薬を連想してしまうので、環はハーブティがあまり好きではない。だが、 
『いまどきの若者(自称)』である姉の楓はそういう物を好み、また、自分では 
面倒くさがって買いに行かないので、環が実家にいるときは彼の仕事となる。 

 環     :「(でも、『いまどきの若者』が、バンカラ番長漫画を描くの 
        かなぁ?)」 

 大いなる疑問であるが、なんとなく怖いので未だ姉には質問していない。 

 環     :「(ほぇ?)」 

 わりと若向けにレイアウトされているグリーングラスの前に、どう見ても場 
違いな男が立っている。大陸風の服装で、帽子を深く被り、黒眼鏡をしている。 
よくテレビに出ているなんとかという奇術師に似ているような恰好だ。 

 環     :「(手品の……人かな?)」 

 物珍しい雰囲気も手伝い、歩みを落としながらグリーングラスへと近づいて 
行く。丁度、向こうからは女の人がこっちに近づいてくる。大方、ベーカリー 
だかグリーングラスのお客さんだろう…

○ 漢方屋再発見?
-----------------------

一方、グリーングラスの扉前。 
思いきって吉武に声をかけた直紀の目の前に…

 SE      :かちーん 
 直紀     :「……え?」 
  
黒づくめの男(吉武)の服の裾から何かが落ちた。縄に結ばれた…金属の…両
刃 の…ナイフのようなそれ(縹)…はアスファルトを弾いて微かに音を立てた。 
  
 吉武     :「(…おっと…)」 
  
吉武は、地面を弾いて僅かに浮いた縄縹を蹴り上げ、途切れのない動作でそ
れを手に掴み、何食わぬ顔(と言っても黒眼鏡をかけている)で、胴に巻いた帯
の中に伸びた縄ごとしまい込んだ。直紀に縹が見えたのは、ほんの一瞬。  
  
 吉武     :「(……久々だから縄が緩んだか…)…ああ…漢方屋を探し 
        :ているんですが……ここ…そうなんですか?」 
  
縄縹を素早くしまい込んだ後、間髪を入れずにグリーングラスを指差しなが
ら直紀の質問に答える。 
  
 直紀     :「え?…あ、ええ(…今の何? 刃物?)」<顔面硬直 
 吉武     :「ああ…やはり…ここが……(…見られたな…)」<無表情 
 直紀     :「ここ、そんなに分かりにくくないと思うんですけど?」 

 刃物のことは気になったが、思わず聞いてしまう。 
  
 吉武     :「ええ…見つかりはしたんですが……」 

 吉武の首の動きにつられて、振り返る。 
 流れる書体のプレートに、木枠のドア 
 ドア越しに見える華奢なテーブル 
 草木染めのようなリボンで括られたドライフラワーが掛かった壁 
  
直紀     :「…確かに漢方屋さんって雰囲気じゃないかも(苦笑)」 
 吉武     :「ああ…まあ…そう……ですね…」 

 吉武が足を止めては考え…を繰り返していたのを思い出す。 
 さっきの感じだと到着してからだいぶこの辺をうろうろしていたのかもしれ 
ない。そう考えると… 

直紀     :「(なんか…可愛い人だなぁ(笑))」

*****************************************************

…というわけで。
とりあえず、これで今まで流れた全部かな。

そんなとこで、ではまた。



    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage