[KATARIBE 17760] [HA06][EP]: 『棲めば都』(修正版2)

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Date: Fri, 28 Jan 2000 00:21:45 +0900 (JST)
From: 灰枝真言  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17760] [HA06][EP]: 『棲めば都』(修正版2) 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200001271521.AAA43256@www.mahoroba.ne.jp>
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2000年01月28日:00時21分44秒
Sub:[HA06][EP]:『棲めば都』(修正版2):
From:灰枝真言


 こにちわ。灰枝です。
 EPを上げるぞ計画進行中。

 以前の修正ばーじょん(再び)です。
 (メーラーが変なのだ)
 久志さん、山本さんを名前だけお借りしました。
 そういや、近くに峠もありますぜ(笑)

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 エピソード「棲めば都」
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 登場人物
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 末夜 雅俊(まつや  まさとし)
    :吹利に引っ越してきた大学研究員。大学時代は
    :一十のサークルの先輩だった。
 一 十(にのまえ  みつる)
    :末夜雅俊の後輩、修験者でそういうバイトも行っ
    :ている。わりと駄目な人
     (と書くように要望があったのだ)


○1999年十二月。事前の電話
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 末夜雅俊が公衆電話にとりついて、話し込んでいる。
 テレカの減り具合からすると、相手はかなり遠方らしい。

 末夜   :「……ということで、先に見繕ってほしいのだ」
 末夜   :「……ああ、いいよ。安ければいい。任せる」
 末夜   :「……すこし広めの方がいいだろうな、うん」
 末夜   :「……敷金?  そりゃ無いにこしたことはない」
 末夜   :「……適当にやってくれ。宜しく頼む」

 数回うなずき、電話をきる。
 しばらく立ち止まり、ふと考えてみる。
 何だかすこしだけ間違った気がした。
 東京の空は、よく晴れていた。


○2000年一月。引越し当日
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 吹利の空はくもっていた。
 灰色の空を横目に眺めながら、どうしてこの男はこんなに、お天気な顔をして
いるのだろう、と末夜はふと考えた。
 東京土産のひよこ饅頭を抱えこんで、一十はえらく幸せそうだった。

 一    :「バイト代も出るって、言いましたよねえ?」
 末夜   :「言ったぞ。ちゃんと手伝えば、晩飯もつけよう」
 一    :「ふふふふ、言質はとりましたよ。ごはんごはん、タダごはん〜☆」
 末夜   :「何やら日ごろの生活がしのばれるな」

 傍らの車に乗りこみ、出発。
 一をナビに置いて、右に左にハンドルを切る。 
 やがて道は曲がりくねり、いつの間にか街をぬける。  
 冬なかばの山肌は、いささか彩りに欠けて寂しげだ。
 流れる景色を横目に見やって、末夜はふと思う。
 (こんな峠を攻めにきた訳ではない筈だが……)

 一    :「……ところで、何でこんな曲がかかってんです?」
 末夜   :「グランプリの鷹は嫌いか?」
 一    :「もう少し安全な曲をお願いしたいんですっ」
 末夜   :「安心したまえ。次はイデオンのエンディングだ」
 一    :「聞いてるだけで、センターライン割りそうなんですけど……」

○2000年一月。物件にて
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 末夜   :「……田舎、だ」
 一    :「というか、山です」
 末夜   :「……これか?」
 一    :「というか、ほかに家がありません」
 末夜   :「ちなみに下見は?」
 一    :「いちおうしましたよ。不動産屋の山本さんといっしょに。
        僕はフィールドワークのついででしたけど」
 末夜   :「下見したのか(ごすっ)
        ふむ。こんどその不動産屋にも会わねばならんようだなァ」
 一    :「痛いいたい痛い……条件のなかで、いちばん大きいんですよ
        それにとにかく安いし」 
 末夜   :「(ところで、こいつの演習林が近くにあるんじゃないか?)
        (それではいつタカられるか、判ったものではないぞ)
         ……しかし三万円か。大穴物件としても、安すぎる気がする」

 吹利市内から車で四十分。
 付近に商店なし。というか人家なし。
 高速道路わき。
 ここまではまだいい。安くなる条件。
 しかし……田舎家とはいえ、これは一戸建てだ。

 末夜  :「ところで君なら何とする?」
 一   :「安いことは善ですよ」
 末夜  :「……ふむ、0.7理くらいはあるか」

 さて、いまさら考えたところで、引越し屋は到着しているのだった。
 到着していなければ困る。
 ついでに働いてもらわねば困るのだ。
 ……というのに、なぜこんな場所で、荷物を放り出して寝こけておるのか、末
 夜には理解できなかった。

 一    :「先輩。なんで寝てるのか判りました」
 末夜   :「なんでだ?」
 一    :「重たい段ボールが飛んでくるからです」

 振り向いた頭を段ボールがかすめる。
 ハヤカワと創元とサンリオの絶版本が、地べたにバラバラと投げ出された。

 ??   :「出てけぇぇ〜」
 末夜   :「ああっ、コレクションがっ(叫び)」
 一    :「何と、幽霊屋敷でしたねえ」
 末夜   :「きみ人ごとだと思っているだろう」
 一    :「いや、まぁ、よくあることですから」
 ??   :「ここから立ち去れ〜」

 話してる暇などない。
 つづいて、CDラック。テレビ。パソコン。
 玄関脇につんであった箱が、崩れ落ちてくる。
 容赦は全くない。全然無い。
 どん がしゃん ぱりん
 砕ける液晶。
 割れるブラウン管。
 何とか物品をよけながら。

 末夜   :「………………あああっ(かそけき悲鳴)」
 一    :「災難ですねえ」
 末夜   :「呑気にしてないでどうにかせんかあっ。この手のは君の専門だろ
        うがっ」
 一    :「先輩だって人のこと言えんでしょうに」
 末夜   :「現場仕事は苦手なのだ、がさすがに頭にきた。
        操ってる輩はどこにいるのだ?」
 一    :「(あ、さすがに怒ってるな)
        屋根の上っぽい感じですが、でも何かちょっと」

 末夜、最後まで聞かず、コートの中から何やらつかみ出した。
 それはどう見ても単なる湯飲みで、

 一    :「先輩へんですよまってくだ……」
 末夜   :「いいや最早待てんね。しばけ宝貝ッ!  疾!」

 命令一下、びゅんと飛びさる。続いて屋根の上で、ガシャンと音が響く。
 と、乱舞していた引越し荷物が、力つきたように一斉に落ちた。

 一    :「はあ、湯飲み宝貝ですか?」
 末夜   :「飛んでいって後頭部にぶち当たる日用品は、宝貝の基本。刃物や
      : 武器にしないのが造り手の良識というものだ」
 一    :「(ぶちあたりゃ同じだよ……)でも砕けちゃいましたね」
 末夜   :「改良の余地があるな。で、あれは何だ」

 末夜が見上げる前で、何かが屋根瓦の上をころころ転がってきた。
 ぽてんと玄関先の植え込みに落ちる。
 茶色い毛玉のようなかたちのそれは。

 一    :「あら。タヌキだ」
 末夜   :「……タヌキ?」

  末夜は眉をひそめた。
  後頭部に大きなコブをつくって、丸いタヌキがのびている。

 一    :「いやあ……(苦笑)
        吹利へようこそ、先輩。こういう処です」

 ぽかんとした末夜の顔を眺めて、一は思わず笑った。

○2000年一月。引越し、夜。
---------------
 やがて日は沈む。時は夜。
 がらんとした部屋に、鍋の匂いが立ち込める。
 大きな中華包丁を握り締め、末夜は呟いた。

 末夜   :「ふむ。狸はイヌ科だ。美味かろう」
 タヌキ    :「あぁああっ、ごめんなさい、ごめんなさい。ゆるしてえぇ!」
 一    :「可哀相ですよ、せんぱい。許してあげましょう(ぱくぱく)」
 末夜   :「君は晩飯が出たからそれでいいんだろう」
 一    :「僕は晩飯が出たからそれでいいんです(断言)」
 タヌキ  :「悪気はなかったんですぅ。よよよよよ」
 一    :「ほら、こう言ってる。(もぐもぐ)」

 それでも一応話を聞いた。
 近くに高速道路が通って以来、この辺りもずいぶん開発が進み
 (おい、本当か? と、末夜は考えた)
 タヌキの住み場所もずいぶん減ったとか。
 おかげで沢山いたタヌキ一家も、いまでは色々な場所にちりぢりばらばら。
 これ以上道路は作らせないぞ、と決心したこのタヌキ、以前は建設事務所だったこの屋敷に陣取って、  やっ てくる人間を追い返すことにしたのだそうだ。
 聞いてみれば、いささか哀れなことでもある。
 しかしタヌキを黙って許してやる理由は末夜にはない。
 物的被害は、かなり甚大なのであった。

 タヌキ  :「ゆ、許していただければお礼はいたしますです」
 末夜   :「では茶釜に化けて金かせいでこい」
 タヌキ    :「…………ええとぅ、なにか他のこと……」
 末夜   :「あっちの部屋で反物を織ってもいいぞ」
 タヌキ  :「…………それもむりですう」

 タヌキ、すんすんと泣く。
 末夜、小さくため息をついた。

 末夜   :「仕方がない。ならば働け。
        とりあえず荷物整理からだ。それがすんだら、本のブックカバー
        全部付け直すこと。
        その後に、窓ふきと、便所掃除だ。
        裏庭の草むしりも明日やってもらおうか」
 タヌキ  :「ひぃ」
 末夜   :「逃げようとした場合、頭にはめた金輪が締まるから、それなりに覚
        悟をするように」
 一    :「鬼ですねえ……先輩(もぐもぐ)」
 末夜   :「食わなかっただけ慈悲深いと言ってほしいが」
 タヌキ    :「……シクシク(まるまっちい顔で器用に泣いている)」
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 てことで。これにて一応終り。

 たぬ。

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  想起せよ!
  妖精を  竜を  魔神を。
  想起せよ!
  空に浮かぶ町々  海に沈んだ町々を。

                         灰枝真言
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