Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage
Date: Sat, 22 Jan 2000 00:36:27 +0900
From: nobuki miyachi <soutou@mc.neweb.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17620] [HA06P] 『祈る気持ちを忘れずに』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <38887CFB.3B31FD52@mc.neweb.ne.jp>
References: <200001191538.AA00023@gombe-pc.osk3.3web.ne.jp>
X-Mail-Count: 17620
ど〜も。
総統です。
第一稿です。はい。
**********************************************************************
エピソード『祈る気持ちを忘れずに』
====================================
ついてない
----------
師走も押し迫ったある日の午後。かのSS服愛好家は郊外の廃ビルにいた。
平田 :「……ここも、×…と。」
手にしたチェックシートの『当てはまらない』に、片っ端からチェックを入れ
る。
このチェックシートは自分で作ったものらしく、公式文章然とした体裁を整え
つつも、左端に『機密文章』とドイツ語で記されていたり、黒枠に鉤十字だった
りするのである。
平田 :「……『当てはまる』が0個か…『おめでとう無駄骨です。
働かないで酒でも飲んでた方がよかったですね。』………自分で作っておいてな
んだが、ムカつくな。これ。」
長居は無用とばかりに車に戻り、助手席に放り出してあった資料を手にとる。
平田 :「………ふむ。大体終わりか。最後のは……無道邸? 民間
人の家ではないか。選定理由は……『見るからに怪しい。』か。」
長い沈黙。
平田 :「………………やめ。」
平田は資料を放り出して車を発進させた。
雪が降ったため道はのろのろ運転で、吹利駅前に到着したのは、既に日が傾き
かけたころだった。
平田 :「うう、冷えるな。ベーカリーにでも寄ろう。」
普通の自動車には暖房がついている。平田の車にも当然ついている。しかし、
車内でも愛用のコートを脱がない彼は、暖房をつけない。
バカである。
平田 :「こういう日は熱いミルクティーを……げっ。」
無情にもベーカリーの扉には、『本日休業』との札がかかっていた。
平田 :「………。」
仕方なく、自販に向かう平田であったが……
平田 :「……つ、つめたいのしか無い!?」
商品サンプルの下に表記された『つめた〜い』の文字が無性に腹立たしい。
平田 :(あきらめるのも選択肢だが……なにしろ寒いぞ。)
辺りを見回すが、自販機らしきものは見当たらない。
平田 :(なんとなく……こっちにありそうな気がする。)
雪を踏みしめつつ、あたたかい飲み物を求める放浪は続いた。
教会で厄払い(違う)
--------------------
平田 :「まずい!(怒)」
平田は三口目で限界がきた『ホット青汁』(笑)の缶を路上に投げ捨てた。
運命か、何者かの悪意が関与しているのか、平田が歩く道には自販がなかっ
た。1キロ近く歩いてようやく見つけた自販には、待ち望んだホットはあったも
のの、例の青汁だったのである。
平田 :(ひょっとして、今日は厄日なのか?)
ふと見ると、前方に古びた教会がある。
いくら信心深くない平田でも、ここまで不幸が重なれば普段の行いに原因があ
るのではないかと考えが及んだようである。
平田 :(まあ、厄払いに行ってみるか。)
SE :ギイィィ……
やたらに渋い音を立てる扉をくぐると、そこは礼拝堂で、神父が説法をしてい
た。割合人も入っている。古い教会にふさわしく照明は時代がかった燭台の火だ
けである。平田は邪魔をしないよう、静かに後ろの席へ座る。
神父 :「……結婚というものは、何かを得るためにするのではあり
まセ〜ン。」
平田 :(ふうん。)
神父 :「愛は与えるものデ〜ス。お互いに求めるばかりではうまく
いかないのデ〜ス。」
平田 :(なるほど。しかし、インチキくさいしゃべりだな。)
神父 :「ですから、お互いにちょっとづつ損をしまショウ……」
平田 :「……ZZZ」
行いを反省するどころか、ありがたい話を聞きながら堂々と寝る平田。
これでは主もヘソを曲げるというものである。
黒服の恐怖
----------
平田 :「ZZZ…………ん?」
寒さに目を覚ますと、人気のない礼拝堂だった。日もすっかり落ちて、もう夜
である。
平田 :「神父も客も帰ったか……。」
??? :「よくおやすみでしたね。」
黒服にサングラスという、平田ほどではないにしろうさんくさい男が立ってい
る。
平田 :「ああ、説法は終わりましたか。」
??? :「とっくにね。」
平田 :「ふむ。それでは引き上げさせてもらいましょう。ええと…
…」
??? :「前野です。前野浩。」
平田 :「じゃあ、前野さん。ごきげんよう。」
いい加減な挨拶をして、開けっ放しの扉に歩を進める。
SE :ごうっ
扉の前に来た瞬間、強風が平田に吹きつけられる。
平田 :「!?」
SE :バタンッ
目の前で重い扉が大きな音を閉まる。
あわてて扉を押したり引いたりしてみるがびくともしない。唯一の照明だった
燭台の火も風で消えてしまっているため、さっぱり様子がわからない。
前野 :「閂が、弾みで嵌まってしまっていますね。」
平田 :「そのようですね。」
確かに扉自体がどうにかなるような衝撃ではなかったから、そう考えるのが妥
当かもしれない。
前野 :「あぁ、そこに燭台が倒れていますから、気を付けて」
平田 :「どうも………」
声を頼りに向き直ろうとした平田に的確な注意が飛ぶ。ただし……的確過ぎ
る。
平田 :(夜目効くどころの話じゃないぞ。……何者だ?)
前野 :「カンですよ、カン(笑)」
平田の考えを見透かしたように、黒服は続ける。
次第に疑惑は深まっていく。
平田 :(試してみるか。)
SE :かちり
コートの下でUSPタクティカルのハンマーを起こす。
前野 :「おや、“そういう人”ですか?」
平田 :(まさか、聞き分けたのか!?)
確かに車の騒音などは無い環境だが、風の音はそれなりにうるさい。聞き取る
ことは出来ても、何の音かまではわからないはずである。
平田 :「……何の話ですか?」
前野 :「いや、気のせいならいいんですがね(笑)」
相変わらず、黒服は悠然としたものだ。
前野 :「ポケットになにか無いですか?」
平田 :「え? ああ、ライターなら。オイルがあれば、ですが
ね。」
前野 :「ライターね、私の方は、たばこをやらないもんで…」
ポケットからオイルライターを取り出して着火しようとしてみるが、案の定、
オイル切れのようで火花が散るだけである。
平田 :「他には………使えそうなものは無いですね。」
前野 :「そうだ、どこかに燭台用のマッチがあるかもしれないな
…」
平田 :「この暗闇で探すのはちょっと無理では?」
前野 :「あぁ……そういやそうですね…でも、手探りでも何とかな
るでしょう。」
手探りで、と言ったが耳に聞こえる足音は規則的だった。
平田 :(この男暗闇でも見えているのか?)
前野 :「………あったあった。ありましたよ」
SE :しゅぼっ…
最前列あたりでマッチを見つけたらしく、明かりはかなり前で灯った。
平田 :「……カンが…鋭いんですね。」
故意に言葉を区切る。
前野 :「えぇ、まぁ(笑)」
黒服は相変わらずで、サングラスのせいもあるだろうが表情が読めない。
平田 :「何か特別なことでもされてるんですか?」
前野 :「特別な事?いや、特に何も」
平田 :(どうだか。)
明かりは灯ったものの礼拝堂全体に光が行き届いたわけではない。平田はポケ
ットからバラ弾を一発取り出すと、手首のスナップだけでまだ光の届いていな
い、左の壁に投げた。
SE :カッ コツッ
前野:「ん?なにか」
黒服は”軌道を追って”視線を走らせた。
投げるモーションを見抜かれれば、最初にどの方向に飛ぶかはわかる。だが一
回バウンドした後までは投げた本人すらわからない。まして、光の届いていない
場所での出来事である。
前野 :「?」
平田 :「……。」
無言で銃を抜く。
前野 :「おやおや」
平田 :「何者だ? 同業か、それとも……奴等か?」
前野 :「奴等とは?」
自分に付きつけられた銃を見ても、黒服の様子に変化はない。
平田 :「夜の住人……と我々は呼んでいる。吸血鬼と言ったほうが
通りがいいかな?」
前野 :「ふむ……ヴァチカンの方でしたか」
平田 :「……何故、ヴァチカンだとわかる? 同業は多いはずだ
が。」
前野 :「協会から、連絡がありましてね、平田さん。」
ごく自然に名前を呼ぶ。名乗ったことも無い相手の。
平田 :「ふん。私は名乗った覚えは無い。人違いではないのか?」
前野 :「まぁ、そんなことより、物騒なソレをしまってもらえませ
んかね?(笑)」
平田 :「そうはいかん。夜は特別慎重に行動することにしているの
だ。……もっとも、アンタが奴等だったらこんなもの紙鉄砲ほどにも役に立ちは
しないが。」
前野 :「私は痛いのは嫌いなんですよ」
心底嫌そうに肩をすくめてみせる黒服。
平田 :「私だって嫌いだ。」
前野 :「ならやめましょうよ……今なら、このまま別れられます
よ」
どうやらバケモノではないらしい。しかし、味方という保証も無い。
平田 :「……いいだろう。」
銃を下ろした。そしてゆっくりあとずさる。
前野 :「で、どうやって出るつもりですか?」
平田 :「窓からでも出るさ。アンタは自慢のカンで閂をはずして正
面から出ればいい。」
前野 :「疑い深いんですねぇ(苦笑)」
平田 :「夜は特にな。」
黒服は笑った。「その程度で用心深いつもりですか?」と言ったかも知れない
し、言わなかったかもしれない。とにかく、黒服は手にしていた燭台を放した。
当然、燭台は床に落ち、明かりは消える。
礼拝堂は再び闇に包まれた。
平田 :「くっ!」
反射的に、姿勢を低くして手近な壁へと走る。暗闇でも目の効く相手に、背に
スペースを残して戦うなど愚の骨頂だ。
ぶつけるように壁に背を押し付け、銃を構える。
前野 :「GoodNight NightmareHunter。Merry.Xmas」
SE :ガコン
突然、重い扉が開かれた。同時に青白い月明かりが礼拝堂を照らす。黒服は…
…どこにも見当たらなかった。扉の閂がきれいに切断されて、鈍い光を放ってい
る。
壁に背をつけたまま、床にへたりこむ。どっと汗が吹き出てくる。
平田 :「………………天にまします我等が父よ、あなたの恩寵と慈
悲に感謝します。」
平田は数年ぶりに祈りの言葉を口にした。
**********************************************************************
生きているって素晴らしい(w
まあ、そういうことです。
--
-------------------
総統<Nobuki miyachi>
E-mail : soutou@mc.neweb.ne.jp
ICQ : 51043006
URL : http://www.geocities.co.jp/Bookend/8749/