[KATARIBE 17620] [HA06P] 『祈る気持ちを忘れずに』

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Date: Sat, 22 Jan 2000 00:36:27 +0900
From: nobuki miyachi <soutou@mc.neweb.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17620] [HA06P] 『祈る気持ちを忘れずに』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ど〜も。
総統です。

 第一稿です。はい。


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エピソード『祈る気持ちを忘れずに』
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ついてない
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 師走も押し迫ったある日の午後。かのSS服愛好家は郊外の廃ビルにいた。

 平田     :「……ここも、×…と。」

 手にしたチェックシートの『当てはまらない』に、片っ端からチェックを入れ
る。
 このチェックシートは自分で作ったものらしく、公式文章然とした体裁を整え
つつも、左端に『機密文章』とドイツ語で記されていたり、黒枠に鉤十字だった
りするのである。

 平田     :「……『当てはまる』が0個か…『おめでとう無駄骨です。
働かないで酒でも飲んでた方がよかったですね。』………自分で作っておいてな
んだが、ムカつくな。これ。」
 長居は無用とばかりに車に戻り、助手席に放り出してあった資料を手にとる。

 平田     :「………ふむ。大体終わりか。最後のは……無道邸? 民間
人の家ではないか。選定理由は……『見るからに怪しい。』か。」

 長い沈黙。

 平田     :「………………やめ。」

 平田は資料を放り出して車を発進させた。
 雪が降ったため道はのろのろ運転で、吹利駅前に到着したのは、既に日が傾き
かけたころだった。

 平田     :「うう、冷えるな。ベーカリーにでも寄ろう。」

 普通の自動車には暖房がついている。平田の車にも当然ついている。しかし、
車内でも愛用のコートを脱がない彼は、暖房をつけない。
 バカである。

 平田     :「こういう日は熱いミルクティーを……げっ。」

 無情にもベーカリーの扉には、『本日休業』との札がかかっていた。

 平田     :「………。」

 仕方なく、自販に向かう平田であったが……

 平田     :「……つ、つめたいのしか無い!?」

 商品サンプルの下に表記された『つめた〜い』の文字が無性に腹立たしい。

 平田     :(あきらめるのも選択肢だが……なにしろ寒いぞ。)

 辺りを見回すが、自販機らしきものは見当たらない。

 平田     :(なんとなく……こっちにありそうな気がする。)

 雪を踏みしめつつ、あたたかい飲み物を求める放浪は続いた。


教会で厄払い(違う)
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 平田     :「まずい!(怒)」

 平田は三口目で限界がきた『ホット青汁』(笑)の缶を路上に投げ捨てた。
 運命か、何者かの悪意が関与しているのか、平田が歩く道には自販がなかっ
た。1キロ近く歩いてようやく見つけた自販には、待ち望んだホットはあったも
のの、例の青汁だったのである。

 平田     :(ひょっとして、今日は厄日なのか?)

 ふと見ると、前方に古びた教会がある。
 いくら信心深くない平田でも、ここまで不幸が重なれば普段の行いに原因があ
るのではないかと考えが及んだようである。

 平田     :(まあ、厄払いに行ってみるか。)

 SE     :ギイィィ……

 やたらに渋い音を立てる扉をくぐると、そこは礼拝堂で、神父が説法をしてい
た。割合人も入っている。古い教会にふさわしく照明は時代がかった燭台の火だ
けである。平田は邪魔をしないよう、静かに後ろの席へ座る。

 神父     :「……結婚というものは、何かを得るためにするのではあり
まセ〜ン。」

 平田     :(ふうん。)

 神父     :「愛は与えるものデ〜ス。お互いに求めるばかりではうまく
いかないのデ〜ス。」

 平田     :(なるほど。しかし、インチキくさいしゃべりだな。)
 
 神父     :「ですから、お互いにちょっとづつ損をしまショウ……」

 平田     :「……ZZZ」

 行いを反省するどころか、ありがたい話を聞きながら堂々と寝る平田。
 これでは主もヘソを曲げるというものである。


黒服の恐怖
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 平田     :「ZZZ…………ん?」

 寒さに目を覚ますと、人気のない礼拝堂だった。日もすっかり落ちて、もう夜
である。

 平田     :「神父も客も帰ったか……。」

 ???     :「よくおやすみでしたね。」

 黒服にサングラスという、平田ほどではないにしろうさんくさい男が立ってい
る。

 平田     :「ああ、説法は終わりましたか。」

 ???     :「とっくにね。」

 平田     :「ふむ。それでは引き上げさせてもらいましょう。ええと…
…」

 ???     :「前野です。前野浩。」

 平田     :「じゃあ、前野さん。ごきげんよう。」

 いい加減な挨拶をして、開けっ放しの扉に歩を進める。

 SE     :ごうっ

 扉の前に来た瞬間、強風が平田に吹きつけられる。

 平田     :「!?」

 SE     :バタンッ

 目の前で重い扉が大きな音を閉まる。
 あわてて扉を押したり引いたりしてみるがびくともしない。唯一の照明だった
燭台の火も風で消えてしまっているため、さっぱり様子がわからない。

 前野     :「閂が、弾みで嵌まってしまっていますね。」

 平田     :「そのようですね。」

 確かに扉自体がどうにかなるような衝撃ではなかったから、そう考えるのが妥
当かもしれない。

 前野     :「あぁ、そこに燭台が倒れていますから、気を付けて」

 平田     :「どうも………」

 声を頼りに向き直ろうとした平田に的確な注意が飛ぶ。ただし……的確過ぎ
る。

 平田     :(夜目効くどころの話じゃないぞ。……何者だ?)

 前野     :「カンですよ、カン(笑)」

 平田の考えを見透かしたように、黒服は続ける。
 次第に疑惑は深まっていく。

 平田     :(試してみるか。)

 SE     :かちり

 コートの下でUSPタクティカルのハンマーを起こす。

 前野     :「おや、“そういう人”ですか?」

 平田     :(まさか、聞き分けたのか!?)

 確かに車の騒音などは無い環境だが、風の音はそれなりにうるさい。聞き取る
ことは出来ても、何の音かまではわからないはずである。

 平田     :「……何の話ですか?」

 前野     :「いや、気のせいならいいんですがね(笑)」

 相変わらず、黒服は悠然としたものだ。

 前野     :「ポケットになにか無いですか?」

 平田     :「え? ああ、ライターなら。オイルがあれば、ですが
ね。」

 前野     :「ライターね、私の方は、たばこをやらないもんで…」

 ポケットからオイルライターを取り出して着火しようとしてみるが、案の定、
オイル切れのようで火花が散るだけである。

 平田     :「他には………使えそうなものは無いですね。」

 前野     :「そうだ、どこかに燭台用のマッチがあるかもしれないな
…」

 平田     :「この暗闇で探すのはちょっと無理では?」

 前野     :「あぁ……そういやそうですね…でも、手探りでも何とかな
るでしょう。」

 手探りで、と言ったが耳に聞こえる足音は規則的だった。

 平田     :(この男暗闇でも見えているのか?)

 前野     :「………あったあった。ありましたよ」

 SE     :しゅぼっ…

 最前列あたりでマッチを見つけたらしく、明かりはかなり前で灯った。

 平田     :「……カンが…鋭いんですね。」

 故意に言葉を区切る。

 前野     :「えぇ、まぁ(笑)」

 黒服は相変わらずで、サングラスのせいもあるだろうが表情が読めない。

 平田     :「何か特別なことでもされてるんですか?」

 前野     :「特別な事?いや、特に何も」

 平田     :(どうだか。)

 明かりは灯ったものの礼拝堂全体に光が行き届いたわけではない。平田はポケ
ットからバラ弾を一発取り出すと、手首のスナップだけでまだ光の届いていな
い、左の壁に投げた。

 SE     :カッ コツッ 

前野:「ん?なにか」

 黒服は”軌道を追って”視線を走らせた。

 投げるモーションを見抜かれれば、最初にどの方向に飛ぶかはわかる。だが一
回バウンドした後までは投げた本人すらわからない。まして、光の届いていない
場所での出来事である。
 
 前野     :「?」

 平田     :「……。」

 無言で銃を抜く。

 前野     :「おやおや」

 平田     :「何者だ? 同業か、それとも……奴等か?」

 前野     :「奴等とは?」

 自分に付きつけられた銃を見ても、黒服の様子に変化はない。

 平田     :「夜の住人……と我々は呼んでいる。吸血鬼と言ったほうが
通りがいいかな?」

 前野     :「ふむ……ヴァチカンの方でしたか」

 平田     :「……何故、ヴァチカンだとわかる? 同業は多いはずだ
が。」

 前野     :「協会から、連絡がありましてね、平田さん。」

 ごく自然に名前を呼ぶ。名乗ったことも無い相手の。

 平田     :「ふん。私は名乗った覚えは無い。人違いではないのか?」

 前野     :「まぁ、そんなことより、物騒なソレをしまってもらえませ
んかね?(笑)」

 平田     :「そうはいかん。夜は特別慎重に行動することにしているの
だ。……もっとも、アンタが奴等だったらこんなもの紙鉄砲ほどにも役に立ちは
しないが。」

 前野     :「私は痛いのは嫌いなんですよ」

 心底嫌そうに肩をすくめてみせる黒服。

 平田     :「私だって嫌いだ。」

 前野     :「ならやめましょうよ……今なら、このまま別れられます
よ」

 どうやらバケモノではないらしい。しかし、味方という保証も無い。

 平田     :「……いいだろう。」

 銃を下ろした。そしてゆっくりあとずさる。

 前野     :「で、どうやって出るつもりですか?」

 平田     :「窓からでも出るさ。アンタは自慢のカンで閂をはずして正
面から出ればいい。」

 前野     :「疑い深いんですねぇ(苦笑)」

 平田     :「夜は特にな。」

 黒服は笑った。「その程度で用心深いつもりですか?」と言ったかも知れない
し、言わなかったかもしれない。とにかく、黒服は手にしていた燭台を放した。
 当然、燭台は床に落ち、明かりは消える。
 礼拝堂は再び闇に包まれた。

 平田     :「くっ!」

 反射的に、姿勢を低くして手近な壁へと走る。暗闇でも目の効く相手に、背に
スペースを残して戦うなど愚の骨頂だ。
 ぶつけるように壁に背を押し付け、銃を構える。

 前野     :「GoodNight NightmareHunter。Merry.Xmas」

 SE     :ガコン

 突然、重い扉が開かれた。同時に青白い月明かりが礼拝堂を照らす。黒服は…
…どこにも見当たらなかった。扉の閂がきれいに切断されて、鈍い光を放ってい
る。

 壁に背をつけたまま、床にへたりこむ。どっと汗が吹き出てくる。

 平田     :「………………天にまします我等が父よ、あなたの恩寵と慈
悲に感謝します。」

 平田は数年ぶりに祈りの言葉を口にした。

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 生きているって素晴らしい(w

 まあ、そういうことです。

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総統<Nobuki miyachi>
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ICQ : 51043006
URL : http://www.geocities.co.jp/Bookend/8749/
    

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