[KATARIBE 17488] [HA06P] 於聖夜降臨天使

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Date: Fri, 14 Jan 2000 04:40:22 +0900
From: 軍光一 <kazuki@kurume.ktarn.or.jp>
Subject: [KATARIBE 17488] [HA06P] 於聖夜降臨天使
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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 軍光一@何が何だかよく分からない です。
 クリスマスの夜に西夜が出会った事件です。
 ……人は過ちを犯す生き物なのです。

**********************************
エピソード「於聖夜降臨天使」

登場人物
−−−−−−−−
 西夜一輝
  魔導書にとりつかれた研究者。
 神父
  謎の神父。西夜とはつきあいがあるようだ。
 天使
  使命を帯びてやってきたらしいが?

−−−−−−−−
 12月24日。世間一般で言うところのクリスマスイヴの夜。

西夜:「ううっ。むさい。じゃなくて寒いっ」

 遠くから『メサイア』の声が聞こえてくる中。教会の書庫の中で、ひたすら書
庫整理のバイトに励む西夜。

神父:「西夜さん、どうですか?」
西夜:「ええ。一応終わりましたけど」

 様子を見に来た神父にそう言って、頼まれていた本と書籍台帳を渡す。

西夜:「パソコンで管理した方が検索し易いんですけどね」
神父:「一応あるんですけどね。部分的に。桐のver2で整理してあるのが」

 いつのだ、それは。

西夜:「……ま、ナンバリングしておきましたので。整理の際には役立てて下さ
い」
神父:「お疲れさま。「危険」な本もあるので、おかげで助かりました」

 この街に来てからだいぶたつ。いつの間にかこんな会話にも慣れた。

神父:「お疲れさまです。どうです?お祈りしていかれますか?」

 にこやかに微笑む神父。この神父ともつきあいが長くなった。

西夜:「いえ。今日は……」
神父:「もうカップルの人は大概帰ってしまいましたからね。落ち着いてお祈り
できますよ」

 それはキリストの生誕を祝うクリスマスの徹夜ミサに参加しろということだろ
うか?クリスチャンではない西夜としてはなるべく遠慮したいところだった。

西夜:「今日は疲れたので、早めに帰りたいのですが」
神父:「そうですか。では簡単にお祈りしていかれて下さい」

 命令形だった。
 しょうがないので講堂に行って席に着く。聖歌隊の『グレゴリオ聖歌』を聞き
ながら祈るふりをする。
 
西夜:(でもやっぱり教会のパイプオルガンは良いよなあ)

 歌が一区切りしたところで、席を立つ。

西夜:(遅くなっちゃったな。ベーカリーのパーティ、もう終わっているだろう
なあ)

 もうすぐ日付がかわりそうな時間だった。教会を出ると、いつの間にか雪が降
っていた。

西夜:(寒いと思ったら……おや?)

 雪空を見上げると、雪に混じって白い羽がはらはらと降ってきている。そのま
ま上を見ると、「空間が歪んで」いる。

西夜:(なんだあれは?なにかの召喚だろうか?)

 頭の中で「ふるきものども」や「ふかきものども」や「異次元からの侵略」と
いった言葉がちらつく。

西夜:(い、今ならまだ間に合うっ!)

 瞬間、手に持っていた魔導書が槍に姿を変える。そのまま投擲すると、槍はそ
れ自体が意志を持っているように空間の歪みに突き刺さる。

??:「きゃあ!」

 悲鳴があがり、空から「なにか」が落ちて教会の屋根を転がり、そのまま地面
の雪の積もった部分に落ちる。

西夜:「???」

 空間の歪みは消えている。槍は自動的に西夜の手元に戻り、魔導書の姿に戻
る。

??:「痛った〜い。なんなのよ」

 落ちてきたものを見ると、そこには古典ギリシャ風の服を着た背中から白い羽
根の生えた女性がいた。

西夜:(おお、妖怪鳥女だ)
??:「天使よっ!」
西夜:(なぜ考えていることにつっこみを入れることが出来るんだろう?)
天使:「天使だからよ」

 そういうものなのか。

天使:「なによもう。突然なにするのよっ!」
西夜:「すまん。くとるとかいぐとかにゃるとかと間違えた」
天使:「なによそれ。失礼ね!人間が使命を帯びて降臨した天使に対してそんな
ことしていいと思っているの?」
西夜:「だから間違えたんだってば。それより頭から血がどくどく出ているが、
大丈夫なのか?」
天使:「え?きゃあ!」

 西夜はポケットからハンカチ代わりに使っているバンダナを取り出すと、天使
の頭の傷に当てて巻く。

西夜:「世話の焼ける天使だな」
天使:「あなたのせいじゃない!」

 全くである。

西夜:「しかし使命ってなんだ?世紀末だし、なにか重大な使命でも帯びてきた
のか?」
天使:「よくぞ聞いてくれました。それはねえ……」

 沈黙。天使の顔が青ざめる。

天使:「……お、思い出せない」
西夜:「老人性痴呆症か?」
天使:「記憶喪失よっ!」

 青ざめた天使が頭を抱える。

天使:「ああっ。自分の名前も、使命のことも、天界のこともなにも思いだせな
いっ!」
西夜:「じゃ、俺はもう帰るから」
天使:「待ちなさいっ」

 がしっと西夜のコートを掴む天使。

天使:「あなたのせいじゃない!なんとかしなさいよ」
西夜:「無理だ。まあ病院にでも連れていこうか?」
天使:「病院で治るものじゃないでしょう!」
西夜:「じゃあ警察行こうか。身元が分かるかも知れない」
天使:「分かる訳ないでしょっ!」
西夜:「どうしろと言うんだ?」
天使:「どうにかしてよ!」

 天使は涙目になっている。

西夜:「どうにかじゃ、どうしようもないって」
天使:「それ以前の問題として、もうちょっと真面目に取りあいなさいよっ!あ
なたのせいじゃない。なに他人事のようにしてるのよっ!」

 沈黙。
 西夜は黙って近くの自販機でホットの缶コーヒーを2つ買う。

西夜:「寒くないか?」
天使:「寒い」

 片一方の缶コーヒーを投げてよこす。

西夜:「悪かった」

 天使はじと目で西夜を見る。

西夜:「悪かった。反省している。許してくれ」
天使:「いいよ……もう」

 そのままコーヒーに口をつける。

天使:「『とりあえずパニック状態にある思考に、方向性を与えて落ち着かせよ
う』とするにはあまりいい方法じゃなかったわね」
西夜:「心を読むのは止めてくれ。いい趣味じゃないぞ」
天使:「あなたに言われたくないわよ。全く……」

 もう一口コーヒーに口をつける。もうぬるくなっていた。

天使:「なにしてるの?さっさと車回してきてよ」
西夜:「突然なにを言い出すんだ」
天使:「『とりあえず記憶が戻るまでうちで預かるしかないか』って考えてたで
しょ」
西夜:「心を読むなって。神父様に相談してなんとかしてもらおうかとも思って
いたぞ」
天使:「責任、本当に感じているの?自分自身を含めて物事を突き放して考える
のは良い傾向じゃないわよ。不誠実に見える」
西夜:「悪かった。車を回すからここで待っていてくれ」
天使:「悔い改めるなら、許しましょう」

 とりあえず西夜は、機嫌を直したらしい天使にコートを投げてよこす。

天使:「今、『なにを偉そうに』って思ったでしょう」
西夜:「いちいち突っ込むな」

 そのまま車を取りに消える西夜。

天使:「これはこれで大変なのよ。それにしてもこれからどうしよう……」

−−−−−−−
時系列
 1999年12月24日深夜

−−−−−−−
解説
 誤って天使を撃墜してしまった西夜。
 挙げ句の果てに開き直ったような態度に、天使の怒り爆発。
 人は過ちを犯す生き物なのです。
 神ならぬ身。時には大目に見て下さい。


今回の標語
 人は過ちを犯す生き物です。

    

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