[KATARIBE 17407] [HA06N]: 「夜ごとの月」立待月続き

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sun, 9 Jan 2000 20:35:23 +0900 (JST)
From: 勇魚  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17407] [HA06N]: 「夜ごとの月」立待月続き 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200001091135.UAA60662@www.mahoroba.ne.jp>
In-Reply-To: <200001060310.MAA58746@www.mahoroba.ne.jp>
References: <200001060310.MAA58746@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 17407

2000年01月09日:20時35分23秒
Sub:[HA06N]: 「夜ごとの月」立待月 続き:
From:勇魚


こんにちは、勇魚です。
「夜ごとの月」三夜め続きです。
ほんとはこういうものを途中でぶったぎるのは
よろしくないのですがね (^ ^;;;;;

**********************************************

> フランスパンを抱えて鍵を開けようとしていると、家の中で襖の
>開く音がした。起こしてしまったらしい。
>
>「…あ、おはよう、ただいまぁ…」
>「ユラさん、今帰ったんですかぁ?」
>「…うーん…なんかもう、お腹空いちゃって寒い…あ、朝ゴハン買っ
>てきたから…」
>「あ、ベーカリーの…わぁ、いい香り」
>「焼き立て焼き立て。さっき釜から出したばっかりだって」

わぁい、と、寝間着のままの同居人は小さく手を叩き、それから軽く
咳き込んだ。

「あれ、風邪」
「いや、ちょっと冷えただけ」

あわてて半開きの扉を後ろ手に閉める。

「あ、美都さん、わたし朝ゴハン準備しちゃっていい?なんかもう、
お腹すいちゃって」
「え、そんなの。ユラさんちょっと寝たら?御飯だったら私が」
「いや、今寝たら起きない。で、ゴハン食べたらすぐでかけるから。
ちょっと仕事進めとかないと…」
「仕事、仕事って」

相手はちょっと笑ったようだった。片頬が微かに歪んだ。

「ユラさん、…最近、なんか言い訳みたいに仕事してるなぁ…」
「…って?」
「…ううん…ああ、わかんないや。ごめんなさい」

 すらり、と手がのびて、腕の中からフランスパンの袋を奪っていっ
た。一瞬だけ胸を襲った、ぞくりとした寒気の感触が、心臓の上に
残った。

 手持ち無沙汰の中を泳ぐように靴を脱いで、椅子の中に座り込ん
だ。ゆるゆると眠気が背筋を這い上がってくる。暖かく、柔らかく、
穏やかな眠気。優しい疲れ。深呼吸の速度で腰を浸し、肺を満たし、
脳を埋めてゆく…

「ユラさん」

 湯気の暖かさで目が覚めた。

「あ、悪い。ゴハンの支度…」
「寝てる人にはさせませんよ」

 投げ掛けた言葉をつい、と外して。
 目だけがにっこりとわらっている。

 …最近、きれいに笑うようになったなぁ…
 
「今日は、帰りは」
「美都さんのほうが早いよ。わたし、昼過ぎに戻って店に入るから」
「あ、それじゃ晩ゴハンもこちらなんだ、今日は」
「美都さんは何か予定?」
「ないです。真直ぐ帰りますよ、ユラさんが久々に帰ってるのなら」

渡されたマグカップの中にはホットミルク。

「あれコーヒーは」
「胃、壊しますよ」
「多少のことじゃ壊れないって」
「多大な問題のある生活してるんです」

 きゅ、とこちらを睨む。
 最近、たまに文句を云うほうと云われるほうが逆転する。…その度
に同居人のともすれば自棄に傾きがちな態度が少しづつ向きを変える
ように思えるのは気のせいか。
 
 …いい、反面教師なのかも。
 思い上がり半分、笑い事じゃないのが半分。
 どちらにしてもほめられた話じゃないけれど。

 肩を竦めながらミルクを啜る。

「あ、それでね、ゆうべ由香里さんからFAXが入って」

 今日、日中の店の担当になっている通いの子の名前が出る。

「え、ひょっとして今日午前中だめとか?」
「そういうんじゃないです。なんか、ホットワインのレシピ考えたから
チェックしてくれって」
「あ、それは…」

 助かる、と云いかけて、また心臓がしくりと痛んだ。

「お客様から種類もうちょっとないのかって聞かれるらしいんですよ。
ユラさん最近忙しそうだから、ちょっと自分でも考えてみましたって」
「それは…」

 悪いことしちゃったわ、と云いそうになって、ぎゅうと言葉を飲み込
んだ。奥歯を噛む。何かが…喉のおくで潰れ、それからやっと息が通い
出す。

「助かるわ。やんなきゃやんなきゃとは思ってたんだけどね」
「で、チェックお願いしますってー」

 ひょい、と紙が数枚。

「うわ、がんばったなぁ…ええと…」

 かじりかけのパンを口に押し込むか脇に置くか数瞬迷って、結局くわえ
たまま紙に目を落とす。

「これは…シナモン強すぎかな。でもだいたいこれでいける…。こっちは、
…ああ、こりゃ思い付かなかったわ。このまんま店に出そう。これは…奇
をてらいすぎかな。でもドライフルーツもすこし足せば楽しいかも…」

 いくつかペンを入れ。

「いや、助かった。おかげで今日は」
「帰ってきて休めますよね」

 学校に一日いられる、とか云ったらはたきますからね、と、また睨まれ
た。

「ユラさん、見てて思うんですけど」
 
 最近、逃げるみたいに仕事してる。いい仕事じゃない、って、自分で云
いながら忙しがってる。

「ごめんね、心配かけて」

 たまにはさ、そういう時期もあるのよ。

 無理、しないでくださいよぉ、と云いながら、テーブルの向こうから差
し出された指先に、もう一枚紙切れがひらひらしている。

「スタジオから、電話ありましたよ」
「…げ。公演はパスしたんだけどなぁ…いつ?」
「ゆうべ。相談したいことがあるから、今日の練習は必ず出て下さいって」
「先生から?…あれ、これは」

 受け取った紙切れには、日付けがいくつか書いてある。

「吹利市洋舞コンクールの予選と本選。あと、なんだっけ。もひとつか二
つ、なんかあったはず。…あと、ラストのが秋のスタジオ公演の日程だそ
うです」
「…光栄なんだか無茶なんだか…」

 溜息。
 つかまえて留めておいたはずのものがすべて、ついついと泳ぎだして、
どこかでくすくすと笑っている。

「光栄なんですよぉ。すごいじゃないですか」
「…うん、そだね」

 きゅ、と口のはしっこを持ち上げた。
 
「スタジオに行っても、晩ゴハンには帰ってくるでしょ?」
「…学校に寄らな」
「寄らないんです」

 きっぱり。

 もひとつ。
 少しだけ幸せな溜息をついた。

「そだね」

 うん、と立ち上がって、机のはしの果物篭に手を伸ばす。

 今夜は月を待たずにいよう、と。
 欠伸を吐き出しながら胸の底で決めた。

**********************************************

というわけで。

ではまた。

そうそう、うっかりして、「夜ごとの月」立待月の一回目の頭にReをくっつけたまま
流してしまいました。
混乱を呼ぶようなことをいたしまして、すみませんでした。

…なんか最近あやまってばっかりー(^ ^;;;;;;;;

あ、もひとつ。ソードさん、美都さん勝手にお借りいたしました。
もし修正などありましたら、宜しくお願いいたします。

ではまたっ



    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage