[KATARIBE 17293] [HA06N]: 「夜ごとの月」十六夜

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Date: Tue, 4 Jan 2000 21:41:42 +0900 (JST)
From: 勇魚  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17293] [HA06N]: 「夜ごとの月」十六夜 
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2000年01月04日:21時41分42秒
Sub:[HA06N]: 「夜ごとの月」 十六夜:
From:勇魚


こんにちは、勇魚です。
…ふぅ、やっと一日終わったっ…

いや、新年早々、うちの研究室主催の東洋医学集中講座なんてのがありまして。
スーツ着て、一年に何度履くかというようなヒール靴履いて、
スタッフやっておりました。
#仕事よりは服装で疲れたような…
##普段どういう格好してんだ、ってのもありますけど(大汗)

このまま日曜まで六日間。
生きて月曜迎えられるんだろうか…

…ってのはおいといて。

「夜ごとの月」二夜目です。

****************************************************
「夜ごとの月」:十六夜〜操る〜

 隣の研究室の明かりが消えた。今夜はこれから朝までひとりきりだ。
 
 明日の朝までに仕上げなければならないことを確認する。動物の世話、
サンプルの採取、分析、その間にデータシートの取りまとめ。散乱した
ノートを整理して実験の手順書を清書する。論文の着手は…その前に夜
が明けるのは確実なので、明日の朝食後。それで昼休み前に教授と少し
話ができる。そしたら午後は店に出られる。冬のホットワイン用のレシ
ピを少し増やさないと。去年はなんだか藥みたいだと云われて妙に不評
だった。今年は少し手を加えてみたけれど、売れ行きは芳しくないし、
…ああ、これじゃ倒れちゃうな、あたし。明日はダンスの稽古は休みに
しよう。公演パスしといて正解だった…

 そこまで考えて、ユラは、ぱん、と自分の両頬を叩いた。疲れて、愚
痴っぽくなっているらしい。考えが余計な方へ、余計な方へと滑ってい
く。

「小滝ちゃん、今夜、泊まり?」

 廊下を足音が近付いてきて、声と一緒に窓から首が突っ込まれた。

「なんだ、都子か。おどかさないでよ」
「悪い悪い…いや、帰ろうとしたらさぁ、明かり、ついてるから」
「うーん…泊まりになりそうだねぇ。いい加減、帰りたいよ」
「うっそだぁ。あんた好きでやってんでしょ」
「だーれが好きでこんな身体に悪そうなこと」
「あんたあんた。だいたいさ」

 そこまで云って首は廊下の方に引っ込み、次いでドアから全身が入っ
てきた。

「お店とかやってるからそういう無理することになるんでしょ」

 鞄を抱え直しながら言葉を継ぐ。

「有名だしさあ、評判悪いよ。臨床大事とか云って趣味の店やって、そ
れで本気で研究やる気あるのかとか」
「趣味ってね、あたしはちゃんと…」
「はいはいわかってるわかってる。でもさ、あんたそれでボスと折り合
い悪くなって薬系続けられなくなったんじゃない」
「…、は、誰が」

 これは本心から、鼻先で笑った。

「おかげさまで。医系の今のとこでは重宝されてるわ」
「…うん、でもねぇ」

 都子は、ちょっと困ったように笑った。そして、続けた。

「こっちに戻ってきて続ける実験があるんだったら、こっちのやり方に
従ったほうがいいよ。流儀、ってもんがあるんだからさ」
「忠告、さんきゅ」

 に、と笑った。笑えるようになったのは最近だ。

「うん。ふてくされないところがよろしい」
「まぁね。都子の云ってるようなのが、ここでのあたしの評判なんだっ
て、とりあえず自覚はしちゃいるからさ」
「自覚してんだったらさぁ、わかりやすいように自覚してみせなよぉ」

 そこまで云うと、都子はもう一度鞄を抱え直し、そんじゃ、終電なく
なんないうちに帰るわ、がんばるんだよ、と云って踵を返した。

「…お疲れぇ…」

 背中に投げてやって…肩を竦めた。
 云いたい奴には云わせておくさ。
 本当に心配してくれる友人の言葉のほうが、今は、痛い。

 ふ、と気配を感じて、ユラは振り返った。

「…あ」

 少しだけ、歪になった、月。
 でも、満ち足りた満月よりも風情があるってものじゃないか。

「…よし、仕事そのいちっ」

 きっぱりと云って、白衣をひっかけ、建物の外に出る。少し行くと、
しん、とした夜気の中に体温より少し高めのにおいが混じる。黒々とし
た建物の裏口に回り、暗証番号を錠に打ち込むと、がちゃりと鍵の外れ
る音がする。重い鉄扉をえい、と引きあける。
 薄暗がりの中で、時間外入館者の名簿に必要事項を書き込む。エレベ
ーターがいつまで待っても来ないので、とっとと階段に向かう。手探り
もせずに暗闇の階段を駆け上る。

「…っ」

 三つめの踊り場で目を押さえた。
 白々と、月。
 闇に慣れた目に、剃刀のように切りつけられた。

「…喧嘩、売ってるな」

 呟いた口調がなんだか楽しそうで、ユラは我ながら呆れたのだったが。

 明かりをつけ、飼育室に入る。
 建物の外に微かに漂っていたにおいが、質量になって蟠っている。
 構わずに、仕事を始める。

 ドウスル、ツモリダ。

 鋭い声に、手が止まった。

 アイツハ、ドコダ。
 ドコニヤッタ。
 ドウスル、ツモリダ。

 あわてて、「耳」を塞いだ。
 飼いはじめて2週間。…いやでも…聞こえ始めるころだ。

 ナゼダ。
 ナンノタメニ。

 きらきらと光る瞳がこちらを…

「みてないっ」

 きしっ。
 喉の奥で声がひっかかる。
 無視して、手を動かす。
 餌をやるだけ、ケージを変えてやるだけなのに。

「みてないったらっ」

 ふらふら、と視線がさまよう。

 なぜ。なんのためにあたしは。
 評判だって悪いのにさ。
 好き好んで…?

 …え?

 捨てて。
 しまえば。

 さまよった視線の先に、少しだけ欠けて。
 …月。

 …満ち足りた、姿よりも…

「…痛っ」

 我に返った。
 伸ばした指先に、つぷりと血が盛り上がっている。

「ああごめんごめん、無茶したねぇ」

 ごく自然に反対側の手が伸びて、次の瞬間、左手の先に小動物がぱた
ぱたとぶらさがっていた。しごく丁寧にそれを新しいケージの中に放し
てやり…

「うん、少なくとも、あんたたちは捨てない。悪いけど」

 災難だね。
 最後のひとことは、流石に飲み込んだ。
 倫理的に問題がありすぎる。

「さあて仕事そのにっ」

 宣言して、飼育室を後にする。あとは試験管の中の仕事だ。

 さっきの踊り場から窓の外を見た。

 なんの変哲もない。
 静かに月光が降っている。

***************************************************

てなわけで。

…プロット立てた時点でシュールで暗い話になることはわかってたのですが。
…これは本気で暗いかも。

もし。
万が一。

不愉快だとか、こういうのは公開すべきでないとか、
そう思われたら…

いや、そうならんように書きます。
自戒しつつ書きますが、もし暴走していると思われましたら、
御一報下さい。

軌道修正しつつ、書きます。

ではまた。


    

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