[KATARIBE 17280] [HA06N] 「一千年の始まりとその先と」

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Date: Tue, 4 Jan 2000 10:05:51 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17280] [HA06N] 「一千年の始まりとその先と」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200001040105.KAA77587@www.mahoroba.ne.jp>
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2000年01月04日:10時05分50秒
Sub:[HA06N]「一千年の始まりとその先と」:
From:E.R


      こんにちは、E.Rです。
 明けましておめでとうございます。
 今年も宜しくお願いします。

 ……というわけで、勇魚さんの書かれたEPで、花澄を書いていただいてますが、
時間的には、その少し前の風景。

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「一千年の始まりとその先と」
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 2000年の一番初めの日には、五時半に起きた。

「……ぢ?」
「ゆずは、寝てる?」
「ぢいっ」
 憤然として首を横に振る小さな木霊の少女に笑いかけると、花澄は手早く着
替えた。
「じゃ…行こうか」

 瑞鶴に行くと、既に兄が、着込んだ姿で待っていた。
「どっちだ」
「あっち」

 まだ真っ暗な道を、てくてくと。
 方角は、風達が示す。
 初日の出を見ることの出来る、一番近い……そして、ある程度穴場である場
所。
 そんなところがあるだろうか、と、兄が首をひねり。
 そんなところがあると、何故思わんのかねえ、と、風が首をひねり。

「……ここみたい」
「ああ…成程」

 それでも半時間は歩いたかもしれない。
 立ち止まったのは、小さな高台にある広場。周囲は住宅街だが、その一角に
切れ目がある。丁度その方向が日の出の方向らしい。

「早く来すぎたかな」
「…うーん……あと半時間はあるかな」
「……早すぎたか」
「しょうがないよ」

 それでも辺りは、だんだんと明るくなる。

 2000年の始まり。
 21世紀になるのは来年、と、訳知り顔に笑う人は多い。どうせ西暦など、後
世の人間が決めたもので、確たる理由なぞないのだ、と言う人も。
 それでも。

 時間が、途切れる訳ではない。
 けれども、確かに自分の中に、区切りとしての何かが存在する。

「ぢいっ」
 退屈になったらしく、ぴょい、と木霊の少女が腕から飛び出した。
「ゆず、この広場からは出ないのよ」
「ぢ」
 こっくりと、おかっぱの髪を揺らすと、少女はたかたか駆けていった。
「……あの子には、一世紀は長くないよね、そういえば」
「まあ…長くはあるだろうけどさ」

 地平の上に、積った雲の上が、強いオレンジ色に彩られる。
「もうすぐ?」
「多分」

 それでも、まだしばらく、その色は鮮やかになりこそすれ、その実体を伴っ
ていなかったのだが。

 そのうち。
 一番、雲が低く裂けたところから。

 鋭い…けれども充分に、色を保った太陽が。
 あがる。

 ふと、思う。
 多分、一千年の昔、やはりこの国のどこかで、初日の出を眺めていた人々が
いたのだろう、と。
 勿論、その月日は今と異なっていたかもしれない。太陰暦に太陽暦。その他
色々な暦のごたごたは、つい最近になって統一されたようなものだ。
 一千年の昔に、多少のずれが無い訳ではない。

 けれどもやはり。
 一千年の昔に、一年の初めの太陽を、眺めていた人は居た筈で。
 去年はどうあれ、今年こそは良い年であるように、と、眺めた人は居た筈で。
 確かに………

「お兄ちゃん」
「あ?」
「次の一千年後に、初日の出を見る人はいるかしらね」

 次の答の前に、数秒、間があった。

「……莫ぁ迦」
 それでも、その答は…しみじみと兄らしかった。
「いて欲しいなら……努力せなならんのは俺達だろ」


「………………うん」

 ふと。
 その言葉が、すとん、と胃の内に落ちた。

 一千年。
 軽く…言うことの出来る言葉。
 超新星ともなる星達は、その寿命たかだか二千年。
 まさに……「たかだか」と、言われてしまう程度の時間。

 けれども。

 一千年の時を隔てて、今、自分が、一千年の過去に思いを馳せることが出来
るように。
 一千年後の誰かが、一千年前の過去に思いを馳せるころが出来るようにする。 

「それって……私達の責任かあ…」
「だと、思うけどな」

 偉そうなことを、する訳ではない。
 けれども、今自分達が握っているものを、残す為に。
 一千の365倍の夜の後に…………

「頑張ろう」
「…………うん」

 多分。
 一千年の時の彼方で。
 私達は、ただの灰となるのだろう。
 名前も残らず、行なった全ての事柄も、時の彼方に埋もれるのだろう。
 泣き叫んだことも、飛びあがって喜んだことも、怒りに立ち上がった事も。

 それでも。
 
 一千年後、どこかで初日の出を見る女の子がいて。
 彼女がふと、一千年前の昔を思ってくれれば。
 それだけでも、本望ではないか。
 
 これから走ってゆく…………

「…いるよね」
「あ?」
「一千年後。初日の出を見る子が」

 答える前に…兄は苦笑した。

「……居てくれるように、俺は努力したいよ」

 太陽は、もうすっかり高く上って、オレンジ色から白金へと色を変じている。

 新しい年が、始まる。

**********************************************

2000年の元旦に、筑波山から初日の出を見ました。
そのとき、ふと、思いました。

どうか。
一千年の後に、やはり初日の出を見て。
今年は良い年であるように、と、願う人の居ることを。

……ロシア人は、12月31日に、どんちゃん騒ぎをして、翌日は完全に酔っ
払っているそうです。
某国で留学中、友人たちと固まって初日の出を見に行った事は何度かあります
が…やはりその風習は、日本だけ……でもないけども、結構地域性のある風習
のようで。
#大体、ユダヤ暦での新年は、9月半ばですね……だから一月一日は平日で、
#授業もごく普通にあります。
#ちょっと流石に最近は、他国との関連からも「正月は休みにすべきでは」と
#いう意見もあるようですが…(という考えにどう思うか、を、ヘブライ語の
#作文で書かされた記憶がある(汗))

 各国の風習があるのを十分承知の上で。
 そして、そのどれが偉いとか、立派とか、とても言えないことも承知の上で。
 やっぱ……一千年後、次のミレニアムの始めの日に。
 誰かに初日の出を見てて欲しい。
 ああ、綺麗だな、と思って欲しい。
 いい年になって欲しいな、と思って欲しい。

 そう、初日の出を見ながら思いました。

 というわけで。
 あらためて。

 ……あけまして、おめでとうございます。

 ではでは。


    

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