[KATARIBE 17258] [HA06][Novel] 「天の枝」

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Date: Sun, 2 Jan 2000 07:02:34 +0900 (JST)
From: D16 <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17258] [HA06][Novel] 「天の枝」 
To: kataribe-ml@trpg.net
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2000年01月02日:07時02分34秒
Sub:[HA06][Novel]「天の枝」:
From:D16


 どもD16です。
 この間帰ったときをネタにした話です。これから、一週間ほどあんまりつなげな
いところに行くもので、取っ掛かりだけでも上げておこうという目論見です。

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小説「天の枝」

 若大家が妹からの電話を取り次いでくれたのは、師走に足を踏み入れた、よく晴
れた日の午後だった。
 妹の百逢の少しつっけんどんな声は、何かに怯えるようにか細かった。
「お婆ちゃんが倒れたんだって……」
 驚きは思ったほどではなかった。くるべきものが来たという印象が強かった。
 自分でも驚くほどに冷静な声だった。
「おまえは仕事を休めないだろう。いい、俺が行く。沖縄の千里は知ってるのか?」
「一応、電話した。かあさんは状況がわかるまでは動かないって」
 「動けない」ではなく「動かない」と言った。少し咎めるように聞こえるのは穿
ち過ぎか。
「とにかく速く行ってあげて……。いまお父さん一人しか側にいないから……」
 次の言葉を飲み込むのがわかった。祖父の時のことが頭を過ぎっているに違いな
かった。
「すぐに行く」

 研究室にはメイルを入れる。忘年会の幹事をいいつかっていたが、学部の後輩に
任せた。
 途中、教務課に立ち寄り休学関連の書類を一部と学割を二枚手に入れる。

 外にでた。銀杏の葉が散っている。空は晴れている。
 もう、この風景を見ないかもしれない。
 そう、思った。

 帰り道、ベーカリーに寄った。

 からからん。

 店長はいくつかのパンを一包みにまとめていた。珍しく、カウンターには誰もい
ない。
 今しがた包まれたばかりのパンの包みを手にとって、レジに運ぶ。
「店長、これ二つ貰ってきます」
「はい、毎度。そういえば、一君はどうする?」
「え?」
「うちでクリスマスパーティやるんだ、常連組が集まってさ。一君が来るんならそ
の分ケーキとかも増やすから……。直紀さんもくるよ」
「ああ……」
 口ごもる。
「ちょっと、そのころこっちにいるかわからないんで……。僕の分は考えておかな
くっていいです。参加する時には何か持ってきますよ」
「了解」
「あ、」
 店長と声を掛けかけて、止める。
「どした?」
「ちょっと、しばらく、留守にするんで……みんなによろしく」
「あ、ああ。またフィールドね。頑張って」
「……はい」

 からからん。

 なにを言うつもりだったんだろう。
 どうするか決まってからも、いずれこの場所、吹利には戻って整理をしなければ
ならないはずだった。何か言うならそのときでいいはずなのに。
 
 一時間後、吹利の駅のホームから東に向かう電車に乗った。

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 他にも書くものあるだろうという突っ込みは平にご容赦


    

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