[KATARIBE 17257] Re: [HA06P] 『れっつ ふぁらんどーるっ☆(仮)』

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Date: Sun, 2 Jan 2000 06:08:28 +0900 (JST)
From: Ginka <una-yuya@mb.kcom.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17257] Re: [HA06P] 『れっつ ふぁらんどーるっ☆(仮)』
To: 語り部ML <kataribe-ml@trpg.net>
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 こんにちは、銀佳です。
 ふぁらんどーる、止まっちゃいましたね……(苦笑)

 さくさく、動かすべしっ!
 ということで、久しぶりに続きなど書いてみました。
 演奏中。悠の視点のものです。

 ちなみに長いので、小見出しの中にさらに節分けがあります。
 仮に、ですけど。

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開演〜小曲(悠の視点)
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≪開演前の一幕≫
 開演の十分前。
 流石に、みんなお喋りをやめて気持ちを切り替えはじめる。
 さっきまで楽屋で何か騒いでいた璃慧も、緊張した面持ちで壁に寄りかかっ
て、楽譜をめくっている。
 何とはなしにそっちを見ていると、ふと目が合って。
 こくん、と首をかしげる璃慧。
 それから、にこっと、笑ってくれた。
 
 そろそろ……ということで。
 みんな、入場の順に楽器を持って、並びはじめた。
 金管、木管、低弦、高弦の順で。
 それぞれ自分のパートのOBさんをつかまえて、上手と下手に分かれて、整
列した。

「ねえ、誰か楽譜知らない?」
「あ、僕も楽譜、持ってきてないんだが(汗)」

 ふと聞こえた会話。
 幕の外……客席のざわめきにもかき消されずに。
 その緊迫した声は、聞こえた。
 どうやら、ヴァイオリンのOBさんの分の楽譜が足りないようで。
 慌てて誰かが外に駆け出していった。

 弦楽器は、管楽器より、人数が命! なところがあるから。
 特に、曲を支えるヴァイオリンともなれば、人数が多すぎて、必要な楽譜の
数を間違えるっってことも、あるんだろうな……

≪開演≫
 そして、開演時刻。
 どうやら騒ぎは収まったらしくて、静かになっていた。
 みんな、できる範囲の準備は完全に済ませている。
 あとは開演を待つばかり。
 コンミスがマイクを持って。放送室のひとがOKサインを送る。

「ただいまより、吹利学校高等部管弦学部の演奏をはじめます」

 コンミスの声が、マイクを通して、電波に乗って、幕の外に流れていく。
 幕の外が、急に静まりかえったのが楽屋からも分かった。

 並んだ順番に、上手と下手から一人ずつ、歩み出ていく。
 最初はトランペットとトロンボーン。
 その次がホルン。

 幕の裏から、一人、また一人とひとが減っていくに連れて。
 緊張がつのる。
 でも、横にたたずんでいるOBさんの落ち着いた横顔を見ていると、不思議
と落ち着けた。
 だいじょうぶ、一人で演奏するわけじゃないんだもの。

 幕の向こうでは、移動に伴うがたがたっという音が、断続的に響いている。
 木箱を組んだステージは若干不安定。
 それに、木箱自体も古いので、きしむところがあるみたい。
 ……こけたり、スカートを引っ掛けたりして、楽譜を落とすな……
 部長の言葉を、ふと思い出す。
 聞いている限りでは、今のところこけたひとは、いないみたい。

「ほら、行くよ」

 そんなことをとりとめもなく考えてたら、OBさんに言われちゃった(汗)
 見ると、チューナーを片手に持ったオーボエの子が歩み出すところだった。

「はいっ」

 一歩、幕の向こうに踏み出して。
 まず視界に入ったのは、予想を遥かに越える数の観客。
 自分の親や、先輩の親などが主だけど。
 そのほかにも、神酒さんや刹那。
 それに、兼澤くん……だっけ、このまえ知り合った人に。
 初めてベーカリーに行ったときに、見た顔の人もいる。

 ……なんで、高校の演奏会に、こんなに人がくるのっ(汗)
 それに、璃慧。
 神酒さんがいるって気付いたら……だいじょうぶかな……
 ……無関係、わたしの思い過ごしかも、しれないけど。

 なんて風に、かたまってる暇はなくて。
 急いで歩いて、自分の席に座った。
 左には、オーボエのファーストの子。
 右には、フルートのセカンドのOBさん。
 前には、続々とヴァイオリンの人たちが滑りこんでくる。
 ちょうど前は、望くん。
 がんばろうねっ、っていう視線、投げて。
 それで逆に、力づけられた。

 全員が座ったところで。
 寂しげなAの音が、ぴぃんと張り詰めた空気の中に、響く。
 442ヘルツの、若干低めの、A。
 それに合わせて、次々と重なる音、音、音。
 Aの。ただ一つの、大切な音の。
 ……洪水。

 芯にしっかりと通っている、オーボエのA。
 その音を洪水の中から拾い上げて、自分の音を、絡める。
 つかず、離れず、絡んで、解けて……
 この瞬間が……一つの音を一緒に創ろうとするこの瞬間が、大好き。
 綺麗に重なって、うねりが消えたところで、音を止めた。
 OBさんはとっくにチューニングが終わってて。
 流石だなぁ……って、思った。

 弦楽器が残りの三本の弦を合わせている間に、楽譜を再確認。
 璃慧と一緒のところ、望くんと一緒のところ。
 二本のフルートであわせなければいけないところ、強弱、など。
 もう、ほとんど頭に入っているけど。
 やっぱり、見ておかないと、心配……

≪美しく青きドナウ≫
 指揮者が入場してきて。
 会場は拍手に包まれた。
 合図に合わせて立って、指揮者がお辞儀したあとの合図で、座る。
 G.P.のとき、指揮者と一緒にお辞儀しちゃった人がいっぱいいたことも。
 そして、自分がその中の一人であったことも、今はなつかしい。

 指揮者の手がすっと持ちあがって、タクトが構えられる。
 『指揮者の楽器』が構えられたのに合わせて、みなそれぞれ楽器を構える。
 一拍置いてタクトが振り下ろされて。
 ヴァイオリンが、優しい、穏やかな刻みを始める。
 まだ、生まれたばかりのドナウ川の源流を、奏でる。
 ホルンが紡ぐメロディと、木管がいれる合いの手は。
 寄せては返す、ドナウ川のさざなみ。

 滔々と流れる、美しく青きドナウ。
 それを構成する中に、自分も含まれているんだという事実だけで、幸せ。

 イントロダクション、第一ワルツ、第二ワルツ……と、ドナウ川は流れて。
 とあるところでは広くなり、また狭くなって。
 いろいろな楽器の音色が重なり合い、響き合い、高らかに歌い上げていく。

 第三ワルツが終わって、第四ワルツに。
 最初の数小節を吹いたあと、楽譜には珍しく休符が踊ってて。
 その間、ふと客席を見ると……

「…………」

 見なれた、バンダナを巻いた頭が、俯いて船を漕いでた。
 璃慧に見つかったら、間違いなく蹴られるんじゃ……
 どうやら刹那は、璃慧に蹴られやすいみたいだし(苦笑)

 とかやっている間に、数小節はあっという間に過ぎて。
 あやうく、メロディとずれるところだった(汗)

 コーダの構成は、今までの回想。
 いくつかの主題が顔を覗かせ、絡み合い、そして……
 ドナウ川は、その源に還る。
 
 還ってきた喜びを。
 忘れないでいたいな……
 吹きながら、ふと、そう思った。

 曲が終わって、一瞬の間。
 そして、拍手。
 ……演奏に対して、みんなで創り上げたものが評価されて、嬉しかった。

≪ファランドール≫
 でも、すぐに。
 指揮者はタクトを振り上げた。
 緊張が途切れないうちに。
 みんなが、弛緩しないうちに。

 みんなが楽器を構えたと見るやいなや、タクトは振り下ろされた。
 二回、軽く振って。合図とばかりに高々と振り上げられる。
 ファランドールの第一主題……プロヴァンス地方の民謡『王の行列』を、
みんなで力強く、荘厳に奏する。
 そのあと、同じ主題が奏でられるところでは、わたしはお休み。
 来たる音階、この曲の題名にもなっているプロヴァンス舞曲のファランドー
ルの旋律。
 それに向けて、指をほぐす。
 璃慧にはここもあって、音階もあるけど……だいじょうぶかな。

『王の行列』の最後のDの音が響いて。それにかぶせるように、タンブーラン
が小さな音で、リズムを取りはじめる。
 四小節後、アウフタクト。
 ……璃慧、がんばろうねっ……
 声には出さないけれど、ちらりと視線を投げて。

 ファランドールの一回目。璃慧と一緒に、主題を紡ぐ。
 運指が難しいけれど、転ぶと、あとに響くから。
 お互い、必死に。
 下で頭打ちをしている望くんが、支えてくれたのかな。
 途中から、OBさんのピッコロも一オクターブ上に重なって。
 
 二回目。オーボエが加わる。
 こうなるとピッコロはともかく、わたしの音は聞こえないけど(苦笑)
 ヴァイオリンは、下で、刻み。
 途中からオーボエが二本に増えて。
 ヴァイオリンの伴奏も、音階を駆け上がるものになった。
 どんどん勢いづいて、激しくなってく、ファランドール。

 三回目。全ての木管と、コントラバスを覗く弦楽器によるファランドールが
奏でられて。激しさも頂点に達する。
 弦楽器があの音階を奏でている様子は、けっこう大変そう……とか思ったり。
弓を小刻みに返して、指を細かく動かして。

 そして。
 調の変わった『王の行列』が、再び奏でられる。
 この最初のニ音は、けっこう強めにしっかりと弾く必要があるらしくて。
 弦楽器奏者は、みんな一音目と二音目の間で、弓を思いっきり引いて戻す。
 望くんも、間に弓を戻して……
 がっ、と弓をわたしの楽譜立てに引っ掛けた。
 何事もなかったかのように続けてたけど……だいじょうぶだったのかな(汗)

 そのあとに交互に出てくる、ファランドールと『王の行列』。
 フルートとピッコロ、オーボエとクラリネットなど、楽器が次々と重なって
いくさまは、作曲者のオーケストレーションの巧みさを、窺わせる。

 最後に、ファランドールと『王の行列』が重なるところ。
 金管組は、ここぞとばかりに爆裂してる(苦笑)
 しかも、なんとなく、速度をあおってるような気がするけど……(汗)
 最後まで、崩壊せずに続きますようにっ(汗)

 全部の楽器の音が混ざり合い、渦巻いて。
 何とか、無事に終わった……
 拍手……今度は長かった。

 客席から待機していたOBさんたちが歩み出てきて。
 指揮者とコンミスに、花束を渡してる。
 二人とも……ううん、四人とも、とっても嬉しそうだった。

 そのまま指揮者は楽屋に引っ込んで。
 そのあとみんなで立ちあがって、入ってきたのとは逆の順番で楽屋に向かう。
 楽屋に早足で去って行ったコンミスの声が、スピーカーから。

「これで、第一部を終わります。休憩は10分です」

 声が響いて。
 しん、と静まりかえっていた客席に、一時的に日常が帰ってきた。
 
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 ではでは。

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