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Date: Tue, 28 Dec 1999 01:13:17 +0900 (JST)
From: "E.R" <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17168] [HA07P] :「クリスマスのちょっと前」
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199912271613.BAA93383@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 17168
99年12月28日:01時13分16秒
Sub:[HA07P]:「クリスマスのちょっと前」:
From:E.R
こんにちは、E.R@ねむねむ です。
西生駒にも、クリスマスは来るだろう…ということで。
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「クリスマスのちょっと前」
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そらまあ、クリスマスイブといえば聞こえは良いが。
兪児 :「……要するに、成績表持って帰れってことだよなあ」
夢希 :「……………」
冷静沈着、表情固定……の夢希が、流石に憮然とする。
兪児 :「……(嘆息)」
英語が5から4に下がる。
他のは軒並み5なんだから、勘弁してくれ、と思うのだが。
兪児 :(兄貴がなあ……)
ふい、と、溜息をついてから、兪児は小首を傾げた。
兪児 :「これは……冬休み一杯?」
夢希 :「そう。但し」
兪児 :「最大5冊?」
夢希 :「そう」
五冊……か。
風の博物誌に、並行植物。エルサレムに朝日が昇る。
それと片目のダヤンの自伝を引きずり出して……あと一冊。
と……
ぐい、と、首筋を引きずられるような……
巧 :「……あの……」
兪児 :「…………(思わず振り返って見ている)」
巧 :「………………返却、です(小声)」
夏以来。
このやたら弱々しい男子生徒を…見た目で判断することはなくなった。
視線の先で、癸野はびくり、と一度身を竦めた。
夢希 :「はい……借りる本は?」
巧 :「あ……あの……無いです(段々小声)」
どうしてかなあ、と思わないではない。
どうしてこいつは、毎度毎度ここまで卑屈な態度を取るのかなあ、と。
強い。と。
言われる。
強いことは難しいことじゃない。
強い、と、言われ続けることは……それなりに難しいけど。
兪児 :「大丈夫?」
巧 :「……え……?」
兪児 :「喘息」
巧 :「はあ…………だいじょう…ぶ……です……」
……だけど。
何でまた、自分より強い筈の相手が、ここまで卑屈になるのかなあ……と。
それが。
それなりに、悔しい話だ。
強いこと。強く有り続けること。
それは多分、誰にでも出来ることではない。
けれども……だからと言って、楽々出来ることでもない。
でも多分…強いくせに卑屈でいるって、もっと大変のような気がする。
けふけふ、と、小さな咳の音がした。
兪児 :「……風邪引いてんのか」
巧 :「え……………(汗)」
生まれてこのかた、病気で困ったことがない。
風邪も、引いたことがない。
幸運、と、言われる。幸運、大切にしろ、と。
………けれども、風邪を引いた人の大変さは判らない。
『理解出来ない悼みに、泣くものもいる』
……理解出来ないことが、どれほどの免罪符になるやら。
見据える。
相手の喉元。炎症。それも根が深い。
その、根っこまで完治させるのは厄介。でも、表面だけならば。
描く。
ごぼごぼとした表面を、撫で、平らにする……それはイメージ。
イメージは…実現するもの。
夢希 :「それ?」
兪児 :「あ…うん」
後は……「愛に時間を」。
流石に、重い。
視野の端っこで、癸野巧がちょっとだけ不思議そうに喉を撫でているのが見
えた。
治ったらしい。
兪児 :「……これで五冊」
夢希 :「はい」
不思議そうな顔をして、喉元辺りを抑えているから。
つい……もう一度、力を流し込んで。
一度だけ、足元が揺れた。
偽善だ。
相手の痛みなど、あたしには分かるわけがない。
それを……助けるなどと、それは完全に偽善だ。
わかって、いるけど。
いやというほど……わかっているけど。
いつか。
自分の感情が嘘ついてるんだって思わないまま、
進めたら良いなあ………
夢希 :「じゃ」
兪児 :「……メリークリスマス、かな、ぎりぎり」
夢希 :(こっくり)
風が窓にぶつかって、硝子を細かく揺らした。
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というわけで。
なんつか。
兪児。
………………本体より人が良くなってる気がする(爆滅)
ではでは。