[KATARIBE 17146] [MMN] 「霹靂」

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Date: Sun, 26 Dec 1999 16:16:34 +0900 (JST)
From: 勇魚  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 17146] [MMN] 「霹靂」 
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <199912260716.QAA30713@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 17146

99年12月26日:16時16分33秒
Sub:[MMN]「霹靂」:
From:勇魚


こんにちは、勇魚@論文のリテイク食らって学校、です。
明日・明後日は大掃除で、多分書き込みできないので、
今日のうちに少々話を書こうか、と。

…オフにも行かないんだから、これくらいしたって罰はあたらないさっ
#本当か???

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「霹靂」

 夜勤あけの眩しさをやたら辛く感じたのだけが、異常と言えば異常。
 しかし関係はあるわけがない。
 人を莫迦にしたように晴れ上がった空は青黒い程だった。冬とはいえ、
この地には珍しく寒く、新聞の一面は寒波のニュース。たまには、ある話
だった。…異常では、なかった。
 
 のろのろと起き出して、昼飯を食っていた。
 テレビのニュースが地方版に切り替わり、正月気分が舞い戻ってくる。

「英昌、今日は病院は」
「ああもう、大変だったさ。個人病院はまだ閉ってるしよ、救急がもう、
てんやわんやで」
「いやそうじゃなくて、また行くか?」
「悪いけどよ、船で酒飲んでるわけには、たぶん、いかないさ。明日もあ
るしよ」

 ちゃぶ台の向こうで、親父が小さく息をつく。正月が慌ただしくなった
のは、俺が大学を出て家に戻ってきてからだ。それでも毎日帰っては来る
のだから、まだしも親孝行だと思うのだが。

「英弥も三が日済ませたらもう飛んでっちゃったものねぇ」
「ああ、学校のスキーだって…今日からだっけ。うらやましいさ。俺の出
たとこはそんな気のきいた行事なかったしよ…親父、もう酒やめとけって。
松取れたら船出すんだろ」

 お袋の寄越した湯飲みを受け取った時、急にひどい雑音が耳を打った。
テレビの画面が砂嵐になっていた。

「…まったく、急に壊れるしよ…」

 古いテレビの角を親父は二、三度叩いたが、砂嵐はおさまらない。

「アンテナじゃねえの」

 外に出た。
 ぽかんと晴れていた。
 アンテナは、いつも通り立っていた。
 
「…おっかしいなぁ…ベランダから回ればいいか」

 ふと気付くと、言い合わせたように周りの家から人が出て、一様にアン
テナを見上げていた。

「おじさん、」
「英昌、お前のところもか?」

 嫌な予感がした。
 全員が、通信基地のほうを睨んでいた。
 
 睨む方角が違っていたのは、暫くして分かった。予感はあてにならない。
 情報源は当の米軍基地だった。
 暫くは疑っていられた。
 九州からの情報が追い討ちをかけてきた。
 短波ラジオから流れる韓国語の、中国語の情報が追い討ちをかけてきた。

 信じるしかなくなったところでパニックになった。爆発の時刻にそれを
知らずにいたことが拍車をかけた。内地に家族や親戚を持つものは、多い。

「…英弥が…」
「可能性はまだ…あいつ、出かけるはずだったからよ…」

 自分の家の心配ばかりをさせてはもらえない。診療の合間に時刻表を調
べた。知らされた危険地域の範囲と列車の通過時刻を突き合わせる。

「…この時刻までの列車で出てれば助かってるはずだがよ…」
「…わからんさ…」
「莫迦、泣いてどうするか。…あっがよー、なんとか東京に行ければよー」

 飛行機は、飛ばない。
 船も、出ない。
 わからない。なにも、わからない。
 与えられた情報を、検証する術がない。
 満足な五体を遣る場所がない。

 雨が、降った。
 拡声器を積んだ車が、濡れるな、危険だと叫びながら通って行った。
 階下で物の壊れる音と怒声が聞こえた。

「…何が……!!」

 雨が降りしきる庭に、お袋が裸足でうずくまっていた。英弥、ヒデミと
弟の名前を呼びながら泣きじゃくっていた。その隣で親父が怒鳴っていた。
必死に抱き起こそうとしていたが、すぐにほうけたような顔になった。
 庭に、飛び出した。
 庭木に、雷が落ちた。大エノキの枝が根元から裂けた。
 
 両親の側に行った。
 二人を無理矢理に家に押し込みながら、空を見上げた。

 灰色。いつものスコールの色。
 海に目隠しをされて、俺たちには何も見えない。
 ただ、吐き気がこみあげた。

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ということで。
爆発直後のやたらタイムラグのある沖縄版霙の街です。

あ、そうそう、「あがよー/あがやー」とは、方言の感嘆詞で、
むりやり翻訳すると「ああ、なんてことだ」って感じになります。
なるべく方言は使わないつもりですが、沖縄地域限定で書いてる
時だけはとりあえずお目こぼしを、ってことで。

いや、不適切だというのであれば、改めます。

そんなとこで、ではまた。


    

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