[KATARIBE 17089] Re:[HA06P] 『真随』完成版

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Date: Wed, 22 Dec 1999 02:49:13 +0900 (JST)
From: ji-guy@dike.dricas.com
Subject: [KATARIBE 17089] Re:[HA06P] 『真随』完成版
To: kataribe-ml@trpg.net
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吉GUYです。
 
 もいっぽん
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エピソード『真髄』
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登場人物
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老師  :中国人。八極門の武術家。
 
金元吉武(かなもと・よしたけ)
    :日本人。老師の関門(最後の)弟子
 
師と弟子と 
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 吉武     :「それでは、米国へ?」
 老師     :「息子が、向こうで事業に成功してね。
        :孫も産まれたから、私に来いというのだ。」
 吉武     :「おめでとうございます。」
 
 祝辞を述べた。「もしや……」という考えが頭をよぎる。
 
 吉武     :「何時、お帰りに?」
 老師     :「もう、帰っては来ないよ。」
 吉武     :「…………」
 老師     :「向こうで息子や孫と暮らそうと思っている。」
 吉武     :「……そうですか。」
 
 いづれ師との別れは来ると覚悟はしていたが、それが今とは思ってもみなかっ
た。
 
 老師     :「昔の弟子……お前の兄弟子にあたるか……が今、
        :役人をやっていてね、いろいろ便宜を図ってくれるので
        :渡米は早くになりそうだ。」
 吉武     :「……自分はまだまだ未熟者です。老師にはまだ……」
 
 そこまで言って言葉を止めた。師の顔を見た。肌の染み、刻まれたシワ、白髪
……
 
 老師     :「私もね、…寂しくなったのだよ。」
 吉武     :「…………」
 老師     :「だから……」
 
 老人を引き留めるような言葉を口から出すのは、ただの我侭に思えた。
 
 老師     :「最後の一手を授ける。」
 吉武     :「!」
 老師     :「不服か?」
 
 老師の顔に笑みが走る。「相変わらずこの方は……」と思う。
 
 吉武     :「よろしくお願いします。」
 
 返せる言葉は、ただ是のみ。
 テーブルや椅子をすみに退ける。打ち合う為の空間を造ると、部屋の中央で左
掌と右拳を合せ、老師に礼をとる。
 
 老師     :「行くぞ。」
 吉武     :「ハッ!」
 
秘打
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 室内で対打(約束組手の型)を打つ師と弟子。攻防の技が決められている為、功
夫の差が歴然と現れる。
 
 吉武     :「(…老いの衰えなど微塵も無い……)」
  
 老師の技は、攻に回れば隙間を水が刷り抜けるように吉武のガードの隙を潜り
、防に回れば攻撃の手に触れるだけで吉武のバランスを奪う。吉武は必死に老師
の技について行く。
  
 吉武     :「!」
 
 套路(型)の最後に老師のガードが開いた。右脇腹に隙ができる。
 
 吉武     :「フンッッ!」
 
 渾身の打撃を打ち込む。老師はまともにそれを受け、涼しく答える。
 
 老師     :「良い良い……なかなかだ………
        :……これからも、精進を忘れるな。」
 
 吉武の鳩尾に老師の手が触れる。手がそこへ行くのが当たり前のように、何の
違和感も無く置かれる。
 
 吉武     :「…!」
 
 自然すぎてその手を避けることができなかった。ただ「触られただけ」に感じ
た、腹筋を締めて警戒をとることさえ忘れる。
 
 SE      :(震脚の音)
 
 鳩尾に何かがねじ込まれるような感覚と同時に、吉武の体は後方へ吹っ跳び、
背中を壁に強かにぶつける。窓ガラスが揺れる音がし、吉武の体はそのまま壁を
ずり落ち、くの字に折れ曲がる。
 
 吉武     :「…」
 
 苦痛に顔を歪め目を剥く。視界に入るのは灰色の床。立てない。声すら出ない
。
 
 吉武     :「(…………今…の……が暗………)」
 
 老師が近づいて来るのが判る。
 
 吉武     :「(…速い………いや、早いのか……?)」
 
 老師の布靴が目に入った。
 
 老師     :「身に刻み、眼に焼き付けたか?」
 
 倒れたまま頷く。目を閉じれば先ほどの老師のモーションが見える。
 
 老師     :「二度とは見せん。忘れるな。」
 
 吉武の背中を軽く叩いた。
 
 老師     :「死なん程度には打ったが、薬は飲んでおけ、
        :しばらくは足腰が立たんぞ。」
  
 SE      :(扉を閉じる音) 
  
 老師が部屋から出た。
 
 吉武     :「(…本気なら『人を殺して釣りが来る』か…………)」
 
 この後、一週間血の小便が出続けた。
 
 
時系列
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 吉武が中国吉林省で八極拳を学んでいた頃。
 
解説
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 この後、師の元を離れ、己の学んだものを完成させる為、吉武は修行の旅を始
めま
す。
 
 
 $$
 
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 とりあえずこれが最後です。
 何かまずいことがあったら、教えてください。
 
 
 
 吉GUY
 ji-guy@dike.dricas.com
    

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